9月20日(金)に最終回を迎える黒木華さん主演のドラマ『凪のお暇』(なぎのおいとま・TBS系毎週金曜よる10時放送)では、主人公の大島凪が職場の“空気”をどう読むかに悩み、葛藤し、そこから逃げ出して人生をリセットしようと奮闘する姿に大きな共感が集まっています。
そこで、凪さんが遭遇した職場のさまざまなシーンで、見えない“空気”をどのように扱い、どう対応すれば、ポジティブに切り抜けられるのか、コミュニケーションのプロフェッショナル、沢渡あまねさんにお話を伺いました。
あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん
業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書『職場の問題地図』『運用☆ちゃんと学ぶ システム運用の基本』『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』『仕事は「徒然草」でうまくいく~【超訳】時を超える兼好さんの教え』ほか多数。
目次
【1】同僚に仕事のミスを押し付けられたら、どう返す?
ある日、課長に呼び出された大島凪(黒木華)。課長に「仕事雑すぎ!」と、同僚が見ている前で怒られてしまいます。その場では「申し訳ありませんでした」と頭を下げる凪でしたが、実際は別の同僚女性のミスを押し付けられただけでした。(1話より)
凪:「ううん」
同僚女性:「でもあの場でそれ言っちゃうとさ、課長逆上して空気悪くなるだけだし」
凪:「わかる~」
同僚女性:「あいつ、ほんとムカつくよね。大島さん叱りつけてる時、悦に入ってて、超キモいんだけど! あはは! キモい時は、キモいってはっきり言った方がいいよ」
課長に「人前で叱らないで」とはっきり言い、自分の業務分担を伝えよう

明らかにこの管理職はマネジメントの仕方が間違っています。凪さんはそのことについて攻撃にならないような言い方で、相手にうまく伝える必要があります。ここで凪さんがすべきは、自己犠牲の精神で言いたいことを我慢することでも、他の同僚の悪口に流されて同調することでもありません。この負けパターンを繰り返していたら、誰も幸せにならないので、★ひとつです。
まず、この課長の不健全なマネジメントについて整理してみましょう。ひとつ目は、同僚が見ている前で大きな声でミスを叱責し、“公開処刑”していること。これは本人のモチベーションを下げますし、職場の“空気”も悪くします。2つ目に、この課長は誰がどの業務を抱えているかをまったく把握していません。
1話の段階では周りの空気を読む性格である凪さんですが、どうすれば上司とうまくコミュニケーションができるのでしょうか。まず、少し時間を置いた上で、課長に「人前で叱られると、私はモチベーションが下がってしまいます」と相談してみること。それでも状況を打開できなければ、課長より上のポジションである部長や、他部署の課長などにそれとなく相談してみてもいいかもしれません。
2つ目として、誰がどの業務を担当しているのかを、仕事を引き受けた時やチーム内のミーティングで課長に共有する体制を作ってください。それによって、上司や各メンバーが業務内容が把握できていないという不明瞭な状態を解消できます。一見、業務分担のわかりにくい事務職の場合でも、上司は各メンバーの業務分担や量を把握しておくのが仕事。誰かが休んだ時に、業務を円滑に回すための調整をする必要があるからです。
もし、凪さんのように同僚から仕事を押し付けられてしまった場合は、「今、別の仕事に取り掛かっているので、後でも良いですか?」と優先順位を提示したり、「ちょっと私、そのジャンルは詳しくないんです……」と専門性が薄いことを示したりなど、相手の意向に寄り添いつつも、自分のできる範囲を伝えると効果的です。断るのなら1対1の場でなく、周りに人がいる公の場で断るのがベター。すると、既にあなたに仕事を振っていた人が、「課長、○○さん(あなた)には先に僕が別の仕事をお願いしているので、他の人に振ってもらえませんかね?」などと味方してくれることもあります。
自分の得意・不得意や苦手意識、仕事のみならずプライベートでどんな事情を抱えているかなど自分の状況を積極的にオープンにしていくことで、際限なく仕事が投げ続けられてしまう状態を避けられるでしょう。
【2】お弁当を持ってきているのにランチに誘われ、“サンドバッグ”にされたら?
