ぶどう糖90%「森永ラムネ」空前のブーム到来、ロングセラー商品のブランド戦略に迫る

人の体には欠かせない糖類。中でもぶどう糖は体に吸収される時間が早いといわれ、脳はこのぶどう糖をエネルギー源として活動しています。糖の性質と結びつけて2014年頃から注目され始めた商品が「森永ラムネ」です。「ぶどう糖90%」という配合についての口コミがビジネスパーソンの間で広がり、2017年から2018年にかけて異例の大ヒットになっています。

子ども向け菓子として安定した売上をあげている「森永ラムネ」が、大人も買いたくなる商品として注目されたのは、1973年発売以来初めてのこと。ロングセラー商品に思いがけず追い風が吹いたとき、どのようにしてそのチャンスをつかんできたのでしょうか? マーケティング担当の方に話を聞いてきました。前編後編の2回に分けてお届けします。

吉積 優(よしづみ・すぐる)

森永製菓に入社後は営業畑を経験、全国の卸問屋・小売店などで森永ブランドの菓子全般を扱ってきた。2017年4月に現在のマーケティング本部 菓子食品マーケティング部に異動、キャンディカテゴリー担当となり、「森永ラムネ」のほかミルクキャラメルなどのマーケティングも手がけている。2018年3月に新発売の「大粒ラムネ」は一旦休売をしなくてはならないほど大好評、7月以降関西以西で再発売し、10月からは全国展開開始。
森永製菓HP 

常に安定した売上を作る、森永ブランドの優等生

きれいな水色の半透明容器に赤色のアクセント、ラムネ飲料の瓶を模した細長いフォルムは見ると懐かしさを感じる人も多いはず。「森永ラムネ」は1973年に発売を開始した45年間のロングセラー商品で、現在も幼児を持つ親世代を中心に安定した売上をあげています。マーケティング担当の吉積さんが当時のエピソードを教えてくれました。

「開発する際に飲料のラムネをかなり意識したという話は聞いています。スッと口の中で溶ける清涼感やシュワシュワした食感を再現しようと考えると、ぶどう糖が一番合っていた。それで高い割合でぶどう糖を入れることに決めたといいます。味の評価は昔から良いですね。定番の「ラムネ」味のほか、「ストロベリー」「グレープ」といった味のバリエーションはその時々により変化していますが、ぶどう糖90%という根幹の配合は今も当時と同じです」

数ある自社商品の中で「森永ラムネ」はどんな位置づけなのでしょうか。

「いろんなブランドがある中で『森永ラムネ』は一度売場で採用していただければ定期的な売上が見込めるので、手がかからない優等生といった位置づけです。小さなお子さんがいる家庭での買い与え需要は昔から安定しているので、経験が浅いマーケティング担当者はまずここでマーケティングの流れを学ぶようなところがあると思います。社員を育ててくれる商品です」

発売当初から「子ども向け菓子」というコンセプトが続き、2000年代に入っても需要の掘り起こしは子ども中心でした。

「90年代後半から2005年までは幼児向け雑誌に広告を出稿していました。ラムネを食べるのは未就学児から小学校低学年くらいまでのお子さんが中心だったので『もっと年齢層を上に広げよう』という施策に力を入れていました。今パッケージに印刷されているキャラクターが登場したのは2001年。やはり幅広い層のお子さんに興味を持ってもらおうという狙いで制作しました。ちなみにこのキャラクターは社内でラムネちゃんと呼んでいます」


この時、パッケージだけではなく中身のラムネにも遊び心を取り入れました。型押しされた「ラムネちゃんの顔」をいくつか入れて、見つけたときの楽しさを演出したのです。これが今、子どもだけではなく大人にも喜ばれ、SNSに写真が載ることも珍しくありません。

「2014年頃からインターネット記事やSNSの口コミ、テレビ番組で『ぶどう糖90%』としての紹介が広がり、大人の方々も注目してくださるようになりました。その流れを受けて2016年からパッケージの目立つ部分に『ぶどう糖90%』という文字を印字しています。これは大人のお客様を意識した施策ではありますが、あくまで、もともとのターゲットである子どもの親御さんが見ても違和感がない範囲でということには気をつけていました」

「ぶどう糖90%」に注目した大人買い、対応する商品を開発

「森永ラムネ」の新しいムーブメントが起き始めていた頃、吉積さんは営業社員としてその変化を感じていたといいます。

「ロングセラー商品とはいっても何も手を打たなかったら売上は落ちていくばかりなんです。でも『森永ラムネ』は失速がなく、何だか調子がいいなという印象はありました」

ネット上の動きを見ると、2010年頃から「森永ラムネ」のぶどう糖の配合に注目したブログ記事が出始め、2015年にテレビの情報番組で取り上げられてからはSNSで話題にする人が増えました。店頭購入のほかネット通販での箱買いなども始まり、これまでとは違うチャネルで商品が売れていきます。

「子ども向けに一生懸命展開していたところに、『こんなシーンでも需要があるよ』とお客様に教えていただいた感じです」

この頃、その流れを受けて大人向けのラムネ商品を作ろう、といくつか試みたものがありました。

「一つは、2015年12月発売の『ラムネのチカラ』です。パッケージには『飲む大人のため』と記載し、明るいオレンジ色のパウチ型で、ウコンエキスを目立つ印字で訴求しました」

 

しかし、思ったように売り上げは伸びませんでした。次に第二弾として開発したのが女性向けラムネ商品です。

「2017年3月発売の『スパークリングラムネ』はレモンやオレンジなど柑橘系のフルーツのイメージを前面に出し、パッケージも女性向けのおしゃれなものを意識しました。酸味を生かしてシュワシュワ感を強調したのですが、これも好成績とはいきませんでした」

世間では「森永ラムネ」の評価が上がり、多くの人が話題にして売上がどんどん伸びています。しかしマーケティング担当として、その波をまだうまくつかみ切れていない。社内でもラムネに期待する声が高まっていました。

「一度伸び始めた2014年から2015年の勢いに比べると、2017年は正直少し踊場になったような停滞期を迎えていました。でも社内では『ラムネのポテンシャルはもっとある、もっと伸びる』という空気がある。何を変えればいいのかずっと考えていて、至った結論の一つが通常のラムネを1.5倍の大きさにした『大粒ラムネ』です。これを2018年3月に発売したところ、当初の年間販売計画数量を発売後1カ月足らずで売り切る大ヒット商品になり、多くの方にご迷惑をおかけしてしまいました。停滞だなんて大きな間違いでした」

大人向け新商品が思うような結果が出ない中、考え抜いて発売した「大粒ラムネ」は大ヒット。これまでの考えから何を変えたのでしょうか。

次回、後編では「大粒ラムネ」のヒット要因に迫ります。

後編はこちら

インタビュー・文:丘村 奈央子  撮影:是枝 右恭

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