【知ってた?】「記念日マーケティング」驚きの効果とは?――あらゆる記念日の認定登録を行う日本記念日協会に聞いた

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「記念日」と聞くと、何を思い浮かべるだろうか。国民の祝日に制定されているものから、身近なところでは大切な人の誕生日や結婚記念日まで、人それぞれだろう。最近では「付き合ってから○日目の記念日」を恋人同士で共有できるアプリも人気だ。私たちの日常生活に、「記念日を大切にする」という概念は深く根ざしている。

ここ数年、そうした記念日への意識をマーケティングに活用する企業が急増しているという。バックアップするのは、日本中から記念日の申請を受け、認定登録する一般社団法人日本記念日協会(長野県佐久市)。同協会の取り組みは、いかにして始まったのか。代表理事の加瀬清志さんに、これまでの歩みや企業による記念日の活用事例、その意外な効果について話を聞いた。

「記念日のことなら加瀬に聞け」放送作家が作り上げた記念日データベースの力

6月6日。東京・赤坂のホテルニューオータニでは、「つけまの日」制定を記念した登録証授与式が行われていた。この記念日を発案したのは、つけまつ毛などの化粧雑貨を企画・製造・販売する株式会社ディーアップ(東京都港区)。「6」を2つ並べた姿が、つけまつ毛でぱっちりメイクアップした目に見えることにちなんでいる。第1回目の「TSUKEMAクイーン」を選出するイベントも実施され、選ばれたマツコ・デラックスさんが登壇した。イベントには複数のテレビカメラが取材に入り、注目度の高さが伺えた。

この壇上でマツコさんに記念日登録証を渡したのが加瀬さんだ。日本記念日協会の代表理事として、年間約150件の記念日の認定登録に関わっている。そのうち30件近くの認定イベントに足を運び、直接登録証を手渡しているという。

日本記念日協会の設立は1991(平成3)年。放送作家を本業とする加瀬さんは当時、朝のワイドショーなど週に13本のレギュラー番組を抱え、多忙極まる日々を送っていた。「放送作家としての悩みの種はネタ作り。毎日の番組でどんな話題を取り上げるかに苦心していました。困ったときの話題のフックが、“記念日”だったんです」と加瀬さんは振り返る。

たとえば6月10日は、日本初の時計が鐘を打った日であることから「時の記念日」とされている。この記念日をフックにし、「人気の腕時計を探る」「東京人と大阪人の、歩く速さの違いを検証する」といった企画で番組作りを行っていたそうだ。

必要に迫られ蓄積していった記念日の知識は、やがてテレビ業界で有名になっていった。「記念日のことなら、加瀬に聞け」と口コミが広がり、業界関係者からさまざまな問い合わせが入るようになったという。

「気になる人は数多くいるのに、日本には記念日のデータベースというものが存在しなかったんですよ。『それなら自分がやろう』と。協会を作って記念日情報の管理を始めました」

設立してからは、すでにある記念日の登録・管理をスタート。協会のデータベースに初めて新たな記念日を登録したのは、設立翌年の1992年だ。東京・銀座に本店を置く婦人靴店のダイアナが制定した、9月2日の「ダイアナの靴の日」だった。「忘れられない、認定第1号の記念日です」と加瀬さんは語る。

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認知率90%以上!?ポッキー&プリッツの日に見る『記念日マーケティング』の常識外れの効果

やがて、記念日を活用したマーケティング手法や、日本記念日協会の活動が広く世に知られるきっかけとなった記念日が誕生する。1999(平成11)年11月11日に制定された「ポッキー&プリッツの日」だ。この記念日の理由はもちろん、「1」が並ぶ様子がポッキー&プリッツを連想させるから。視覚に訴えかけたことで大きなインパクトがあったのかもしれない。

16年前に生まれたこの記念日は、毎年さまざまなプロモーションイベントで活用され、年を追うごとに浸透していった。加瀬さんがリサーチ会社を通じて行った調査では、一般消費者の認知度はなんと90パーセントに上ったという。

記念日の認定登録を受けると、協会の公式ホームページや月刊機関紙で名称や日付、由来、リンク先などが掲載される。オフィシャルに使用する際は「日本記念日協会認定済」と謳うことができ、マスメディアや広告媒体で実践的に使用可能。また、毎年やって来る記念日を定番化し年中行事にすることで、「ポッキー&プリッツの日」のような認知度向上も期待できる。

さらに記念日の制定によって、社外PRだけでなく社内活性化にも大きな効果を発揮していると加瀬さんは話す。

「日本人特有の謙虚さからか、自社商品を外へ自慢することは少ない。しかし記念日が制定されれば、堂々と外部へPRできる。自社商品が好きになってモチベーションが上がり、記念日に向けてさまざまなアイデアや企画が社員から出されるという変化が起きるんです」

確かに普段、身内のことはことさらに謙遜しがちかもしれない。仕事でPRすることはあっても、「ウチの商品は本当にすごいんだ」と胸を張って語れるかどうか。そうしたある種の曖昧さを取りはらってくれる効果が、企業にとっての記念日効果なのかもしれない。

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運営がわずか3人?たった10万円で大きな効果が狙える「記念日」の活かし方

現在、協会は加瀬さんをはじめ3人で運営している。日々寄せられる登録申請を、毎週月曜日の審査会で認定。単なる登録の可否だけではなく、その記念日を活用してどのようなPRができるかを含めて議論しているという。

前述の「つけまの日」のように、著名人を招いてイベントを開催することで大きなPR効果を生むケースもある。「ポッキー&プリッツの日」のように、毎年さまざまなイベントを企画して世間に浸透させていった事例もある。こうしたノウハウを提供し、「記念日を活用したマーケティングを提案することこそが協会のミッション」だと考えているのだ。

申請に費用はかからない。必要なのは認定登録料として10万円のイニシャル費用のみ。成功した場合の費用対効果を考えれば、安価な投資だといえるのかもしれない。企業の広報・PRに携わる関係者からの相談が増え続けているという。

「いろいろな相談が来ますよ。記念日とは関係のない、マーケティングに関わる相談も多いんです」と加瀬さんは笑いながら話す。さまざまな業界の広報・PR担当者に口コミで広がっていく状況は、協会設立前と同じなのかもしれない。ただ少し違うのは、「マーケティングのことも、加瀬に聞け」。寄せられる相談の幅は広がり続けている。

誰かを思い、何かを応援するためにこそ存在する記念日をどう捉えるか

現在でも放送作家と協会の仕事を兼務し、さらには映画製作にも携わっているという加瀬さん。多忙な毎日の中で、記念日の可能性を追求し続ける原動力は何なのか。

世の中を明るくする記念日を増やしたいと思っています。“母の日”もそうですが、365日考えているわけじゃなくとも、その日だけはお母さんのことを思うでしょう。商品PRのためであっても、その記念日はとても前向きな気持ちで作られている。誰かのことを思ったり、何かを応援したりする日が増えていけば、その分だけ世の中が明るくなっていくと信じています」

今日は、明日は、何の日だろうか。ネットで検索をすればすぐに調べられる世の中。しかしその一つひとつに、制定に動いた人たちの思いが込められている。私たちを明るく元気にしてくれるヒントが、記念日にはたくさん詰まっている。

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加瀬清志氏

放送作家、コラムニスト。一般社団法人日本記念日協会代表理事。1991年の協会設立以降、企業・団体・個人が制定する記念日の認定登録と広報活動を手掛ける。地域活性化や観光をテーマにした講演、著書も多数。

一般社団法人日本記念日協会 公式サイト

http://www.kinenbi.gr.jp/

文・多田慎介

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