JALを再生させた「JALフィロソフィ」とは何か? ――“一人ひとりの意識”こそが会社を変えていく

航空業界といえば、今も昔も変わらぬ就職の人気業界。中でも人気1、2位を争っているのが、JALだ。2010年に経営破綻したJALだが、今や見事に復活している。業績はもちろん、サービスのランキングでも好調だ。

エアラインといえばCA(客室乗務員)を思い浮かべる人も多いが、地上職員=グランドスタッフに焦点を当て、JALに幅広く取材して著書『JALの心づかい グランドスタッフが実践する究極のサービス』(河出書房新社)を書き上げた上阪徹氏が、エアライン人気の背景から、JAL再生の裏側、さらには知られざるエアラインの仕事や好印象を作るサービススキルまで、全5回で迫る。
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プロフィール

ブックライター 上阪徹さん

1966年生まれ。89年、早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリー。これまでの取材人数は3000人超。著書に『JALの心づかい グランドスタッフが実践する究極のサービス』『あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1大学になったのか?』『社長の「まわり」の仕事術』『10倍速く書ける 超スピード文章術』『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』『成功者3000人の言葉』『リブセンス』『職業、ブックライター。』など。

JALはサービスでも総合満足度1位に

JALが経営破綻したのは、2010年1月。このニュースは社会に大きな衝撃をもたらすことになった。しかし、それからわずか2年で、JALは史上最高の営業利益を計上し、再上場を果たしている。これもまた、社会を大きく驚かせることになった。

以後、JALは好調な業績を維持している。2017年3月期のグループ連結売上高は1兆2889億円。営業利益は1703億円。この5年を平均すると、営業利益は1800億円台。営業利益率としても14%強で、航空会社としてもハイレベルにある。

もちろん破綻後に人件費の削減、不採算路線から撤退するなど、厳しい構造改革の結果が今につながっているわけだが、そればかりではない。JALは会社として生まれ変わった、と言っても過言ではない、のである。

例えば、サービス力が大きくアップしている。国内最大球の顧客満足度調査「2017年度JCSI調査」で、国際航空部門の「ロイヤリティ(再利用意向)」は5年連続、「顧客満足」でも第1位を獲得している。

また、リクルートライフスタイルの「エイビーロード・リサーチ・センター」が実施した2017年の国際線エアライン満足度調査でも、調査開始以来、始めて総合満足度1位になった。「客室乗務員の接客サービス」部門1位、「空港の航空会社職員の接客サービス」部門でも1位。JALはサービス力で高い評価を得るエアラインになっているのだ。

では、何がJALをこれほど短期間に大きく変えたのか。拙著『JALの心づかい グランドスタッフが実践する究極のサービス』の取材では、JALの誰もが口にしていた。「JALフィロソフィ」である。

京セラ創業者、稲盛和夫氏のもとで

JALの破綻後に大きく変わったもの。そのひとつに、教育への取り組みの充実がある。厳しい経営環境の中、JALはしばらく教育に大きなコストをかけることができなかった。しかし、人への投資は、じわじわとボディブローのように会社に響いていく。

そして教育投資が何を変えていくのかというと、働くスタッフのモチベーションである。これこそが、JALを大きく変えたものだった。この教育の中心に据えられていたのが、「JALフィロソフィ」なのである。

「JALフィロソフィ」は、経営破綻から1年経った2011年1月19日に発表された。言ってみれば、社員の行動哲学ともいうべきものだ。

JALの再生をリードしたのが、京セラ創業者の稲盛和夫氏であることはよく知られている。稲盛氏が、破綻したJALの課題として捉えていたのが、意識の改革だった。リーダー教育を徹底する一方、全社員の意識改革が必要になると考えたのだ。

JALフィロソフィは40項目ある。稲盛氏のリーダー教育に参加していた約50人中、運航、整備、客室、空港、貨物など現場の各部門から10人のメンバーが選ばれ、京セラからアドバイザーも加わり、内容を検討していったという。

