「今度の会議でファシリテーターを務めてほしい」――突然、そう言われることがあるかもしれません。
よく耳にするけれど、ファシリテーターの役割の定義を正確に理解していない、どんなスキルが必要で、どんなことを心がけて行えばいいのかわからない…という方も少なくないのではないでしょうか。
ファシリテーターが意識すべきポイント、ファシリテーターに必要なスキルの磨き方について、組織開発・人材育成のプロである椎野磨美さんにお聞きしました。

目次
ファシリテーターは単なる進行役ではない
「ファシリテーター」とは「ファシリテーション」を担う人のこと。
ファシリテーションは「会議の進行を円滑にする」という意味で使われることが多いのですが、私は次のように定義しています。
つまり、ファシリテーターは、会議や研修など人が集う場において、限られた時間の中で確実に結論に到達させ、その後のアクションにつなげる効果を出す役割を担う人のことです。
今回は、「会議のファシリテーター」を中心にお伝えします。
ファシリテーターに求められる能力とは
ファシリテーターを務めるためにはさまざまな力が必要ですが、大きく3つに分けてご紹介します。
「聴く」「察する」コミュニケーション力
ファシリテーターには「話す」よりも「聴く」コミュニケーション力が求められます。
会議が始まったばかりで、まだ場が温まっていないときには積極的に発言するとしても、議論に入ったら「聴き上手」である必要があります。
また、誰かの意見に対して、ほかのメンバーがどのように思っているかを察知できることも大切です。
例えば、「あの人は黙っているけれど、腑に落ちてないようだ」と感じたら発言を促すなど、人の気持ちを汲み取って対応する力が求められます。
「感情知性(EQ)」×「論理的思考力」
会議では、さまざまな意見が出るため、それらをロジカルに整理する力も欠かせません。
例えば、「議論が白熱し、本筋とは異なる方向に議論が進んでいる」「意見が対立し、参加者が感情的になり、冷静な議論ができない」など、イレギュラーな事態に適切に対処するためには、論理的思考力が必要です。
併せて、EQ(Emotional Intelligence Quotient)も必要です。EQは、自分や他人の感情を理解し、感情をうまく使う能力です。
ファシリテーターは、中立的な立場で良質な結果がでるようにサポートする役割ですから、自身が感情的になったり、また、感情的な状況に振り回されたりしないよう、「感情」と「思考」を最適な状態にブレンドして、バランスよく使う能力が必要です。
タイムマネジメント力
「報告」「ディスカッション」など、会議の目的に応じて所要時間を計算し、進行しながら時間をコントロールする力も求められます。
会議に限らず、限りある時間を適切に配分・管理し、効率よく、効果的に仕事を進められることは重要です。
タイムマネジメント力を身につけることができれば、ムダな時間を減らし、有意義な時間を作り出せるようになります。
ファシリテーションに活かせる力を養う方法
ファシリテーターとして成果を挙げるために必要な力を養うには、日頃から次のようなトレーニングを意識して行うことをおすすめします。
会議などで、自分の意見は最後に言う
会議など複数人が集まって対話する場では、指名されないかぎり、最初のほうで自分の意見を言うことはせず、皆の意見が出そろったころに言うようにしてみてください。
最初に自分の発言を済ませてしまうと、そこで安心して人の意見を聴く集中力を保てないことがあります。自分の発言は最後の方で言うと決め、「人の意見をしっかり聴いて理解した上で、他者の意見を引用したり、コンパクトにまとめたりしながら自分の意見を言う」ようにすると、「聴く力」が養われます。
ノンバーバル情報を読み取る習慣を持つ
人の表情・しぐさ・態度など、ノンバーバル(非言語)情報から会議参加者の気持ちを察することができるようになるためには、普段からさまざまな人を観察してみてください。
例えば私の場合、電車やスーパーなどの待ち行列に並ぶとき、「待っている人を観察してから並ぶ列を決める」というルールを設け、「不機嫌そうな人」がいる列に並ばないようにしています。
