「自由」を手に入れることが“できる人”と“できない人”の差とは?――マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』です。

『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい奥深い一言をピックアップして解説します。

マンガ『エンゼルバンク』のワンシーン

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「僕は会社の中に独立国をつくった。僕はその国の王様なんだ!」

(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第6巻 キャリア45より)

龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。

井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが…。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「自由なのは、会社に利益をもたらしているから」

井野が新しく担当することになった転職希望者・桂木悠也(かつらぎゆうや)は、東大卒で一流商社に勤める超エリートです。ところが、桂木には他人を思いやる気持ちが欠けているところがあります。そのせいで、今の会社でも浮いた存在になっていることを、海老沢は見抜いていました。案の定、桂木は面接試験に落ちてしまいます。

落ちた理由を聞きにやってきた桂木に対して、ズケズケとモノを言う海老沢。しかし桂木は、そんな海老沢にかえって興味を示します。井野と桂木は、知り合いから、実は海老沢が投資で多大な資産を築き上げたお金持ちであることを聞かされます。これを聞いて、海老沢が自由な理由はわかりましたが、会社がなぜ、海老沢に何も言わないのかがわかりません。

海老沢の誘いに応じて、日曜日に動物園にやってきた桂木と井野。海老沢は、2人をサル山の前まで連れて行くと、こう言います。「僕らはあのサルたちと何も変わらない。ただ、僕らには、あるはずの檻が見えていないだけだ」と。「たとえ会社を辞めたって、自由にはなれない。でも、僕は会社の中で自由を勝ち取った。会社が何も言えない理由は、僕が会社に利益をもたらしているからだ」と話すのでした。

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悠々自適の生活は、すぐに飽きる

海老沢が、基本的には働かなくても生活できる身になりながら、それでも働いている理由とは、第一には「悠々自適な生活も飽きる」からでしょう。多くのサラリーマンが憧れる早期リタイアですが、実際は、何もすることがないことほど辛い人生はありません。

これに関して、世界3大投資家の1人とされるジム・ロジャーズ氏も、同じことを述べています。ロジャーズ氏は、同じく世界3大投資家の1人であるジョージ・ソロス氏とともに、国際投資会社のクォンタム・ファンドを共同で設立し、10年間で4200%とも言われる驚異の利回りを叩き出します。ロジャーズ氏は37歳にして現役を引退しました。

ところが、これほどの人であっても、リタイア後の数カ月間は、何もすることがないために無為に過ごしてしまい、何も成し遂げることができなかった、と言っています。休日は、休日だからこそ楽しいわけです。

マンガ『エンゼルバンク』のワンシーン

©三田紀房/コルク

そのほうが儲かるなら、会社も社員を自由にする

前回、「サラリーマンは、どのようにして自由を得ればいいのか?」という問いかけをしました。それに対する答えの1つが、今回、選んだ「本日の一言」の中に隠されているのではないかと思います。

いくら自由になりたいからといって、何の計画もなしに会社を飛び出しても、生活に行き詰まって、身動きが取れなくなるだけでしょう。そうかと言って、生活のために仕事を嫌々やっているというのも、やはり味気ないものです。ところが、サラリーマンの身分のままで自由になる方法はあります。それが、海老沢の言う「会社に利益をもたらすこと」です。

思うに、もし、海老沢の行った投資が当たらなかったとしても、やはり海老沢は自由になっていたはずです。実際、会社も決して社員を拘束したいと思っているわけではありません。社員を自由にすることで、より多くの利益をもたらしてくれるのであれば、会社とてそうするに越したことはないのです。

前回の記事はこちら:「自由」の意味を履き違えた人の先に待つものとは?――マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

「自由になる」のに場所は関係ない

私自身、サラリーマン時代の31歳の時に社内ベンチャーを立ち上げ、2年後に事業が軌道に乗った時点で、すでに今と変わらぬ自由を得ていました。もちろん、組織人としての交渉やプレゼンテーション、仕入れやお金のやり取りなどはありましたが、逆を言うと、会社との接点はそれくらいでした。私の場合は特に保守的な老舗メーカーでしたから、誰からも管理されない世界で自由に動くのは容易ではありませんが、世の中を見渡してみると同じような自由を実現している人は意外にいるものです。

つまり、独立しなくても自由にはなれます。前回お話したように、独立したからといって、自由になれるとは限りません。その差は、“手応え”だと思っています。自分の中で、「これなら万一、他へ転職するような事態になったとしてもやっていける」「仮に仕事を失っても、起業して自力で生きていける」という手応えを感じた時に、どこで仕事をしていようと、「自由を手に入れた」と言えるのではないでしょうか?

マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス 第50回

俣野成敏(またの・なるとし)
ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー

30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。
2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家として活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、現在はその啓蒙活動にも尽力している。自著『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部、共著『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが13万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが11万部に。著作累計は46万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を4年連続で受賞している。

俣野成敏 公式サイト

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