【墨田区の町工場から世界へ!】成田国際空港でヒット中、1足6200円の「ニット製ルームシューズ」誕生秘話

ポロシャツの衿や袖などに使われる「リブニット」を手がけて60余年の小高莫大小工業(こだかめりやすこうぎょう)株式会社。2005年に代表就任した3代目の小高集さんは「下請けからオリジナルブランドの直販へ」をテーマに第二創業を目指した。終わりの見えない繊維業界の売上減の突破口をオリジナル製品に見出そうとしたのだ。果たして2012年、ルームシューズとして使えるニット製草履ブランド「MERI」はスタート。北欧をテーマとしたデザインは40代の女性がターゲットだ。以来、順調に売上げは推移。取扱店舗は大丸東京ほか西武池袋、西武渋谷、海外ではフランス、イタリア、台湾など海外に及び、2014年には成田空港と墨田区両国に直営店をオープンさせた。右肩下がりの業績に苦しんだ町工場が一転して世界進出、国内外で話題に。その裏側にある小高社長の試行錯誤を聞いた。

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■下請けから脱しオリジナル製品を直販。しかし「自分でも買いたくない……」

繊維業界が縮小するにつれて、2002年頃から、僕ら小高莫大小工業は業績が右肩さがり。打開策として考えたのが「下請けから脱却し、オリジナル製品を直販する」という道でした。ところが肝心の売る物がない。僕らの仕事は、ポロシャツの衿や袖などに使うニット製の「リブ」(写真下)の注文を受けて製造し、アパレル資材業者に納めること。リブや生地はあっても製品は作っていないわけですね。しかし、やるしかない。

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僕らは町工場ですから、社内は男ばかり。僕ふくめ社員は6名、だいたいが40代後半の20年選手です。このメンツで「エンドユーザーに訴える新商品を……」とやってもアイデアが出てくるわけがなかった。当初、形にしたオリジナル製品はというと、実にひどいもので(笑)。ブックカバーやティッシュケースカバーなんですが、完成品をみて「これは自分でも買いたくないな」と思うレベルでした。

速く短期間でいいものを作る自信はあります。だけどこれまで、企画やデザインまで自分で考えてつくるということをしてこなかったんです。だから「自分でつくった」という時点で満足してしまう。ニット製の雑貨を作ってはネットショップにアップする、でも販売には繋らない。そんな日々が3年ほど続きました。

「MERI」のヒントは、青森で布草履をつくっている工房さんとの出会いから始まりました。ある日工房から電話がかかってきて「端切れを譲ってください」。話を聞いたら、リーマンショック以降、それまで端切れを譲ってもらっていた縫製工場から仕入れができなくなったというんです。そこでニットの端切れを送ると、そのお礼にと、布草履が1足届きました。履いてみたら、ふかふかしてめちゃくちゃ気持ちいいんです。「これだ!」と。素材はニットだし履き心地はいい、商品として魅力がある。これでオリジナル製品が作れるということで、すぐ青森に連絡して開発を手伝ってもらうことになりました。1年後、「メリヤスぞうり」として販売スタート。デザインは今の「MERI」と違って「草履」という言葉からイメージされる民芸風でしたが、ネットショップで売り出すとすぐ完売、「これはいける!」と手応えをつかみました。

■「いいもの」を「売れるもの」にするためのデザイン

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ただ、当時は1足3700円程度で売っていて、生産は青森の工房にお任せで、月に50足しかあがってこない。1足編むのに3時間、技術を習得するにも1年かかるので、50足が限界だったんです。月の売上げが10数万円では、全然ビジネスになりません。これをビジネスにするには、シンプルに考えて単価を上げるしかない。計算してみると、8000円ならいける、という答えが出ました。正直、高いですよね。でも、たまたま「40代の独身女性はルームシューズに年間5000円かける」というデータを見つけたんです。5000円か、それならプラス1000円、2000円ぐらいは出してくれるかもしれない。そう考えて、40代の女性をターゲットに定めることにしました。

値上げするとなると、その分付加価値をつけなければ。それにはデザインしかないと考えました。どんなに高機能で履き心地がよくても、実際に手にとってもらえなければ伝わらない。一番の褒め言葉は「かわいい」。そうして自然と手が伸びるようなデザインを模索し、40代女性が好む北欧デザインを取り入れることにしたんです。

デザインは、元々ニットの作家でもあったネット通販担当の女性社員がしてくれました。実は私、以前から彼女に「きちんとデザインしましょう」と言われていたんですね。でも僕は根がモノ作りの人間ですから、「デザインみたいな目に見えないところにお金をかけるなんて」とためらっていた。しかも、デザインから一新するとなると、青森の工房頼みというわけにはいかない。東京でも職人を育てる必要がありました。

でも、デザイン以外に付加価値をつける方法が見当たらない。覚悟を決めて外部のディレクション会社にも協力をあおいで、「メリヤスぞうり」の再ブランディングに踏み切りました。北欧デザインを取り入れ、HPをしっかり作った。「メリヤスぞうり」を「MERI」の名称に変えたのもそのときです。こうしてブランディングがはっきりすると、製品づくりも一気に加速しました。これは私たちの本業で培った部分で、決まったものをそれ以上に作るのは大得意。「これがMERI」と線引きが決まれば、後は「がーっ」と勢いに乗れたんです。

■「モノ作りは人が命」をベタにやる会社

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われわれニットの業界では、「自分で商品をつくって自分で売る」のはとても難しいとされています。先人たちは服のかたちまで持っていこうとして、ことごとく失敗している。この業界は基本的に分業制で、私たちならリブニットですし、ボタンだけを扱う会社もあります。同じように服の世界には服のプロがいて、簡単に太刀打ちできるものではないんですね。うちのように、オリジナルブランドを確立して直営店まで持てるというのは、なかなか例がないこと。

