「仕事に行きたくない」「会社に行きたくない」と思うことがあるけれど、これって甘え?──毎日忙しく働いていると、ふとモヤモヤした気持ちを抱えることもあるでしょう。「理由はないけど、なんとなく仕事にいきたくない」と思うことは、本当に甘えから来るものなのでしょうか?
会社や仕事に行きたくないと思う原因やネガティブな気持ちを乗り越える方法を『ストレスフリー超大全』の著者であり、YouTubeチャンネルでも人気が高い精神科医、樺沢紫苑さんにお話を伺いました。

目次
「仕事に行きたくない」のは甘え?
会社や仕事に行きたくないと思うことは、誰にでもあるでしょう。それは必ずしも「甘え」とは言えません。精神的ストレスが高まっていて「休むべきサイン」である可能性も考えられます。
気分転換によって解消できるような一時的なものでなく、慢性的にそういった状態が続くかどうかを見極めましょう。そのうえで、無理はせず、適切な対処をすることが大切です。
「仕事に行きたくない」「会社に行きたくない」と感じる理由は?
一時的にしても慢性的にしても、「会社に行きたくない」「仕事に行きたくない」と感じている人は多いようです。理由はもちろん人それぞれですが、よく見られるのは次の5つです。適切な対処をするためにも、自身の状況がどれに当てはまるのかを考えてみましょう。
理由1:仕事にやりがいが感じられない
「やりたかった仕事ではない」「扱う商品やサービスに興味を持てない」「自分でなくてもできる仕事」など、仕事にやりがいが感じられず、モチベーションが上がらない状態です。
理由2:仕事が忙しく疲労が溜まって寝不足だから
仕事が多忙で、労働時間が長かったり休日出勤があったりすると、疲労が貯まり、寝不足にもなりがちです。リーダーやマネジャーなど責任あるポジションに就いたことで、業務量が一気に増え、こうした状態に陥っているケースも見られます。
理由3:通勤することにストレスを感じている
「通勤時間が長い」「通勤電車の混雑が激しい」など、通勤そのものにストレスを感じていることもあります。コロナ禍でテレワークを経験し、再び出社に戻った場合は、以前より通勤にストレスを感じやすくなっているかもしれません。
理由4:職場の人間関係がうまくいっていない
職場の上司や同僚をはじめ、顧客や取引先などに苦手な人がいたり、コミュニケーションがうまくとれていなかったりする場合、会社に行くのが憂うつになることもあるでしょう。「上司に嫌われている」「同僚から仲間外れにされている」などと悩む声も聞こえてきます。とはいえ、実際には本人の思い込みであることも少なくないようです。
理由5:頑張っているのに評価されない・見合った報酬が得られていない
「頑張っているのに評価されない」「頑張っているのに成果が出ない」という声も多く聞かれます。「中小企業の人事評価の悩み・課題」に関するある調査によると、「現在の会社での自分の評価」について、約半数が「低い」と答えているそうです。頑張っているのに評価されず、重要な役割を任されないため、仕事にやりがいを持てていないのです。
また、成果を出しているにもかかわらず給与や賞与などに反映されていない場合も、意欲を失ってしまう要因となりがちです。
精神科医が教える「会社や仕事に行きたくない」気持ちの切り替え方
憂うつな状態を脱し、前向きになって会社や仕事に行きたいと思うなら、気持ちを上手に切り替えることが大切です。身体と心が健やかに保たれれば、ストレスが解消され、会社・仕事に行きたくないという気持ちが解消されることもあります。有効な方法をご紹介します。
睡眠不足を解消し、睡眠の質を高める
過度なストレスがかかっても、十分な睡眠をとっていれば軽減、解消できます。逆に、睡眠がとれない場合、ストレスや身体的な疲労を蓄積します。
忙しいときほどきちんと睡眠をとりましょう。最低6時間、なるべく7時間以上の睡眠時間を確保することをおすすめします。そして、睡眠の質を上げるために、「寝る前の2時間」は以下を心がけてください。
●ブルーライトを浴びない
スマホやPCから発せられるブルーライトを浴びると、脳が「今は昼だ」と誤認し、睡眠物質のメラトニンの分泌を抑制します。寝る2時間前にはスマホやPC画面を見るのをやめましょう。
●寝る前の飲酒・食事を避ける
飲酒は寝付くまでの時間を若干短縮しますが、トータルの睡眠時間も短縮させてしまいます。また、寝る前2時間以内の食事も睡眠の質を低下させます。疲労を回復させる「成長ホルモン」が出なくなるためです。
●興奮系の娯楽を避ける
ゲーム・映画・ドラマ・漫画・小説などで興奮物質アドレナリンが分泌されると、心拍数や血圧が上がり興奮状態となります。睡眠のためには「リラックス」が必要なので、これらは避けてください。
●正しい入浴をする
