若者の自己肯定感を上げたい~デコ棺桶デザイナーが「入棺体験」で伝えたいこととは

色とりどりの装飾を施したオリジナルデザインの「棺桶」。作っているのは、棺桶デザイナーの布施美佳子さんだ。布施さんが力を入れている「入棺体験」をした人は、口々に「自己肯定感が上がった」「やりたかったことを思い出した」などイキイキと語り出すという。
布施さんは大手玩具メーカーの商品企画出身。なぜ、棺桶デザイナーという道を選んだのか、そしてなぜ、入棺体験で自己肯定感が上がるのか、詳しく伺った。

棺桶デザイナーの布施美佳子さん

「可愛い棺桶」に若者が注目、450人以上が入棺体験に参加

布施さんは現在、唯一無二の「棺桶デザイナー」として活躍している。これまでの常識を覆す、カラフルな装飾を施したオリジナルデザインの棺桶が注目を集め、ラフォーレ原宿や横浜ビブレなどのファッションビルに誘致されイベント出展。イベント会場や自身のアトリエで行っている「入棺体験」には、これまでに10代から80代まで450人以上が参加した。

棺のふたを閉め、短時間ながら「一度死んだ気持ち」になって自分自身と向き合うことで、自己肯定感が上がった、やりたいことを思い出したなどという声が挙がっており、それまで暗かった表情がイキイキ一変する人も多いという。その効果が注目され、大学の研究で取り上げられたり、社員研修に取り入れられたりするなど、思わぬニーズも広がっているという。

布施さんは3年前まで、大手玩具メーカーに勤務する会社員だった。アパレル事業部でガールズブリーフをヒットさせたり、人気キャラクターのグッズやショップをプロデュースしたりしていたという。そんな彼女がなぜ、棺桶を手掛けるようになったのか――。

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「人生の最期に好きなものに入りたい」との思いからスタート

棺桶デザイナーの布施美佳子さん
布施さんが初めて葬儀関連商品を手掛けたのは、2015年のこと。勤務先の玩具メーカーから関連会社に出向し、新規事業立案を任されたのを機に、フューネラル(葬儀)グッズブランド「GRAVE TOKYO」を立ち上げた。
初めての展示会に出したのは、完全オリジナルデザインの死装束や骨壺。特に、スワロフスキーがちりばめられた、まるで宝箱のようなデコ骨壺や、子ども向けのキャラクターがあしらわれた可愛らしい骨壺が話題を集めた。

布施さんが20代のとき、学生時代の同級生や仲の良い友人が、相次いで病気や事故で若くして亡くなった。彼らの葬儀に出席したときに違和感を覚えたことが、この道に興味を持つきっかけになったという。

「友人たちは皆おしゃれで個性的だったのに、昔ながらの画一的な葬儀で“故人らしさ”が全く感じられませんでした。私が死ぬときには、自分が着たいと思える死装束、入りたいと思える骨壺を選び、自分らしい葬儀を行いたいと、ずっと思っていたんです。おしゃれな死装束やデコ骨壺は、その頃から心の中で温めていた企画だったので、出向先でチャンスをもらったのを機に一気に事業化しました」

当時、特に反響が大きかったのは、海外の子ども向けキャラクターがあしらわれた骨壺。小さいお子さんを亡くされた親御さんから、感謝の言葉が次々と寄せられたという。

「子どもが好きな可愛らしいキャラクターに入れてあげたくて、必死に探したけれど見つけられず、なかなか納骨できずにいました。これでようやく、子どもをお墓に入れてあげることができます――。このようなメッセージをいただき、胸がいっぱいになりました。玩具メーカーこそ、このような商品を展開する意義があると再認識できました。それに、キャラクターは今や子どものものだけでなく、日本では大人も皆キャラクターが大好き。人生の最期に、好きなキャラクターと一緒に旅立ちたいというニーズは、老若男女問わず誰にでもあるはずだとも確信しました」

展示会での大好評を経て、いざ本格的に事業拡大しようとした直後、一番の賛同者だった上司が異動となり、計画はいったん白紙に。志半ばにして出向先から本社に戻り、ガールズトイやショップ展開などのプロデュースを手掛けながら企画を提案し続けたが、一向に話が進まなかった。

