大河ドラマ「青天を衝け」に学ぶ、先の見えない時代を生き抜く行動と考え方

大河ドラマ『青天を衝け』は、幕末から明治、大正、昭和を生きた実業家・渋沢栄一の生涯を描くドラマ。250年続いた江戸時代が終わる幕末の閉塞感、不安感を打ち破っていく渋沢栄一の行動は、新型コロナウイルスの感染拡大やテクノロジーの急速な進化によって、予測不可能な時代に立ち向かう現代社会にも希望を与えます。そこで今回は、業務改善や組織変革のスペシャリスト、沢渡あまねさんに『青天を衝け』のドラマシーンにヒントに、先行きの見えない不確実な時代を生き抜くために必要な行動や考え方を語っていただきました。

大河ドラマ「青天を衝け」イメージ画像

あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん

沢渡あまねさん業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。株式会社なないろのはな 浜松ワークスタイルLab所長、株式会社NOKIOO顧問ほか。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり、#ダム際ワーキング()。著書『ここはウォーターフォール市、アジャイル町()』『職場の問題地図()』『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』『職場の科学 日本マイクロソフト働き方改革推進チーム×業務改善士が読み解く「成果が上がる働き方」()』『はじめてのkintone~現場のための業務ハック入門()』など多数。

【1】時代が変わるとき、自分の仕事をどう定義し直す?

養蚕と藍玉づくりを営む農家に生まれた渋沢栄一(吉沢亮)は、年長のいとこ・新五郎(田辺誠一)に剣の稽古をつけてもらいます。剣術の腕を上げる栄一。その栄一に新五郎はこう言います。

剣の稽古イメージ画像

いとこ・新五郎:「水戸さん(水戸藩主)は、泰平の世はすでに終わったと仰せだ。これからは百姓であっても、剣の心得は欠かせない」(2話より)

時代が大きく変わるとき、それまでの常識で自分の仕事を定義していては、生き残れなくなる可能性があります。自分の仕事をどう定義し直し、新しく意義を付け直せばよいでしょうか?また、そのとき何を参考にすればいいのでしょうか。

時代に応じて自分の仕事を定義し直そう

沢渡あまねさんこの新五郎の言葉は、現代では次のように置き換えることができます。このように「自分の仕事のその先にある目的は何か」を考えると、学ぶべきことや今後の行動が変わってくるのです。

これからは営業であっても、マーケティングの知識は欠かせない
これからは経理であっても、顧客理解は欠かせない
これからは飲食業であっても、ITの理解は欠かせない

例えば営業職の場合、コロナ禍では対面営業がなかなかできず、苦戦している方が多いことと思います。そこで対面営業にこだわらず、マーケティングの考え方を取り入れてインサイドセールス(内勤営業)を行ったり、商品のファン同士をつなぐコミュニティ・アクセラレーター(コミュニティを通じて関わる人たちの背中を押す人)という新たな顧客の作り方を試している方もいます。

時代の変化に応じた新しい挑戦をすることで、営業の本来価値をアップデートでき、果敢に挑戦することで、個人も組織も成長することができます。以下の3つのポイントで、仕事を見つめ直してみましょう。

●仕事を見つめ直す3つのポイント

1. 仕事の目的を時代の環境に合わせて問いただそう
2. 自分の仕事に「職種」以外の名前をつけよう
3. 社外のやり方を知ろう

「あなたの仕事はなんですか?」と聞かれて、「総務」「銀行員」など職種名や所属する業界について答えていませんか。ひと言で「総務」といっても情報システムを整備していたり、社内報を作っていたりと業務内容は様々です。

職種や部署にとらわれずに自分の仕事を分解し、「自分は何ができる人なのか」「一般的に自分の仕事はどう言われているのだろう」と客観的に整理し、「社内システムで困っている人を助ける仕事」などと定義し直すことで、自分の役割や強みなども見えてきます。

オンラインコミュニティやオンライン勉強会、職種・仕事単位のカンファレンスなどに積極的に参加し、情報を仕入れて時代遅れになっていないか見直すことも効果的です。社外ではどのような役割と定義されているか知ることも、ひとつのきっかけになります。

仕入れた情報を踏まえて、新しい職種名をつけることで、新たなキャリアパスや育成プランができ、新しい仕事が生まれます。特にこれからは、あらゆる仕事にITを取り入れた最新のやり方にアップデートすることで、高利益を生む仕事へと進化できるはずです。

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【2】時代の変化に合わせて求められる人材になるには?

時代の変化により、それまで注目を浴びていなかった人物が、急にスターになることもあります。その変化に乗じて、人生を変えるためにどのような準備や鍛錬をしておけばよいのでしょうか?