「言い換え」を考える
他者から何か言われて「嫌だな」と感じたときに、「どんな言い方をされたら、同じ内容でも不快ではなかっただろうか。素直に受け止められただろうか」と、「言い換え」の言葉を考えてみましょう。
言い換えの技術が身につけられると、言いづらいことを言わなければならない場面で適切な言葉が選べるようになり、円滑なコミュニケーションが可能になります。
例えば、誰かの「言葉」で会議の雰囲気が悪くなりかけた時、ファシリテーターの言い換えの技術によって、場の雰囲気を変えることができます。
ブログを書く/SNSに投稿する
ブログを書いたりSNSに投稿したりと、誰かに読まれる可能性があることを前提に文章を書いてみるのもおすすめです。
その際、「こう書くと、読み手はどう感じるだろうか?」と表現を工夫することが重要です。SNSで不平不満を感情のまま書いている投稿を見かけることがありますが、それは避け、感情知性(EQ)を発揮して提案型で書いてみるといった具合です。
SNSで見かけた誰かの不平不満を、提案型に書き換えるというのも練習になります。大切なのは、その言葉が自分に向けられた時、どのように感じるかを意識して書くことです。
また、読み手が理解しやすいように文章を組み立てることを意識すれば、論理的思考力も鍛えられます。
行動の「フローチャート」を作成する
論理的思考力を養うためには、日々の行動を振り返って「フローチャート」を作成する方法があります。
その行動は何でも構いません。朝起きて、朝食を作って食べ、着替えをする……など、30分~1時間程度に渡る行動でもOKです。
行動を順番に書いていくことで事象を客観視でき、「順番を変えたほうが効率的」「この時間は短縮できる」といったことが判断できるようになります。また、プロセスの「はじまり」から「おわり」までを意識する習慣がつきます。
実際、ある企業の新入社員研修でこのフローチャート作成を3カ月間毎日行ってもらった結果、配属後、その上司たちから「彼らはなぜ1年目であんなにファシリテーションがうまいのか」と驚かれたこともあります。
フローチャート作成に慣れてきたら、「イレギュラーで起こり得る事態」を想像し、その場合の対処法を考えてみましょう。
例えば「朝食に目玉焼きを作ろうとしたら、卵を落として割ってしまった」などです。掃除やメニュー変更が必要になるといった、イレギュラーなパターンでの対処法を考えます。
ファシリテーションでもイレギュラーな状況に対処しなければならないケースは多いため、このような思考はトレーニングとして有効です。
「タイムトライアル」でタスクの所要時間を測る
タイムマネジメント力を身につけるためには、まず自身の日頃のタスクについて、所要時間を把握してコントロールすることを意識してみてください。
私が若手のころには、「このタスクを完了させるのに何分かかるか」を測定し、仮に40分かかったとしたら「次は30分で終えよう」と目標をセットして、タイムトライアルをしていました。こうした行動の繰り返しが、時間を正しく見積もるためのトレーニングになります。
近年は、仕事中の時間の使い方を可視化し、効率化を提案してくれる便利なITツールもあります。そうしたツールを活用るすのも手でしょう。
ファシリテーターとして成果を挙げるために
では、実際にファシリテーターを任された場合、どのようなことを心がけると円滑に進み、効果が出やすくなるのでしょうか。
いくつかのポイントをお伝えします。
基本的な進め方
ファシリテーションは、次の順番に沿って進めます。
- 設計……準備・場作り
- コミュニケーション……理解・共感
- 整理……プロセス・構造化
- まとめ……合意形成・共有
1・2のフローで参加者の意見やアイディアを引き出し、3で意見を絞り込んで整理、4で結論をまとめます。
実際の会議に先立ってしておきたいのは、「アジェンダ(議題や行程の概要)」と「タイムスケジュール」を参加者に伝えておくこと。また、参加者の中に普段接しない人がいる場合は、その参加者のバックグラウンドや情報を事前に調べておきましょう。
