「八海山」が愛される秘密と三代目社長としてのプライド―八海醸造株式会社 代表取締役 南雲二郎氏

 

1922年に現・代表取締役・南雲二郎氏の祖父である浩一氏が創業した八海醸造。日本酒の蔵元としての歴史は浅いものの、二郎氏は3代目として、さまざまなアイディアを実行し、会社を運営してきました。

「八海山」のブランドは、今や多くの消費者から高い評価を受け、親しまれています。2017年には、「第51回グッドカンパニー大賞」において、グランプリを受賞しました。

今回は、「八海山」が愛される秘密を、酒造りにかける情熱、新商品開発、今後の展望について、二郎氏自ら語っていただきました。

プロフィール

南雲二郎(なぐも・じろう)

八海醸造株式会社 代表取締役

1959年生まれ。1980年に東京農業大学短期大学部醸造科を卒業し、新潟県醸造試験場に研修生として勤務。1983年八海醸造に入社。2007年に3代目社長として代表取締役に就任。日本酒需要が落ち込む中、「レギュラー酒(※)の高品質化」をモットーに、真摯に酒造りに取り組んでいる。

(※)…八海醸造においてのレギュラー酒とは、普通酒、本醸造酒のことを指す。

創業100年の新参者。市場を求めて関東へ進出

二代目を継いだ父は6人目の末っ子、そして三代目の私は次男。祖父も父も当時にしては自由な発想の持ち主だったので、長男が継がなければいけないといったしきたりは 全くありませんでした。一方、私自身は、子どものころから蔵元の職人たちの姿を見続けて育ちましたから、自ずと酒造りに興味を持つようになり、醸造科に進学、新潟県の醸造試験所を経て、当社に入社したんです。

創業当時、本社がある新潟県・南魚沼(みなみうおぬま)には、老舗の蔵元が数軒ありました。中には何百年の歴史があるところもあります。私たちは新参者。地元には市場がなく、新たな市場の開拓に取り組まなくては成長しにくい環境でした。

そこで2代目は、つてを頼りに群馬、神奈川の問屋に取引を依頼し、関東に進出したのです。ほかの蔵元以上に営業にも力を入れていたので、その後、八海醸造の製品を置いていただける店が増え、徐々に「八海山」の名前が消費者に知られるようになってきたのです。このころから、多くの消費者に八海山の品質を認知していただけることが、当社が長く存続するための道筋だと、先代たちも考えていたんだと思います。

▲創業まもないころの「八海醸造」

3代目として私が酒造りで大切にしていることは、伝統的な技術

伝統とは長い年月をかけて培われたものですから、そこから学ぶことはたくさんあるんです。品質重視の酒造りに徹すること、消費者の生活の中でもっと日本酒を楽しんでもらうことこそ、私たちの役割ではないかと常々考えています。

私たちは日本酒を作る上で「これでよい」と納得したことはありません。常にもっと消費者に愛される良い日本酒を作りたいと社員の誰もが考えています。

「高品質な日本酒」が一般化していくこと、例えばフランスのワインのように、当たり前に「日本酒が食卓に並ぶ」ということを目指しています。

消費者に“良い日本酒”を届けたい

「お米と米こうじだけで作った純米酒でないと日本酒とは呼ばない。」

蔵元によっては、こんな風潮があります。反対に、日本酒は吟醸酒を目指すべきだという声もあります。しかし、レギュラー酒(普通酒や本醸造酒)は純米酒にはないアルコールを添加することで、よりおいしい日本酒になることもあるのです。

誰もが気軽に飲める良い日本酒の高品質化。私たちは、これを使命だと考えて取り組んできました。

そのために、蔵の増設や新設を行い、蔵の職人たちが酒造りに専念できる環境を作っています。そこで作られたレギュラー酒は、純米吟醸や吟醸酒とそんなに大きくかわりません。品質向上だけでなく、提供する価格に関しても誰にでも手に届く価格を維持する。高品質化にかける思いは、必ず消費者に届くと確信しています。

▲「魚沼の里」にある「第二浩和蔵」。大吟醸造りの技をレギュラー酒にまで応用するため、最新鋭の清酒製造設備と長年培ってきた技術によって、高品質な酒造りを行っている

酒造メーカーとして、多様な提案にも挑戦する

日本酒の製造量は1990年ころをピークに落ち続け、今や1/3程度になっています。酒造メーカーの大手20社が約6割の売り上げを占めています。当社は何とか比較的順調に業績は推移してきましたが、それに甘んじることなく、新商品の開発にも積極的に取り組んでいます。

日本酒にこだわらず、そこで培った技術を活用しようと考え、「麹だけでつくったあまさけ」や「八海山泉ビール」などのヒット商品も生まれてきました。また、7月20日には新しく猿倉山ビール醸造所を稼働させ、新しいクラフトビール「ライディーン」の販売も開始しました。

八海醸造の販売会社である八海山では、アルコールのある生活の提案をすることを目的としています。その具現化のためには、多種類の製品づくりをすることが必要なのです。

そこで八海山では、さまざまな日本酒セミナーを開催しています。

日本酒のおいしさの秘密、複雑な「造り」の仕組みをわかりやすく案内するほかにも、皆さんにお酒の「飲み方の流れ」を提案することを目的としています。例えば、最初は泡(ビールやシャンパンなど)、そして純米酒、最後に本醸造酒などといったおいしいお酒の楽しみ方の提案です。

さまざまな提案を行い、消費者の声に耳を傾ける。私たちが作っている商品を肯定するだけではなく、消費者と一緒に問題点を探っていく。そうしていくことが、より親しまれるお酒を造ることに重要だと考えています。

これからも変わらない「地元」の酒造メーカーを目指す

▲新潟県にある「魚沼の里」のマップ

私たちの酒造りの拠点である魚沼にある「魚沼の里」。ここでは魚沼にも興味を持っていただくため、さまざまな活動を行っています。「米、麹、発酵」をテーマに、魚沼の豊かな食と文化を伝える「千年こうじや」、社員が元気よく働けるための「八海山みんなの社員食堂(魚沼)」(もちろん社員食堂は一般のお客様にもご利用いただいています)もその一例です。

さらには、季刊誌「魚沼へ」の発行など通して、魚沼の魅力を発信し続けています。

フランスなどヨーロッパはもとより、米国でも日本酒に興味を持つ人が増えるなど、海外展開にも大きな可能性があります。実際当社の海外進出は米国のある日系スーパーから声がかかったことをきっかけにスタートしました。

その後、流通会社からの支持を受けながら、日本食レストランを中心に販売網を拡大しています。

昨今の日本食ブームに合わせて、海外の日本食レストランが増えたこともあり、八海山の海外輸出は、年平均約10%前後伸びてきているんです。

今後も国内外に日本酒の魅力を積極的に伝えていきたいと思っています。

文:種村俊幸  撮影:平山 諭

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