ヤフー新社長・川邊健太郎氏が語る―リアルとの融合で、インターネットビジネスはもっと面白くなる

国内最大級のユーザー数を誇るポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を基盤に、100以上のサービスを提供するヤフー。6年にわたって社長を務めた宮坂学氏に替わり、この6月から社長に就任した川邊健太郎氏。

退任発表の記者会見で、社長交代の理由を宮坂氏は「新たな山を登る時期」と説明したが、川邊氏が先頭に立って登るべき、ヤフーの次の“山”とは何なのか。そして頂上を目指す決意を語っていただいた。

ヤフー株式会社 代表取締役社長 最高経営責任者(CEO) 川邊健太郎氏

学生時代に起業し、携帯情報端末から利用できるインターネットサービスの市場創造に携わる。その後に設立した会社が2000年にヤフーと合併。「Yahoo!みんなの政治」「Yahoo!ニュース」などのサービス責任者として活躍後、2009年から12年までは株式会社GYAOの代表取締役社長を務める。年間約100億円の赤字企業を2年で黒字に転換。2012年からヤフーの副社長 最高執行責任者に。2018年6月より代表取締役社長CEOに就任。

ヤフーが次に目指すモバイルペイメント新事業と、データフォレスト構想

――宮坂さんもヤフー社長に就任したのが44歳と若かったですが、川邊さんも43歳で社長を引き継ぎます。インターネットビジネスはますます面白くなる一方で、競争も激化しています。まずは社長を引き継いだ決意をお話いただけますでしょうか。

インターネットビジネスの競争の激しさを指摘されましたが、私としてはむしろこれからは面白さばっかりだと思っています。インターネットが世の中に及ぼしうる影響はますます増えていく。今まではインターネット上に限られたサービスが提供されていましたが、リアルとの融合がこれから増えていくのは確実です。

インターネットビジネスにはまだまだ伸びしろがあり、世の中をさらに変え、人々がより便利に幸せになる。そういう未来を造ることが、私自身のそしてヤフーという企業のミッションだと思っています。

――拡大するインターネットビジネスの中で、重点的にやろうとしていることは何ですか?

引き続き、メディア事業は伸ばしていきます。メディアサービスの利用者が増えれば媒体価値も高まり、広告主も増えるので、ユーザーはサービスを無料で使えるようになる。そして利用者がまた伸びる、という循環関係がある。また、今後は、みんなが同じ情報を見るマスメディア型から、パーソナライズにより私だけのメディア、自分だけのメディアに変わっていきたい。引き続き、力を入れていきます。

加えて注力をしたいのが、eコマースにおけるネットとリアルの融合です。日本のEC化率はまだ5%程度を占めるにすぎない。多くの買い物はいまだリアル店舗で行われています。

このeコマース化を推進することで、お客様の買い物体験をより便利なものにしていきたいと考えています。そこで重要になるのがモバイルペイメントです。すでにインターネット上のお買い物で4000万人以上のユーザーに使っていただいている決済サービス「Yahoo!ウォレット」が今年、リアル店舗での決済にも使えるようになりました。

――モバイルペイメントの普及で、私たちの消費行動はどう変わるとお考えですか?

やはり支払いが非常にスマートになりますよね。例えば、旅行に行ったときに、ホテルのチェックアウト時間がぎりぎりになると、受付で並んでイライラすることがありますが、モバイルペイメントであらかじめ自分のQRコードをホテル側に読んでおいてもらえば、並ばずにホテルを出られ、しばらくすると支払い金額のレシートがスマホに送られてくる。それにOKすれば支払いは完了という世界がやってくるかもしれません。

あるいは、ファストフード店に行く前にネットで注文しておいて、店頭では自分のスマホのQRコードを読み取ってもらうだけで決済完了ということも可能になるでしょう。レジに並ぶというこれまでの当たり前の習慣がガラッと変わるのです。

また、モバイルペイメントでの支払いは、すべてがデジタル化されているため、どのメーカーの清涼飲料水が買われたのかがわかるようになります。企業にとってもマーケティング上の重要なデータが得られ、商品開発やサービス改善につなげることができるようになります。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

eコマース取扱高(物販)、インターネット広告売上収益、モバイルペイメント取扱高でトップに

――川邉さんになってからさらに投資を強めたい領域はどこですか。

冒頭申し上げた通り、インターネット産業はまだまだ伸びていきます。この伸びしろがある中で、投資を惜しんでいたら、未来なんて創ることができなくなります。

未来を創ろうとしている企業は積極的に先行投資を進めています。利益を留保するのではなく投資に回す。我々もその代表的な一社だと思っています。

投資分野については、今、3つのNo.1という言い方をしている。eコマースの取扱高(物販)、インターネット広告の売上収益、モバイルペイメントの取扱高。この3つのNo.1を目指すための投資を強めていくつもりです。それ以外にもヤフーがやるべきサービスの中でよい買収案件があれば積極的に取り組んでいきたいと思っています。

