DX推進でどう変化する?建設業界の仕事・働き方

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進により、あらゆる業界・企業において仕事や働き方が変化しています。中でも長時間労働、人材不足、アナログな現場環境などさまざまな労働課題が山積していた建設業界が、DX化により大きく変わろうとしています。建設業界向け施工管理アプリ「ANDPAD(アンドパッド)」を手がけ、業界内の「不」の解消に尽力する株式会社アンドパッドの稲田武夫社長に、建設業界でのDX化の進展や働き方の変化などを伺いました。

株式会社アンドパッド 代表取締役社長 稲田武夫氏写真

株式会社アンドパッド 代表取締役社長 稲田武夫氏

2008年に慶應義塾大学経済学部卒業後、リクルートにて人事・開発・新規事業開発に従事。2014年アンドパッド(旧:オクト)を設立し、建築現場のIT化に尽力。2016年にサービス開始した建築・ 建設現場の施工管理アプリ「ANDPAD」は、2020年12月現在で60,000社、17万人が利用する。

繁雑な業務、労働力不足─生産性が低い業界にこそDXが急務

──アンドパッドの創業は2014年とのこと。当時稲田社長が感じていた、建設業界が抱える課題を教えてください。

稲田:国内の建設業界の市場規模は約50兆円(※国土交通省「建設投資見通し」より)と大きな産業ですが、他の産業に比べると労働生産性が低いと言われています。そして、労働力不足も深刻です。20代の職人は全体の10%前後であるうえ新規入職者も少なく、50代以上が現場を支えている状態。このままでは高年齢層の離職分を若手で穴埋めすることができず、労働力減少の一途をたどるのは確実です。

大工人数の実績と予測結果
出典:実績値は総務省「国勢調査」、予測値は野村総合研究所

だからこそ、IT化で効率化できる余地も大きいと言えます。建設現場では人の手を必要とする繁雑な業務が非常に多く、本来の業務に集中しづらい現状があります。人が足りなくなれば、その分煩雑な業務も増えることになる。それをITに置き換えることで、現場で働く人には「プロの仕事」に集中していただけるようになります。

──なぜ、「建設業界は生産性が低い」のでしょう?

稲田:さまざまな理由がありますが、そもそも建設現場での業務は非常にアナログです。情報はほぼすべて紙で管理されており、コミュニケーション手段は電話やFAXがメイン。例えば、現場監督は毎日早朝に現場に出向き、何十人もの関係者にFAXで進捗管理表を送っています。

そして、1つの現場にいくつもの企業、多くの人材が関わっているため、1社の努力では生産性を上げられないという点も課題です。

元請けが仕事を受け、その下請けとして複数の業者が入る。そして、現場ではたくさんの職人が働いています。例えばそのうちの1社がDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めたところで、現場に関わる全員がデジタル空間にいないことには本質的な生産性向上にはつながりにくいかと思います。

なお、当社が手掛ける施工管理アプリ「ANDPAD」は元請けから職人まで、一つの現場に関わっているすべての人を、「同じデジタル空間」に参加していただくサービスです。物件情報や最新の図面、工程表など現場情報を一元管理できるほか、全員が参加できるチャットなどの機能を備え、最新の情報を共有しながらコミュニケーションを取り、プロジェクト全体を管理することができます(※図1)。

図1_施工管理アプリで情報共有する「ANDPAD」画面
※図1:施工管理アプリを活用すれば、これまでのようなFAX・メール・紙などの共有がなくなり、バラバラだった現場の情報がまとまって確認が可能(画面は「ANDPAD」)

8,568通り、あなたはどのタイプ?

IT活用で現場負荷が大幅に減り、粗利益確保につながる

──施工管理アプリのようなITサービスを活用することで、建築現場はどのように変わるのでしょうか?

稲田:例えばANDPADの場合、小規模な工事を複数同時に稼働するケースに有効にご利用いただいております。まずは現場監督の業務負荷が大幅に軽減できます。建設現場で一番忙しいのは現場監督です。施工管理アプリなどを導入することで、アプリで進捗管理や工程表の共有ができるうえ、現場の職人への情報共有やコミュニケーションもチャットで簡単に行えます。それにより、現場に張り付かなければならない時間が減り、業務負荷を大幅に削減することができます。

それに伴い、一人の現場監督が担当できる現場件数を、無理なく増やすことも可能になります。転職市場において建築・土木系人材は売り手市場が続いていますが、中でも現場監督は需給がひっ迫しており、採用難が続いています。生産性を上げて、少ない人数でしっかりと売上・利益も出す構造に近づくことができます。

