スルースキル(スルー力)とは?ビジネスパーソンが身につけるメリットと鍛え方【精神科医に聞く】

ネガティブな感情をぶつけられたり、嫌な態度を示されたりしてストレスを溜めているビジネスパーソンは少なくありません。そんな中、ネガティブな言葉や感情を適度に受け流す「スルースキル」(スルー力)が注目されています。ビジネスにおけるスルースキルの必要性と身につけるメリット、鍛え方などについて、SNSでのアドバイスが話題の精神科医Tomyさんに伺いました。

笑顔のビジネスパーソン_イメージカット
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スルースキルとは何を指す?

スルースキル(スルー力)とは、主に他人からのネガティブな言葉や感情などをうまくやり過ごす力のことよ。
仕事をする中で、怒られたり、怒鳴られたりした経験は誰もが持ちあわせていることでしょう。その際、相手からのネガティブな言葉や感情を真正面から受け止めてしまうと、自分も嫌な気持ちになってしまい、物事が前に進まなくなってしまうわ。

もちろん、「怒られた原因」には向き合い、真摯に対応するべきだけど、怒りの感情にまで向き合う必要はないわね。「ああ怒っているな」「嫌なこと言っているな」ぐらいに受け流したほうがいいわ。

そして、くれぐれも怒りをぶつけている相手に寄り添い、心を通じ合わせようなんて思わないこと。社会人たるもの、苦手な相手ともうまく関係性を築かなければ…なんて思う人もいるかもだけれど、無理をしたって余計にストレスになって辛いだけよ。

スルースキルがいま注目されている理由

ある程度「社会慣れ」してくれば、ネガティブな感情をぶつけられても「こういう人もいるな」「こういうときもあるな」とやり過ごせるようになるけれど、社会人経験が浅くて対人交流の機会が少ない若手は、うまくやり過ごせず相手の感情を真正面から受け止めてしまいがちなの。

特に、現在社会人1~2年目ぐらいの若手は、コロナの影響で大学はオンライン授業、入社後も在宅勤務が多くて、直接人と会ったり対面で交流したりする機会が極端に少なかったと思うの。そもそも、物心ついた時からSNSが身近にあった世代だから、ネット上でのコミュニケーションは得意でも、リアルなコミュニケーションに関してはまだ場数が足りなかったりするのよね。だから、他人のネガティブな感情をダイレクトに受け止めちゃって、辛さを感じてしまうの。そういう若手ビジネスパーソンが増えたことで、スルースキルが注目されている側面はあるわね。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

スルースキルを身につけるメリット

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スルースキルを身につけると、余計なストレスを抱えなくて済むというメリットがあるけれど、それ以外にもビジネスにプラスのメリットがあるわ。

仕事の生産性が上がる

スルースキルがあると、周りの顔色をうかがったり、周りのネガティブな感情に左右されたりと、余計なことにエネルギーを割かずに済むから、仕事に全エネルギーを集中させることができるようになるわ。その結果、生産性高く働くことができて、成果も出しやすくなるはずよ。

仕事が今より楽しくなる

ネガティブなことを言ってくる上司や先輩、クライアントがいると、仕事に行きたくなくなるものよね。でも、スルースキルがあれば彼らを必要以上に気にすることがなくなり、仕事が楽しくなると思うわ。

世の中には、仕事が好きだったのに、人間関係のいざこざのせいで仕事まで嫌いになってしまう人がとても多いの。適度なスルースキルを身につけておけば、仕事がもっと楽しくなるし、途中で頓挫せず理想のキャリアを歩める可能性も高まると思うわ。

自分に自信がつき、より面白い仕事が回ってくるようになる

周りの嫌な感情を受け流せるようになれば、周りの声に振り回されることなく仕事に集中できるようになるわ。ただその分、仕事で思わぬトラブルに直面したり、壁にぶつかったりする機会も増えると思うけれど、それを乗り越えるべくPDCAを回し続けることでビジネスパーソンとしての経験値も上がるはず。それに伴い、難易度の高い仕事にも関われるようになり、自分に自信が持てるようになるわ。

「仕事の報酬はより良い仕事」と言うように、成果を上げている人にはどんどんいい仕事が回ってくるから、どんどん面白く責任ある仕事にかかわれるようになるわよ。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

スルースキルを鍛え、仕事に活かす方法

談笑するビジネスパーソン_イメージカット
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スルースキルは、特別なことをする必要はなくて、普段から意識するだけで鍛えることができるわ。ただ、単に嫌なことをスルーするだけでは、仕事に活かすことはできないわよ。