「死を想起させるものにキャラクターを使うことは難しい、ということはわかっていました。ただ、ニーズは確実にあることがわかっているし、かつ必要に迫られています。諦めることなく何度も提案し続けましたが状況は変わらず、『会社が動けないならば、もう自分でやるしかない』と腹を決め、2021年に退職しました」

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10代の若い女子に棺桶がヒット、「盛れる」とSNSで話題に

独立後、それまで手掛けていなかった「棺桶」に着手したのは、コロナがきっかけだった。

コロナによるパンデミックを機に、葬儀の形が親族や友人知人を呼んで行う「一般葬」から、ミニマムな「家族葬」へと変化した。集まりを避けて感染を防ぐことが主な目的だったが、「費用が安く、面倒も少ない。家族だけで見送れれば、それでいいのでは」という風潮が強まり、足元でもその傾向が強まっている。その一方で、「自分が骨になった後に入る骨壺にこだわりたい」「大事な家族の骨を手元供養として近くに置いておくためにも、おしゃれな骨壺を選びたい」というニーズも増えつつあるという。実際、ラグジュアリーな陶磁器ブランドの容器を骨壺にして身近に置くという人も増えた。

「そんな中、手つかずだったものが棺桶です。これまで一切、デザインの視点が入っていない分野。人生の最期にこだわりを持つ人が増えているのだから、“骨になる前に最後に入る個室”にもインテリアの要素を持たせたい。そこで、自分だったらどんな棺桶に入りたいかを考え、まずは形にしてみました」

デザイナーとしての知識と経験はあったが、「棺桶づくり」の知見はなかったので、まずは職業訓練校に通って壁紙張りの技術を習得した後に、自宅で試作品を一から制作。好きな布地を貼った可愛い棺桶が完成した。「こんなの見たことない!」「何なら入りたい!」と友人らの評判も上々だった。

この可愛い棺桶を広く知ってもらうため、2023年にクリエイターやファッション関係者が集まる展示会「ニューエナジー展」に出展。ここでの反響が、大きな気付きになったという。

「10代の若い女の子たちが棺桶を見て、『キャー!可愛いー!なにこれー!入りたいー!』と集まって来たんです。棺桶なんて、これまでの彼女たちの人生に一切かかわりがなく、おそらく現物を見たのも初めてでしょう。普通ならばスルーされるものなのに、可愛いというだけでいきなり自分事になるのだと気づきました。そして、『入りたい』と言ってくれるならば、実際に入ってもらおう。そして写真を撮ってSNSで拡散してもらおうと、『可愛い棺桶への入棺体験』をスタートしました」

可愛い棺桶に入り、造花を敷き詰めて撮る写真は、実際かなり盛れる。入ると撮りたくなり、撮るとSNSに上げたくなる心理から、入棺写真が数多くSNSで拡散された。その反応を見たラフォーレ原宿などから声がかかり、継続的にファッションビルに出展、そこにも多くの若者が集まるように。そして、布施さんのアトリエで行う入棺体験への問い合わせも急増しているという。

入棺体験が若者の自己肯定感アップ、希死念慮の軽減につながる

これまでに450人以上が参加した入棺体験。アトリエでの入棺体験では、単に入って写真を撮るだけでなく、「ワークシートに自分のことを書き込み、ご自身に弔辞を書いてもらい、実際に棺桶のふたを閉めてしばし自分と向き合う」というフローが設けられている。

ワークシートには、「自分の最期はどんな最期か」「あなたの葬儀に来てほしい人は誰か」「読んでほしい弔辞はどんな内容か」、そして「亡くなった後、周りの人から『どんな人だった』と言われたいか」を記入する。そのシートをもとに、布施さんが故人を偲び、本人の書いた弔辞を読み、ふたを閉める。その後3分間、棺の中で自分自身と向き合う時間を設ける(希望により延長可能)。

「棺桶のふたをパッと開けると、皆さん入る前と全然表情が違うんです。表情に覇気がなく、どんよりしていた方が、生気を取り戻し、イキイキとした表情に変わっていていつも驚かされます」

