【アイデア出し算数】ターゲットユーザーを限定、機能を絞った製品の価値とは?

製品アイデアを考えはじめると、みんなにとって便利な製品を作りたいと夢がふくらみ、いろいろな機能を足してしまいがちですが、そこには大きな落とし穴が潜んでいます。ユーザーを絞り込んで機能をなくしていくことに、実際にどのようなメリットがあるのか、お伝えしていきたいと思います。

「何でもできる = 何もできない」って、どういうこと?

現代に至るまでの生産の合理化やCPUやメモリーの進化は、機能を加えればコストが上がるという従来までの常識を覆し、機能を足してもあまりコストには影響しないモノづくりを可能にしてきました。

たし算やかけ算のようにアイデアを拡大させる手段は一般的ですが、今回は、最近トレンドとなりつつある割り算や引き算に代表される要素を絞り込むプランニングについて紹介します。

現在、世の中の多くの製品は成熟期を迎えていますが、それでも作り手たちが自分たちの思いつく機能をさらにあれこれと盛り込もうとした結果、生まれたのがオーバースペックの製品たちです。

最近では、画質調整の仕方が分からないテレビが存在したり、何でも調理できるはずのオーブンレンジが夕食を温めるだけにしか利用されない状況は珍しくありません。本来、これはとても由々しきことなのですが、実際にはこのような製品が巷に多数存在しています。

そもそもモノづくりでは、必ずしも大は小を兼ねないことに注意が必要です。無駄に多機能な製品は、ユーザーが行動を起こすたびに各々の機能の評価、選別、比較などをユーザーに強いり、利便性を悪化させます。

多機能の弊害はオーバースペック化に止まりません。機能は徐々に追加されることが多いため、プランナー自身も知らないうちに既存の延長でしか発想ができなくなります。そして、他に解決策が存在するにもかかわらず、新しい視点を持つことが妨げられるという問題を生み出します。

アイデア出し算数(1)「割り算」

割り算では分子と分母の考え方を使って、製品の形だけではなく、その製品が投入されるべき事業領域も含めた検討を行います。

割り算の分子は、例えば「購買者となり得るユーザー」、「役立ちそうな用途」、「要求される機能」などの市場に存在する客観的なファクトです。自社、他社とも同様のものが配置されるため、ここで大事なのはそれを見付け出す目利き力です。

分母は自社が抱える有力な資源、つまり「アクセス可能な市場」、「テクノロジーの優位性」、「活用可能な人材」、「有望なブランド力」といった主観的なファクトとなり、これらは個々の企業の経験や考え方に依存します。

割り算の手順としてはまず分母を決定して、次に分母が活きる領域に限定して分子を絞り込んでもいいですし、分子を並べそこに対応できる分母を考えても構いません。いずれにせよ、このような対応付けの手順を経ることで現実には存在し得ない、「みんなに売れる何でもできる製品」の幻想に惑わされることがなくなります。

正しい割り算によって生まれる製品やサービスは、シンプルである上に、ターゲットユーザーや彼らに対するメッセージが明確であり、プランナーにとって理想とも言える「美しさ」を秘めています。

2005年頃、カメラ市場は成熟を極めた末のスペック競争に陥り、様々な機能が追加され続けた結果、ターゲットユーザーのはっきりしない製品であふれかえっていました。それらのカメラの分子に様々な「ターゲットユーザー」、彼らに向けた様々な「機能」や様々な「用途」が配置されていました。

これを割り算に例えると、分母が考慮されないまま秩序なく分子が散らばっている状態です。結果、市場には余計な機能が無駄に多く、誰のためのものか分からない製品であふれかえるようになりました。

そのような市場に彗星の如く現れ、一石を投じたGoProは、まさに模範的な割り算のあり方を示しています。GoProが割り算の分母に採用したものは、経営資産としての「エクストリームスポーツの知識、ノウハウ」、「エクストリームスポーツに馴染みの多い従業員」、「エクストリームスポーツ市場へのアクセス」でした。

一方、分子として選ばれたものはターゲットユーザーとして「エクストリームスポーツ愛好家」、要求される機能として「エクストリームスポーツにのみ必要な機能」(軽量性、固定バンド、防水ハウジングなど)です。

それを踏まえた製品のプランニングにおいてはズーム、ファインダー、エフェクト、顔検出、マクロ撮影など、他のカメラにはあって当然とされていた機能のほとんどが削ぎ落とされることとなりました(その後、現在に至るまでにいくつかの機能が追加されています)。

これまでに類を見ないシンプルなカメラでしたが、エクストリームスポーツにおいては邪魔でしかなかった機能は潔く外され、必要とされる機能のみが詰まった使い勝手の良いカメラとして、その評判が口コミで広がることとなります。もはや大手メーカーにとっても無視できないアクションカムという、一大市場を築き上げることに成功しました。

