「社会人の学び直し」と「リスキリング」はどう違う?今、リスキリングが重要視されている理由とは?

社会人には学び直しが必要、リスキリングが重要などと言われますが、実は「学び直し」と「リスキリング」は似ているようで意味合いが異なります。
今回は、学び直しとリスキリングの違いを解説するとともに、今ビジネスパーソンに特に必要とされているリスキリングについて、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブの代表理事である後藤宗明さんに詳しく伺いました。

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社会人の学び直し=リスキリングと誤認されている

昨今、学び直しに注目するビジネスパーソンが増えています。「人生100年時代に働き続けるためには、学び直しで自身を高め続ける必要がある」「変化の激しい時代に生き抜くためには、学び直しをしてスキルアップし続けないと」などの声がよく聞かれます。

ただ、現在使われている「学び直し」という表現の多くは、正しくは「リスキリング」のことではありません。実際、メディアなどで「リスキリング=学び直し」と紹介されているケースがあり、ビジネスパーソンの多くが「学び直し」と「リスキリング」を混同していますが、実は全くの別物です。

「学び直し」とは、主にリカレント教育において使われている言葉。学校を卒業して社会に出た後も、各個人に必要なタイミングで学び直しに取り組み、仕事と教育を繰り返すことを指します。自分自身を高められると思われるテーマ、興味関心があるテーマを、自分で時間と費用を捻出して学び直すという、あくまで個人が自主的に行うものです。

一方「リスキリング」とは、新しいスキルを習得して新しい業務や職業に就くというもの。個人が自分の意志とタイミングでやりたいことを学ぶ「学び直し」とは異なり、たとえばDXの推進など組織の変革に基づいて行われるものであり、組織(企業)が実施責任を持ちます。そして、単に「学ぶ」だけでなく、学習してスキルを習得し、そして職業転換するまでを指しています。

そして、今ビジネスパーソンに必要とされているのは、学び直しよりもリスキリングです。テクノロジーの進展により我々を取り巻く環境が大きく変化しようとする中、リスキリングはすべてのビジネスパーソンが取り組むべきものになっています。

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テクノロジーの進展により、今後雇用数は純減していく見通し

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リスキリングが重要視されている背景には、「技術的失業の増加」があります。技術的失業とは、テクノロジーの進展によりオートメーションが加速し、人間の雇用が失われるという社会的課題のことです。

世界経済フォーラムが発表した「Future of Jobs Report 2023」によると、今後5年間で現在の雇用の約1/4である1400万件の雇用が純減すると予測されています。新しいテクノロジーやグリーン分野で約6900万件の雇用が新たに創出されるものの、AIなどにより約8300万件の雇用が消失し、雇用の総数自体が大幅に減少すると試算されています。

「本当にたった5年でそれだけの雇用が減るの?」と疑問に思う人もいるかもしれませんが、我々の身近な仕事もどんどんAIなどのデジタル技術に取って代わられており、技術的失業がすでに現実のものになりつつあります。代表的な例を挙げてみましょう。

ファミリーマートでは、一部店舗において飲料の陳列業務をロボットに切り替えました。将来的には全店で、人間による飲料補充業務をゼロにすると発表しています。ファミリーマートの店舗は現在、全国に約2万5000店あるので、仮に1店舗あたりの飲料補充が1名分の労働力だとしたら、ロボット化により2万5000人分の仕事がなくなる計算になります。
現在、日本にはコンビニエンスストアが約5万7000店あります。ファミリーマートの動きが他社にも広がれば、実に5万7000人の仕事が失われる可能性があります。

また、NTTドコモでは、全国に約2300店あるドコモショップの3割にあたる約700店を、2025年度末までに閉鎖すると報道されています。オンライン手続きの増加による来店者減少などに対応するもので、今後はオンラインでのやり取りに移行しつつ、メタバース店舗の拡充などに注力するとのこと。仮に1店舗あたり約10名体制だとすれば、700店が閉店すれば約7000名分の仕事が消失する計算になります。他のキャリアも追従すれば、さらに多くの雇用が失われる可能性があります。

これまで何度となく、AIやロボットの進化により雇用が代替・消失する可能性が指摘されていましたが、それがいよいよ現実化しつつあるのです。

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リスキリングは、テクノロジーの進展による「技術的失業」を防ぐ有効策

