天海祐希さん主演の医療ドラマ『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』では、毎日難しい手術や診断のつきにくい病気と格闘しながらも、人間らしく悩む医師の姿が描かれています。このドラマでは、仕事をする上で必要な覚悟について学びとなるシーンがたくさんあります。
そこでビジネスパーソンが決めるべきプロとしての覚悟について、さまざまな企業で職場のあり方を改善してきた沢渡あまねさんに聞きました。
あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん
業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書『職場の問題地図』『運用☆ちゃんと学ぶ システム運用の基本』『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』『仕事は「徒然草」でうまくいく~【超訳】時を超える兼好さんの教え(⇒)』ほか多数。
【1】ミスや間違いをしてしまった時に必要な覚悟とは?
若手医師・西郡琢磨(永山絢斗)にはかつて、自分の母親の手術で患部を切除しきれなかったという苦い過去があります。その母親の病状が悪化し、再手術に踏み切ろうとした時、西郡はその時のミスについて言い訳してしまいます。そんな西郡を世界的な脳外科医、黒岩健吾(椎名桔平)は一喝します。(4話より)

西郡「術中、海綿静脈洞から大量の出血があった。神経を温存、無理に全摘しないでサイバーに回そうと…」
黒岩「言い訳だよ! ビビったんだろ? お前も脳外科医の端くれだったら、それ認めろ。つまらねえことで粋がるな」

本当のプロは、自分の間違いや至らない点に気づいたら、謙虚に頭を下げます。どれだけ周りに厳しい人でも、高いスキルを持つプロほど素直に過ちを認める「覚悟」を持っています。黒岩の覚悟は★5つですが、公衆の面前で若手を叱る行為は★1つです。
謝ることは恥ではない。周囲の心を掴みファンが増える
間違いをはっきり認め、謝罪することに抵抗がある人もいるでしょう。しかし、どれだけスキルを磨いても慢心したらビジネスパーソンとしてそれ以上成長することはできません。素直に過ちを認めるということには、2つのメリットがあります。
①自らをアップデートできる
ミスや過ちを犯すということは、自分にまだ足りない点があるということです。つまり、改善できるポイントや伸びしろがあるということ。自分の足りない点を認め、新しい考え方やスキルを取り入れることで、自身をアップデートすることができます。そうすれば時代に合った価値の高いプロへとより一層スキルアップできるはずです。
②周囲の心を掴むことができる
スキルの高い人ほど、自分の技術をひけらかしてマウントしてしまいがちです。しかしマウントしてしまう姿勢は、プロとして失格ではないでしょうか。その姿勢は、せっかく自分の技術やパーソナリティを認めてくれているファンまで遠ざけてしまうことになります。
組織で働くビジネスパーソンには、自分の専門性を後進に受け継ぎ、組織の発展に貢献する責任があると思います。謝らずに孤立し、自らのファンを遠ざけるという行為は組織のメリットに反することになってしまいます。
自分のスキルに誇りを持てばこそ、プライドを捨てて周囲の話に耳を傾け、自らの至らなさを素直に認められるはず。それができれば、さらに新しい知識やファンを得ることができるでしょう。すると、それが自分自身のレベルアップにつながります。
【2】仕事も家族も大事にしたい時、すべき覚悟とは?
ベテラン脳外科医の深山瑤子(天海祐希)は手術の腕を磨き、プロとして道を極めるために離婚を選択します。元夫に育てられ、高校生になった娘(桜田ひより)と一時的に同居することになった時、深山は反発する娘に大切に思っているという気持ちをぶつけます。(4話より)

娘「だから放っといてよ、私を捨てたくせに」
深山「捨ててない! いい? 確かに私はいつも忙しい。あの頃からずっと。でもそれはトップナイフ(手術のプロフェッショナル)を目指すため。それが私の仕事。それは捨てられないの。あの頃から忙しくて、子供にまで手が行き届かない。それでお父さんとぶつかるくらいなら、私が家を出た方がいいと思った。だけどあなたのことは愛してるし、離れてても愛情は全く変わらない。それが私。捨ててなんかいない!」

