「エンゲージメント」が高い企業とは?心地良く楽しく働ける企業を見極める方法

近年耳にする機会が増えた「エンゲージメント」という言葉。皆さん、正しく理解していますか。
ビジネスや企業経営におけるエンゲージメントの意義、なぜ企業がエンゲージメントに注目するのか、自身のキャリアや働き方においてエンゲージメントがどのような意味を持つのかについて、組織開発・働き方改善のプロである椎野磨美さんにお聞きしました。

笑顔で会話を交わすビジネスパーソンたち
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ビジネスで使われる「エンゲージメント」の意味は?

「エンゲージメント(engagement)」は、「婚約」「誓約」「約束」「契約」などを意味する英単語ですが、エンゲージメントという言葉をビジネスシーンで使用する場合、「深いつながり」「信頼関係が築かれた状態」を表し、「対・従業員」と「対・顧客」のパターンがあります。

ここでは「従業員エンゲージメント」に着目してお話します。

従業員エンゲージメントとは

従業員エンゲージメントとは、企業と従業員の相互の結びつきを示す指標であり、企業と従業員間の信頼関係と表現することもできます。

従業員は所属企業に対して「愛着心」と「自発的な貢献意欲」を持ち、企業は「従業員の働きに報いる」ということです。

「信頼」は目には見えないものですが、いくつかの指標を用いた調査によって可視化することができます。

例えば、次のような指標があります。

●エンゲージメント総合指標

従業員が企業をどのように評価しているかを測る。「現在働いている企業を知人・友人に紹介したいか」「総合的に見た会社への満足度」「現在働いている企業で今後も働き続けたいか」など

●ワークエンゲージメント指標(※)

従業員が「仕事をしていると活力がみなぎるように感じるか(活力)」「仕事に対して誇りややりがい、熱意を持てているか(熱意)」「仕事に没頭できるほど楽しめているか(没頭)」を測る
(※)ワークエンゲージメントは、オランダ・ユトレヒト大学のSchaufeli教授らによって2002年に確立された指標。Utrecht Work Engagement Scale(UWES)で測定する

●エンゲージメントドライバー指標

従業員エンゲージメントを向上させる要因として「職場環境・人間関係」「職務に対する満足度・難易度」「個人の資質や状態」などを測る

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「従業員エンゲージメントが高い」とはどのような状態なのか?

ここで、皆さんにおたずねします。

「あなたが仕事をする原動力とは何ですか?優先度が高い順に、3つ考えてみてください」

ここでの原動力の定義は、仕事をする上でこれが満たされると「自分の力が引き出される」と感じる事柄です。

いかがでしょうか。

人によって「報酬」「成長」「一緒に働く仲間」「社会や人への貢献」など、働く原動力はさまざまです。

原動力には、「報酬」や「福利厚生」のように企業から従業員に用意されるものと、「貢献」や「好きな製品や技術への寄与」のように従業員から企業に向けられるものがあります。

例えば、「企業から従業員に用意されるものには満足しているけれど、自発的に貢献したいとまでは思わない。また、仕事に熱意をもって没頭するほどではない」場合、従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)は高いけれど、従業員エンゲージメントは高くない状況と言えます。

企業が目指す方向性と従業員が目指す方向性が一致し、従業員がその企業で働く意義を見出し、お互いが信頼し合い、かつビジネスとして成長できる。つまり、「もとめられていること」=「やりたいこと」であり、企業と従業員の期待値が合致している状態であれば、「従業員エンゲージメントが高い」といえるでしょう。

よりシンプルに言えば、「従業員が自発的に行動することで仕事の質とスピードが向上し、企業の業績がよい」状態が続くということです。

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なぜ企業は従業員エンゲージメントを高めようとするのか

従業員エンゲージメントとは別の指標として、報酬・福利厚生・職場の人間関係など、従業員が組織の用意するものに満足しているかを調査する「従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)調査」があります。

従業員満足度(ES)が高いことは重要ですが、それだけでは、従業員の組織への自発的な貢献意欲につながりづらいことが明らかになっています。

このような背景から、企業は先ほど挙げたような指標を用いて従業員エンゲージメントを測定し、改善のための施策を打ち始めています。

従業員エンゲージメントを高める狙いは、主に次の点にあります。

  • 組織の期待に応えられる人材の離職を防止する
  • 従業員の離職を防止する
  • 従業員のモチベーションを維持する
  • 組織力を強化する

これらの結果として、業績の向上へつなげることを目指すのです。

従業員エンゲージメントを高めるために、 企業はどのような取り組みや工夫を行うのか

まずは、「自社で活躍できる人材とは、どのような原動力を持って働く人なのか」を定義することです。
ここでは、働く原動力となる要素として、15の指標を挙げています。

  • 報酬…報酬が魅力的である
  • 責任…責任を担う仕事をする
  • ビジョン…ありたい自分に向かえる
  • チームワーク…誰と働くか
  • 自律…自律的に進められる
  • 成長…自分の成長につながる
  • 競争…どのように勝つか・勝つ意義を感じる
  • 楽しい…楽しい・面白いと感じる
  • 役に立つ…誰かの役に立つ・喜ばれる
  • 好き…好きなことに関われる
  • 挑戦…困難やチャレンジをどのようにクリアするか
  • 創り出す…新しいものやいいものをつくる
  • 地位・権力…他者を支配する
  • 安定…安全で安定している
  • 名声…他人に認められる・有名になる

こうした指標をベースに、自社の従業員の「自発的な貢献意欲」を高めるためには、どの要素が重要なのかを検討します。「報酬を上げる」「成長につながる機会を提供する」などの方針を定め、重視する指標に関する施策に企業として投資をするわけです。