今話題のChatGPTなど「生成AI」の存在も、技術的失業を加速させる要因となるでしょう。

さまざまなネット系企業が、生成AIと連携することで新しいサービスを生み出しています。たとえば、あるオンライン旅行通販会社のサイトでは、日程と予算、目的などを入力すれば最適な選択肢を提示し、宿泊予約だけでなくフライト、アクティビティ、レンタカーなどの予約まですべて行うことができます。

これにより、減ると予想されるのが秘書職のタスク。これまで役員が出張するたびに、秘書が30分や1時間かけて行っていた宿泊施設や新幹線・航空チケットなどの手配業務が、ネット上で一瞬にして終ってしまうからです。タスクが減れば、当然ながら秘書のヘッドカウントも減らされることになるはず。役員1人に対して秘書を1人つけるのではなく、たとえば1人の秘書が役員3人を見ればいいのではないか、という議論になることでしょう。

そして実際、生成AIが雇用や採用に影響を及ぼしつつあります。

米IBMのCEOアービンド・クリシュナ氏は、インタビューで「AIで代替可能な職務が判明するまで、新規採用を一時停止する」と発言しています。加えて、人事などバックオフィス部門約2万6000名の30%に当たる、約7800名の雇用が消失する可能性を示唆しています。

このような「技術的失業」を防ぐために有効なのが、リスキリングです。テクノロジーの進展に伴い、既存の仕事がAIやロボットに置き換わる一方で、テクノロジー関連、すなわちデジタルやAI分野の仕事は増えています。無くなる仕事に就いている人が、テクノロジー分野の仕事にスムーズにシフトできるのであれば、技術的失業を未然に防ぐことができますが、実際は該当する人の多くは技術に関するスキルが不足しているため、新しい仕事にシフトできず、技術的失業が発生することになります。

自身の仕事を失わないためにも、将来のキャリアの選択肢を増やすためにも、今後必要とされる分野のリスキリングを行うことは何より重要。あらゆるビジネスパーソンにとって、もはやリスキリングは必要不可欠なことなのです。

リスキリングすべきはデジタル関連。特にAIは避けては通れない

世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2023」では、今後5年間でビジネスパーソンに必要とされるコアスキルの44%が変化すると予測されています。
そして、「2027年までに重要性が増すスキルトップ10として、以下の10のスキルを挙げています。

図_2027年までに重要性が増すスキルトップ10※出所:世界経済フォーラム「Future of Jobs Report 2023」

また、「最も成長著しい職種トップ10」として以下の職種を挙げていますが、ほぼすべてがデジタル系分野になっています。これらから考えると、リスキリングのテーマとしてはデジタル、特にAI分野は避けては通れないと思われます。

図_最も成長著しい職種トップ10※出所:世界経済フォーラム「Future of Jobs Report 2023」

「今の仕事+AI」の可能性を考えて上司に提言し、AIを「実務化」しよう

デジタル、特にAI分野のリスキリングが有効であるとお伝えしましたが、前述のとおり、リスキリングとは新しいスキルを習得して「新しい業務や職業に就く」こと。リスキリングは組織(企業)が実施責任を持つため、従業員向けにオンライン学習用のコンテンツを用意する企業は多いですが、ただ学ぶだけではリスキリングとは言えません。

ただ、実務経験がないと新しい仕事に就きにくいのも事実。特にAI分野は、たとえ知識はあったとしても実務未経験者が就くのは難しいでしょう。通常であれば、企業側が従業員の実務を経験できるようフォローすべきですが、そこまでの体制が整っていないケースも多いと思われます。

そこでお勧めしたいのは、現在携わっている仕事においてAI導入の可能性を探ること。今後AIは、必ずどの仕事にも関わってくるようになります。たとえば営業×AI、経理×AIなど、今の仕事においてAIを導入できる可能性を考えたうえで、上司に提言するといいでしょう。
たとえば、業務を効率化するためにAIを導入する案や、AIを活用して新しい事業やサービスを生み出す案など、さまざまな可能性が考えられます。そして、その案が通り具体的に検討することになれば、AIに関する実務経験を得ることができます。その経験をもとに、社内のさらに専門的な部署に異動したり、AI関連職種に転職したりすることも可能になるでしょう。

