『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。
『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「恩を売る。それで立場が強くなる。モノが言える。主導権を握れる」
(『マネーの拳』第5巻 Round.42より)
地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。
その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。
自分を裏切った相手でも、あえて助ける
Tシャツ専門店をオープンしたものの、ライバルとの出店競争や資金難に悩まされる花岡。そこへ、耳寄りな話が舞い込みます。生地卸問屋の田島から「医療用に開発し、ボツになった布がある。これをTシャツ用に加工してはどうか」という提案を受けたのです。技術者の八重子と相談した上で、花岡はこの企画に賭けることにしました。
しかし、これを知ったライバルの井川が動きます。井川は、倍以上の値段で田島との間に売買契約を結びます。まんまと生地を横取りした井川は、それを中国の工場に持ち込み商品化。花岡と井川の出店競争は、完全に井川の勝利に終わったかに見えました。しかし、井川のお店がオープンして数日経つと、例のTシャツを購入した顧客から「洗ったら糸がほつれてしまった」というクレームが相次ぎます。
実は医療用の布は、高度な技術を必要とする扱いの難しい素材だったのです。手に余った井川は、残った布を一方的に田島に返品。八方塞がりになった田島は、再び花岡に頭を下げるしかありません。ところが、そんな田島に対して「すべてを水に流そう」と告げる花岡。こうして、布を取り戻すとともに、相手の心をも手に入れたのでした。
目先の利益よりも、長期的な利益を取る
卸問屋の田島にしてみれば、少しでも高く買ってくれる方に商品を卸したいのは当然でしょう。約束を反故にされた花岡の部下たちは、その後、布を返品されて窮地に陥った田島を見て、ここぞとばかりに「安値で買い叩こう」と花岡に意見します。しかし花岡は、そんな小さな復讐心を満たすよりも、長期的な利益を取ることを選んだのです。
花岡は、「これは他人に恩を売る絶好の機会だ」と見て、あえて田島の仕打ちを水に流しました。この対処ができるのは、ビジネスパーソンの中でもかなりの上級者だけでしょう。そもそも、他人に恩を売るためには、相手が何に困っているのかに気づき、それに対して自分が助け舟を出せるようにならなければなりません。
もしかすると「会社から仕事を与えられているサラリーマンは、わざわざ恩を売ったりする必要はない」と思われる人もいるかもしれません。しかし、実際はサラリーマンこそ、こうした気づきが必要です。
©三田紀房/コルク
相手のために、あえてルールを曲げる
事例をお話しましょう。私が以前、海外駐在員として、海外生産工場の受発注業務に従事していたころの話です。通常、工場は締め切りに基づいて動いています。しかし、顧客にとっては締め切りなど関係ありませんから、受注締め切りを過ぎてから発注したいと泣きついてくる営業マンが後を絶ちませんでした。それに対して、私の前任者は一切受けつけず、ルール通り1カ月納期を遅らせるのが常でした。
その後を引き継いだ私は、極力、締め切り後でも受注を受けるようにしていました。もちろん、工場での生産には最低ロットというものがあり、部品によって最低受注数が決まっています。そこで「その代わり、あと100個、受注を上乗せしてもらえませんか?」と依頼したり、ほかからの受注と抱き合わせたり、翌月のオーダーを前倒ししたりして、工場の生産ラインを稼働させるための最低個数になるように調整しながら対応していました。
それを続けたところ、営業マンたちが私に対して、良い印象を持つようになりました。営業マンからしてみれば、せっかく苦労して取った受注です。タイミングが悪かったために納品が1カ月ズレるとなれば、商品を待つ間に顧客が心変わりしてしまうのではと心配だったことでしょう。彼らにとって、注文をキャンセルされるのは、何としても避けたいことだったのです。
ルールに収まりきれないところに、チャンスはある
私は営業マンたちが困らないよう、滞りなく受注できる立場にいたため、できることをしました。ルールを捻じ曲げることが目的ではなく、許される範囲で総合的にベターになるような動きをしてみたのです。その結果、彼らは私に対して恩義を感じ、いつしか営業チームから直接指名で頼られるようになったのです。
これをお読みのあなたもぜひ、自分の周りを見回してみてください。おそらく、あなたの助けを必要としている人がいるはずです。確かに、会社にルールは必要です。しかし、世の中で起きている事象のすべてがルールに当てはまるわけではありません。むしろ、ルールと現実の間にできる矛盾に対処することこそが、私たちの本当の役目と言えるのではないでしょうか。
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俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン(→)』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?(→)』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」(→)』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。
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