世の中の理不尽に「怒れる人」だけが持っている“素質”とは?ーーマンガ「エンゼルバンク」に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー()。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』の第21回目です。

『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。

 

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「経営者とは、きちんと怒れる人でないとダメなんだ

(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第3巻 キャリア23より)

龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。

井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが…。

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「論理的に怒れる人は、経営者に向いている」

転職代理人・井野が担当することになった北川は、大手商社に勤める32歳の一般職。常々、「自分が一般職だから評価されない」と苛立っていた北川。始めは新人の井野を見くびっていましたが、「ベンチャー企業の社長秘書」という、これまでにない異色の提案に、腹を立てつつもなぜか心を惹かれます。

井野は、北川にベンチャー企業の魅力を再認識させようと、女性経営者の岡本を引き合わせます。井野が力説する「ベンチャー企業でなら、すぐにプロジェクトリーダーになることも可能」だという言葉を、すぐには受け入れない北川。しかし、気づくと岡本の会社の前にたたずんでいるのでした。

岡本と鉢合わせた北川は、誘われるまま一緒に料亭へ行くと、そこには海老沢と井野が待っていました。実は、岡本の独立起業を勧めたのが海老沢だったと聞いて、驚く2人。「なぜ、独立起業を勧めたのか?」との問いに、「岡本が怒っていたから」だと答える海老沢。「世の中の不条理に対して、論理的に怒れる人は少ない。こういう人は経営者に向いている」のだと話すのでした。

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“怒り”の持つパワーを活かす

人間の“怒り”のパワーが、時にものすごい力を発揮することは、ご存じのことでしょう。怒りは、上手に使えば現状を打破するための強力な力となりえます。

例えば、2014年のノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏が、受賞インタビューで「モチベーションを高める方法は?」と聞かれ、「怒りだ。それがすべてのモチベーションを生み出す」と答えています。

どういう意味かと言うと、かつて中村氏が勤めていた会社で青色LEDの開発を行い、これによって同社は売り上げを10倍以上に伸ばしました。しかし、のちにこの開発特許を巡り、同社との間で訴訟問題にまで発展したことを指しています。ことの真偽は当事者同士にしかわからないにしても、その怒りが人類に貢献する発明へとつながったというのであれば、「モノは使いよう」ということではないでしょうか。

社会に存在する「矛盾」に怒れる人は少ない

中村氏の例は、「怒りを仕事のエネルギーに変えた」という意味では、負のエネルギーをよい方向に使った事例だと言えるでしょう。ですが、たいていの場合、怒りとは他人に対する妬みや恨み、または「自分の思い通りにいかない」といった、マイナスの感情が原因となって噴出することが多いものです。

一般的には、それらの感情が他人への中傷や攻撃に変わったり、そこまでいかなくても、グチや、やる気の喪失だったり、ネガティブな方向に振れることのほうが多いのが実情でしょう。これが、海老沢が「きちんと怒れない人が多い」と言った所以なのだと考えられます。

それに対して、経営者の怒りとは、「世の中がもっとこうなったらいいのに」「どうしてこう(不便)なんだろう?」という気持ちからくる怒りです。

物語の中に登場する女性経営者の岡本は、もとは一般職のOLでした。結婚・出産を機に休職し、職場に復帰してみると、もとの場所に自分の席はありませんでした。岡本の怒りとは、「企業で働く女性は、キャリアか子育てかの選択を迫られ、両立できない」現実に対するものでした。その怒りの内容が、自分個人に限らず、社会に存在するかもしれない矛盾に対して向けられていたのです。

世間に存在するギャップこそ、新しいサービスを生む

どうして、この怒りが経営者向きなのかというと、こうした社会に存在するギャップに対して怒れる人は、それを起業のエネルギーに変えて、社会を変革するサービスを世に送り出せる素質を持っているからです。

誰もが、社会に対する何かしらの矛盾を感じていても、たいがいは「仕方がない」とあきらめたり、何とかうまく折り合いをつけようと妥協したりしがちです。実際、怒りの原因は会社の仕組みや制度的な問題だったり、個人ではとうてい太刀打ちできないことが少なくはありません。相手が大きければ大きいほど、怒る前に「どうせダメだ」と、はなから決めてかかることが多いのではないでしょうか。

しかし、現実には「変えられないのは、やらないと同義」という場合がほとんどであって、逆にそこに変革がもたらされた時には、まさしくそれが時代を変えることになるのではないでしょうか。

意味もなく怒るのではなく、世の中のために怒れるというのはチャンスなのです。

俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン()』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?()』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」()』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。

俣野成敏 公式サイト(

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