【逆転の発想が花開く!】“水滴が服につかない傘”が製品化するまでのドキュメンタリー

 雨が続き、どんよりとした空模様が続く梅雨。米などの農作物にとっては大切な水分補給になりますが、傘の水滴が服を濡らしてしまうなど、困ることもありますよね。
 そんな傘の欠点を解消したのが「UnBRELLA」。従来の傘の持ち手が、反対側の先端に位置し、逆さまに開くような構造になっています。

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つまり、閉じたときに濡れた面が内側になるので、服などに水滴が付きにくくなるのです。また、閉じた状態で、地面に立たせることもできます。今回は製品の生みの親、プロダクトデザイナー・梶本博司さんにお話を伺ってみました。

 ――「UnBRELLA」を思いついたきっかけは?

 30数年前に美大生だった頃、プロダクトデザインを専攻していたのですが“世の中を根本的に考えれば何かを変えられる”と思っていました。例えば傘、はしごなど、人類の歴史の中であまり変化のないものですね。そんな中、電車に座っているときに傘を見て、実はあまり完成度が高くないなと。「持つ部分を逆側につけて、逆さまに開いたら、水滴が服につかないのでは?」といったアイデアがひらめきました。

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 ――「UnBRELLA」というネーミングもステキですね

 さまざまな名称案が出たのですが、ほとんどが商標を取られていました。だったら傘を英訳した“アンブレラ”そのままで行こうかと(笑)。「m」を「n」にすることで、“反対”といった意味合いにもなりますし。また、日本人は傘のことをアンブレラとは呼ばないので、固有名詞化するかなとも思いました。

 ――その後、製品化までの30年間は?

 卒業後はメーカーに就職し、プロダクトデザインを担当していました。その後、独立してとある個展に誘われた際に、あのときの傘を思い出したのです。さっそく、試作を開始しました。

 ――苦労したことは?

 傘の職人さんに相談すると「こんなのありえない」「かっこわるい」などと言われまして(笑)。その方は傘の生地を縫製する職人さんだったので、自分で骨組みを作っていました。でも、素人には限界があったので、骨組みの職人さんを探すことに。ところが「5年遅かったね」と言われてしまいました。その頃すでに、日本には骨組みの職人さんがいなかったのです。ほとんどが中国製でしたので。なんとか中国の傘産業の方と繋いでいただき、相談をし、数カ月後にようやく届いた試作品が、なんと単なる普通の傘(笑)。中国の職人さんが「直しておきましたから」と(笑)。がっかりしましたが、言ったとおりに作ってもらうように頼み込みまして、ようやく形になりました。

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 ――どのあたりが「ありえない」と思われるのでしょうか?

 傘の職人さんたちは、傘をファッションとして扱っているのです。だから、“消費者は色や形を重要視する”と想定しており、「UnBRELLA」のように骨組みが表に出ているのはありえないのだと思います(笑)。

 ――試作品が完成して、製品化までの道のりは?

 アッシュコンセプト株式会社の名児耶(なごや)社長と知り合いだったのですが、何度もプレゼンをしているうちに「売れるかどうかわからないけど、やってみようか!」と男気を見せてくれました。

 まず、300本ぐらいから作ってみようと、大阪の業者さんに相談すると「1200本からでないとダメ」と。そこでまた名児耶社長が「やろう!」と男気を見せてくれまして(笑)。その後、モニター調査で女性を集めたのですが、やはり否定意見ばかりでした。「だったら、もう好きにやろう!」ということになり、自分が好きなブルー系だけを揃えて、ついに販売したのです。

 世の中に出せたときはとても嬉しかったですね。今では販売が追いつかないほど、皆さまから支持していただいています。職人さんのチームによる手作りなので、大忙しのため、色の展開などは今後になります。

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 ――ユーザーからはどんな反応がありましたか?

 服が濡れにくいことだけでなく、傘がそのまま地面に立つことも喜んでいただけていますよ。コンビニのレジやATMなどで、とても便利だとおっしゃってくれます。また「雨の日が楽しみになった」という声もいただきました。これはまったく予想していなかった反応です。“子供の頃に長靴を履けるのが楽しみ”といった気持ちと同じですよね。製品化までにあきらめてしまうきっかけはたくさんありましたが、デメリットよりもメリットが多いことを信じ、世の中に提案したいという気持ちを持ち続けてよかったです。

 

 ――デザインに対する信念はありますか?

 表面的な色や形だけでなく、解決策を見いだせる機能面も補えることが、本当のデザインだと思っています。発明家はデザイン面が乏しくなり、デザイナーは発明的な機能面が欠如しがちです。その両面が共に上手くいったものが、世の中に広まって定着するのだと信じて、いつも仕事をしています。

 信念を抱き続けて、困難に屈しなかった心が、ステキな製品を世の中に送り出したようですね。雨の日が楽しみになり、おでかけをしたくなる傘。多くの人の気持ちが明るくなれるきっかけは、ひとつのアイデアだったのです。近い将来、傘のスタンダードの原型になるかもしれません。

取材・文:八幡啓司  写真提供:梶本博司

 24時間フル稼働のフリーランス生活を送りながらも、12時間睡眠が必須のコピーライター。座右の銘は「いざとなったら、すぐ寝る」。寝ても覚めても、夢の中を生きる。

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