「炎上芸人」「クズ芸人」との異名を持つほど独特のキャラクターを確立し、いまやバラエティ番組に引っ張りだこのお笑いコンビ・ドランクドラゴンの鈴木拓さん。ピン芸人としても波に乗る鈴木さんですが、最近ではNHK朝のテレビ小説「まれ」でヒロインの先輩パティシエ役を好演し、着々と好感度を獲得中!? 2015年5月に出版した初のエッセイ『クズころがし』(主婦と生活社)で披露した独特の考え方や人生哲学も話題となっています。そこで今回、鈴木さんにインタビューし、「才能がない普通の人のための」処世術について語っていただきました!
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「イチかバチか」は危険!? 冷静に自分の能力を分析すべし!
――鈴木さんご自身が「受難の時代」とされているバラエティ番組『はねるのトびら』ですが、番組自体は当時ものすごい人気でしたよね。
鈴木:番組自体は人気でしたけど、俺自身は3カ月に1回ぐらいしか出られなかったんですよ。ゲストのいとうあさこさんのほうがたくさん出ていましたからね。
――芸人として前に出て活躍したいのに、現実は番組に出られない…。鈴木さんが抱かれている理想とのギャップはいかがでしたか?
鈴木:ありましたねぇー。テロップには自分の名前が流れるので、一応出演扱いになってその分のお金はもらっているんですが、「俺、こんなんでいいのかな」というモヤモヤがあって。ロバートの山本くんもすごく面白いのにあまり出られなくて、「どうせダメだし、出るときは怒られるくらいメチャクチャやって、いつでも辞めてやろうぜ」ってふたりで話していました。
――2001年から始まり、長寿番組となった『はねトび』でしたが、2012年に終了してしまいました。いわば安定した仕事がなくなってしまったということですよね。
鈴木:そう、大ピンチでした。収入も5分の1くらい減って、どん底ですよ。でも、今思うとそれがチャンスだったんです。
――どん底がチャンスとは、どういうことでしょうか?
鈴木:自分の中では「クズ」までは行ってないと思うんですが、もともと「毒舌」みたいな部分を持っていたんです。でもそういうキャラを売りにしている人があまりいなかったので、席が空いていた。どうしたら自分はこの世界で勝てるのか、ということを冷静に分析して、勝てそうな部分を抽出してやってみたのが、たまたまうまくハマったんでしょうね。
どんなにダメな時でも、必ず分析はしなきゃいけないと思うんですよ。「この分野なら平均かそれ以上くらいは行けそうだ」など、自分なりに考えることが必要だと思います。もし主観的にしか自分を見ることができないなら、身近な5人に自分の特性を聞けば「秀でている」箇所がわかるはず。もし自分が納得のいかないような回答だったとしても、他人がそのように見ているということは、そこに何らかの鉱脈があるんだと思うんです。その鉱脈を掘り下げて行ったほうがいいんじゃないですかね。何の脈絡もなしに、一か八かで行動するというのは、ほぼ間違いなくうまくいきません。
――苦しい時や失敗した時は、何とか打破しようとして、つい「一か八か」をやってしまいがちですよね。
鈴木:開き直るのも悪くはないんですが、勝算があるところに行かないと。勝算までは行かなくても、ちょっと得意なこととか、好きなこととかでもいいですよ。好きなことだったら長続きしますし。そうすると見えてきますからね。ぐーっとのめり込んでいって、それがバチンとハマれば無類の強さを発揮すると思います。もしくは「楽しいこと」を基準にしてもいいかもしれない。いかに自分の中にあるフックを探すかっていうのが重要だと思います。そういうことって、実はネガティブな人のほうが得意だと思うんですよ。
ネガティブに考えながら前に進む人がいちばん強い!
鈴木:ネガティブな人は常に考えていますからね、不安だから。「ポジティブに、ポジティブに」と言って、寝て忘れてしまうよりは、不安でずーっと考えて寝られない日々を、次に進むステップだと思えばいい。
俺はポジティブよりネガティブのほうがおすすめです。 「ポジティブに行こう」なんて言われると、ぐうの音も出ないでしょ。ネガティブな人は、つい「ポジティブにならなきゃいけない」と思うかもしれないけど、そんなことはない。日本人なんて他の国の人よりネガティブだと思いますけど、ここまで経済成長を遂げてきたわけですから。
――確かに日本人はネガティブ寄りの気質の人が多いかもしれません。
鈴木:そうです。みんなポジティブになったら、逆にこわいですよ。僕はネガティブのままで良いと思います。でもそれは「あきらめろ」という意味じゃなくて、いろんな状況を受け入れながら、いかに考えて先に進むかっていうことですね。ネガティブのまま考え続けて前に進む人は強いと思います。
大多数の「才能のない人」は社会の歯車として生きろ!
