「自由」の意味を履き違えた人の先に待つものとは?――マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』です。

『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい奥深い一言をピックアップして解説します。

マンガ『エンゼルバンク』のワンシーン

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「君たちは、このサル山のサルと一緒だ」

(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第5巻 キャリア44より)

龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。

井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが…。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

海老沢が動物園で見せたかったもの

キャリアパートナーの井野が、次に担当することになった桂木悠也(かつらぎゆうや)は、東大卒・一流商社勤務の超エリート。思いがけず、コンサルタント会社の面接に落ちて、プライドを傷つけられてしまいます。心の中で井野のせいにしようとするも、海老沢から「人は論理では動かない」と言われてハッとします。

海老沢のことをただ者ではない、と感じた桂木は、井野とともに海老沢のことを知る岡本社長を尋ねます。2人が海老沢について聞くと、社長は「実は、彼はすごいお金持ちなのだ」、と話します。「彼は新入社員のころから投資を始め、今では複数のマンションを所有している」。それを聞いた桂木の脳裏には、「なぜ、彼はいまだにサラリーマンをやっているのか?」という新たな疑問が湧いてきます。

いても立ってもいられず、桂木が海老沢に連絡すると、「次の日曜日に動物園で会おう」という返事が返ってきます。日曜日になって、井野と動物園で落ち合う桂木。海老沢が2人を待っていたのは、サル山の前でした。休みの日まで付き合わされて、すっかり不機嫌な井野が「サル山に何か?」と聞くと、なんと海老沢は「2人には、自分がサル山のサルだってことに気づいて欲しくて、ここに呼んだんだ」と告げるのでした。

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「サル山のサルは不自由で可哀想」は本当か?

海老沢の言う「サル山のサル」というのは、たとえの1つであり、実際は「檻の中で生活している動物」のことを指しています。動物園の動物、と言うと、「自由にできずに飼い殺しにされて可哀想だ」という人がいますが、そう言う自分も、実は同じ状態に等しいのではないか、という問いかけです。

おそらく、「自由とは何か?」という問いに対する正しい答えなどありません。何を持って自由と言うのかは、人によっても違うでしょうが、サル山のサルとよく似た話に、「監獄に収監されている人の話」があります。

監獄には、自分の命の危険も顧みずに脱獄しようとする人がいる一方で、そこから出獄したにも関わらず、わざと罪を犯して、また監獄に戻ってくる人がいます。監獄の中にいれば、少なくとも寝る場所と食べるものがある分だけ安全、というわけです。

マンガ『エンゼルバンク』のワンシーン

©三田紀房/コルク

会社を辞めても、自由にはなれない

世の中には、「会社にいるのが窮屈だ」とか「自由に生きたい」といった理由で、無計画に会社を飛び出して独立起業をする人がときどきいます。そういう方は、たぶん自由の意味を履き違えているのでしょう

これは、私のセミナー受講生の事例です。その方は、自身のプログラマーとしての技術をウリに、3年前に独立起業を果たしました。好きな旅行に行ったり、しばらくは自由気ままな生活を満喫していましたが、顧客は会社員時代に懇意にしていた取引先が数社あるだけです。営業力があるわけでもないので、自分で顧客を増やすことができません。

そうこうしているうちに、思いがけず授かり婚をすることになりました。そうなると、急に将来に不安を感じるようになります。結婚と出産がほぼ一緒になったため、いろいろと費用がかさみ、みるみるお金が減っていきます。生まれた子どもはかわいいものの、最近はお金がなくなる不安に苛まれ、「自分は独立して、一体何がやりたかったのか?」と悶々とする日々が続いている、ということです。

“安全”には代償が伴う

人が、会社という囲われた環境に身を置けば、そこのルールに従わなければならない上に、労働力を提供する等の義務が発生します。義務を果たしてこそ、その環境にいることを許されます。そこから離れれば、義務から解放される代わりに、自分1人の力で生きていかなくてはならなくなります。要は、安全とはある種の代償です。

先ほどの事例の方は、組織から離れることによって、上司や会社からは自由になれたかもしれません。けれども、別のより大きな足かせに嵌ってしまう結果となりました。その足かせとは、お金です。

現代社会は、お金を媒介とした交換経済が発達したおかげで、私たちは豊かな生活を享受しています。しかし、交換するためにはそのための相手と、相手の同意が必要となります。

結局のところ、人は人との関わり合いの中でしか生きることはできません。「だったら、どうすればいいのか?」については、次回、詳しくお話ししたいと思います。

マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス 第49回

俣野成敏(またの・なるとし)
ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー

30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。
2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家として活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、現在はその啓蒙活動にも尽力している。自著『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部、共著『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが13万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが11万部に。著作累計は46万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を4年連続で受賞している。

俣野成敏 公式サイト

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