【Connecting the Unconnected】アハ体験の連続「TEDxTokyo 2014」レポート~表舞台編~

今年で第6回目を迎える「TEDxTokyo 2014」が5月31日(土)、東京・渋谷ヒカリエ9階のヒカリエホールにて開催された。2012年にお台場から同地に会場を移してからは、今年で3回目となる。

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世界を変えるようなアイデアを発信することを目的として、アメリカで誕生した非営利団体TED。TEDxは、そのTEDよりライセンスを得たうえで、TEDにインスパイアされた人たちが地域ごとに集まり、一緒にコミュニティを作り上げていく経験とプロセスを共有する組織プログラムだ。xは独立性や地域性を意味。TEDxTokyoは、2009年にTEDの理念を日本に伝えていく活動の始まりとなる、発足イベントとして位置付けられた。

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今回のイベントでは、その頭文字が表すT(テクノロジー)、E(エンターテイメント)、D(デザイン)に加え、ビジネス、サイエンス、国際問題などの各分野から25名を超えるスピーカーならびにパフォーマーが登壇。国内外で活躍する日本人に加え、日本に在住する海外出身のエキスパートや、未来の日本にインパクトを与えてくれそうなアイデアを持った海外からのスピーカーやパフォーマーたちが共にステージに立ち、TEDのコンセプトである“Ideas worth spread(広めるべき価値のあるアイデア)”を披露した。

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オープニングは、今年初の試みとなるTEDxTokyo House Bandによるジャムバンド演奏のあとに、真っ白な衣装をまとった女性ダンサーたちが登場。黒で統一されたステージの上で、赤いリボンをはためかせながら幻想的なコンテンポラリーダンスを披露した。TEDのカラーは、黒、白、赤と決められており、ステージ下も、ステージ上も、またサテライト会場も、その3色で統一されている。これらの舞台演出や会場設営を含むすべての運営は、総勢約200名のボランティアによるものだ。

しばらくすると、最初のパフォーマーである書家の山口碧生さんが登場。カラフルな鳥かごのような髪飾りが印象的だ。

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彼女の身長ほどある大きな筆に墨汁をつけ、ステージ上に敷かれた大きな垂れ幕に「結」とダイナミックに描いた。

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そう、今年のテーマは「Connecting the Unconncted -結- (YUI)」。TEDxTokyo代表兼Ted sterであるパトリック・ニュウエルさんを中心に、日本特有のテーマが毎年選ばれている。

ダンサーたちの手によって、垂れ幕がステージの右側に掲げられると、会場中から大きな拍手が沸き起こった。この模様はステージ中央にある巨大スクリーンに映し出されると同時に、日英同時通訳付きで全世界に向けてライブストリーミング中継されている。

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Session1で「25歳の日本人に生まれ変わりたい」と話し始め、一瞬にして会場を爆笑の渦に包んだのは、日本経済探検家のイェスパー・コールさん。コールさんの登壇は今回で2度目であり、以前登壇したスピーカーが再びTEDxTokyoに呼ばれるのは非常に珍しい。

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多くの統計データを使いながら、絶妙に国際色豊かなジョークを交えつつ、日本経済の問題点を分かりやすく解説した。

「アメリカは15年したら“CEOになれるかもしれない”と言われ、ドイツは15年したら“これで君は一生生活に困らない”と保障される。なのに、日本は“課長に昇進するかも”と言われるのが精一杯」と3ヵ国の就職事情や労働環境を比較。日本の若者が夢やビジョンを描けない現状について饒舌に説明。

「日本人は日本にお金がないと言うけれど、そうではない。日本の富裕層は60歳過ぎが大半で、68.2パーセントの財産を彼らが保有している。リッチな高齢者から若者にキャッシュが流れる仕組みを作れば、経済はもっとよくなる」と主張した。

一方、日本の高齢者も負けてはいない。この日、リスナーが総立ちでスタンディングオベーションを贈ったのが、79歳となるメロウ倶楽部エグゼクティブの“マーチャン”こと若宮正子さん。