アイデア出し算数(2)「引き算」

引き算は、現存する製品から機能を引いていきながら、シンプル化を推し進めるという方法です。販路、人材、ブランドなど幅広い経営資源を考慮する割り算に対して、より製品戦略にフォーカスした発想となっているのが特徴です。一方、割り算と組み合わせて使うことでより効果的なプランニングも可能になります。

ここでは、2007年にVOXが開発を行なった、「amPlug」というギタリスト向けの練習用ヘッドホンアンプを例に挙げてみます。この製品が登場する以前は、ギタリストの練習ツールといえばギターアンプが定番でしたが、この方法には多くのデメリットが存在していました。

例えば、ギターを弾こうと思ったら、ギタリスト自身がギターアンプの近くまで移動する必要がありました。これは電池駆動が可能なギターアンプが限られており、多くは電源タップから電源を引っ張る必要があり、ギター演奏に耐えられる超低遅延のワイヤレスシステムもほとんど存在せず、ギターからアンプの信号をケーブルで送る必要があったからです。

さらに、アンプ本体もそれなりの重量とサイズがあり、本体を身近に移動させることも容易ではありません。しかも、やっとの思いでギターをギターアンプに接続しても、一般的な住宅では同居人や近隣への迷惑となるために、大音量で鳴らすことができません。

ギターアンプの構造上、ボリュームを上げなければ良い音は鳴らせないため、貧弱な音で練習に励まざる得ないギタリストが多いのも事実でした。このような不具合は、ギターアンプが量産され始めた1950年代以降から当時まで改善されることはありませんでした。これらの問題を解消すべくVOXが引き算の発想で開発したのが「amPlug」です。

「amPlug」の開発では、ギターアンプからキャビネット、スピーカー、スピーカーネット、電源トランス、電源ケーブル、金属シャーシ、さらにはギターの入力端子までも取っ払い、アンプの音作りの要となる基板のみがマッチ箱程度の小さな箱に詰め込まれました。

そこにヘッドホンジャックを加え、従来のギターから生えたケーブルをアンプに差し込むのとは逆の発想で「amPlug」に付属したプラグをギターに差し込むためのプラグを付属させることでギターの練習に特化した新しいギターアンプが出来上がりました。

従来のような大きなスピーカーではなくヘッドホンを駆動させるだけであれば電池駆動も可能ですし、ズボンのポケットにでも入るほどに小型化され運搬も簡単です。ヘッドホンを大音量で鳴らしても周囲の迷惑にはなりませんし、アンプをフル稼働させるため、音質も最高です。また、「amPlug」にジャックが付属しているためギターから数メートルものケーブルを伸ばす必要もなくなりました。

今ではamPlugもバージョン2へ進化し、そのラインアップを徐々に増やしながら VOXを代表するロングセラーへと成長しています。

アイデアを出し続けることの大切さ

優れたプランナーは、アイデアの質だけではなく数の大事さをよく理解しています。そして彼らは、ボツとなったアイデアもどこかで役に立つことを経験から学んでいます。

アイデアが多いからこそ、一つのアイデアに執着することなく、あえて否定的に眺めたり、多面的な視点から拡大させてみたり、時には他の人が考えたアイデアを引っ張ってきて自分のアイデアに昇華させたり、それでもダメなら再びゼロから考え直すといったことにも躊躇なく踏み切れます。

今回はアイデア量産のツールの一つとしてアイデア出し算数を紹介させていただきました。アイデア同士は反応するためアイデアが蓄積されるほどアイデア出し算数の効果を実感できるようになります。

アイデア出しを継続することで、チャレンジしはじめた当初の悶々とした状態を脱し、ふっと霧が晴れたような感覚を味わうことがあると思いますが、そうすればしめたものです。その時点から皆さんはプランナーとしての一歩を踏み出しています。ぜひ今日からアイデアを蓄積していきましょう。

IoT時代の「モノ」プランニング レポート一覧

著者:河村裕司

経済産業大臣登録 中小企業診断士。株式会社コルグ開発部。自社ブランド、他社とのコラボレーションなどにおいて電子楽器のプロデュースを行う。代表作にKORG KAOSS PAD 3、KAOSS PAD mini。VOX Valvetornix、ToneLabなど。担当製品の受賞歴にヨーロッパ最大の楽器見本市Musik Messe主催、Mipa AwardにおいてBest DJ Tool/Software賞、米国DJ Mag紙主催、TECH AWARDSにおいてInnovative New DJ Product賞など。朝日中小企業経営情報センター発行の情報誌「ACC INFORMATION」No38に執筆論文「愛されるモノづくり」を掲載中。Facebookはこちら

イラスト:高田真弓
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