嘉永6年(1853年)、ペリーの黒船来航により社会情勢が変わり、徳川斉昭や高島秋帆など、それまで幕府の中心から遠ざけられていた人物が時代の変化によって急に役職に取り立てられました。

黒船来航イメージ画像

保守派の陰謀で長年幽閉されてきたが、黒船来航にともなう社会情勢の変化によって釈放された高島秋帆と、藩政改革を断行したことで既存勢力の反感を買い、江戸藩邸に謹慎に追い込まれたが、黒船来航に対し、「海防愚存」という建議を提出。大砲74門を幕府に献上し、江戸庶民の人気を博した徳川斉昭。(3話より)

これまでの経験を「部品化」しよう

沢渡あまねさん時代の波をうまく捉えて、変化するために必要なことはただ一つ。これまでの経験を「部品化」し、”取り出し可能”にしておくことです。例えば、経理職の人が自分のキャリアを説明するなら「10年間経理をしてきました」ではなく、「連結決算が得意です」「会計システムを導入する際の要件定義が得意です」といったように、自分の強みを業務レベルまで細分化してみるのがおすすめです。

過去のキャリアでも構いません。いまは営業だという方の中にも、デジタルマーケティングの経験がある方がいるかもしれません。これまでの仕事では活かせていなかったそのスキルが、転職活動で「デジタルマーケティングの経験があるの? ちょうど探していたんだよね!」と役に立つときがくることもあるはずです。

予測が難しいVUCA (※)の時代によくあるのは「営業の経験も、デジタルマーケティングの経験もどちらもあるの? 両方の経験がある人を探していたよ!」と多層的なキャリアを認められることです。ひとつたりとも無駄な経験はありません。

※VUCAとは、Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguityの頭文字をつなぎ合わせた造語で「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」を意味する

これまで一貫して同じ仕事をしてきた人も、どんな仕事をしてきたのか部品化することに大きな意味があります。一緒に仕事をする人が、あなたのスキルや経験をうまく活かせる方法を考え、社内で新しい事業を取り組み、新たなコラボレーションを生み出すときのヒントになるかもしれないからです。

長年同じ環境にずっといると、自分の仕事を言語化する必要がなくなってきます。それこそがVUCAの時代における大きなリスクです。この新年度にキャリアの棚卸しをしてみてはいかがですか?

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【3】未知の仕事に取り組むときに必要なマインドセット

虫の被害で畑の藍が全滅してしまった栄一は、仕方なく近隣の村に藍を買い付けに行きます。そのとき、自分の持つ藍の知識を総動員して村民を教育し、ハッタリもかましながら、藍を買い付けることに成功しました。

農家のイメージ画像

栄一:「1両あれば、来年はしめ糠を十斗買えるってことだでな。それだけあれば、来年はもっといい藍が倍以上採れるってことだでな。それを絶対うちに売ってくれるよな!」(3話より)

ピンチのときも、肝を据えて乗り越えた栄一。また、「これは肥料がよくない」「茎の切り方がよくない」「下葉が枯れている」など、藍の鑑定家として名高い父親の真似をして指摘。農民たちに知識をさずけ、期待をかけることで交渉を成立させ、今後の信頼とビジネスチャンスも得ることができました。

時代が変わるということは、未経験の連続。そうした場面に臨むとき、どのようなマインドセットと行動でキャリアを切り拓けばよいでしょうか。

仕事をビジョニングし、期待役割を明確にしよう

沢渡あまねさんこのときの栄一は、未知の仕事をする上で重要な2つのステップを乗り越えています。1つ目は自分のビジョンや知見、仕事に対する思いを明確にし、力強く周囲に伝えていること。 藍をなぜ買いたいのか、藍を使ってどうしたいのかを訴えることで、共感者を増やしています。

これまで経験のない仕事、すなわち不確実性の高い業務をたった1人で完遂するのは限界があります。理想や問題、課題を正しく言語化し、発信してありたい姿や叶えたいことに「この指止まれ」と共感してくれる仲間を見つけにいく。これこそが「ビジョニング」です。ビジョンを持って、多くのメンバーを巻き込み、引っ張っていくリーダーシップがこれから先ますます求められるでしょう。

問題・課題の共感者を得ることによって、得意領域が異なる人同士を同じ方向に動機づけすることは十分可能です。

「ビジョニング」で目指す方向を共有した栄一は、2つ目のステップとして互いの期待役割を明確にし合いました。「期待役割」とは、自分がプロジェクトにおいて果たす役割を明確にすることです。このシーンの場合、栄一は継続的に藍を買い付けることを表明し「農民に投資する、農民のスポンサーになる」という期待役割を果たすことを宣言しました。

一方、農民たちは栄一に「良い藍を育てる方法を教え、正しく導いてほしい」という期待役割を求めました。

社内外の異なる能力の人たちとコラボレーションしてプロジェクトに取り組む時代、同じゴールを目指してメンバーを引っ張っていくためには、相互に期待役割を表明し、互いに正しく期待し合うことが重要です。そうれなければ、見ている景色やスキル、経験の違う人達と仕事をする際、うまく仕事が進まず空中分解してしまいます。

「自分はこのプロジェクトでどのような貢献ができるのか?」と期待役割を明確にする。その互いの期待役割を理解し合うことによって、多様性のあるチームが同じゴールに向かって進んでいくことができるでしょう。

4月のタイミングで、チームメンバー全員で「期待役割」の共有をしてみてはいかがでしょうか。

<番組情報>

『青天を衝け』(NHK総合 日曜20時/BSプレミアム 日曜18時/BS4K日曜9時 再放送 NHK総合 土曜13時5分/BS4K 土曜8時)

主人公は“近代日本経済の父”渋沢栄一。農家に生まれた栄一は、幕末に尊王攘夷運動に傾倒するも、徳川慶喜との出会いで人生が転換。やがて日本の近代化に向けて奔走していく大河ドラマ。作/大森美香、音楽/佐藤直紀。出演は吉沢亮、小林薫、和久井映見、田辺誠一、満島真之介、橋本愛、玉木宏、竹中直人、草なぎ剛(※なぎは弓へんに剪)ほか

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WRITING:石川香苗子
新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。
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