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【「東大卒」が、なぜプロゲーマーに?】 未知のキャリアを切りひらく情熱は「仲間」から生まれる

「格闘ゲーム」と呼ばれるゲームのジャンルがある。かつて社会現象を巻き起こした「ストリートファイターII」を記憶している人も多いはずだ。ラスベガスで開催される世界最大規模の格ゲー大会「EVOLUTION」では数千人のプレイヤーが対戦、その模様をネット配信すれば10万人を超える視聴者が集まる。そんな格ゲーシーンにおいて世界最強の一人と目されているのが、東大卒プロゲーマー「ときど」さんだ。毎日8時間という膨大な練習量と、徹底した合理主義に裏打ちされた冷徹無比なプレイスタイルから「IQプレイヤー」と賞賛される。しかし、順風満帆と思われたエリートコースを捨てプロゲーマーの道を選んだ背景には、合理主義を超える「情熱」があった。 

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■ゲームのおかげで東大に合格できた

僕は、没頭すると他のことが見えなくなるタイプです。小学1年生で格闘ゲームにハマると大学までゲーム一直線の人生でした。勉強もしましたけど、理由は「勉強したら新しいソフトを買ってもらえる」から(笑)。中高一貫の麻布学園に進学すると、高校受験がないのをいいことにゲームセンターに入り浸っていました。海外大会で優勝してはじめての世界タイトルを手にしたのは17歳のときでした。

「ゲームで世界大会に出場しながら、東大合格はすごい」とよく言われます。でも僕は「ゲームをしていたから東大に合格できた」のだと思っています。対戦相手の過去の試合を分析し、勝つための最短ルートを見つける。志望校を絞り込み、過去問を繰り返し解く。受験とゲームにはいくつもの共通点があったんです。

大学ではバイオマテリアルを研究して、国際学会で賞をもらいました。これも受験のときと同じで、ゲームで学んだことのおかげ。たとえば過去のデータの蓄積から課題を発見すること。最短距離で成果をつかむためのコツ。偶然得られた結果のなかに大きな発見があること。僕は、改めて「ゲームはやっぱりすごい」と感激しました。ゲームというとバカにする大人もいますが、何でも真剣に取り組んで世界一になれるほどに極めれば、どんな分野でも成果をあげられる「型」ができるんです。

 

■「一人では情熱を燃やせない」と気づいた大学院時代

研究室での最も大きな収穫は「情熱」の大切さを学んだことです。研究にハマったのは指導してくれた恩師に共感したことがきっかけ。彼は、僕がゲームに打ち込んでいたのと同じぐらいの夢中さで研究に向かっていました。研究テーマについて語り出すと時間を忘れるような人。研究室にいる時間、ひたすら彼と議論を交わしていると、僕の胸まで熱くなってくるのです。彼の情熱が僕に火をつけ、僕の情熱がまた彼の情熱を燃え上がらせる。この情熱の渦があったから、僕は格ゲーを忘れられるぐらい研究に没頭することができたんです。

その勢いのまま大学院に進み、研究を続けるつもりでした。でも大学院入試に失敗。やむなく第二希望の研究室に入りましたが、そこには以前の恩師のような情熱を持った存在がいませんでした。そこで、僕の情熱は消えてしまった。研究室にも顔を出す気にもなれず、のちに僕は休学、退学することになります。

なぜ僕の情熱は消えたのか。何をする気にもなれず、ただ自問自答するだけの時間を送りながら気がついたのは、僕は強烈に情熱を求めながら、一人では燃えられない人間だということです。世界一になるぐらいゲームに一途になれたのも、いつも自分の隣に、必死に努力せずには勝てない強敵や、ともに切磋琢磨しあう仲間がいたからだったんです。

 

■「自分は何をしたいのか」納得していれば踏み出せる

僕はまた情熱に燃えながら生きる日々に戻りたいと思いました。でも別の研究室を探す気にはなれなかった。院試で失敗したのは、ペーパーテストの点が伸びなかったからです。どれだけ研究に情熱を注いで成果をあげてもテスト一発で落とされる。そこは、自分の情熱が評価されない世界のように思えました。

やはり、僕にはゲームしかない。ただ、その時僕は25歳。同級生も多くが社会人として働いていました。そういう人間が「ゲームで生きていく」というのはあまりにリアリティがなかったんです。だったら消去法で公務員にでもなろうかと。公務員は安定している、それも悪くない人生だろうと、自分を納得させようとしていました。でも、やっぱり考え続けないではいられなかった。本当に「ゲームで生きていく」道はないのだろうか? 

その疑問を「ウメハラ」さんにぶつける機会がありました。格ゲーシーンの黎明期から活躍し、「世界で最も長く賞金を稼いでいる」プロゲーマーとしてギネスにも認定されているカリスマです。その彼に、「俺が東大出身ならプロゲーマーにはならない」と言われたときは正直ガッカリしました。ウメハラさんでさえ、そんな普通の社会人のようなことを言うのかと。

でもウメハラさんは「一度限りの人生、好きなことにチャレンジするのも悪くないよ」とも言った。それこそ、僕が聞きたかった言葉。プロゲーマーとして生きる道が見えた瞬間でした。それでも、プロゲーマーはあまりに未知の世界で、プロになる方法もわからなかった。もやもやした気持ちのまま、就職活動が始まりました。