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定年退職後、90歳となる母親の介護と大好きなおしゃべりをどうしても両立させたいと考えた若宮さんは、「時間も場所も問わずにおしゃべりができる」と書かれてあった雑誌広告を見て、当時はまだ高価だったパソコンを衝動買いした。メカ音痴ながら、なんとかインターネットに自力で接続でき、スクリーン上に「マーチャン、ようこそ」のメッセージが出てきたときは、「汗と涙でグチャグチャでした」と茶目っ気たっぷりに語った。

その後、「数字や数式ばかりでうっとうしい」エクセルをシニアがもっと楽しめるようにと、エクセルのセルを上手に使って手芸に使える模様を描くことができる『ExcelでArtを』を考案し、マイクロソフトの公式コミュニティに記事が掲載される。“Now you can get your own wings(翼を得るなら、今よ)”と、腕を大きく広げてポーズを取り、満面の笑顔でスピーチを終えた。

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また、スピーチだけではなく、音楽やカルチャーとのコラボレーションで、コンサートに来たような高揚感を楽しめるのもTEDxTokyoの大きな魅力のひとつ。TEDxTokyo創立当初から毎年欠かさず来場しているという観客のひとりに話を聞くと、年々、音楽やパフォーマンスの要素がグレードアップしているそう。

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カンガルー鈴木さんのDJパフォーマンスとAKIM FUNK BUDDHAさんによるマウスパーションにのりながら、3Dプリンタで作ったお茶道具で茶をたてたSHUHALLY庵主の茶道家、松村宗亮さんのTea ceremonyは、中でも画期的かつ独創的だった。精進料理人の棚橋俊夫さんは、冒頭で観客に静かに目を瞑るように指示。ゴマがすられていく音と静かに広がる香りを堪能させつつ、大地の恵みの大切さと和食文化のすばらしさについて語った。

そのほか、音楽プロデューサーでありMCのVERBALさん、ロックギタリストの虎岩正樹さん、和楽器演奏グループのAUN J クラッシックオーケストラ、若干13歳の天才ウクレレ奏者、斉藤梨央さんら多くのアーティストが登場。リスナーたちは、和洋折衷の音楽とともに、Tokyoらしさ、Shibuyaらしさを楽しんでいた。

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ラストパフォーマーとして登壇したBELLA GAIA創設者のケンジ・ウィリアムズさんは、生のバイオリン演奏を披露。NASAから送られてきた映像をもとに作成されたインフォグラフィックスで、オゾン層の広がりや海水温度の変化、二酸化炭素の増加を表現。アート、音楽、科学の融合美で自然環境問題を訴え、会場は厳かな雰囲気に。日頃、利便性ばかりを追いかけがちな人間と自然のつながりを感じずにはいられない独特の世界観に、リスナーたちは息をのむ。まるで宇宙から地球のメッセージを聞いているような、そんな不思議な体験だ。イベント後、多くのリスナーたちが最も印象に残ったプレゼンテーションのひとつにあげていた。

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2010年にTEDxTokyoに登壇した脳科学者の茂木健一郎さんは、気づきやひらめきの瞬間に「あ!」と感じる体験を「アハ体験」と呼んでいる。TedxTokyoが人々に提供しているものは、まさにこのアハ体験のシャワーだ。家と職場を往復しているだけでは、なかなか得られない「アイデアでつながり、アイデアで広げる」という体験、幼少時代は無意識に実行していた「惜しむことなくアイデアを共有する」感覚が再び呼び起されたように感じた。そして、その先にある大きな解放感。そのすべてが「TEDパワー」と呼ばれるものの源流なのかもしれない。

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取材先リンク

TEDxTokyo オフィシャルサイト
TEDxTokyo Facebookページ

 

取材・文:山葵夕子  写真提供:TedxTokyo

Photo Copyright All rights reserved by TEDxTokyo 2014

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