仕事、キャリア、お金…など、明確な不満があるわけではないけれど、何となく将来に不安を感じる人がいるようです。この「漠然とした不安」を探るため、20代のキャリアの悩みと向き合い方のヒントを人事歴20年超で心理学にも明るい曽和利光さんが解説します。

20代に多いキャリアの不安・悩みとは?解消法と合わせて紹介
「この仕事は自分に合っているのだろうか」「やりたいことができているのだろうか」など、モヤモヤを抱えがちな20代。将来の可能性、選択肢が広がっている一方で、自分の得意・不得意が見極められていない成長途上の段階だからこそ、迷いが深まってしまいます。20代に多いキャリアの不安や悩みについて、解消法と合わせて紹介します。
今の仕事が自分に向いているかわからない
ビジネスパーソンなら誰もが一度や二度ぶつかる悩みの一つが「今の仕事は自分に向いていないのではないか」というものです。
まずは、その“フィット感のなさ”はどこからやってきているのかを整理していきましょう。例えば、能力的には合っているのに「一緒に働く仲間と合わない」ことが原因で、向いていないと思っているのだとしたら、仕事を変えてしまうのは勿体ない選択です。大きな組織であれば、定期的な人事異動で、相性の合う人と一緒に働ける可能性も十分あるからです。
能力的に合っていない・向いていないと思う場合も、20代は成長段階の能力開発が必要な時期だから、とも考えられます。20代で能力的にできない仕事が多いのは当たり前です。できていない仕事だからこそ、挑戦してスキルを身に着けることで能力の幅が広がっていくこともあります。
会社側が、向いていない仕事だからこそ、20代のうちに任せてキャリアの可能性を広げたい、次世代リーダーになってもらうために経験を積ませたい、と考えている可能性もあるでしょう。
向いていないと思う理由が自分なりに見えてきたら、上司や人事に「何を期待されて、今の業務を任されているのか」など、会社側の意図を確認するといいと思います。
自分がやりたい仕事ができていない
そもそも「この仕事がやりたい!」と明確な意見を持っている人のほうが少数派ではないでしょうか。
ある仕事に就くことが子どもの頃からの夢で、そのために勉強を続け大学の学部も選んだ…という人ならば、やりたいことができていない状況は苦しいでしょう。仕事への意欲が削がれている点で、人材活用の面でも大きな損失です。
しかしこのように、やりたいことに対して“根っこの生えた強い動機”を持っている人は、私の肌感覚で1~2割程度です。なんとなく「この仕事がやりたい」と思っていながら、その根拠を探っていくと具体的な原体験がない、という人は少なくありません。
あるいは、就職活動を通じて「やりたいことは何ですか」とあまりにも聞かれるので、答えを用意して言葉にしているうちに思い込むようになった、という側面もあると思います。
「やりたい仕事ができていない」と思ったときには、そもそも「やりたい仕事」とはどれほど根っこの生えた揺るぎないものなのかを、「きっかけ」「意見」「行動」の3点から確認していきましょう。
一つは、やりたい!と思うに値する強いきっかけがあったかどうか。「この人の影響を受けた」「こんな出来事があった」「こんな環境で生まれ育った」など、人生を振り返って考えてみましょう。
2つ目は、その仕事に対する意見を持っているかどうかです。マーケティングの仕事がやりたいのなら、自社や競合他社のマーケティング戦略をどう見ているのか、自分が担当になったら何をやりたいのかなど、具体的な意見を持っているのか自問していきます。
3つ目は、やりたい仕事を実現するために、どんな行動をとってきたか、です。資格の勉強をしてきた、外部セミナーに参加してきた、その仕事に就いている人とネットワークを作って相談や質問をしてきたなど、思いに行動が伴っているかどうかを、これまでの行動から振り返っていきましょう。
「やりたい」という気持ちの本気度が見えてくる人も、そこまで深い思いがなかったことに気付く人もいるでしょう。後者の場合は、むしろ視野が広がるチャンスです。
人材配置を考える会社は、その人の経歴や実績、面接などから、個々の能力がもっとも発揮されるであろう仕事を任せるものです。本人がやりたい仕事かどうかまでマッチできなかったとしても、向いている、あるいは能力的にできる仕事の可能性が高く、何らかの合理的な理由があるはずです。
そう前向きに捉え、「きっと理由があるのだからやってみよう」と目の前の仕事に対してオープンマインドになってみては?求められることを続けていくうちに、貢献欲求が満たされ、仕事を好きになっていくかもしれません。
将来、市場価値が高い仕事をしたいがどうしたらいいか
「市場価値が高い」状態は、供給に対して需要が高まることで生まれます。そこを目指す上で私がおすすめする方法は3つです。
一つは、登れば市場価値が高まることが明確な“高い山”、つまり競争相手の多い大企業で上に向かって登っていく方法です。ここで必要なのは、やり切る力。高い山は登るのに時間がかかります。ライバルが多い中、粛々とやるべきことを続ける胆力が求められるでしょう。