アイディア創出のために前提となる知識は、会社が用意しているオンライン学習講座などで学んでおきましょう。もしも勤務先にリスキリング支援の仕組みがない場合は、YouTubeなどを見ればいくらでも学びとなるコンテンツがあります。AIといってもさまざまな分野があるので、まずは自分が興味を持てそうな分野、もしくは現在の仕事に絡められそうな分野を学んでみるといいでしょう。

「グリーン分野」も将来的に成長が期待できる有望テーマ

AI以外のテーマとしては、再生エネルギーや環境保全などの「グリーン分野」もお勧め。グリーン・スキルを習得すれば、将来の可能性が広がります。

グリーン・スキルとは、持続可能で資源効率の高い社会で暮らし、発展し、支援するために必要な知識、能力、価値観、姿勢のこと。ヨーロッパではいち早く、各企業が気候変動対策や脱炭素化に向けて動いており、グリーン分野でのさまざまな取り組みが進んでいます。それに伴い、グリーン・スキルを身につけるビジネスパーソンが増え、新たな雇用(グリーン・ジョブ)も創出されています。

日本ではまだまだこれからの分野ではありますが、将来的には確実に対応が必要とされる分野であり、まだ注目度が高くない今が飛び込むチャンス。脱炭素化や再生エネルギーについて学び、自社でできることはないか考え、経営に提言することで実務化していきましょう。

なお、現業務×〇〇(AIやグリーンなど)のアイディアを出しても、上司がまるで動こうとしない場合は、転職を考えるのも一つの選択です。あらゆる企業がAIを導入して生き残りを図ろうとしている今、先々を考えた部下の提案に対してNOという企業は、将来性が危ぶまれます。現在の職務経験を活かして、リスキリングに力を入れている企業やAIなど有望分野に積極的に取り組もうとしている企業に転職したほうが、キャリアの選択肢を増やせるでしょう。

周りを巻き込み仲間を作れば、モチベーションを維持しやすくなる

会議をするビジネスパーソンのイメージカット
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学習→スキル習得→職業転換までを指すリスキリングにおいては、まずは基本となる知識を「継続して学習すること」が重要。しかし、なかなかモチベーションが続かない…と悩む人は少なくありません。ましてやリスキリングは、今の仕事に直結していない場合は特に、途中で脱落してしまう人もいるようです。

そんな悩みを抱える人にお勧めしたいのは、周りを巻き込むこと。リスキリングの有効な手法として「Co-skilling(コ・スキリング)」が挙げられますが、「コ」は協働という意味。周りと一緒に取り組むことで支え合い、励まし合うことができ、リスキリングを継続しやすくなると言われています。

たとえば、AIに関するオンライン学習講座を受講した後に意見交換をしたり、有志を集めてAIについての勉強会を開催したりするのは有効。可能であれば同じ部署、同じチームの人を巻き込んだほうが、「現業務×AI」のアイディアの精度が上がり、実務化もスムーズに進むでしょう。

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「新しいスキルで自分の未来を創るリスキリング実践編」書影一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事
後藤宗明さん

早稲田大学政治経済学部卒業後、1995年に富士銀行(現みずほ銀行)入行。2001年に渡米し、グローバル研修領域で起業。帰国後、米国の社会起業家支援NPOアショカの日本法人の設立に尽力。米フィンテックの日本法人代表、通信ベンチャー経営を経て、アクセンチュアにて人事領域のDXと採用戦略を担当。その後、AIスタートアップのABEJAにて米国拠点設立、事業開発、AI研修の企画運営を担当。10年かけて自らを「リスキリング」した経験を基に、リクルートワークス研究所の特任リサーチャーとして「リスキリング〜デジタル時代の人材戦略〜」「リスキリングする組織」を共同執筆。2021年、リスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。AIを利用してスキル可視化を可能にするリスキリングプラットフォーム、SkyHive Technologiesの日本代表も務める。著書に『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』、最新刊『新しいスキルで自分の未来を創る リスキリング【実践編】』(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)も話題。

EDIT&WRITING:伊藤理子
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