凪は節約のため、会社にお弁当を持参しています。ところが同僚にランチに誘われ、断ることができずに一緒に行ってしまいます。そこで繰り広げられたのは「インスタ映え」するランチにデザート、そして他人の悪口。本心では思っていないのに“空気を読んで”「そうだよね」「わかる~」と相づちを打ってしまう凪。最終的に、悪口の矛先は凪自身に向いてしまいます。(1話より)
凪:「え?」
同僚女性B:「あ、それ私も思ってた。清楚って感じ?」
同僚女性C:「うんうん、わかる~。女子アナコーデ?」
同僚女性A:「あ、お天気コーナーの新人お姉さんみたい。お嫁にしたい女子アナナンバーワン、みたいな!」
凪の心の声:「私……ディスられている……?」
職場以外のコミュニティをつくって、職場の“空気”から抜け出そう

この場を黙って、なんとか切り抜けられたので、★4つとしたいと思います。
凪さんは、まずはこの職場以外に自分の居場所やコミュニティを作った方が良いでしょう。居場所が職場だけしかないから、職場に居場所を作らなければならなくなってしまうのです。社外に居場所があれば、無理に同僚に合わせたり、好かれたりする必要はありません。「最近お弁当作りに凝ってるんですよ」とかわしたり、「お弁当仲間グループ」みたいなものを作ってみても良いですね。
一旦黙ってやり過ごした後は、「ギャップ萌え」戦略を取るのもあり
とはいえ、今この瞬間をどう乗り切るか……も知りたいですよね。他人や自分に対する悪口大会に巻き込まれてしまったら、一旦黙ってやり過ごしてみてください。下手にうろたえてしまうと、相手に攻撃させる隙を与えてしまいます。「沈黙は金」という言葉がありますが、嵐が過ぎ去るのを待つように、じっとその話題が終わるのを耐えた方が良いでしょう。
(徒然草で、兼好さんもそう言っています)
それでも何か反応を求められたら、したたかに真逆のキャラを演じてその場を切り抜けましょう。今回の凪さんの場合なら、「いや、私、結構腹黒いんですよ!」って、毒キャラを演じてみる。そうやって自分の本音をほんの少しぶっちゃけてみると、“空気”は変わります。言われたことをそのまま受けて反応してしまうと、さらなるディスりや揚げ足取りに繋がってしまいます。周りのイメージとは真逆の自分を見せて「ギャップ萌え」を狙う戦略を取りましょう。
少しずつでいいですので、攻撃されないけれども、つけ入れられもしないポジションをつくっていけると良いですね。
【3】どうすれば自然な会話のキャッチボールができる?
スナックでボーイとして働き始めた凪。しかし、訪れたお客さんたちと会話が弾まず、落ち込んでしまいます。会話術やコミュニケーション術などの本を読んで勉強しようとする凪ですが、スナックのママ(武田真治)に手痛い指摘を受けてしまいます(6話より)
凪:「え……それは……」
ママ:「あんたが相手に興味ないからよ」
相手の変化や違いをことばにして、自然と会話が弾む仕掛けをつくろう

「あんたが相手に興味ないからよ」というママのこのひと言が、全てを表していると思います。パーフェクトなママのコメントに★5つをつけました。
人と話していると、誰しも相手が自分に興味があるかないかは、ある程度わかってしまいます。相手への興味を示すために有効な3つのコミュニケーション方法があります。
1.相手の変化を見つけて言葉にすること
2.相手と自分との「違い」に着目すること
3.自己開示によって、会話のボールを「そっと置く」ことです。
1.相手の変化をことばにしよう
ハラスメントにならないようにだけは十分に気をつけてほしいのですが、相手が嬉しくなるようなことを言ってみてはいかがでしょう。「あれ、なんだか明るい雰囲気になりましたね!」「今日はとても元気そうですね!」それだけでも、この人は見ていてくれるんだなということが伝わり、相手は心が開きやすくなるでしょう。
相手の行動や意識の変化に着目してみても良いと思います。例えば、持っている本を見て「あれ、その本が好きなんですか?」と話を始めてみてください。そこから共通の趣味やテーマを知ることができるかも知れません。相手の変化に気づく目線を持ち、それを言葉にすることをきっかけに心の距離を縮める努力をしてみましょう。