――鈴木さんはエッセイの中で「才能のない者は努力をするな」と手厳しいことを指摘されていますが、「負けを認める」ってすごく勇気がいることですよね。
鈴木:確かにプライドが先に立ってしまうと思うんですが、実際に自分がどれくらいの才能があるのかと考えると、そうそうないですよ。才能なんて。もし10年にひとりの天才だったら、周りも認めますし、わがままを言っても通るでしょう。でも最近は個性を大切にしすぎて、団体の強さを忘れちゃっていると思うんですよね。ほとんどの人は才能なんてないですから、社会の中でただの歯車として生きていくかしかない。その中でうまく立ち回って、どうやって上に行くかだと思うんですよ。
――「個性を大切に」と言われても、自分が何をやるべきかわからない人にとっては辛いのかもしれません。
鈴木:本当の天才は自由にやって、個性をバンバン出していいんです。みんなが才能に惚れ込んでついて行きますから。でもそうじゃない人がほとんどなので、やっぱり人付き合いでのし上がるしかないんですよね。
ゲーム感覚で苦手な人を攻略すべし!
――「人付き合いでのし上がる」ためには、具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。
鈴木:例えばですね、「昔は良かった」ってよく言われるじゃないですか。昔が良かったってことは、俺らを否定しているんですよね。「最近の若いヤツは…」なんて言うけど、「その若いヤツを育てた世代はお前たちだろ!」って心では思うんですが、いちいち「こいつ合わねぇわ」って思っていたらつまらないじゃないですか。だから「その人をいかに気分良くさせるか」というゲームに変えるんです。例えば飲みに行ったときに自慢大会が始まったとする。そうしたら「いかに自慢している人を褒めて気分良く帰らせるか」ということを仲間で競争するんですよ。ゲームにしてしまえば、興味のない自慢も楽しくなってきますもんね。
――「やった、自分の言葉で上機嫌になった!」みたいな。
鈴木:「さすがですねー!!」とか言って(笑)。みんな、媚を売るのは嫌いなんですよ。「こんなの本当の自分じゃない」って。でも社会に出ると個々の存在は非常にちっぽけですし、「俺は」という自我が邪魔になる時もある。だから権力者にはとにかく媚を売る。「こいつ、媚売ってるな」と思われても、結果的にはマイナスじゃないんですよね。媚を売っているヤツと我を通すヤツと、どちらがかわいがられるのか。自分に懐いてくるヤツは、部下なら誰でもかわいいはずなんですよ。それに周囲の人も気分良くなってもらえれば、気に入られていろんな人が集まってくる。自分の中ではただゲームに変えているだけなのに、そのうち周りから必要とされてくる。自分だけが幸せになるんじゃなくて、気がついたら周りも幸せになっているというのが、仕事でも商売でも成功する秘訣だと思うんですよね。人に必要とされればされるほど、嫌なことでも楽しくなっていきますし、自分の居場所がわかってきます。
うまく話す必要はない! とにかく笑えば周りが寄ってくる!
鈴木:本当の自分をさらけ出して成功するなんて、ほんの一握りしかいません。もし媚を売ることが難しいなら、愛想笑いでも構わないから、ただ笑っているだけでも良いと思います。養成所時代の話なんですが、仲間と話していると、だんだんみんなが俺じゃなくて、相方に話しかけるようになるんです。全部相方に取られるんですよね。俺はネガティブですから「くっそー! 悔しい! どうせ俺なんて…」と思いながらも、研究は怠らないようにしていました。そしたら相方はね、よく人の話で笑うんですよ。遠くからでも笑い声が聞こえるくらい。人ってやっぱり笑っている人に話しかけたいですし、相手に楽しそうに笑ってもらえると、話す側も気持ちいいですよね。気がついたら人がひとり、ふたり…と相方のほうに行って、最終的には相方が会話の中心になるんです。「あ、これだ!」と思って自分もやってみたら、やっぱり人がぐぐぐぐぐっと寄って来るんですよ。
――つい「何か面白いことを言おう」「自分が話題の中心になろう」としてしまいがちですけど、そうではなく「周りに気分良く話してもらう」ということなんですね。
鈴木:そうです。「笑う門には福来たる」でしたっけ。愛想笑いでもいいから笑っていれば、みんなが寄ってきますし、そのうち「あいつ、愛想笑いして媚売ってるな」なんて斜に構えたヤツを軽く超えて出世しますよ。「あいつがいるとみんなも話しやすいみたいだし、ちょっとポジションを上げてみよう」って。
――確かに「笑い」は最強のコミュニケーションツールかもしれませんね。ところで「自分のことをなかなか評価してもらえない」という悩みを抱えている人も多いと思うのですが、自分を理解してもらうにはどうしたらいいのでしょうか。
鈴木:要は周りと親密じゃないから、認めてもらえないんですよ。本当はどんな実力なのか、傍目からはわからない。「仕事は仕事」と分けずに「友達作り」だと思って、相手と仲良くなって距離を縮めていかないと。仕事の場でも、相手からどれだけ「一緒にいて楽しいな」と思ってもらえるかどうかですよね。嫌みばかり言ってくるような先輩もいるかもしれないけど、冷静に考えればその人も四六時中嫌みを言っているわけじゃない。やっぱり「人は鏡」ですから、自分が嫌だなと思っていたら相手も嫌だと思っているんです。ここは心機一転、自分から声をかけたり食事に誘ってみたりしたら、向こうも「なんかちょっと変わったな」って思ってくれるでしょうし。
目標を明確にすれば、嫌なヤツなんてどうでもよくなる!