また、粗利益確保にもつながります。建築現場は想定外のトラブルにより工期が長引き、利益を圧迫します。変更が発生したら迅速に情報連携を取ることで、工事のやり直しなど手戻りが減少。コミュニケーションロスにより発生していた「職人が現場に行ったのに作業できず、そのまま帰る」といった無駄もなくなります(※図2)。

図2:チャット機能画面イメージ画像
※図2:工事内容に変更が発生した際に、一度の連絡で全員に伝えることができるチャット機能 (画面は「ANDPAD」)

──「ANDPAD」は現在、約60,000社、17万人に利用されているとのことですが、2016年のサービス開始時には、業界のDXに対する意識はまだまだ低かったと思います。

稲田:当時は、建設業界向けのITサービスはまだほとんどなく、ANDPADのような施工管理アプリもありませんでした。そもそも、スマホがBtoBで活用されるケースも、あまりなかったと思います。

建設業界は基本的には「請負業」なので、IT投資のような固定投資は短期的な利益圧迫要因になりかねないので非常にシビアです。もちろん、中長期的に見れば必要不可欠な投資であることは皆さん理解しているのですが、すぐには踏み切れないという企業が多かったですね。

また、当時は現場の職人は圧倒的にガラケー保有者が多く、「全員にスマホを持てとは言えない」と言われたケースも多々ありました。ただ、遅かれ早かれIT化は進めなければなりません。業界が抱える現状と課題を改めて伝え、「現場に関わる全員ではなく、半数からでもスタートすべきだ」お願いし続けました。

そこで決断してくださった企業に、効果を実感していただくことに成功。それが口コミで広がり、多くの企業に導入いただけるようになりました。

株式会社アンドパッド 代表取締役社長 稲田武夫氏写真

8,568通り、あなたはどのタイプ?

モノづくりの現場には、ITがフィットする

──建設業界におけるDX化は、今後どのように進んでいくと思われますか?

稲田:自社の未来に危機感を覚え、IT投資に踏み切る企業がどれだけ増えるか、にかかっていると思います。

国も建設業界のDX化には強い課題感を持っていて、支援を積極化しています。中小企業に対してはIT助成金や補助金などの制度も整備されているので、まずは少しでもIT投資を増やし、「ITにより業務がうまく回り、利益確保できる」という成功体験を得ていただけるようにサポートしていきたいと思っています。

建設DX市場規模グラフ
出典:富士キメラ総研「2020 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望」

それには、我々のようなIT事業者が、より本気で建設業界に向き合わねばなりません。中には「建設業界=ITリテラシーが低い」と安易に捉え、安価で低品質なシステムや、業界に合わないシステムをそのまま提供するケースもありますが、そのようなステレオタイプな発想では期待に応えることができません。アーリーアダプターのITリテラシーは非常に高く、我々IT業者には、彼らの期待を超えるサービスを提供し続ける姿勢が求められます。

現場の職人は、モノづくりのプロ。「いいものを建てたい」という思いが非常に強く、雑務よりも目の前のモノづくりに集中したいという真面目な人が多いのが特徴です。

その思考は、実はITと相性が良いのです。現場での仕事は泥臭さもありますが、皆さん「細部に宿る価値を共有してより良いモノづくりにつなげたい」という思いを持っていらっしゃる。それがITで実現できることをご理解いただければ、職人の皆さんにももっと前向きに活用いただけるようになると思っています。

なお、当社では年間1万人以上の職人さんに、スマホの使い方からレクチャーしています。導入サポート研修や電話での問い合わせ対応など、アナログなサポートも積極化しています。このような活動も含め、業界全体のDX化のボトムアップに尽力していきたいと思っています。

求められるのは、日本の課題解決に尽力したいIT人材

──これからの建設業界において、活躍できるIT人材の条件は何だと思われますか?

稲田:建設業界に関する知見や思い入れがあればすぐに活躍できると思いますが、そういう人はそう多くはないでしょう。ただ大前提として、自身がITで培ってきた経験や知識を、社会課題の解決に活用したいという思いは持っていてほしいと思います。

そして、建設業界のDX化は短期的にできるものではなく、我々の取り組みはこれからも長く続きます。「この課題に長く・深く向き合う」という覚悟も重要です。

ただ、このチャレンジは、人生をかけてもいいレベルの重要なミッションです。日本において最も生産性を上げるべき業界のDX化を、現場の最前線で担う。そして日本のモノづくりを支える。皆に誇れる、やりがいのある仕事だと思います。

転職ならリクナビNEXT

WRITING:伊藤理子 EDIT:馬場美由紀 PHOTO:平山諭
PC_goodpoint_banner2

Pagetop