体験者からはさまざまな感想が寄せられるが、多いのは「こんなに褒めてもらったのは初めて。自己肯定感が爆上がりした」というもの。入棺したことで、それまでの「自分にとって嫌でつらい人生」をいったん終わらせ、誉め言葉をもらいながら棺の中で自分自身と向き合う時間を持つことで、生まれ変わったような気持ちになるという。

一時的に外界と遮断されることで強制瞑想状態になり、「やりたかったけれど忘れていたこと」を思い出す人も多い。

「普段はネガティブな感情に支配されていても、棺の中で『一度死を経験した』という心理状態になることで、やり残していることに気づく人が多いのだと感じます。例えば以前、いわゆるブラック企業で昼夜なく働き怒鳴られ続け、『自分には生きている意味なんてあるのか』と疲弊し切った20代の会社員がいらっしゃいましたが、入棺体験後は憑き物が落ちたように明るい表情になり、『やりたかったことがあったのに、今までなぜか忘れていました。ようやく思い出せたので、会社を辞めると決めました』と話してくれました。ネガティブな感情に支配されていると、やりたかったことだけでなく、辞める、逃げるという選択肢すら見失ってしまいますが、棺の中ではそんな感情が取り払われ、純粋に自分の思いと向き合えるようになるのだと思います」

「仮の死」体験が、これからの人生を考えるきっかけに

棺桶デザイナーの布施美佳子さん

以前から、若者の希死念慮の強さを憂いていた布施さん。自身も幼少期より希死念慮を抱いていたことから、入棺体験の感想に触れるたびに、「この活動を通して、皆の人生そのものを肯定し、生きづらい世の中を生きやすくしたい」と思いが強まっている。

希死念慮を持つ子どもや若者が増えている理由の一つに、「死を語るのを避けている」ことが挙げられる、と布施さんは話す。「死にたい」と言うと、周りはそんなこと言うなんてと怒ったり、命は大切にすべきだと諭したりして悪気なく論点をすり替えているが、本来はその人の「死にたいと思う気持ち」と向き合い、ひも解かなければならないはず。皆が死を遠ざけ、話さないようにした結果、死がファンタジーなものになり、憧れすら抱く子どももいるという。

今年から始まる内閣府と大学の研究で裏付けしてもらう予定ですが、入棺体験で死を敢えて感じ、考える機会を設けることで、自己肯定感を高め希死念慮を軽減できると考えています。そのためには、ネガティブな感情に支配されている人でも『入ってみたい』と思えるような、気分が上がる棺桶が必要。私の棺桶が存在する意義は、ここにあるのだと実感しています」

企業での研修にも、もっと注力したいと考えている。グループやチームで入棺体験を行うと、自己肯定感が上がったり、夢や希望を思い出したりするのはもちろん、他のメンバーの弔辞を聞くことでメンバー理解が深まり、チームワークが高まるという効果もある。実際、研修を受けた人からは「死を考えることでこれからのキャリアを見つめ直すことができた」「新しいことにチャレンジする気持ちになった」「頼れそうな人を見つけることができ、同時に周りを全く頼ろうとしていなかった自分にも気づいた」などの声が挙がっている。

「自分の夢や希望を思い出し、目標に向かってイキイキと突き進める若者を増やすためにも、入棺体験を広めたいし、死をもっと自然に語れるような雰囲気を生み出したい。そんな未来をつくるために、この『可愛い棺桶』を軸にさまざまな方法でアプローチを続けていきたいと考えています」

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布施美佳子さん

棺桶デザイナー。文化服装学院卒業後、アパレル会社のデザイナーを経て、1999年に大手玩具メーカー入社。アパレル事業部の新規開発担当としてガールズブリーフなどをヒットさせる。関連会社出稿時の2015年、フューネラルグッズブランド「GRAVE TOKYO」を立ち上げ、可愛く華やかな骨壺や死装束を企画する。2021年に独立し、オリジナルの棺桶づくりをスタート。現在、アトリエやイベント会場での入棺体験や、入棺体験を交えた企業研修などを展開している。
「GRAVE TOKYO」インスタグラム https://www.instagram.com/mikera1973/

EDIT&WRITING:伊藤理子
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