まんがの楽園「立川まんがぱーく」館長が信じる、まんがの新たな可能性

2010年、東京都立川市は市庁舎をJR立川駅南側から北側に移転しました。南側に残された旧市庁舎を活用するため、市は民間企業から建物と地域を生かす事業を公募、選ばれたのが「まんが施設」を軸にしたプロジェクトです。「立川まんがぱーく」はそのプランを受けて2013年にオープンしました。入館料だけで子どもから大人まで所蔵のまんがを楽しめるスペースとして親しまれ、昨年一年間の延べ来館者数は10万人を突破しました。

一見、行政とは縁遠く見える「まんが」ですが、どのように地域に根づかせてきたのでしょうか。設立当初から館長を務めている福士真人さんにお話をうかがいました。

福士真人(ふくし・まさと)

「立川市旧庁舎施設等活用事業」の公募で選定された企業・株式会社合人社計画研究所に所属。大学時代は建築学科で都市計画を学び、2010年に同社に入社。広島本社で官民連携の施設管理経験を経て、29歳から「立川まんがぱーく」館長を務める。複合施設「立川市子ども未来センター」「立川市市民会館」の指定管理者統括マネージャーも兼務している。

単なる娯楽ではない。学べる媒体として「まんが」を推す

「立川まんがぱーく」は、JR立川駅南口から徒歩13分の場所にある「立川市子ども未来センター」内のまんが施設です。大人400円・子ども200円の入館料を払えば終日館内で4万冊以上のまんがを読むことができます。蔵書は「歴史」「食・料理」「文化・音楽」などジャンル別に陳列。大人向けの資格学習まんがを扱ったり未就学児向けに絵本コーナーを設けたりするなど、幅広い年代が楽しめるよう工夫されています。

現在「立川まんがぱーく」は税金を投入しない指定管理者による独立採算制をとっていますが、設立のきっかけは「立川市旧庁舎施設等活用事業」の公募でした。市が公募するプロジェクトに「まんが」を主軸に据えた提案は反対されなかったのでしょうか。

「市庁舎が立川駅の北側に移動したので、民間企業に旧市庁舎の建物を活用してもらい、南側の人の流れや活気を取り戻そうというのが本事業の目的でした。これは公民が連携して公共サービスを提供するPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)事業と呼ばれるものです。子育て施設や文化活動をサポートするスペース設置など、いくつか市が要望する項目をクリアすれば事業自体は比較的自由にプランニングしていい、という案件でした」

福士さんが所属する合人社計画研究所は「まんが」をテーマにした施設を企画しました。そのほかフットサルやベーカリーをテーマにした競合社のプランもあったといいます。

長いスパンで市民の皆さんに楽しんでいただくにはどうすればよいか考え、行き着いたのがまんがです。まんがなら読むだけではなく派生していろんなイベントやプログラムが企画できます。それに今は『まんがになっていないジャンルはないのでは』と感じるほど題材が広がっていますよね。いろんな分野の方々や企業と一緒に地域を盛り上げられるのでは、という思いもありました」

ただ、市で議論した際は賛否両論が巻き起こりました。市民のための公共施設で「まんが」を大々的に扱ってよいのか、子どもへの影響はどうなのか。

「私たちは、まんがを単なる子どもの娯楽ではなく『学びも可能な媒体』と捉えています。たとえば新しいことを知りたいと思ったとき、テキスト本よりもまんがのほうがはるかにハードルが低い状態でその世界に触れることができます。スポーツや料理もそうですし、資格や技術などもそうです。次への興味や知識へつなぐ効果的な橋渡しができると強く推しました」

懸念を払拭するために協力いただいたのが、すでに同様の施設を成功させている京都国際マンガミュージアムでした。

「京都の施設も学校をリノベーションしたものなので、立川市と状況が似ています。この施設の中には、靴を脱いで家と同じようにリラックスしながら過ごせるという、立川まんがぱーくと似たスペースもありました。立川の行政の方や議員さんたちは京都で視察して『このサービスを立川に持ってきてもいいのか』を検討されたと聞きます」