アメリカのアパレルメーカーから「スポンサーになるから、プロにならないか」というオファーが届いたのは、就職活動が順調に進み最終面接が迫っていた頃です。心ではすぐにOKを出しました。けれど、いざその時が来てみると、頭が躊躇するものです。「せっかく東大を出たのに。ゲームの世界なんて、やめておけば?」と言う友人もいた。でも「東大を出て官僚なんて、あなた以外にもできること」と言った先輩もいました。最後に背中を押してくれたのは、父親の意見。「格ゲー業界が発展したら、東大卒の肩書きだって役に立つ。逆に、業界の発展に貢献できる」と。情熱を持ちながらも「東大を出たのに…」と躊躇していた僕が、頭でも納得できました。

恵まれた公務員の道を捨て、プロゲーマーになる。確かに僕は合理的でない選択をしたのかもしれない。でも、どんな仕事を選んでも、そこに情熱を注げなければ成果をあげられないと思うんです。それに「安定した環境」がいかにあてにならないものか、東日本大震災を通じて知りました。どうせ未来のことなどわからないなら、情熱を燃やせる道を僕は選びたかったんです。情熱があれば、自分で未来を切りひらける。

大学院時代の挫折を通して自分がどんな人間なのかよくよくわかったことも、決断を後押ししてくれました。自分が何を求めているのか、何をしたいのか、深く納得していれば、周りがどう言おうと自分にふさわしい道へと踏み出せるんじゃないかと思います。逆にいえば、踏み出せないのは、自分を知らず、何をしたいのか納得していないから。僕は、大学院で挫折した時期、とことん自己分析ができました。だから踏み出せたんだと思います。決断した瞬間、「この判断は正しい」という直観がありましたから。

 

■情熱がほしければ、情熱をもつ人のそばにいけ

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僕は「一人では燃えられない人間」です。だからこそ、情熱をもった「仲間」を大事にしたい。自分に情熱があれば、助けてくれる仲間が必ず現れます。それも、自分と同じぐらいの熱をもった仲間が。彼らのなかにいればこの情熱が消えることは二度とないと思うんです。「情熱を持ちたいけど持てない、でもなんとなく現状に不満がある」という人の話を聞くことがありますが、僕が思うのは「この人って熱いな、ちょっと面白いな」と思う人のそばに行ってみるといい、ということ。彼らが、きっと火をつけてくれるはずです。

情熱があればこそ、「なんとなく不満がある」現状を変える力も生まれる。僕の仲間はぬるくないです。みな「格ゲー業界を発展させる」という同じ志を持っていますから、時には厳しいことも言われます。僕はプロになってからプレイスタイルを大きく変えました。以前の僕は、勝つために「最強」と呼ばれるキャラクターを選択、反復練習によって身に付けた最強の「勝ちパターン」を相手に押しつけて、連戦連勝。ときには「強いけどワンパターン」と批判される。それが旧「ときど」のスタイルでした。

でもあるとき、「そのプレイスタイルは、格ゲー業界の発展に繋がるのか」と言われた。確かにそうなんです。以前の僕のスタイルでは格ゲーの本当の面白さを表現しきれない。これから格ゲーを始めようとする人たちにマネしろとも言えません。それからは「勝ちパターン」を捨て、「面白く、しかも強い」プレイを模索しています。スタイル変更後は以前のように勝てなくなりました。でもプロとは「業界の発展に貢献すること」が役割。自分が勝つことイコール貢献ではありません。

人間って、自分から生き方を変えるのはとても難しいですよね。でも、多くの人は「これは変えたほうがいいな」と薄々気がついていることがある。同じ志を持つ仲間というのは、そこを厳しく指摘してくれる存在なんです。彼らの言葉の多くは、僕自身「実は自分でもそう思っていたんだ」と納得できるもの。仲間とは、自分に情熱を灯してくれると同時に、状況を変える勇気を授けてくれる存在でもあります。僕が「自分の勝利のためだけの、勝ちパターンを捨てる」という決断ができたのも、彼らのおかげなんです。

 

■格ゲー界には「自分で業界をつくっていく」面白さがある

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ビジネスとしての格ゲーシーンはいまだ黎明期にあります。プロゲーマー専業で食べているのは、日本では僕を含めて4人しかいない。それだけに自分の立ち振る舞いが業界に与える影響力は小さくないと自覚しています。そこにはまさに、自分の力で未開の地を切りひらいていくような面白さがあります。

そのせいか「この業界どうなるんだろう」と将来を不安に思う気持ちが全くない。どうなるの、ではなく、僕が「どうするか」だと思うからです。20年後の未来は想像がつきませんが、少なくとも10年後はまだプレイヤーでいたいと思っています。それにはプレイヤーとしての自分の能力を維持することに加えて、格ゲーシーンをもっと成熟させることも必要。ビジネスとして成長を続けるにはまだまだルールの整備が十分ではありません。だったら、自分でやろう。そう思えるだけの、格ゲーへの情熱があるから、プロゲーマーの道を選んだんですよ。

 

ときど●1985年、沖縄県那覇市生まれ。本名・谷口一。麻布中学校・高等学校卒業後、東京大学教養学部理科Ⅰ類入学。東京大学工学部マテリアル工学科に進学、卒業。同大学工学系研究科マテリアル工学専攻中退。2010年に格闘ゲームのプロに。国内外の大会に出場し、数々の世界タイトルを獲得。ラスベガスで開催された「EVO2014」では、「THE KING OF FIGHTERS XIII CLIMAX」部門で準優勝。著書に『東大卒プロゲーマー 論理は結局、情熱にかなわない』(ときど著、PHP研究所刊)がある。

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取材・文:佐藤敬一