「アイデア出し算数」で分析する、人気家庭用ゲーム機の機能進化と相乗効果とは?(前編)

いよいよアイデア出しの話をしたいと思います!アイデアは、まさにプランナーの生命線とも言っても過言ではありません。
今回はアイデア出し初期〜中期〜後期、各段階での留意点を整理し、過去に大ヒットとなった人気家庭用ゲーム機を例に、集めた情報をどう調理してアイデアにしていくのかを考えていきたいと思います。

アイデアはプランナーの生命線

アイデア出しはプランナーのタスクの中でもっとも面白くも難しくもある部分です。僕自身、アイデアが浮かばなくてこの上ない不安に襲われ続けたこともあれば、アイデアがいくらでも湧いてきて気分が高揚したような経験もあります。

逆も同様、気分が沈んでいるときには良いアイデアは浮かばない一方で、ポジティブで明るい気持ちのときには良いアイデアが出てきやすい傾向にあります。アイデアは、まさにプランナーの生命線とも言っても過言ではないでしょう。

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環境を整える

アイデア出しにおいては、環境づくりがとても大事です。以下では、アイデア出し初期~中期~後期、各段階において僕が行う環境づくりの実践例も紹介していますが、やり方は決してこれに限ったものではありません。ステージ毎に一定のメリハリを持たせることの大事さをお伝えできればと思っています。

ここに書かれているアイデア出し初期~中期~後期、各段階での留意点を理解していただき、自分自身に合ったやり方を、ぜひ探してみてください。

アイデア出し初期~中期

まったくの白紙の状態から、ああでもないこうでもないと自問自答を繰り返すことで、徐々にターゲットユーザーや主要機能、価格のアイデアが浮かび始めてきます。これが第一仮説であり、この第一仮説を作るまでの作業がアイデア出し初期の段階です。

第一仮説がとても有望で具体性もしっかりしたものに感じられたとしても、アイデア出しをやめることなく続けましょう。アイデアは考えるほど洗練されていきます。

第一仮説が後に何らかの理由により、実現不可能となった際にすぐに代案を準備できなくては、プロジェクトが大幅に遅れることになってしまいます。

このように第一仮説をベースとした検証を繰り返しながら、第二、第三仮説と仮説を強化したり、複数準備したりする作業がアイデア出し中期の段階です。

自分の仮説を否定するような意見や状況に出くわすことも珍しくはありませんが、そういった否定的な意見も(アイデア出し後期に入る前の)初期〜中期の段階ではすべてフラットに受け入れます。

アイデアに乏しい人ほど反対意見を受け入れにくくなり、初期のアイデアに固執してしまいがちですので、そういった意味でもアイデアを多く抱えておくことが大事になってきます。

参考までにアイデア出し初期~中期における僕の実際の環境づくりの例を紹介します。アイデア出し初期および中期の段階では「対話」や「変化」、「行動」を重視しています。

具体的にはその製品に関連しそうな人に出会える場所や、その製品が使われそうな場所に出かけたり、販売店の視察などに行ったりします。オフィスにいる時間が減り、とにかく刺激を求めて移動を繰り返しています。気になる製品やその写真などを配置しながら、デスクの模様替えをするのもこの頃です。

アイデア出し後期

アイデア出し初期の段階を経ることで揃えた情報を、自分以外のプロジェクト関係者とも、これまで以上に積極的に共有しながら、テクノロジーや販売チャンネル、法律、量産性など様々な視点から製品コンセプトに矛盾が生じないことを検証していきます。

製品のターゲットユーザーをペルソナ*まで掘り下げていくのもこの段階です。また、機能の優先度付け、実現方法の検討も行いますし、社内交渉の機会も増えてきます。

アイデア出し初期~中期がクリエイティブで右脳的な作業中心であるのに対して、アイデア出し後期に移行するにつれてロジカルで左脳的な作業の割合が増えてきます。

ペルソナ:属性に沿ってグルーピング化されたターゲットユーザーの具体化を推し進め、年齢、顔、年収、価値観、家族構成などのリアルな情報を与えた1人の人物像

僕の場合、アイデア出し後期ではお気に入りのカフェに入り浸ったり、早朝に出社して誰もいないオフィスでアイデアを掘り下げたりと、環境を「集中」、「リラックス」を重視したものに変化させています。

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アイデアを整理する

前項で話したように、アイデア出し初期〜中期ではアイデアの数が(質よりも)大切です。日々のアイデアを貯めて整理する場所を用意しておきましょう。ノートでもアプリでも構いません。僕がツールを選ぶ際には整理や見直しの作業をしやすくするために、以下の点を重視しています。

1.一元管理が容易であること

ツールの種類を増やし過ぎると、どこに何のアイデアを残したかわからなくなります。

2.一つのツールにアイデア以外の情報を盛り込まない

ツールを一つに絞り込んだとしても、そこにアイデア以外のいろいろな情報も混在させてしまうと、結局特定のアイデアを探し出すのが大変です。例えば、紙のノートブックであれば一冊を、エクセルやテキストエディタであれば一つのファイルをアイデア蓄積のためだけに使用します。

