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クールビズの起源は“省エネルック”にあり!
1980年代頃まで、衣替えと言えば6月のことでしたが、いまでは5月に衣替えする高校や中学も多いそうです。社会人に衣替えはないのですが、企業によっては、5月から「クールビズOK」になるところもあるようです。いまでは、真夏にきっちりとスーツを着てネクタイを締めている人はかなり減ってきた印象があります。開襟シャツ姿でも、ノーネクタイでも、最近のビジネスの場では珍しくありません。官公庁や大企業では、わざわざ「クールビズ」を奨励して、むしろネクタイをしないように指導しているほどです。
確かに、35度を超えるような真夏日にネクタイを締めるのは苦痛以外の何ものでもありません。しかし、“夏場にすずしい恰好で仕事をしよう”という動きは、30年も前からあったのです。
そのクールビズのはしりと言えるのは、「省エネルック」。1979年に第二次オイルショックを受けて、当時の大平内閣が提唱したものでした。現在のクールビズは“環境に配慮する”という意味あいが強いのですが、オイルショックでの石油価格高騰を意識していました。その姿は、半そでの背広に開襟シャツというもので、言葉を選ばずに言えば非常にダサいもの。当然、政治家が連日のように省エネルックでメディアに登場するものの、全く普及することはありませんでした。涼しさだけを優先して、見た目に配慮しなかったことが失敗の最大の要因だと言われています。スーツを半そでにしただけですから、当時のビジネスマン達も「着たくないな」と思ったのでしょう。
小泉元総理がクールビズ・生みの親!
それから25年が経ち、小泉内閣が「クールビズ」を提唱します。省エネルックとの違いは、環境を重視していること。“節約”を掲げた省エネルックと違い、“地球に優しい”クールビズなのです。また、ファッション性も違います。ただスーツを半そでにしたのではなく、スーツ姿でなくても良く、ノーネクタイ、ノージャケットでも見栄えが良いデザインのシャツ、涼しい素材での生地の開発など、アパレルメーカーもクールビズを商機と捉え、さまざまな商品を投入しました。デザイン的にも、既存のカジュアルシャツなどをベースにすることができ、堅苦しくもなく、崩しすぎてもいなかったのが。クールビズでは「失礼がない程度に涼しい恰好をしていこう」と提唱しただけで、省エネルックのように「ファッションを押し付けなかった」ことが大きな差になっています。
まだまだ「どこでもクールビズ」というわけにはいかない?
現在、認知度は9割を超え、実践率も5割弱と大きな成功を収めつつあるクールビズ。しかし、それに頭を悩ませている人も少なくありません。
多くの取引先を訪問する営業担当は、訪問する企業ごとにクールビズの導入度合いが異なるため、結局、スーツにネクタイ姿を脱することができないという話があります。大手企業の中には「クールビズ実施中」として、訪問客にまでノーネクタイを要求している例もあり、その会社を訪問するときにはネクタイを取るといった手間をかけなければならない場合もあるのです。そのため、一言で「クールビズなんだからいいじゃない」とは言いきれません。「仕事で取引先を訪問するのに、ネクタイもしていないとは失礼だ」という人も確かに存在するのです。
真夏にかかることもある就職活動でも、さすがに企業を訪問する学生がノーネクタイというケースは考えづらいでしょう。確かに法律で決まっているわけではありませんが、「礼を失してはいけない相手にはネクタイ姿が妥当」という意識は根強く残っています。
仕事=スーツの歴史は実は浅い!
そもそもビジネスマンの制服としてスーツが定着したのは、高度経済成長期の1960年代のことなのです。イギリスでは、19世紀までビジネスマンの正装と言えばえんび服でしたが、19世紀末に現在のスーツに変化します。その後、日本にもスーツが取り入れられ、ビジネスマンの制服のように定着したのが1960年代なのです。
それまでも経営者や政治家といった、正装を着る機会が多い人はスーツを着ていましたが、一般庶民は日常的にスーツを着ることはそれほど多くありませんでした。しかし、生地やネクタイ選びなどでファッション性を主張できる一方、決まりきった形で「服選びに頭を使わなくてもいい」ことから、“仕事着=スーツ”が当たり前になっていきます。ふり返ってみれば、“仕事=スーツの歴史”は、日本では半世紀くらいのことなのです。
クールビズの成功は、省エネルックの失敗があったから?
同じような「涼しい仕事着」の提案なのに、省エネルックは全く普及せず、クールビズが普及した理由は何でしょうか。先述のファッション性の有無も大きくありますが、「省エネルックが失敗していた」という理由も考えられます。
なぜかと言うと、クールビズという言葉を聞いたとき、省エネルックを連想した人も多くいました。そういった人にとって、「省エネルックよりは余程マシ」という意識が強く働いたことは想像に難くありません。いきなり「ネクタイなしでいいですよ」と言われても抵抗があるところに、「前にも省エネルックがあった。それに比べると取り入れやすいだろう」と認識されたから、急速に普及したのかもしれません。
いくら節約のためとは言え、ダサい恰好はしたくないとだれしもが思うこと。クールビズの「クール」は涼しいだけではなく、カッコいい=クールという意味も含まれているのかもしれませんね。
監修 リクナビネクストジャーナル編集部