また、自分を見出し引っ張り上げてくれる人への対人影響力も重要です。誰がキーパーソンかを見極める社内政治力は欠かせません。
2つ目は、高くなりそうな成長中の山を先に登る方法です。今は小さくても成長している山(企業)を見つけることができれば、気づいたときには自分の市場価値も上がっています。ただ、どこが成長するのかを見極める先見性とリスクを受け入れる覚悟が必要です。周りから反対されることがあっても、この山を登っていくんだ!と行動を続ける意思の強さが求められます。
3つ目は、複数の山を登り希少価値を高める方法です。例えば、システムエンジニアの実績がありながら、人事経験も持ち、社労士の資格を取得している、といったように、複数の強みを持つことで希少性を高め、市場価値を高めることができます。ここで必要なのは学習能力です。専門外の分野にも興味を持ち、探究していく力がなければ複数の強みを持つことはできません。
自分の性格特性を見極めながら、どのやり方が向いていそうか考えてみてはいかがでしょうか。
年収や待遇が上がらない
年収や待遇には、業界によって異なる報酬水準が大きく影響しています。利益率の高さにほぼ比例しているので、まずは自分のいる業界のビジネスモデルや利益率、そこからわかる報酬水準が、ほかの業界と比べて高いのか低いのかを調べてみましょう。
もし報酬水準が低い業界にいるのなら、「年収が上がらなくても、今の仕事を続けていきたい」のかどうかを自問していきましょう。仕事へのこだわりがなく年収への不満が大きいのであれば、報酬水準が高い業界への転職を検討するのも一つです。20代であれば異業種転職の選択肢も多いはずです。
一方で、業界水準に関係なく、年収や待遇への不満が高まるタイミングとして最も多いのが、「上のポジションに上がる直前」です。会社側が「あの人をそろそろ昇格させたい」と思っているタイミングだからこそ、任される業務範囲、できる仕事が広がっています。
「こんなに頑張っているのに、なぜ昇給・昇進がないのか」と本人の不満が高まるのも自然なことです。仮にそのタイミングで転職をしてしまうと、せっかく目の前にあったチャンスを逃すことになってしまいます。いずれ転職する道を選択したとしても、ポジションが上がったあとに動けば、マネジメントポジションでの応募が可能になり、その後のキャリアの広がりや待遇も変わってきます。
今の状況に不満を抱えているのなら、素直に「私はなぜ課長になれないのでしょうか。会社はどう評価しているのでしょうか」と上司に聞いてみるのもいいでしょう。
自分のスキルなどの適性に合った仕事が知りたい
「今の仕事が自分のスキルに見合っているのか」と悩みを抱えているのなら、他者からのフィードバックをできるだけ多く集めに行きましょう。
自分が思う強みや弱みを、周りが同じように捉えているとは限りません。自分では強みとも認識していない、自然にできている行動だったとしても、相手が求めているものと合致すればその特徴は強みになります。
上司や先輩、同僚など、普段の仕事ぶりをよく知っている人に「私にはどんな仕事が向いていますか」と聞いていくと、自分では気づかなかった強みを教えてくれるかもしれません。多くのフィードバックから得られた強みや得意なことと、仕事で必要な要素を紐づけて考えることで、適性に合った仕事が何かが見えてきます。
職場の人間関係がうまくいっていない
どんな環境でも生じるのが、人間関係の悩みです。人間関係のストレスを減らすために、配属前にできることとして、自分の性格特性を人事に伝えておく、というやり方があります。最新のタレントマネジメントでは、性格の最適化が生産性を向上させるという考え方が一般的になりつつあります。
どんな上司のもとに部下を配置するかが組織成長の重要な要素になるため、「丁寧に教えてくれる上司がいい」「自由に任せてくれるマネジメントのほうが力を発揮しやすい」などと発信することも大切になっていくでしょう。
一方、すでに現在の職場において人間関係がうまくいっていない場合、できることは「自己開示」しかありません。
人間関係がこじれる原因の多くは「誤解」から生まれます。人は自分の性格をベースに相手の行動を解釈するためです。例えば、感情表現が豊かな性格の部下と、控えめな性格の上司がいた場合、部下は「あんなに無表情で冷たい態度をとるなんて、自分のことを嫌っているに違いない」と思い込み、上司の行動をどんどんネガティブに捉えるようになります。こうしてますます関係がぎくしゃくしていく事象は、あらゆる組織で起こっています。
そこでできることは、相手の性格特性や価値観を知ることです。相手が話してくれるのを待つのではなく、自ら自己開示をしてどんな人間であるかを伝えていくと、相手もそれに合わせてオープンになっていき、相互理解が深まっていきます。
「上司はこういう愛情表現をする人なんだ」と理解できれば、同じ態度や行動を取られても過剰にネガティブに捉えることがなくなり、受け止められるようになります。

20代で将来のキャリアに悩んだら、誰に相談する?
