『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『インベスターZ』の第25回目です。
『インベスターZ』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「わからなくても前に進む。これが大事なことなんだと思う」
(『インベスターZ』第4巻credit.32より)
大人気マンガの『インベスターZ』より。創立130年の超進学校・道塾学園にトップで入学した主人公・財前孝史は、各学年の成績トップで構成される秘密の部活「投資部」に入部します。そこでは学校の資産3000億円を6名で運用し、年8%以上の利回りを上げることによって学費を無料にする、という極秘の任務が課されているのでした。
「大事なのは、理解することじゃない」
道塾学園の創設者・藤田家の当主から、学校の秘密の金庫に眠るお宝を現金化することを許された財前。週末の夜、藤田家より派遣されたトラックに、先輩と一緒に財宝を積み込みます。財前は、自分が藤田家との間で「万一、投資が失敗した場合は一生、藤田家の書生となる」という約束を交わしたことをみんなに言い出せずにいました。
財前は、財宝を処分した資金を元手に、バイオ関連のベンチャー企業に投資をしようと考えます。そこで先輩の月浜に、iPS細胞について教えて欲しい、と声をかけました。
iPS細胞とは、どのような臓器にも変化できる万能細胞のこと。これが実用化されれば、自分の細胞から臓器をつくることも可能とされ、将来を期待されている技術です。
月浜は、財前にiPS細胞とは何かを説明した上で、「なぜ普通の細胞からiPS細胞ができるのかはわかっていない」と話します。それを聞くと、財前は「根本原理がわかっていない技術を使っていいのか」と疑問を呈しますが、月浜は「実は僕らが普段、当たり前に使っている飛行機ですら、何で飛ぶのか、その仕組みは完全には解明できていない。大事なのは、一刻も早くiPS細胞の技術を実用化して、苦しんでいる人々を救うことだ」と言うのでした。
従来の常識が通用しない新技術
私たちは便利な社会に生きているため、「すべては明らかにされている」と錯覚しがちです。けれど世の中には、解明できていないことは依然多くあります。例えば現在、実用化に向けて研究が進められているものの一つにEMドライブがあります。
EMドライブとは、密封された円錐形容器の中で、電磁波の一種であるマイクロ波を反射させることによって推力を得ることができる装置のことです。現行の宇宙船は、燃料を燃やして推力としており、遠くへ行くには大量の燃料が必要となります。これまでは積み込める燃料の限界や、継続的に推力を得る仕組みなどが宇宙開発の障害のひとつとされてきました。
EMドライブは、今から20年近く前に英国の科学者によって提唱されたのが始まりですが、なぜマイクロ波を密封容器の中で反射させると推力を得られるのかは、わかっていません。従来の物理学では説明のつかないこの装置は現在、米国NASAや英国、中国などで研究が進められています。
ベテラン編集者ですら「どの本が売れるのかはわからない」
ところで、私はいろんな人から出版のアドバイスを求められることがあります。自分自身では出版コンサルティングを生業にするつもりはありませんが、日々の会話の中で質問を受けることがあります。すると中には「どうすればベストセラーが出せるでしょうか?」と聞いてくる人がいます。実のところ、ベストセラーになるかどうかは後になってもっともらしい理由づけをされることが多く、名編集者ですら「何がホームランになるのかはわからない」と言います。正確には、全員がヒットを狙っているのでしょうが、「桁違いのホームランは狙って出せるものではない」というのが本音なのだと思います。
一例を挙げると、2010年の年間ベストセラー1位に輝き、累計200万部以上も売れた本があります。私は以前、この本の担当編集者の話を聞いたことがありますが、その方によると「あれだけのベストセラーになるとは、事前に予測していなかった」のだそうです。
それでは発売前はどのように予想していたのかというと、「まずは1万部」と考えていた、ということです。しかし、実際に売れてから“後づけ理論”で「なぜあの本がベストセラーになったのか?」というそれらしい理由を探す人はいくらでもいた、というわけです。
ミリオンセラーという大物は、経験値を元にした理詰めで狙えなくても、1万部であれば確実に仕留められるのがプロということでしょう。
わからなくても、役に立てばいい
これらの話に共通して言えることは「世の中には、理屈はわからないけれど、実際にそうなっている現象は意外に多い」ということです。一般に、人は根拠を欲しがるものですが、理由が説明できないからといって「その場に立ち往生する」ことほどもったいない話はないのではないでしょうか。
もともと、飛行機にしろ新幹線にしろ、その原理を理解した上で乗っている人などほとんどいません。パソコンも携帯も、「どういう仕組みで動いているのか?」ということを知らなくても使いこなすことは可能です。結局、理屈とはすでに起こったことに対して説明を加えているに過ぎません。
大事なことは、「これからやってくる未来にあなたがどう立ち向かうか?」ということであり、そのためには使えるものは使う、という姿勢です。
俣野成敏(またの・なるとし)
大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」』を上梓。著作累計は40万部。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。
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