良い条件を獲得するには、「お願いされる」立場に立つことーー『マネーの拳』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。

『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。

マンガ『マネーの拳』のワンシーン

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「ちょっと、社長。そこをなんとかしてよ」

(『マネーの拳』第3巻 Round.22より)

地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。

その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

嫌いな相手にも、「こちらの条件を飲ませる」ためには?

格闘技“豪腕”グッズの女性担当者・井川は、個人的な恨みから、花岡を破滅させようと嫌がらせを繰り返します。経営的にも追い詰められた花岡が、挽回するために仕掛けた策とは、「トップタレントに自社商品を着てもらい、宣伝してもらう」ことでした。

これによって、井川と花岡の形勢が逆転。注文が殺到し、世間の需要にこたえないわけにはいかない井川は、花岡に頭を下げるしかありません。かつては著しく不利な立場での契約に応じていた花岡でしたが、今度は井川に有利な条件を飲ませることに成功します。

物語の中で、井川は大企業の看板に寄りかかり、その権力を自分の実力と勘違いしている人物として描かれています。たいていの人は、井川と同じように「名の通っている会社の社員であれば、交渉もスムーズに運ぶ」と思っているでしょう。しかしその井川でさえも、目の敵にしている花岡の条件を飲まざるを得ませんでした。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

どうしたら「向こうからお願いされる」立場に立てるのか?

今回は、「相手と交渉する際のポイント」について述べた箇所からピックアップしました。交渉のツボとは「今、風向きはどちらにとって有利なのか?」ということです。つまり「自分が相手にお願いする立場なのか?」、それとも「自分がお願いされる立場なのか?」の違いによって、交渉条件もずいぶんと変わってくる、ということです。

例えば、これは私が社内ベンチャーを立ち上げた時の話です。1号店を出す時は、「こちらが頭を下げて出店させてもらう」側でした。当時、会社の知名度は高かったものの、小売りに関しては全くの未知数だったからです。そこで私は「デベロッパー(不動産開発業者)が重視するのは、坪売上に違いない」と目星をつけ、通常の店舗の半分の面積で出店を続けました。

同業他社の半分ほどの面積でしたので、在庫管理なども工夫し、徹底的に坪売上にこだわった結果、坪売上では突出することができるようになり、向こうから「ぜひ出店してください」と言われる立場になりました。こうなって初めて、自分たちに有利な交渉ができるのです。

相手の期待を裏切ると、条件が悪くなる

自分で商売をするにせよ、サラリーマンとして働くにせよ、ビジネスを続けていく上で大切なのは「自分にとって条件が良くなっていくようにしなければならない」ということです。仮に、時間が経っても働く条件や商売上の諸条件が一向に良くなっていかないのだとしたら、それはどこかがおかしいのではないかと疑ったほうが良いでしょう。

私の知り合いの中に、ある分野のスペシャリスト(専門家)がいます。その方には、その腕を見込んだ多くの顧客と弟子がいました。弟子たちは無給でその専門家を補佐していましたが、代わりに専門家が所属している団体から優遇され、無料で海外旅行などにも招待されていました。

弟子たちは、最初はその専門家に憧れ、「この人のようになりたい」と思って弟子入りしました。ところが、そのうち「この団体に所属していれば美味しい思いができる」ということに甘んじるようになりました。その結果、初めは弟子を優遇していた団体も、ついには優遇策を打ち切ることにしました。弟子の中には、自分たちが結果を出さなかったことは気にかけず、優遇策が打ち切られたことに不満を訴える人もいたと言います。

マンガ『マネーの拳』のワンシーン

©三田紀房/コルク

「自分の労働条件が上がっていく」ような働き方をする

人は、「もらう」だけでは長続きしません。良い条件を獲得したいのであれば、相手に「この人に良い条件を出せば、それ以上の結果を返してくれる」と思わせる必要があります。物語の中で、井川と花岡が反発し合いながらも取引を続けているのは、「この相手と組めばチャンスが広がる」「この相手と組めば多くの利益が見込める」ということがわかっているからです。

あなたは今、誰と取引をしているでしょうか?会社ですか?それともビジネスパートナーとでしょうか?いずれにせよ、あなたは相手に「この人と組めば良いことがある」と思わせなくてはいけません。

もし、相手がどう思っているのかを知りたければ、今、自分が受けている待遇を見ればわかります。以後はぜひ「今いる環境で、どうすれば条件がより良くなるか?」ということを意識していただければと思います。

マンガ『マネーの拳』に学ぶビジネス 第14回

俣野成敏(またの・なるとし)
ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー

30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。
2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家として活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、現在はその啓蒙活動にも尽力している。自著『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部、共著『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが13万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが11万部に。著作累計は46万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を4年連続で受賞している。

俣野成敏 公式サイト

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