ネガティブなことを言われても、必要以上に気にしない

怒られたり怒鳴られたり、嫌なことを言われたりすると、どうしても気持ちがふさいでしまうけれど、基本的には気にしないことが肝心よ。

人の感情は、他人にはコントロールできないものよ。コントロールできないことに気を揉んだり嫌な気持ちになったりすることほど無駄なことはないわよ。それに気づければ、人のネガティブな感情に振り回されにくくなると思うわ。

相手の「感情」ではなく、「その背景」に目を向ける

怒られたり怒鳴られたり、嫌な態度を取られたりしたとき、相手の感情ではなく「なぜこんな態度を取るのか」とその背景に目を向けることを意識してほしいわね。

冷静に現状を捉え俯瞰して見てみれば、理由があって怒っているのか、それとも単に機嫌が悪くて怒っているのか、正しく判断できると思うわ。たとえば、あなたが気づかないうちにミスをしでかしていて、それに対して怒っているのだとわかれば、速やかに対処してミスを取り返せばいい。そして単に機嫌が悪いならば「また怒ってるよ」ぐらいに思っていればいいのよ。

これを意識して繰り返せば、物事の本質を見誤らなくなるわ。怒りの原因に対して速やかに対処できるようになれば仕事の精度が上がるし、単に感情の波によるものであれば感情部分はスルーしたうえで「○○部長は贔屓の野球チームが負けた翌日は機嫌が悪いので要注意」とか「△△マネージャーは間違った言葉遣いにうるさいから注意しよう」などと対策を打てるようになります。こういうことに気づいて丁寧に対応できる人は、世渡り上手になれるわよ。

同僚などに客観的な意見をもらう

怒られたり怒鳴られたりしたことは、あまり他人に言いたくないものだけれど、自分一人で抱え込んでも何も解消できず、引きずってしまう恐れがあるわ。

信頼できる同僚などに、「○○部長にこんなことで怒られた」と打ち明ければ、「あの部長はこういう時は機嫌が悪いから、あまり気にしないほうがいいよ」とか「こういう点にさえ気を付けていればむやみに怒らないから大丈夫」など、スルーするためのアドバイスをもらえるかもしれないわよ。何より周りに話すことで気持ちがスッキリするし、ネガティブな感情からも解放されるはず。仲間をうまく頼ることも、時には必要よ。

「スルーするのは相手の感情のみ」と心得よう

「スルーすることが大事」というと、何もかも全てをスルーしようとする人がいますが、それでは怒られた根本の原因は解決できないので、ビジネスパーソンとして成長できなくなってしまうわ。
スルーするのは、自分ではコントロールできない「相手の感情」だけ。怒っている理由にはしっかり向き合うべきなのよ。

それでもスルーし切れず、心が辛くなってしまった時の対処法

スルースキルが身に付いていないうちは、頑張って受け流そうとしても相手の感情に引っ張られてしまい、辛くなってしまう人も多いと思います。そんなときは、「会社を辞めればこの悩みなんて意味がなくなる」と思うといいわよ。
実際に辞めるわけじゃないわよ。「いざとなったら辞めればいい」と思えば、今抱えている悩みが未来永劫付きまとうものではないと気づけるので、気が楽になると思うわ。

気晴らしの方法をいくつか持っておくのもいいわね。ネガティブな感情から抜け出せないならば、自分で意識的に気持ちを切り替えるしかないから。たとえば、旅行に行ったり映画を見たり、散歩をしたりサウナに行ったりと、環境を変えるのはお勧めね。料理やスポーツなど、没頭できるものに取り組むのもいいかもね。普段から、自分で自分の機嫌を取る方法をいくつか用意しておくといいわよ。

そしてもちろん、眠れない、食事がとれない、朝起きられない…など日常生活に支障が出るほどストレスが溜まったら、できるだけ早く「精神科」や「心療内科」などを受診してほしいわね。ここまできたら悩みの範疇ではなく、治療の範疇だから。勤務先に産業医がいるならば、まずは産業医に相談するといいわよ。くれぐれも、無理はしないでね。

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精神科医Tomy先生Tomy
精神科医・コラムニスト

1978年生まれ。某国立大学医学部卒業後、医師免許取得。研修医修了後は精神科医局に入局。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、産業医。精神科病院勤務などを経て、現在はメンタルクリニックに勤務。自身のアイデンティティに悩み、乗り越えた自らの経験を生かし、特徴のある口調でアドバイスをするツイッターが話題となっている。
X(旧ツイッター)アカウント@PdoctorTomy

EDIT&WRITING:伊藤理子
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