成長できる人はまず「疑う」ことから始める――マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』です。

『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい奥深い一言をピックアップして解説します。

マンガ『エンゼルバンク』のワンシーン

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「まずは何ごとも疑え。会社員なら、まずは会社だ」

(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第6巻 キャリア47より)

龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。

井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが…。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

仕事とは会社が用意するものなのか?

東大卒の桂木悠也(かつらぎゆうや)が新たに加わったことで、3人体制になった海老沢の部署。ところが、海老沢から「仕事は2人で適当に考えてよ」と言われてしまい、途方に暮れる井野。一方、桂木は「面白そうですね。何をするのか考えます」とやる気満々です。

桂木の様子に、自分も何かを考えざるを得なくなった井野は、ヒントを求めて桜木の事務所を訪れます。話を聞いた桜木は、皮肉交じりに「言われたままをやっているだけでは、仕事とは言えない」とコメントします。井野が「そうはいっても、仕事とは会社が用意するものでは?」と言い返すと、「会社が決めたことなら、黙って従うのか?」とさらにたたみかけてきます。

「世の中の人は、会社や国の言うことを、そのまま鵜呑みにしている。でも、その多くは根拠なんかない」と言う桜木。「要するに、ルールに従っている人間は、ルールをつくった人間に利用されるだけだ」と言われ、井野は自分で会社のルールを調べることにしたのでした。

マンガ『エンゼルバンク』のワンシーン

©三田紀房/コルク

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「今あるもの」が正しいとは限らない

人が、「もとから存在しているものを疑う」というのは、なかなか難しいものです。通常は、新しいものが出現したり、変化が起きることで、ようやく今あるものとの比較ができるようになります。それでも、判断の基準となるのは、普通は“既存”のほうです。

確かに、人が社会や組織を形成していくには、ルールが必要不可欠です。とは言え、実はこうしたルールは、たいてい仮決めです。例えば、店舗を持っている会社は、「各店に小口現金をいくら持たせるか?」といった決めごとをしなくてはなりません。その際、「店に置く現金は、これくらいあれば足りるだろう」と、だいたいの見当をつけます。

仮に決めた金額で、ひとまずやってみて、支障がなければその状態が続き、問題が出た時は修正します。人間のすることの大半は、それほど大きな根拠があるわけではなく、「とりあえず」のことが多いのです。

世の中に完璧なモノなどない

これは、法律などでも同じです。普段、法律になじみのない人にとって、法律とは「絶対に守らなければならない不変のもの」といったイメージがあるかもしれません。しかし実際は、常に改変を繰り返しています。その1つが税金です。政府は毎年、何かしらの税制改正を行っています。不変どころか、法律が常に現実を後追いしている状態です。

同じく、かつて毎年のように改正してきたものに、特例公債法があります。これは、赤字国債(国の借金)を発行する際に必要とされる法律です。もともと、赤字国債の発行は財政法で禁じられており、政府はこれまで1年限りの時限立法として毎年可決し、国債を発行してきました。しかし、2012年に法案の成立が遅れたために、実害が出たことから、数年分の発行をまとめて許可する法案へと変更。現行法では、2016〜2020年度までの国債発行が認められています。

この状況をお読みになって、中には「毎年、法案を通すくらいなら、なぜ財政法そのものを改正しないのか?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それをしてしまうと、国債を乱発する状態に歯止めが効かなくなる可能性があります。だからと言って、今の日本は、国債を発行しないことには国を維持できません。これはある意味、苦肉の策とも言えるのです。

思い込みを捨てることから始めよう

今回、お伝えしたかったのは「人間のつくるものに完全はない」ということです。「こうでなければおかしい」というのは、たいていは思い込みに過ぎません。これをお読みのあなたには、このことにぜひ気づいていただきたいと思い、本文を執筆しました。

話を『エンゼルバンク』に戻しましょう。「仕事は会社から与えられるもの」という思い込みを持っていた井野は、上司である海老沢から仕事をもらえず困ってしまったわけですが、これは、決して他人ごとではありません。

これまでの日本は、経済が成長していたため、常に新しい仕事が生まれていました。しかしこれからは、誰でもできる仕事は、ロボットやAIに置き換えられる時代がやってきます。「そうならないためには、まずは何から始めるべきか?」という問いのヒントになるのが、「本日の一言」に選んだ桜木の言葉ではないか、と思った次第です。

マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス 第52回

俣野成敏(またの・なるとし)
ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー

30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。
2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家として活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、現在はその啓蒙活動にも尽力している。自著『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部、共著『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが13万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが11万部に。著作累計は46万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を4年連続で受賞している。

俣野成敏 公式サイト

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