それをなんとか実現できたのは、私たちが「手作り」のブランドだからと思います。特別すごい技術ではありませんが、大企業は面倒でやろうとしない。作っても年に何十万足と売れるわけではないから、誰もわざわざマネしようと思わない。スキマの仕事なんです。

ただし人に対する投資は必要です。うちみたいな中小企業が1年間、お金と時間をかけて職人を養成するのは楽じゃありません。でも「MERI」の販路が拡大して生産が追いつかなくなってからは、ベトナムでも職人を養成している。ですから、うちの強さといったら間違いなく「人」です。ここ両国と青森、そしてベトナムの職人さんがいないと「MERI」は作れない。彼らを機械に置き換えられるものではないんです。絶対に「MERI」をマネできないわけじゃないけど、マネするには時間がかかりますよ。「モノ作りは人が命」だと言われますが、それをうちみたいにベタにやっている会社は、案外少ないと思います。

■毎日が初めての連続、「だから仕事が面白い」

私は小高莫大小工業の3代目。もともと会社を継ぐ気は全然なかったんです。男はだいたい、決められた道を順当に歩くのはいやじゃないですか。だけど時代がちょっと悪かった。僕らは団塊ジュニアで人数が多く、受験もとにかく苦労した世代です。バブル景気は僕らが大学を卒業する頃に崩壊、就職は大氷河期時代でした。

僕の夢は昔から一貫して教師になること。でも大学入学で燃え尽きてしまって、ほとんど大学に行かずじまい。3年次に留年したこともあり、その後卒業までの2年間は時間が有り余っていました。同期の連中の就職活動を眺めていると、誰も彼も氷河期で大変そう。そこで思い出したのが、自分には経営者になれるチャンスがある、ということでした。まだベンチャー起業ブーム以前でしたから、社長なんて普通経験できない。これは面白そうだ。そこで会社を継ぐ決意をして、まずは2年間、協力工場で実務の修業をしたんです。

実際、いまとても楽しいんですよ。僕は会社の業績が下げ止まらないなか、2005年に社長を継ぎました。本業のリブニット製造は調子が上向かないままですが、「MERI」は成長して、2013年には小高莫大小工業の売上げの10%を超えました。リブニットと「MERI」、素材は同じニットで作る工程も同じ。違うのは出口です。注文通りに作って業者さんに納めるのか、企画もデザインも全部クリエイトして自分たちで売るのか。そのわずかな違いで、これだけも充実感に違いがあるのかと驚いています。だから僕は「MERI」が面白いし、「MERI」に未来を感じられるんです。

すべてが初めての体験です。毎日毎日、状況が変わっていきます。例えば、「MERI」の後に指割れ靴下のブランド「TUTUMU」もデビューさせました。これは「MERI」が冬に売れないことから生まれたアイデア。草履を温かく履いてもらうには靴下だし、指が割れてないと草履は履けないでしょ? 靴下なんて薄利多売で、繊維業界では新規参入がすごく難しいとされています。でも、うちみたいにデザインと指割れにこだわってやっているところは他にない。1足2000円近くしますが、お客様に「高い」と言われたこともないんですよ。むしろ、好きな人がドンとまとめ買いをしていきます。こんなふうに、次の一手を自分の頭で考えながら進んでいくのが楽しいんです。

■成田空港に直営店「海外展開の新チャネルに」

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2013年は「MERI」のプロモーションに徹した年でした。1月にはパリで開かれた世界的な雑貨展示会「メゾン・エ・オブジェ」に出展、2月には日本の展示会にも出展。そこでフランス、イタリアといった海外のお店や、国内の主要百貨店さんとのお付き合いが持てたんです。2014年7月、成田空港第一ターミナルに初の直営店「meri matka」を出したのも、そのときのご縁。たまたま担当の人が展示会を訪れて、「MERI」をぱっとみた瞬間に「出店しませんか」と声をかけていただいた。

海外展開は最初から思い描いていました。「MERI」は海外でもウケる商品だと思っていますし、小売店に直接販売をしかけることから、国内のみで売上げを伸ばすにも限界があるかも、と。結果的には、海外展開が国内の営業の後押しにもなっています。私たちは特別知名度のない、小さな町工場です。その私たちが、海外の展示会に出たり海外で販売したりという実績は、国内のバイヤーさんに対するアピールになるのです。

ただし海外展開の方法については、今年になって軌道修正しました。海外のお店への売り込みや、海外の展示会、催事場に出展するのは一時休止。というのも、成田空港にできた直営店に集中したい。店舗経営なんて初めてなので、あちこち浮気している場合じゃないとも言えます(笑)。それに成田のお店は面白い。当たり前ですが、オープンしたら4割が海外のお客様で、日本のお土産にと「MERI」を買って下さる。私たちは北欧をデザインのテーマにしていますが、海外の方の目には和の感覚に見えるのでしょう。彼らが思う「クールジャパン」に訴えるものがある、というか。

だったら、しばらくは海外に乗り込むのではなくて、インバウンド需要から海外のクチコミに火をつける手があるなと考えたんです。これから東京オリンピックに向けてインバウンドが増えていくのは確実。成田空港で実績を積み重ねて、インバウンド需要がある交通の要所に出店できればチャンスはあります。例えば羽田空港や、東京駅、品川駅のエキナカを新たな販売チャネルとしたい。期待大です。

取材・文 東雄介

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