【20代の不格好経験】起業後にサービス開発担当者が「自分には作れない」と白旗。売り上げゼロの状態で一から技術者探しに奔走~ユーザベース代表 梅田優祐さん

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今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいた経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、そんな「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第8回:株式会社ユーザベース代表取締役共同経営者 梅田優祐さん

ピクシブ株式会社代表取締役社長 片桐孝憲さんよりご紹介)

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(プロフィール)
1981年生まれ。大学卒業後、コンサルティングファームのコーポレイトディレクションに就職し、製造業、商社を中心とした全社成長戦略、再生戦略の立案・実行支援、食品メーカー等のBPRを中心に従事。その後、UBS証券に転職し、投資銀行本部にて事業会社の財務戦略の立案、資金調達支援、自己勘定投資などに携わる。2008年4月、ユーザベースを設立。

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▲企業・産業分析用のオンライン情報サービス「SPEEDA(スピーダ)」(左)は、分析スピードの大幅な短縮につながるとプロフェッショナルの高い支持を集める。ソーシャル経済ニュースメディア「NewsPicks(ニューズピックス)」(右)は、各業界の専門家や友人をフォローすると、彼らがお勧めする記事で構成されるカスタマイズ感が好評

■起業したものの、肝心のシステムの完成メドが立たない!

 ユーザベースを起業したのは2008年4月。しかし、創業事業であるオンライン情報サービス「SPEEDA」のサービスがスタートしたのは、2009年5月。つまり、会社を立ち上げて1年以上、当社には全く売り上げがありませんでした。その間、減っていく預金残高を横目に見ながら、コストをとことんまで切り詰め、どうにかやりくりしてきました。

 もちろん、起業する際はこんなことになるなんて思いもしませんでした。前職の同僚の新野と一緒に「SPEEDA」を軸とした事業構想を固め、起業しようと考えましたが、我々は技術がわからない。そこで、高校時代の友人であり、当時アビームコンサルティングでデータベースエンジニアを務めていた稲垣裕介(現・取締役COO)に相談してみました。すると、「Webのシステムを作ったことはないけれど、プログラミングには自信があるし、勉強すればJavaならすぐ習得できる。最悪、自分一人でも何とかなるよ」との答え。それは頼もしい、じゃあ3人でやろうぜ!と会社を立ち上げたんです。

 でも、1カ月経っても、何もでき上がって来ない。ジリジリしながら稲垣に聞いてみたら、「ごめん、やっぱり俺にはできない」と。ええー!?ですよ。私の前職はコンサルティングファームなので、事業計画を練るのは得意なはずだったのですが、いざ自分が起業してみたら、わずか1カ月でつまずくなんて…予想もしませんでした。

 慌てて、いくつかのシステム開発会社に開発に係る予算の見積もりを出してもらったのですが、どこも大体5000万円以上はかかるという。当時手元にあったのは、創業者の出資金額と銀行から借り入れた3350万円でした。これでは外部には到底頼めない、自社で人材採用するしかない…と今度は技術者探しに奔走しました。
 人脈をたどって、いろいろな人と会いましたが、なかなか協力してくれる人が見つからない。そんな中、稲垣の人脈で、ある学生に出会いました。彼は東京工業大学の学生で、ソフトウェア工学を研究しており、自ら会社を立ち上げて受託開発業務もしている。「彼は技術に長けているし、オカネにも困っていないはずなので、どうか?」という紹介でした。

 条件面は、ピッタリ。しかし、第一印象がとにかく怪しかったんです。
 最初の面談の場に、彼は作務衣を着て、ゲタを鳴らして現れました。そして、私と話している最中、なぜかずっと斜め上を見ている(笑)。「この会社の命運を彼に託して、本当に大丈夫なのか…?」と不安になりました。でも、彼が言った一言で、腹をくくりました。「面白そうなサービスなので、あなた方を助けてあげます。今はオカネはいらないので、もしこの事業がうまくいったらそのときにください」。
 学生に「助けてあげる」と言われたことには若干引っかかりましたが(笑)、お金は後でいいと言うし、他に選択肢はない。お願いします!と頭を下げました。