3.フォーマットを揃える

例えば、あるアイデアが記載されたページに価格、ターゲットユーザー、主要機能の順で概要が記載され、別のアイデアが記載されたページでは、これらが逆に記載されるといったようにフォーマットがバラバラだと見直しのスピードが低下し、情報が頭に入りにくくなってきます。

僕はイラストとセットでアイデアを表現することが多かったため、以前はノートを持ち歩くことがほとんどでした。最近は、iPhoneの「メモ」アプリにドローイング機能が搭載されているので、そちらをメインに使用しています。

アイデア出し算数

「アイデア」と「情報」は異なります。情報をプランナーの知識やノウハウで加工することで「アイデア」ができ上がります。

では実際に集めた情報をどう調理するのか、アイデア出し算数を一例に、実際の事例分析も踏まえながら紹介していきたいと思います。

◆足し算

機能や部品を足すという比較的、考えやすいアプローチです。ここでは2006年に発売された、ある人気家庭用ゲーム機を例を考えてみましょう。

少し過去に遡ると、家庭用ゲーム機は特定のゲームのみをプレイすることを対象とし、液晶画面も内蔵のとてもシンプルで携帯型を主流とした時代がありました。

そこから、今回モデルとして例に挙げる人気家庭用ゲーム機への進化に至るまでには、コントロール用のゲームリモコン、リモコンのポインタ機能を実現するためにテレビ側に配置されるセンサーバー、一つの本体上で異なるゲームをプレイするためのカートリッジなどが足されて高機能化してきたことがわかります。

さらに本格的なインターネット接続機能も加わることにより、インターネット経由で本体をアップデートしたり、ゲームソフトを購入したりすることも可能になりました。

このように足し算を繰り返してきたことで、ゲーム機としての本質的な機能強化を重ねています。(下図参照)。足し算は、比較的初心者の方でも理解しやすいメソッドではないでしょうか。

足し算により進化を遂げた人気家庭用ゲーム機

◆かけ算

足し算で加えられたそれぞれの機能単独で成し得る以上の効果を得るといったアプローチです。

そもそも、本機のインターネット接続は、ユーザーが同社のゲームをダウンロード購入するための機能でしたが、最終的にはこの機能を別の方向へ飛躍させ、かけ算的な進化を進めていくこととなります。

そして、メガドライブ、PCエンジン、NEOGEO、マスターシステム、MSXなど他社のゲーム機向けに開発されたソフトまでもをダウンロードして、ゲーム機上で再生させるプラットフォーム機能も加わり、もはや単なる特定メーカーのゲーム機の域を超えた製品へと変貌したのでした。

また、ゲームをコントロールするために開発されたはずのゲームリモコンは、2008年にテレビチャンネル機能が追加されたことにより、ついには本当のテレビのリモコンになってしまいます。そして本機は、ゲームという業界の枠すらも超えたことで、かけ算の効果に拍車がかかっています。

このリモコンによる操作方法自体も非常に興味深いものでした(下図参照)。ゲーム機としての本機の原理を簡単に説明すると、ゲームリモコン先端のCOSMイメージセンサーが、センサーバーから発せられる光を認識。その位置情報を随時、Bluetooth信号で本体に送信するというものです。

この情報をもとに、本体はゲームリモコンの先がテレビのどこを指しているのかを計算して画面に反映させています。しかし、ゲームリモコンにはテレビのリモコンのような赤外線LEDは備わっていません。ゲーム機本体が家電を制御するためのHDMI端子を備えているわけでもありません。

それにもかかわらず、不思議なことにゲームリモコンでテレビのあらゆる操作が可能なのです。その仕組みは、ゲームリモコンでテレビ本体を操作する時に、ゲーム機本体がリモコンからの信号を受信した後、本体と接続されたセンサーバーが赤外線信号を発します。その信号を壁などに反射させることでテレビの受光部に送るというものです。

本来その目的に沿わない複数の機能の相乗効果を利用した新しい機能を実現するという意味において、ここでもかけ算的な発想が用いられていることがわかります。

ゲームリモコンでテレビのチャンネルを切り替えるメカニズム

前編では、ある機能に別の機能を足す(足し算)、ある機能をかけ合わせて新しい機能を足す(かけ算)といった「膨らませる方向」でのアイデア出しを紹介しました。後編では、これとは逆の「絞り込む方向」でのアイデア出しについてお伝えします。

後編に続く

IoT時代の「モノ」プランニング レポート一覧

著者:河村裕司

経済産業大臣登録 中小企業診断士。株式会社コルグ開発部。自社ブランド、他社とのコラボレーションなどにおいて電子楽器のプロデュースを行う。代表作にKORG KAOSS PAD 3、KAOSS PAD mini。VOX Valvetornix、ToneLabなど。担当製品の受賞歴にヨーロッパ最大の楽器見本市Musik Messe主催、Mipa AwardにおいてBest DJ Tool/Software賞、米国DJ Mag紙主催、TECH AWARDSにおいてInnovative New DJ Product賞など。朝日中小企業経営情報センター発行の情報誌「ACC INFORMATION」No38に執筆論文「愛されるモノづくり」を掲載中。Facebookはこちら

イラスト:高田真弓
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