意識すべきは「目の前の利益」よりも「未来の利益」ーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。

『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「店ははじっこでも、小さくてもいい。お客さんが『とりあえずあそこ』と思ってさえくれれば、まわってまわって、必ずウチに帰ってくる」

(『マネーの拳』第5巻 Round.41より)

地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。

その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。

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「顧客は必ず帰ってくる」という信念

Tシャツ専門の直営店をオープンさせた花岡。そのコンセプトは、“街のタバコ屋”です。誰でも知っていて、飽きない定番アイテムを扱い、街の目印的存在であること。目印には「ここを基準にして」という意味があります。

渋谷に出した1号店は、知名度がないことなどから客足が伸びずに苦戦を強いられます。続いて新宿に2号店の出店を決めますが、店は駅ビルの中でも客の導線がもっとも悪く、柱の影で見えない場所にあります。けれど、花岡はこのデメリットを家賃交渉の道具として使い、大幅な賃料引き下げに成功します。

実は、花岡には一つの確信がありました。それは、Tシャツ専門店としてのユニークさと専門性、品質の良さなどを顧客の心に植えつければ、「彼らの購買行動の起点になれる」という確信です。顧客がほかの店に行って商品を比べたとしても、自社のことが印象に残っていれば、いずれは戻ってくる、というわけです。花岡は従業員に向かって「それはまるで、大陸を何千キロも飛ぶ渡り鳥たちが、帰巣本能で必ず帰ってくるようなものだ」と説明するのでした。

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出店するなら「街が顧客を呼べる」ことが重要

花岡が入店した新宿駅ビルは一等地にありますが、店自体は面積が小さい上に、場所も隅っこにあり、常にテナントが入れ替わっているような場所でした。しかし花岡は、「われわれは街の中にありさえすれば商売になる」とライバル・井川に告げています。これは逆に言うと、「出店する際には、街が重要である」ということを意味します。

事例として、私がかつて、サラリーマン時代にアウトレット店を出店していたころの話をしましょう。そもそもアウトレット店とは、売れ残った商品や旧パッケージ品、カタログに掲載されなくなった商品などを販売する在庫処分店のことを言います。そのアウトレット店が集まってできたアウトレットモールは、正規の価格で売っているお店と競合しないようにするため、一般的に郊外につくられることが多いのです。一般的には、都心部から車で90分くらい離れたところにつくるのが定石でしょう。

顧客にわざわざ遠くまで出かけてもらうためには、それなりの理由がなくてはなりません。人々がアウトレットモールに訪れる理由の多くは、ブランド商品を中心に商品が安く手に入ること。そのためアウトレットモールは、規模を大きくし、取扱いブランドを増やすことでアピールします。

規模が大きくなれば、店舗にとってはライバルが増えることになりますが、顧客にとってはわざわざ遠くまで来る理由が増えることになるのです。

©三田紀房/コルク

目の前の利益よりも、未来の利益に目を向ける

私はいつも従業員に、「ショッピングモールに留まってくれる顧客が増えれば、当店をご利用いただける可能性も増える」と話していました。

もし、従業員が顧客と話をしていて「この人には、ライバル店の時計のほうが相応しい」と感じたならば、迷わずその顧客をライバル店まで案内するよう、従業員に指導していました。当然、顧客にライバル店を紹介すれば、顧客はそちらで買う確率が高くなります。けれども、それで顧客が同じ敷地内でよい買い物ができたと感じてくれれば、次にまた同じエリアにきてくれる可能性が高まります。

通常、従業員は目の前の売り上げを上げることに意識が向きがちです。しかし万一、当店でお買い上げいただいた顧客が、ライバル店に行って「こっちの商品のほうがよかったけれど、アウトレットだから今さら返品できない」という感情を持ってしまったら、お店だけに止まらず、アウトレットモールに対してもよくない印象を抱いてしまうかもしれません。大事なのは目の前の利益ではなく、未来の利益なのです。

つまり、顧客がわざわざそこに出かける明確な理由があり、戻ってくることが理屈や仕組みができていれば、商売としては十分に成り立つことを、これらの事例が示しているのです。

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俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン()』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?()』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」()』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。

俣野成敏 公式サイト(

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