将来のキャリアに対して、漠然とした不安感を抱いたときには、誰にどんなことを相談すればいいのでしょうか。
上司や人事に相談する
上司は、育成や評価の責任者です。仕事上、普段の業務態度や取り組みをしっかり見ている立場なので、ポジティブなフィードバックもネガティブなフィードバックも的確に伝えてくれるはずです。
会社として自分をどう評価しているのかを知りたいときや、異動の可能性を知りたいときなどは、人事に相談するのもいいでしょう。
相談する際に気を付けたいことは、今の仕事に対するネガティブな思いはできるだけ言わないことです。例えば「今の営業職は向いていないし、好きになれないのでマーケティングの仕事に挑戦したい」と言う部下がいたとしたら、上司や人事はどう考えるか。「目の前の仕事に自分なりの意義を見出せないのなら、どの仕事をやっても同じなのではないか」と思うのが自然でしょう。
逆に、「今の仕事のこんなところが面白くて、勉強になります!」と言う部下に対しては、「マーケティングを任せてみたら、もっと頑張ってくれるかもしれない」と期待感が高まり、異動の機会を見つけようと動いてくれるかもしれません。
転職エージェントのキャリアアドバイザーに相談する
評価者ではない第三者として、キャリアアドバイザーに相談するのも一つの方法です。
キャリアアドバイザーは、転職市場を知るプロです。あなたの経歴や実績に対して、どんな業界・企業のどんなポジション・職種の選択肢があるのかを提示してくれるので、現時点での自分の市場価値がどれくらいなのかを把握できるでしょう。
“ナナメ上”の友人、先輩に相談する
同世代の友人に相談するのもいいですが、関係を壊したくないために、ネガティブフィードバックを素直に言ってくれる可能性は低くなります。そこでおすすめなのが、ナナメ上の先輩や元上司などに相談すること。自分のことをよく知っていて、歯に衣着せぬ意見もズバッと言ってくれる存在は、今後も貴重なアドバイザーになります。
20代のキャリアを考える上で、大事にしてほしいのは自己投資
20代のビジネスパーソンが持つ、もっとも貴重なものは、若い”頭“です。
暗記力、計算能力、空間把握能力などあらゆる脳の機能は、20代をピークに衰えていくもの。これは誰もあらがえないものです。
だからこそ、20代のうちにやるべきことは自分への投資だと私は考えます。資格の勉強をする、大学院に行って学び直す、社外の人的ネットワークを広げるなど、どんな形でもいいので自己の能力開発に投資していけば、撒いた種は30代、40代で花開いていきます。
自己認知を深め、自分に足りないものは何か、得るべきもののために自分をどんな環境に置くべきかを考え行動していく20代の積み重ねは、これから先の長いキャリアの中で、圧倒的な差となって出てくるはずです。
曽和利光さん
1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)など著書多数。新刊『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』(WAVE出版)、『シン報連相~一流企業で学んだ、地味だけど世界一簡単な「人を動かす力」』(クロスメディア・パブリッシング)も話題に。
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