鈴木:心の中に必ず何かポイントがあると思うんですよ。例えば上司のことが嫌いだとしても、全部ダメというより「部下に対してはすごく冷たいのに、上司にばかりヘコヘコする」ところが特に許せないとかね。でもこれはあくまで仕事だし、自分の目標を明確にして、相手のダメなポイントだけ割り切れば、だんだん気にならなくなってきて仕事が楽しくなってきますよ。俺も前は「嫌なヤツ多いなー」って思ってたんですけど、こんなふうに考えはじめたら、嫌なヤツが一人ひとり消えていきました(笑)。
――100%嫌いな人なんてそうはいないということですね。
鈴木:そうですね。いたとしても、その嫌いな人のどこが良いのか周りに聞いてみて、良いところだけを見るようにするとか。笑ってごまかしちゃうだけでも変わってくると思いますよ。未来も変わってくるというか。
――鈴木さんご自身も考え方を切り替えて、うまくいくようになった実感はありますか?
鈴木:以前は「結果を出そう」と躍起になって、収録で焦って何もしゃべれずに終わったりしてましたが、今は収録の時にはとにかく笑う。これを心がけたら、本当に司会者の方がちょっとずつこっちを向いて話しかけてくれるようになりました。自分がしゃべれる隙間がどんどんできてくるんですよね。気づいたのは30歳くらいのころですかね。それまでは「本当に面白いこと以外、俺は笑わねぇぞ」って思ってたから。これが遠回り! ものすごい遠回りだった。いつでも蚊帳の外。
正直、今は誰とでも付き合えますもん。「どんな人でも仲良くなる」っていうゲームをずーっとやっていますね。マネージャーさんから「こんな仕事が入ったんですけど…大変ですよね?」って言われても、「大丈夫大丈夫。友達作りに行ってくるわ」って。
――朝ドラの現場は、普段出演されているバラエティ番組の現場からすると、いわば「アウェイ」ですよね。
鈴木:錚々たる俳優さん、女優さんがいらっしゃいますけど、自分から距離を置こうとせず話すようにしてますね。ちょっとバカなフリして近づいて、「中村(敦夫)さん、今度飲みに行きましょうよ」なんて言うと、近くにいる大泉(洋)さんが「キミ、何考えてるの?」って(笑)。だから「大泉さん家で、ですよ」って返して。そうしたら、次から(中村)敦夫さんとふたりきりになっても平気になりますからね。敦夫さんも楽しそうに話してくださって。それでだんだんみんなと仲良くなっていったら、最後の収録の時に(共演している)相方が「なんか知らないんすけど、こいつがムードメーカーみたいになっててムカつくんすわあ!」って言って(笑)。「いや、それはもともとお前のやり方だろ!」っていう。
世にある数多の自己啓発本は「何事もポジティブに!」「プレゼン上手になる!」などと説くものが多く、「鈴木式処世術」とは真逆です。けれども12年ものあいだ苦汁を舐めながらも、今まさに活躍している鈴木さんの方法論は、ちょっとしたことで「ネガティブスパイラル」に陥りがちな時に大いに役立ちそうです。さぁとりあえず、笑ってみましょう!
ドランクドラゴン・鈴木拓さん
1975年12月7日、神奈川県生まれ。1996年、お笑い養成所「スクールJCA」で知り合った塚地武雅さんとドランクドラゴンを結成し、ツッコミを担当。以降、人気お笑いコンビとしてラジオ、テレビ等で活躍。俳優として映画、ドラマにも出演する。2015年5月には初の著書となるエッセイ『クズころがし』(主婦と生活社) を出版。
WRITING:大矢幸世+プレスラボ PHOTO:安井信介