2.相手との違いに着目しよう
一般的に、コミュニケーションを円滑にするには相手との共通点を探すといいということが多いですよね。しかし、あえて「違い」に着目するのも、有効な手法なんです。
例えば、女性同士なら「自分とは好みの違うネイルをしている!」ということも、会話のきっかけには良いのではないでしょうか。好みの違いから話を始めたとしても、結果的に「ネイルが好きである」という共通の接点が見つかったわけです。すると、そこから会話のキャッチボールができるようになっていきます。
あるいは、かばん一つとっても、自分がビジネスバッグを使っていて、相手がリュックだった場合、「あ、そういうリュックもありですね、そのデザインなら僕も仕事で使ってみたい」と話を弾ませることができるかも知れません。
「違い」に着目すれば、互いの個性やキャラクターを示すことができますし、そこでわかった「違い」について語り合うことで、互いの違いを認め合うことができるでしょう。
3.ボールを投げずに「そっと置く」
相手と会話のキャッチボールをするのが苦手な人の場合は、無理して会話のボールを投げずに、「ボールをそっと置く」ことも有効です。これは自己開示の一つの方法で、自分のエピソードを語ることによって、相手に興味を持ってもらうというやり方です。自分が遭遇したことなどを語ることによって、相手との距離が近くなるわけです。
例えば「今日は飛行機で来たんですけど、台風で空港が人でものすごい混雑していて」などと話を切り出せば、「え、いつも新幹線なのに、今日に限って飛行機だったんですか!?」と話が弾みそうです。また、何気ない会話ですが「朝飲んだオレンジジュースがすごく美味しくて」という会話でも、「私実は、実家がみかん農園でオレンジジュースにはちょっと詳しいんですよ」とか「私はどっちかというと、ぶどうジュース派です」なんて、とりとめのない話が繋がっていくかもしれません。
自分のことを話すのが気恥ずかしいとか、自信がない、という人は、「好きなこと」について話せばOK。「好きなことを好きだと言う」、これはとても大事で尊いことなんです。好きなことを語っているときって、人はとても楽しそうだし、幸せな表情をしています。それを見た相手は、あなたともっと話がしたくなるはず。ボールを投げずに、そっと置いておくだけで、共通点や好きなポイントを見つけて、相手が話をしてくれるでしょう。周りの“空気”に惑わされることなく、堂々と好きなことを好きと言う勇気を持ちみましょう。
【まとめ】職場の人間と真正面から向き合うことで学ぶ★★★★★
凪さん自身はまだ変化の途中ですが、さまざまな状況に直面することで、現代の職場におけるコミュニケーションのあり方や人としての生き方に真正面から向き合っています。周りの登場人物も、凪さんの短所も含めて、職場や人間関係の悩みを解決する方法にずばずば切り込りこんでいます。これから凪さんは、いろんな局面に遭遇することでたくさんの学びと成長をするだろうということが見て取れるので、★5つをつけました。
<番組情報>
『凪のお暇』(TBS 金曜22時~)
都内の大手家電メーカーに勤める大島凪28歳。いつも人の顔色を伺い、周りの空気を読み、日々何事もなく過ごすことを目標と課している。しかしそんな生活にも限界が訪れ、ある日過呼吸で倒れてしまう。人生をリセットすることを決めた凪は、会社を辞め、マンションを引き払い、携帯電話はすべて解約して、コンプレックスだった天然パーマをさらして新しい生活を始める。原作は月刊誌 「Elegance イブ」(秋田書店) で連載中のコナリミサトによる同名漫画。累計250万部を突破し、第8回「anan マンガ大賞」を受賞。脚本は大島里美、出演は、黒木華、高橋一生、中村倫也、市川実日子、三田佳子、武田真治、吉田羊他
新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。