寝る前90分までに入浴を終えましょう。深い睡眠に入るためには、「体の深部体温が下がる」ことが必須。風呂から上がると体温が徐々に低下し、90分経つと深部体温が下がった状態となります。入浴の水温は40度、湯船に入る時間は15分が目安です。
●日中に体を動かす
1日20分程度の運動(早歩きも可)で睡眠の質が劇的に改善します。45~60分以上の中強度の運動を週2回以上行うと、さらに効果的です。
●照明と室温を整える
寝室の照明は、白熱電球またはLED電球の「電球色」がおすすめです。寝るときは「真っ暗」な環境で眠ると、最も睡眠の質が良くなります。薄いカーテンも外の光が入るのでNGです。また、快適に眠るための室温は、夏は25~26度、冬は18~19度が最適です。
「朝散歩」でセロトニンを活性化
朝起きてから1時間以内に5~15分、早足でリズムよく散歩をします。「朝散歩」には「セロトニンの活性化」の効果があります。
セロトニンは、覚醒、気分、意欲と関連した脳内物質。「脳の指揮者」とも言われ、セロトニンが整うと、ドーパミンやノルアドレナリンなど他の脳内物質も整い、感情がコントロールされます。
セロトニンが活性化すると、清々しい気分となり、意欲がアップし、集中力の高い仕事ができます。このセロトニンは、「朝日を浴びる」「リズム運動」「咀嚼」によって活性化します。朝の散歩は、このうち2つを兼ねているのです。このほか、朝散歩には「体内時計のリセット」「ビタミンD」の生成といった健康増進効果もあります。
「毎日」「15分」はハードルが高いという人は、まずは週1~2回、「5分」からスタートしてみるといいでしょう。最初は散歩ではなく「ひなたぼっこ」でも構いません。ベランダなど日が当たる場所で朝食をとるなども効果が期待できます。
「20分ウォーキング」などの運動を行う
運動には、先ほども挙げた「セロトニンの分泌の活性化」のほか、「睡眠の質の改善」「ストレスホルモンの低下」「脳の神経を成長させる物質(BDNF)の分泌」など、様々な効果があります。
運動はメンタル疾患の治療法としてもとしても注目されており、「週150分以上の有酸素運動で、薬物療法と同程度かそれ以上の効果がある」といわれています。
1日最低20分のウォーキング、加えて週2~3回・45分~60分の軽いジョギング(やや強度が高い運動)。エアロバイク、エアロビクス、ヨガなどもいいでしょう。有酸素運動の前に筋トレを行うとさらに効果的です。
なお、睡眠の質と運動時間の関係を調べた実験では、朝の運動が最も睡眠を深めることがわかりました。つまり、先ほど挙げた「朝散歩」は、最強の運動法ということです。なお、朝の次におすすめの時間帯は、1日の中で代謝が最も活発になる「夕方16時前後」です。
同僚や友人に相談してみる
悩みを一人で抱え込まず、信頼できる同僚や友人に相談してみるといいでしょう。「相談したところで、自分が抱えている問題は解決できない」と言う人も多いのですが、「人に話す」だけでも9割のストレスが解消されます。
対話の相手は、とりあえず1人いればいいのですが、3パターンいると理想的ですね。職場の同僚、学生時代の友人、家族など。「この話はこの人には言えない」ということもありますので、異なる立場の3人の対話できる相手を持っておくといいでしょう。
仕事の後の楽しみを作る
仕事が終わった後に、楽しみな予定を入れてみましょう。「カフェに寄る」「友人と食事」「ショッピング」「映画鑑賞」など、何でもかまいません。「この後に楽しみがある」と思えば、1日を乗り切る気力を保てることもあります。
上司に異動願い・仕事内容の変更を相談する
今の仕事が自分に合っていないと思うことがストレスになっているとしたら、上司や人事に部署異動・職種転換を申し出てみる方法もあります。業務や役割負担が重すぎると感じている場合は、仕事内容の変更や軽減を相談してみましょう。
規則正しい生活をする
生活のリズムが乱れたままでは、心身の不調につながります。例えば、ストレスを紛らわせるために、深夜までスマホで動画を見る、ゲームをするなどで睡眠不足になり、朝起きるのがつらいといった状況に陥っていないでしょうか。早い時間に入浴し、睡眠の質を高めれば、朝の目覚めが良くなり、仕事に出かける意欲が高まるかもしれません。
長期休暇をとる
思いきって長期休暇を取得し、リフレッシュの期間を設けるのも有効です。仕事や職場環境から一定期間離れることで冷静な思考を取り戻し、今後、自分はどう働いていきたいかを整理してみてはいかがでしょうか。
ここまで、気持ちの切り替え方をご紹介しましたが、ストレスの要因によっては、自分の意識・行動を変えるだけではどうにもできないこともあります。特に「人間関係」や「人事評価」などへの悩みを抱えている場合は、次に紹介する対処法を試してみてください。
少し視点を変えるだけで改善できることもあります。
人間関係で会社・仕事に行きたくない場合、どうすれば改善できる?
