「わかりやすさ」こそ究極の個性であり、成功するために必要な要素であるーー『マネーの拳』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。

『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。

マンガ『マネーの拳』のワンシーン

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「俺達の店はタバコ屋のようなTシャツ専門店だ」

(『マネーの拳』第3巻 Round.25より)

地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。

その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。

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商売のポイントとは「わかりやすい」こと

塚原会長から投げかけられた課題:「究極の商売の理想形とは街のタバコ屋だ」の答えを探して、タバコ屋の前に張り込む花岡。警察官に職務質問をされた際に、警官から聞いた「タバコ屋とは街の目印だ」の一言からビジネスの着想を得ます。

アイディアがまとまると、従業員を集めて新規事業について発表する花岡。しかし、花岡の「Tシャツ専門店を出店する」という話に、従業員たちは不安を隠せません。「Tシャツしか売らない店なんて、聞いたこともない」と異を唱えます。しかし「どこにでもあるような店を出したところで意味はない」と答える花岡。

従業員からの「Tシャツとは季節商品。夏はよくても冬はどうするのか?」という質問に、花岡は「秋冬で売り上げが落ちたとしても、年間を通せば十分やっていける」と説明。「名前を聞けば、誰もが何を売っているのかすぐにわかるような店をつくれば、必ず売れる」と主張するのでした。

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売り上げが季節変動を受ける業界の対応策とは

「Tシャツ1アイテムに商材を絞る」という、思い切った戦略を打ち出した花岡。しかし、従業員の言う通り、Tシャツは季節の変動を受ける商品です。以前、「残念な人は、失敗の原因を“自ら”引き起こしている――マンガ『マネーの拳』に学ぶビジネス」の中で、塚原会長も「商売の三原則」として、「(2)売り上げが季節に左右されないこと」を挙げています。

「本当にTシャツだけで採算が合うのか?」という疑問に対して、花岡が事例として挙げたのがチョコレートです。

物語の中で、花岡は「チョコレートだけをつくっている会社の年間売り上げの7割は、2月のバレンタインデーで稼いでいる」と語っています。同じように、Tシャツも繁忙期の7月から8月にかけて集中的に販売することで、1年分の利益を叩き出そうと言うワケです。

マンガ『マネーの拳』のワンシーン

©三田紀房/コルク

商売にとって「想定外の特需」がこわい理由

現実に、このような販売方法を採っている業界は結構あります。例えばケーキなどがそうでしょう。全日本菓子協会が発表している「平成28年家計調査報告書」によると、2016年の世帯あたりの1カ月のケーキに対する支出の平均は576円で、年間を通して434円〜629円とほぼ一定しているのに対して、12月は1,369円と、年間支出の約2割を占めています。もちろんこれは、“クリスマス特需”によるものです。

参照:平成28年 家計調査報告書

商売人の観点からすると、こうした「売れる時期の決まっている」商材であれば、売り上げの上下はさほどこわいことではありません。むしろ、事前にいつ売れるのかがわかっている分、売り上げの少ない時期は人件費を抑制したり、仕入れを少なくする、といった経営判断で対応できます。それよりも、商売にとってこわいのは「想定外の特需」です。

「売れることがこわい」というのは、おかしな話に聞こえるかもしれません。しかし、突然の大ブームに「商機を逃すまい」とムリな大増産などを行った結果、赤字に陥る例は度々見られます。

“ブームの影に仕掛け人あり”

このように、「読めない需要」というのは経営を圧迫する要因となる場合があります。一方、「読める需要」というのは売り上げに貢献します。通常、そうした需要にはたいがいブームの仕掛け人がいるものです。例えば節分の日に食べられるようになった恵方巻きは、もとは1地方の風習にすぎませんでしたが、コンビニエンスストアが発売したことによって急速に広まったものです。

話を戻しますと、花岡は商材をTシャツだけに絞ることによって、

  1. 他社との差別化ができる
  2. アイテムを絞ることによって、特化して商品開発ができる
  3. 他の余計な在庫を抱えなくて済む

といったメリットが考えられます。

メーカーだった彼らが、果たして小売を始めて上手くいくのかどうか。これからの展開に注目しましょう。

マンガ『マネーの拳』に学ぶビジネス 第17回

俣野成敏(またの・なるとし)
ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー

30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。
2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家として活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、現在はその啓蒙活動にも尽力している。自著『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部、共著『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが13万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが11万部に。著作累計は46万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を4年連続で受賞している。

俣野成敏 公式サイト

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