1年前のサイト存亡危機を乗り越え、「nanapi」が創業の原点に立ち返った大幅リニューアルへ

2009年にオープンしたライフレシピ情報メディア「nanapi」。約10万件の記事数、膨大な検索流入やPVを誇っていたが、2016年12月に発生した「キュレーションメディア問題」の影響は甚大だった。

サイトをどう立て直すか。試行錯誤の末に決断したのは、創業の原点に立ち返った大幅なリニューアル。この12月に生まれ変わる新生「nanapi」について、プロデューサーの永田ゆにこさんに話を聞いた。

大好きなサイトの制作に関わりたかった

「向こうから歩いてくる人とぶつからずに上手にすれ違う方法」

――現在、Supershipのnanapi編集部でプロデューサーを務める永田ゆにこさんが、熱心な読者時代にnanapiに初めて投稿したのはそんな生活の知恵、ライフレシピだった。

当時はまだフリーのWebデザイナーだった。その後も多くの記事を投稿、読者の「いいね」の反応に一喜一憂する時間を楽しんでいた。

「文章が上手な書き手が多い、読んでいてためになる、編集部と投稿者との間のコミュニケーションが活発。nanapiは2009年のオープン時からずっと好きなサイトでした」

Supership株式会社 nanapi編集部プロデューサー 永田ゆにこさん

好きなサイトの運営に関わりたいと、2010年6月には当時nanapiを運営していたロケットスタートにデザイナー兼ディレクターとして入社。nanapiの集客、マネタイズ、運用、SEOなどに携わり、その後は新規のハウツーサイトやアプリの立ち上げに参画する。

なかでも即レスチャットアプリ「アンサー」から生まれた会話を記事にする「アンサー劇場」は、思い入れの強い企画。チームリーダーとして一からプランニングに関わり、デザイン、グロースハックなどを担った。

「アンサー」が2016年9月にサービスを終了すると、再びnanapi本体の運営に戻ってきた。その頃のnanapiはサイトオープン時とは運営体制も大きく変わり、サイトのコンセプトも微妙にスタート時点とは変化していた。

サービスを維持するためのマネタイズと、nanapiが目指していた未来との板挟みになり、結果、マネタイズ色が強くなってしまっていた。

「目指したのは、まずは記事の数。サイト内の記事量が多いことはSEOの大前提ですから。クラウドソーシングを活用し、とにかく記事を集めました。SEOを強化して、オーガニック検索流入を最大化し、PVを増やすことがプロデューサーとしての第一の目標になりました」

被リンクの獲得、企業とのアライアンス記事などさまざまな施策を繰り出し、実際、2016年中には大幅にPVが増加し、nanapiは順調に成長できていると思っていました。しかし、スタート以来最高のPVを記録した2016年末に、業界を揺るがす大事件が発生する。

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キュレーションメディア問題の影響で下がり続けるPVをどう回復するか

いわゆる「キュレーションメディア問題」だ。医療系キュレーションサイトで、不正確な記事や著作権無視の転用が次々と見つかり、ひとつのサイトだけではなく多くのサイトで同様の記事が見つかり、その影響はWebメディア業界全体に瞬く間に拡大していった。

「nanapi内部でも以前から記事の著作権や医療・美容関連記事のエビデンスについては課題だと思っていたんですが、十分な対応ができていないうちに、この問題が発生してしまいました」

nanapiも医療・美容、メンタルヘルス、妊娠・出産、育児・教育などにかかわる記事で、エビデンスや著作権が曖昧なものを大幅に削除。その数はコンテンツ全体の約12%に及んだ。弁護士を招いて記事ガイドラインを新たに打ち出すなど、対策に追われた。

nanapiはキュレーションメディアではなく、自社編集部がきちんと取材して出稿する記事も多数あった。

だが、関連サイトに吹く逆風の強さには抗すべくもなかった。記事数の削減は、サイトパワーを大幅に減衰させ、検索順位も下降。PVは瞬く間もなくダウンした。

さらにこの悪い流れを加速させたのが、2017年2月にGoogleが実施した、Google検索エンジンのアルゴリズムの変更だ。検索上位に表示されることのみを重視し、記事の内容や質が低いサイトの検索順位が低くなるというもの。

当時、「キュレーションメディア狙い撃ち」とも評された変更で、nanapiの強みだった検索流入はさらに激減した。

「最大の危機でした」と、永田さんは当時を振り返る。

しかし、「どうやって検索流入を回復させるか」とマネタイズに固執する姿勢は変わらなかった。リファラ分析やソーシャルSEO対策の強化など、考えられる手立てはすべて打った。

「でも、検索流入をベースにしたビジネスモデルの再構築はこのままでは無理だという判断がなかなかできなかった」と、当時の心境を語る。

「家が壊れかけているのに、ガレキを除去せずに、その上に住もうとしていた。一旦ガレキを片付けて、土台を作り直すべきだったのに」

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ガレキを片付けるのが先決なのに、マネタイズに囚われていた