テーマや方針が決まったら、「制度」「環境」を整え、それを適切に活用・運用していくための「意識」を醸成します。

コロナ禍以降に増えている「働き方の柔軟性を高める」取り組みを例に挙げてみましょう。

Yahoo!(ヤフー)では「日本全国どこに住んでもOK。飛行機出勤も可」とする働き方を発表。メルカリは「リモート/出社」「働く場所」など、パフォーマンスやバリューの発揮がもっとも高まるワークスタイルを社員それぞれが選択できるようにしました。富士通では社員に対して「移住」や「ワーケーション」の機会を提供しています。

このように「どこにいても一緒に働ける」働き方の制度を導入する場合、制度を活用するために、テレワークやサテライトオフィスなどの「環境」を整えます。

ただし、制度や環境を整えても、それを活用する「意識」が伴わなければ形骸化してしまうこともあります。

そこで企業は、どのような目的で制度・環境を設け、どう活かしていけばいいかの「意識」づけに力を入れています。

「制度」「環境」「意識」。どのような指標でエンゲージメントを強化するにしても、この3つの柱において企業は取り組みを進める必要があります。

自身がエンゲージメント高く働ける企業の見極め方

転職を考える場合など、自身がエンゲージメント高く働ける――つまり、やりがいを持って、心地良く楽しく働ける企業をどのようにして探せばいいのでしょうか。

自身にとって働く「原動力」を明確にする

これまでお話ししたとおり、働く原動力となる要素は人それぞれ。つまり、どのような企業ならエンゲージメントが高い状態で働けるのかは、人によって異なります。

そこで、まずは自身にとって何が働く原動力となっているのか、優先する事柄と優先度を明確にしましょう。

冒頭で「あなたが仕事をする原動力は何ですか?優先度が高い順に、3つ考えてみてください」と問いを投げかけました。実は、この質問に即答できる人は多くありません。

自身の働く原動力、モチベーションの源を意識したことがない…という方は、先ほどご紹介した15の指標を参考にして考えてみてください。もちろん、それ以外の指標でも構いません。

自身にとっての原動力を認識した上で、それを満たす制度・環境・意識が今の勤務先企業にあるのかどうかを見つめ直してはいかがでしょうか。

そして、転職を決意した場合は、自身が求める制度・環境・意識が備わった企業を探してみましょう。その際、「もとめられていること」=「やりたいこと」=「できること」の観点で、自身のスキルを見直すことも必要です。

「中にいる信頼のおける人」からリアルな情報を得る

各種制度や社風などの情報は、企業サイトや採用情報サイトなどから入手することができます。しかし、外部から見る光景と中に入って見る光景にはギャップがあるものです。

企業サイトや採用情報サイトなどで紹介されている情報をうのみにせず、「中にいる信頼のおける人」からも情報を得ることをおすすめします。

これは私の就職活動での実体験です。私が企業選びでこだわったのは「男女格差がなく、平等に働いて評価される風土」。そこで、今で言う「女性活躍推進」を掲げている企業を中心に応募しました。

いくつか内定を得た中の1社で既存社員との懇親会に参加したとき、女性の先輩社員に「どのような仕事をしている方が多いのですか?」とたずねると「女性は補佐的な仕事のほうが多い」という実情を率直に話してもらえました。その結果、内定辞退を決めたのです。

SNSが普及した今なら、応募前に企業の内情を知ることも可能です。応募を考えている企業があれば、SNSのネットワークをたどってその企業で働く人たちにアプローチし、話を聞いてみるのもいいでしょう。

ダイレクトメッセージを送るまではしなくても、その人たちのSNSをフォローしておくことで、日常の投稿からリアルな働き方が見えてくると思います。

エンゲージメントを感じるポイントは変わっていくもの

働く時間は、人生のうちおよそ3分の1を占めます。それだけの時間を費やして働くからには、自身が満足感を持って働けるのはどのような状態・環境なのかを理解して企業を選ぶことが大切です。

求人情報を見ていると、給与額や企業の知名度などに目を奪われがちですが、自身にとっての「プライスレス」な要素にも意識を向けてみてください。

そしてプライスレスな要素とは、人生の中で変化していくものです。「成長」を重視したい時期もあれば、ファミリーケアが必要な場合などには「ワークライフバランス」を重視したい時期もあるでしょう。

しかし、日々の仕事に追われていると、今の自分が重視したいものは何なのかを意識できないこともあります。

「疲れたな」「つまらないな」と感じたとき、それが何に起因するのか――事業内容なのか、働き方なのか、一緒に働く人なのかを考え、「自分はなぜこの会社に入ったのか」を振り返ってみてください。

そして、今の自身にとって「エンゲージメント高く働ける環境」を探してみてはいかがでしょうか。

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椎野さんプロフ用椎野 磨美(しいの・まみ)
株式会社 環 (KAN)執行役員CHO(Chief Happiness Officer)
一般社団法人 ITビジネスコミュニケーション協会 理事
EQGA公認EQトレーナー。一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所認定トレーナー。「Windows女子部」 創設者として、セミナーやワークショップを全国で開催。新卒でNEC入社後、人材育成・研修業務に従事。日本マイクロソフトでシニアソリューションスペシャリストとして従事した後、日本ビジネスシステムズ(JBS)にて社員が働きやすい環境作り、組織開発・研修業務を推進。2017年働き方改革成功企業ランキング、初登場22位の原動力となる。2020年5月より株式会社 環(KAN) CHO(チーフハピネスオフィサー)として、ITを活用した自社、他社の社員の幸せになる働き方改善業務に従事。
取材・文:青木典子
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