人間関係の問題は多岐にわたりますが、ストレスを抱えやすい人に多い特徴として、「皆と仲良くしなければならないと思っている」傾向があります。職場にはいろいろなタイプの人がいるので、すべての人と仲良くするのは不可能だと言っていいでしょう。
自分の周りに10人いた場合、自分を嫌っている人は必ず1人はいる。自分を好きで味方になってくれる人は2人いる。あとの7人はどちらでもない。私はこれを「好意の1対2対7の法則」と表現しています。
例えば20~30人の職場であれば、あなたを嫌う人が3人いたとしても気にすることはありません。「人間関係がうまくいかない」なんて、誰にでも当てはまること。逆に言えば、あなたを嫌う人の2倍は好意を持ってくれる人がいるのです。
「職場の人間関係」は、一時的で一過性の人間関係です。あなたの人生において、さほど重要ではありません。職場にあなたの悪口を言ったり、常にマウンティングしてきたりする人がいたとしても、家にまでついて来ることはありません。自宅に帰ってからも「今日、あんなこと言われた」と思い出して悩むのは、自分の中で仮想の「攻撃星人」を作り出し、招き入れているようなものなのです。
最も重要な人間関係は、家族や恋人、パートナー。次に友人です。その人たちと過ごす時間を楽しみましょう。大切な人とリラックスした時間を過ごせれば、ストレスのほとんどは解消できます。
とはいえ、会社に行けば、攻撃星人はやはり気になる存在ですよね。攻撃星人に対する最も効果的な対処法は、「ありがとう」と言うこと、そして親切にすることです。攻撃星人は愉快犯ですから、相手が怒ったり反論したりするほど喜び、さらに攻撃を強めます。
だから、あなたは満面の笑みで「ありがとう」と言ってください。さらにできるだけ「相手のためにできること」「相手のためになる親切」をしてください。親切にする人・される人、両方に愛情物質の「オキシトシン」が分泌されます。相手の中であなたへの好意度が高まり、攻撃することができなくなります。
「頑張っているのに評価されない」は、どう改善する?
頑張っているのに評価されない、成果が挙がらないことで、意欲を失ってしまう人もいます。そんなあなたは、こんな視点を持ってみてください。
「自分の頑張りと、上司が自分に求めている頑張りは違うんじゃないか?」
わかりやすい例を挙げてみましょう。Aさんは3日間残業して、100ページにわたるプレゼン資料をまとめ上げました。一方、Bさんは1日で、ぱっと見て要点が伝わる5ページのプレゼン資料を仕上げました。Aさんは、「自分は頑張った」と思っているし、作成した資料にも自信を持っている。しかし、望まれているのはBさんの成果物です。
ストレスを溜めやすい人の多くは「努力と根性の人」。一方で、頑張って無駄な仕事をしてしまっていることもあります。そのような傾向がある人は、ビジネス書などで仕事のスキルを学ぶとよいと思います。
仕事の勉強には2種類あります。一つは、会社で今担当している仕事に関する勉強。もう一つが、基本的・普遍的なビジネススキルの勉強。例えば、スケジュール管理・時間活用・読書術・集中力を高める方法などです。
スポーツに例えるなら、前者の勉強が「練習試合」だとすると、後者の勉強は「筋トレ」。筋トレをしっかりやらなければ、いくら練習試合をしても意味がありません。効率的に仕事をして成果を挙げる方法はありますので、勉強してみることをおすすめします。
それでも「会社に行きたくない」状態が続いたら?
「会社に行きたくない」がエスカレートして、「病院に行くべきか?」と迷った場合は、以下の項目をチェックしてみてください。
□ 1週間前と比べて症状が悪化している
□ 睡眠が悪化している(睡眠の質または睡眠時間)
□ 一生の中で「今」が一番調子悪い
□ 会社に行けない(実際に何日か休んでいる)
2項目以上当てはまった人は、精神科を受診することをおすすめします。
調子を崩してからの期間が1カ月であれば、1カ月で治癒します。しかし、「会社に行きたくない」のは甘えだと思い込んでしまい、様子をみるうちに不調期間が半年~1年に及ぶと、治るのにも半年~1年かかってしまうものです。迷ったら、すぐにでも受診しましょう。
精神科医、作家、映画評論家 樺沢紫苑(かばさわ しおん)氏
1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。札幌医大神経精神医学講座に入局。大学病院、総合病院、単科精神病院など北海道内の8病院に勤務する。2004年から米国シカゴのイリノイ大学にてうつ病、自殺について研究。帰国後、東京にて樺沢心理学研究所を設立。 精神医学の知識、情報の普及によるメンタル疾患の予防を目的に、YouTube、Facebook、メールマガジン、Twitterなどを通じて累計約100万人に、精神医学、心理学、脳科学の知識、情報をわかりやすく発信している。著書に『アウトプット大全』(サンクチュアリ出版)など。著作50冊目となった近著は『19歳までに手にいれる7つの武器』(幻冬舎)がある。
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