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■「管理」は可能性を制限する。「自由」こそが、想像を超える成果を生む

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 結果的には、彼はスーパーエンジニアであり、彼との出会いが当社にとってのブレイクスルーになりました。現在は、彼…竹内秀行は、チーフテクノロジスト兼イノベーション統括執行役員として、当社の技術面全てを管理しています。ちなみに、稲垣は現在、最高執行責任者として技術チームを中心に会社のオペレーションの全体を管理しており、当社の人事制度も1から作り上げてくれました。彼のいい加減な一言で起業に踏み切ることができたので、今では感謝しています(笑)。

 ただ、竹内の採用後、「SPEEDA」が無事サービスとして生まれるまでには、さまざまな苦労がありました。当時の彼は非常に自由人で、時間通りに出社してこないし、開発の期限も全く守らない。進捗が全く見えないんです。こっちは売り上げゼロの中で、限られた予算を使ってどうにか会社を回しているのに…。ある日、いよいよしびれを切らして、「これから私の隣の席でプログラムを書き、毎日進捗を報告しろ」と命令しました

 しかし、縛れば縛るほど、彼のパフォーマンスは落ちていきました。目の輝きはなくなり、何より全く楽しそうじゃない。そしてある日、いよいよ彼に「この会社のやり方には私は合いません。無理です」と言われてしまいました。
 今の自分のマネジメント方法では、彼の才能を活かすことができないという事実に、ショックを受けましたね。コンサルティングファーム時代は、時間、期限を守ることは当たり前、結果を出す前に文句を言うなんて許されないという価値観の中で生きてきました。でも、その考え方がみんなに通用するわけではないと、痛感させられたんです。
 このままでは、彼のためにも、会社のためにもよくない。そこで、思い切って彼の自由にさせてみたんです。画面の仕様書を渡して、「どこで何をやってもいい、これを作ってほしい」と頼んでみました。正直言って、半ば「どうとでもなれ!」という気持ちでしたが、その結果、私が予想していたクオリティを大幅に上回るものができ上がってきたのです。「梅田さんの仕様書、いまいちイケていなかったので、もっとカッコイイのを作っちゃいました」という言葉とともに(笑)。

 この日から、マネジメントに対する考え方がガラリと変わりました。メンバーを厳しく管理し、指示をすれば、指示通りのモノは上がってくるかもしれないが、それ以上のモノは生まれない。メンバー一人ひとりの自由を尊重すれば、その人の能力が最大限発揮され、想像以上のモノを生み出せるのではないか。そして、何より働く側も、そのほうが断然楽しいに違いない――そう思うようになったんです。

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■「自由主義でいこう」を今も大事に、ルールとして全員で共有

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 当社では現在、ユーザベースの価値観として「7つのルール」を掲げています。仕事において判断に迷った時、意見の相違が生まれた時など、このルールを判断基準として決断してほしいとの思いから作ったものであり、人材採用の際はこれに共感できる人かどうかを見極めているほど、大切にしているルールです。
 具体的には、「自由主義でいこう」「創造性がなければ意味がない」「ユーザーの理想から始める」「スピードで驚かす」「迷ったら挑戦する道を選ぶ」「渦中の友を助ける」「異能は才能」の7つになりますが、1番目に「自由主義でいこう」を掲げているのは、竹内のエピソードが原体験になっています。自由な環境下で一人ひとりが能力を思う存分発揮して、それが互いにシンクロしてこそ、大企業に勝てるほどの魅力的なサービスを生み出せると考えているからです。

「SPEEDA」開発前の、先が見えない1年余り。「あんなに綿密に計画を立てたのに、なぜこんなことになるんだ」と落ち込んだり、売り上げゼロなのに人探ししかしていない状況に焦ったりもしましたが、あの辛い時期があり、予想もしないさまざまな困難を経験したからこそ、今のユーザベースの「軸」ができ、みんながイキイキ、ワクワクできる会社に成長できたのだ…と実感しています。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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