当日の進行で心がけること
当日は、冒頭で目的・課題を確認します。また、特定の人の意見に偏らないよう、意見を出しやすくするルールを設け、それを参加者に伝えます。
例えば、「議題への意見は、1人の持ち時間は3分」「時間になったらアラームを鳴らすので、そこで次の人に交代」など。冒頭でルールを示しておけば、「若手のファシリテーターが先輩や上司の長話を遮れない」といった事態を防げます。
会議がスタートしたら、ファシリテーターはルールに基づいて進行し、ルールに反する行為を抑制したり、全員が意見を言いやすいように促したりします。
常に中立の立場をとり、できるだけ多くの意見を吸い上げることを心がけましょう。
固定観念や先入観にとらわれず、「関心を示す」「相づちを打つ」「否定しない」などを心がけ、話しやすい雰囲気を作ってください。
進行中は、参加者全員が発言できるようにタイムマネジメントを行います。時間が押したとしても、人が話している途中で急かすのではなく、発言と発言の間で運営ルールの徹底を再依頼したり、話が長い人がいた場合は、論点が全員に伝わるよう、簡潔にまとめるなどの補助をしたりします。
オンライン会議では、ツールの機能を活用する
会議をオンラインで行う場合、会議ツールの機能を活用することで円滑に進めやすくなります。
人数が多い会議となると、全員から意見をもらう際、発言を終えた人とまだ発言していない人を管理しづらいものです。そんなときには、「挙手機能」を利用し、まず全員に手を挙げてもらっておき、話したら手を降ろすようにすると混乱を防げます。
また、議論が複雑化した場面や決議の際には、「アンケートフォーム機能」を使って参加者に回答してもらうとスムーズです。
上記は一部の会議ツールの例ですが、自社で使っているツールにどんな機能があるかを調べて活用してください。当日使う際、あたふたしないように事前に使い方を練習しておくといいでしょう。
ファシリテーターとしてやってはいけないこと
議論が交わされる中で、ファシリテーターは自身の感情を表に出さず、常に中立な立場で見守る必要があります。参加者の意見に賛同できないと思っても、否定するのはNG。あくまで一つの意見として冷静に受け止め、ほかの意見と同等に扱う姿勢を保ってください。
自分は否定しているつもりはなくても、言葉の選び方によって相手には否定と受け取られることもありがちです。だからこそ、先ほども挙げた「言い換える力」の訓練が大切なのです。
ファシリテーション力を鍛えるには「日常習慣」が大切
ファシリテーターに必要な能力を養うためのトレーニング方法をご紹介しましたが、これらは身につくまでに時間がかかるものです。日常習慣に取り入れて実践していただきたいと思います。
円滑に進めるための仕切りは、ちょっとした工夫によって可能ですが、根本的に必要なのは参加者から出てきた意見を理解する力といえるでしょう。
参加者が言いたいことの本質を汲み取り、次へ展開させていけるようになるためにも、普段から幅広い知識や情報の収集をしておきましょう。
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株式会社 環 (KAN)執行役員CHO(Chief Happiness Officer)
一般社団法人 ITビジネスコミュニケーション協会 理事
EQGA公認EQトレーナー。一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所認定トレーナー。「Windows女子部」 創設者として、セミナーやワークショップを全国で開催。新卒でNEC入社後、人材育成・研修業務に従事。日本マイクロソフトでシニアソリューションスペシャリストとして従事した後、日本ビジネスシステムズ(JBS)にて社員が働きやすい環境作り、組織開発・研修業務を推進。2017年働き方改革成功企業ランキング、初登場22位の原動力となる。2020年5月より株式会社 環(KAN) CHO(チーフハピネスオフィサー)として、ITを活用した自社、他社の社員の幸せになる働き方改善業務に従事。