プロフェッショナルとして道を極めたい時、仕事に没頭しなければならないライフステージがあります。その時、深山のように自分の気持ちをしっかり伝えることは大切です。しかし、自己主張するばかりで相手の気持ちを尊重していないので★2つです。
短い時間で家族と気持ちを深めるなら「iメッセージ」で伝えよう
ワークライフバランスが叫ばれている昨今ですが、とはいえ長い仕事人生の中でどうしても仕事を優先せざるを得ないときはあるでしょう。いつも定時で帰り、美しくワークとライフのバランスを取れるのが理想ですが、時期によって濃淡をつけてもいいと私は思います。
忙しくて家族やパートナーに時間を割けない時、大切にした方がいいことがあります。それは深山のように「忙しくても、大切に思っているよ」と自分の気持ちを「iメッセージ 」で伝えること。iメッセージとは、「私はこう思っている」と自分を主語にして気持ちを伝える心理学の手法です。
* 【参考記事】人を動かしたいなら、「アイメッセージ」を使いこなせ
日本人の中には、自分の気持ちをストレートに伝えることを照れくさいとか、苦手だと思う人が多いように見受けられます。しかしこれからの時代、ワークとライフが一体となる生き方が主流になってきます。その時、自分の言葉でプロとしての仕事観を伝え、相手への思いを伝えることが、限られた時間の中で愛情や絆を深めるための一つの方法なのではないでしょうか。
ただ、深山のように、娘の反発心に対して「捨ててない!」と勢いで自己主張するのはおすすめできません。忙しければこそ、家族のさみしさや無力感などをそのまま受け止め、相手の気持ちに寄り添わなければ気持ちは離れるばかりだと思います。
【3】仕事の失敗でなくした自信は、どう取り戻す?
かつてオペに失敗し、自信をなくした若手医師・西郡。彼に自信を取り戻させようと、外科部長の今出川(三浦友和)はあえて難易度の高いオペを西郡に担当させようとします。しかし深山はその今出川の方針に反対します。(5話より)

深山「なぜ西郡をあのオペに?」
今出川「別に? 問題あります?」
深山「彼はいま、自信をなくしていて…」
今出川「オペでなくした自信は、オペでなきゃ取り戻せない!」

外科部長が言うように、仕事でなくした自信は仕事で取り返すしかありません。ただ、これまでと同じやり方では何度打席に立ってもうまくいきません。結果的に仕事に対する恐怖心が募ったり、同じ失敗を繰り返すことになってしまいます。
仕事の失敗は仕事で取り戻そう。振り返り&言語化が鍵
仕事で失敗した自信を取り戻すには、振り返りと言語化が重要です。そのやり方についてポイントをお伝えしましょう。
まず、失敗について振り返る時は複数人のチームで行う習慣をつけましょう。その時は失敗のみならず、うまくいっていることや課題、チャレンジしたいことなどを付箋に書き、ホワイトボードに貼っていきます。付箋に書き出す時、一度出てきた問題をすべて言語化する必要があります。この言語化するプロセスが、とても重要です。言葉にすることで、自分の中でも改善点を理解することができるからです。
人は自分について振り返りをすると、自責の念に駆られてしまうか、「上司が悪い、環境が悪い」と他責にしてしまうかの両極端になりがちです。チームで振り返りを行うことで、自分では発見できなかった課題に気づくことができ、さまざまな人の観点で客観的な反省・改善を行うことができます。そして、次からは多様な視点があることを踏まえて仕事ができるようになるので、より高い視点を持つことができ、仕事の質も高まります。
振り返りの結果、「失敗しても自分や誰かのせいにせず、仕組みやチームでサポートし合えば解決できる」という気づきを得ることが重要です。チームで振り返りができれば、同じ失敗をしないようチームでフォローアップ体制を作ることができるでしょう。
<番組情報>
『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』(日本テレビ 土曜22時)
成功が当たり前とされ、完璧が求められる脳外科医たちが悩みながら奮闘する医療ドラマ。超一流の技術を持ちながらも、どこか不器用な医師たちの姿を描く。脚本は『離婚弁護士』『コードブルー』『BOSS』などを手掛け、“お仕事ドラマ”で抜群のリアリティを描き出す林宏司。出演は天海祐希、椎名桔平、広瀬アリス、永山絢斗、古川雄大、福士誠治、三浦友和ほか
新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。