市と地域を交えた議論の末にプロジェクトは見事採用され、2013年にオープンを迎えました。

広く明るいスペース、昭和の民家を意識した理由

入館してまず感じるのは木材や畳を基調とした懐かしい感触と匂い、大きな窓から入ってくる自然光です。内装にもコンセプトが込められています。

「皆さんがまんがを読むときは、あまりテーブルでかしこまって読んだりしませんよね。部屋で寝転んだりソファでくつろいだりしながら読んでいると思います。あの心地よさを再現するために『昭和の民家』を意識した内装にしました。靴を脱いで畳に触れられるようにし、半個室でホッとできる押入スペースを39個設けました。押入スペースは子どもにも大人にも大人気で、開館前に並んでいるお客様の多くはお気に入りの押入を確保するためにいらっしゃいます」

ここではまるで秘密基地に隠れているような気分を味わえるといいます。多いときは子どもが5人入ってぎゅうぎゅうになりながら読書していることも。子どもたちだけで安心して来られる環境を構築するのも一つの目標でした。

「まんがを自由に読める空間として漫画喫茶がありますが、やはり小学生だけで入るのは難しいでしょう。大人でも漫画喫茶が苦手だと感じられる方もいます。ここは図書館のように誰でも自由にまんがを読める環境にしたいと考え、明るくオープンな空間にしました。シニアの方がお孫さんと一緒に来たり、階下の子育て施設を利用した親子連れが来たりします」

まんがが読めない未就学児でも利用できるように設けたのが、絵本コーナーです。

「絵本は地元の書店から推薦いただき、毎月40冊から50冊ほど購入しています。絵本は買っても子どもが気に入らない可能性があり、単価が高めで気軽にたくさん買うのが難しい商品です。でもここで試し読みをすればお子さんに合った本がわかります。あとで購入する方もいらっしゃるので、書店文化にも少し貢献できているのではないかと思います」

読むだけでなく、イベントでまんがに親しむ機会も

まんがの購入については、利用者からのリクエストと取引書店が持つ全国データを併せて検討します。

「全国の漫画喫茶で検索されたデータを持っている書店があるので、そこへ利用者からのリクエストをリスト化したものを出します。すると『○○は検索1500位、××は検索12000位』など順位を教えてもらえるんです。検索上位は全国で要望が多い本なのでうちでも購入することが多いですね。ただこの施設特有でご要望が多い本もあるので、それはランキング外でも購入します」

まんがにまつわるユニークなイベント開催も「立川まんがぱーく」の特徴です。施設前の広場を利用した「まんがぱーく大市」ではフリーマーケットや大道芸、古書販売などが催され、すでに60回以上の実績があります。施設内のお泊まりイベントのほか、ペン入れ体験ができる教室などまんが作りに興味がある人に向けたイベントも積極的に行っています。

「ただまんがが読めるだけの施設ではつまらないと思っています。せっかくこの場所があるのだから、日本のまんが文化の一つの発信拠点になっていろんな方に協力できるようにしたいですね。まんがを使ってこんなプログラムが組める、こんな働きかけができるというのを実践して広めていく役割も担っていると考えます」

新しい施設を作って人を集めるという目的においては、結果を出しました。

「基本的には市民の皆さんに受け入れていただける施設になり、年間10万人以上の利用者がいらっしゃっているので、ある程度はご評価頂けているのではないでしょうか。最初は設立に反対されていた方も今は『良い施設だよね』とお話しされていて、にぎわいの部分でも一定水準には達したと思います」

しかし、福士さんにはこの先の新たなゴールがあるといいます。

より立川の活性化につながる施設に育てたい

設立から5年経ち「立川まんがぱーく」の存在は地域に馴染んできました。多くの市民の皆さんが施設を訪れ、楽しんでいます。

「これからは更に地域との連携、行政との連携を行い、立川駅南口エリアの活性化の一助となれるよう引き続き努力していく次第です。ぜひ一度来館して、開放的なまんが空間を楽しんでいただきたいと思います」

立川まんがぱーく

インタビュー・文:丘村 奈央子  撮影:菊池 陽一郎

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