現場の各部門のリーダーが中心となって作られただけに、現場に即したものになっていることは言うまでもない。

経営の考え方からリーダーの行動、現場にサービスに至るまで、今のJALのベースになっているのが、この「JALフィロソフィ」だという。自分たちの行動や体現したものが、JALフィロソフィのどこに結びついているのか、ということを、常に経営陣や社員は考えるようになっているのだ。

当たり前のことができているか

では、「JALフィロソフィ」とは、どのようなものなのか。ウェブサイトでも紹介されている40項目のうち、冒頭の一部を紹介してみよう。

第1部 すばらしい人生を送るために

第1章 成功方程式(人生・仕事の方程式)

人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力

第2章 正しい考え方を持つ

人間として何が正しいかで判断する

美しい心をもつ

常に謙虚な素直な心で

常に明るく前向きで

小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり

土俵の真ん中で相撲をとる

ものごとをシンプルにとらえる

対極をあわせもつ

第3章 熱意をもって地味な努力を続ける

真面目に一生懸命仕事に打ち込む

地味な努力を積み重ねる

有意注意で仕事にあたる

自ら燃える

パーフェクトを目指す

他にも「本音でぶつかれ」「率先垂範する」「お客さま視点を貫く」「現場主義に徹する」「成功するまであきらめない」「高い目標をもつ」などがあるが、ざっと斜め読みをしてしまうと、正直、それほど特別なことが書いてあるわけではない、とも思える。果たして、これをベースに行動することで、本当に会社や仕事が大きく変わるのか、と。

実はJALの社内でも、「JALフィロソフィ」教育が始まった当初は、そんな空気が流れていたという。どうして、今さら大の大人がこんな当たり前のこと、道徳のようなことを学ばなければいけないのか、と。

しかし、やがて気づいていくことになる。こんな当たり前のこと、普通のことが、実はできていなかったのではないか、と。教育を通じて、だんだんそれがはっきりとわかっていったのだ。

特別なことが書かれているわけではないと思えるが、よくよく読んでみると、果たしてこれを自分自身が「本当にきちんと」できているかどうか、考えさせられる。自分の仕事に照らし合わせたとき、この通りに行動できているか。フィロソフィ実践のために、どんな仕事の仕方や考え方をすればいいか。

だからこそ、それができるところまで、JALは教育に落とし込んでいったのである。

策定しただけでなく、浸透させていく努力

そしてもうひとつ、「JALフィロソフィ」を策定しただけでは、こんなことにはならない。社内に「JALフィロソフィ」を浸透させるべく、徹底的な取り組みが行われてきたのだ。

例えば、職場によっては「JALフィロソフィ」の1項目を「今日のJALフィロソフィ」に設定して、それについて「こう実行していこうと思う」「こうすればJALフィロソフィに沿った行動になると思う」といった発表を、毎日のように行っている。

驚かされるのは、策定から6年経った今なお、「JALフィロソフィ」を学ぶ教育が行われていることだ。しかし、なんとグループ全社員が年3回受講することになっているのである。

JALグループの社員は約3万3000人。海外のスタッフや外部委託している国内空港のスタッフも学んでいる。フィロソフィの項目ごとにテーマは毎回変わり、これについて2時間、チームに分かれて討議を行っていったりする。

現場での取り組み、稲盛氏の講演、社長のコメント紹介、さらにはディスカッションやワークシート記入など、内容は多岐にわたる。参加者は、役員から新入社員まで階層も職種もその都度バラバラ。しかも5名程度のグループでの参加となるため、みな真剣に教育に向き合う。ここまでやるのだ。そんなカルチャーにJALは変わったのである。

だから、取材で「JALフィロソフィ」の話が出てくるのだ。これがいかに社員を変えたか。「JALフィロソフィ」がいかに大切か。その存在を誇らしそうに語るのである。

そしてJALのサービスレベルを大きく向上させることになったのも、間違いなくこのJALフィロソフィだったのだ。「マニュアルのないサービス」の裏側に、このフィロソフィがあったのである。

次回は、このサービスを実践している、知られざる仕事、グランドスタッフについて、詳しく紹介する。

参考図書

『JALの心づかい グランドスタッフが実践する究極のサービス』

著者:上阪徹

出版社:河出書房新社

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