コンテンツの重視か、マネタイズ重視か。本来はそれを両立させるのがサイト運営の基本だ。しかし両方を追いかけると、結局一兎をも得ずということになりかねない。

2017年7月、新任の部門統括者から「性急に両立を求めるのではなく、まずはコンテンツを重視した再構築を最優先し、キュレーションや質の低いサイトのイメージを刷新すべし」という判断が下った。

永田さんは、憑きものが落ちたように我に返った。

「nanapiって、もともと読者のことを大切にしていたサイトじゃないか。小さな知恵やアイデアで人々の生活を豊かに潤してくれるメディアだったじゃないか。私もそれが好きだったんじゃないかって」

永田さんを含む、社員編集者、開発者の6名のチームは7月以降、合宿で「これからのnanapiの目指す方向や、ユーザーへ届けたいものは何か」を真剣に議論した。立ち戻るべきは「当たり前をちゃんと」「できることを増やす」という、nanapiスタート時のコンセプトだった。

nanapiはCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)の代表格だったが、11月末にはCGMシステムの閉鎖をこれまでの投稿者全員に通知した。

今後は、根拠の曖昧な口コミではなく、編集者やライターがしっかり取材・体験し、裏付けをとった記事を掲載する。

それはこれまでのナレッジコミュニティの性格を大きく変えるものだったが、そこまで変えなければ生き残ることはできないとチーム全員が考えたのだ。

さらにこれまでの記事、1記事ずつ精査し今後も引き続き残すべきか非公開かの判断を続けていくこと、またUIを全面点的に見直すことも決めた。

「5年後も使えるライフレシピを誠実に作る」――チームが目指した方向性

nanapiはどういうサイトを目指すべきなのか。チーム内の議論を経て浮かび上がってきたのは次のような方向性だ。

一つには「5年後も使えるライフレシピを読者に届ける」こと。「2017年のおせち料理はこれだ!」という、流行に便乗し奇をてらった記事ではなく、おせち料理が本来持つ意味を踏まえながら、おせちの新しいあり方を提案する記事が必要だった。

二つ目は「誰もが再現できるライフレシピを提供する」こと。

「これまでの私たちだったら、例えば『メガネ男子に好かれる10の方法』っていう記事が受けると考えたはずです。しかし、こうした恋愛記事って、誰もが再現できるものではない。今後は、きちんと工程を踏めばちゃんと再現ができる、そして再現性が高まる記事の書き方を強く意識していきます」

そして方向性の三つ目は、これがいちばん大切なことだが、「これらの記事を“誠実に”作る」ことだ。

「たしかにこれまでのnanapiにも、ネットに溢れている情報を再構築しただけのような記事もあり、キュレーションサイトに間違えられても何も言えなかったところもあります。キュレーションメディア問題以降、そうした安易な方法がサイトのクオリティを下げることを、私たちは十分学習しました。

ライターが実際に試してみて、自分の目で確認した上で、そのTIPSをわかりやすく紹介することを、今後は重視していきます。何よりも読者が実際に試して、その結果をレスポンスしてくれ、有益な情報がどんどん蓄積されて更新され続けるような、そこからまた新しい記事が生まれる。そんなインターネットメディアにしかできない循環を目指したいのです。

結果、知の集合かつ実践的なコンテンツを提供することで“ユーザーの成長を支援出来る”メディアを目指したいと思います」

サイトの全面リニューアルで、記事のカテゴリーは、

暮らしのレシピ[暮らし]
まいにち料理[料理]
とっておきの時間[趣味]
ちょっと小話[雑学]
つながる笑顔[コミュニケーション]

の5つに再編される。

これまで3000以上あったサブカテゴリーは全面廃止。それに代わって、読者が自分の目的にすぐ辿り着けるよう、タグの再編集が行われている。

「もちろん、サイトのデザインやUIも大きく変わります。でも、以前からのnanapiユーザーは気づくはず。これは2010年版nanapiのUIを“復刻”したものだからです」

チーム内には「この際、nanapiのロゴも全面的にリニューアルすべきでは」という声もあった。しかし、それだけは永田さんは譲れなかった。名もない一投稿者の時代からnanapiを愛し続けてきた彼女の、それは初心を忘れない、いつでも最初の大好きだったnanapiに立ち返るという思いからだ。

「危機を乗り越えるために、チームが一丸となって考えるようになった。編集者とエンジニアがお互いが互いの領域を細かいところまでカバーしあう。そんないい関係が今は作れています。

もちろん、マネタイズを完全に無視するわけではなく、コンテンツ・リニューアルを経た暁にはもっと大きな収益を生むよう努力します。そのためには、まずはユーザーからの支持があってのもの。マネタイズしか見ていないハックからは何も残らないことが身に沁みて分かったので、それだけは間違えないように進んでいきたい。そのほかに、社内でも様々な部署と連携してやっていきます」

「キュレーションメディア問題」に端を発したWebメディアの危機。その大津波をまともにかぶりながらも、そこから必死で立ち直ろうとしているnanapi。12月20日にリリースされる全面リニューアルに期待が高まる。

nanapi編集部のメンバー

執筆:広重隆樹 撮影:刑部友康

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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