――インターネットビジネスの競争環境ということでいうと、上を見ればテックジャイアントと呼ばれるクローバル企業があり、一方では国内の新興ベンチャーが追いかけてきている状況があると思います。こうした競争環境についてはどうお考えですか。

ヤフーが今グローバルなプラットフォーマーと新進気鋭のベンチャーとの間で板挟みとなっている状況であることは客観的事実ですし、それは社員たちにも伝えています。

しかし、同じように客観的事実として理解してほしいのは、その中でも我々は多くのユーザーの支持をいただいており、その利用者が作り出すマルチビッグデータと言われる多種類に渡るデータを持っていることです。このマルチビッグデータの利活用によって、他社にはできない独自の発展が見込めると考えています。

インターネットビジネスを手がける企業の多くは、もともとは単一のサービスで大きくなってきました。従って、A社にはeコマースのデータはたくさんある、B社には人のつぶやきのデータがたくさんある、C社には人がどんなニュースを見ているかのデータがたくさんあるなど、データが会社ごとに分かれてしまっているのが現状なのです。

――そのような状況下でヤフーとしての強みは何でしょうか。

Yahoo! JAPANの場合はそれぞれの分野でシェアの高いサービスを持っているので、属性の異なる複数の膨大なデータが集積されている。それが強みになります。100を超える多様なサービスを提供し、月間約700億ページビューを誇る日本最大級のポータルサイトであるからこそ、マルチビッグデータが活かされるのです。

決してデータが膨大にあるから有利と言っているのではないのです。それを利活用することができるかどうかが鍵なのです。これまではこうしたビッグデータは、広告のクリック率やeコマースの購入率を高めるなど、もっぱら自社サービスの開発・改善に使われてきました。

しかし、今後は自社内だけでなく他企業をも巻き込んだ形での利活用が進みます。企業間ビッグデータの連携を目指すデータフォレスト構想もその一つです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

ヤフーが目指す「データフォレスト構想」とは?

——ヤフーが目指す「データフォレスト構想」について詳しくお話しください。

これまで外部のお客様に対して、データ利活用の機能を提供しているのは、主に広告などのマーケティング分野でした。それ以外にもデータやAI分析を活用してできることはもっとたくさんあるだろうと考えてきました。

ビジネスのバリューチェーンを見たときに、マーケティングと販売は、最後の出口のところ。その前には、まず組織としての意思決定があり、その後、研究開発やプロダクションと続き、最後に出口となる。

最後の出口に限らず意思決定や研究開発などでも、データの力は活用できるはずです。このような新しい分野でデータの利活用法を事業者や自治体、研究機関などといま共同で実証実験を進めています。将来的にはこれがデータソリューションビジネスといったものに発展していくのではないかと想定をしています。

ビッグデータ連携は民間企業とだけでなく、神戸市や福岡市などの自治体との間でも進んでいます。福岡市とは防災協定を結んでいて、災害が起きたときの避難所のフレキシブルな設置や活用を、データの力でどう解決するのかという課題に取り組んでいます。

自治体にとって、観光地やイベントへの人出がある程度予測できれば、混雑への対策や、混雑による事故を防ぐことができるかもしれません。「Yahoo!乗換案内」アプリでは、電車内や駅の混雑を予測する機能を提供しています。

普段「Yahoo!乗換案内」アプリでA●●●駅に行く経路はほとんど検索されないのに、今度の土曜だけはなぜかすごく検索されている。ということはおそらく土曜日に何かイベントがあってその駅に行く人がたくさんいるということだから、何時から何時の間は混雑するという予測を出すことができます。

マーケティングや広告はもちろん、製品開発や意思決定、さらには社会インフラに至るまで私たちのデータを利活用して、日本中の様々な課題解決につなげていこうというのが「データフォレスト構想」です

データを貯めるだけでなく、それをドリブンする、あるいはそれをエンジンにして新たな価値を創出する。そこにこそ「データに強い会社」になるという私たちの決意が込められているのです。

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取材・文:広重隆樹 撮影:刑部友康 編集:馬場美由紀
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