日清食品の創業者・安藤百福氏が、世界初の即席めんを開発したのは1958年の8月25日。齢48歳でのことでした。同氏は自身が残した「人生に遅すぎるということはない」の言葉通り、61歳でカップヌードルを発明し、91歳で宇宙食ラーメン(スペース・ラム)を開発して地球外進出を果たすことになります。
日清食品はその精神を今に受け継ぎ、年間350を超える製品開発、斬新なCM発表と、弛まないチャレンジを続ける企業です。今年3月には社内向けの新しい取り組みとして、東京本社の社員食堂を一新。日本初の株価連動型の社員食堂「カブテリア」をオープンさせました。
株価と社食がどのように連動するのか? 狙いは何か? チキンラーメンは食べ放題なのか? 聞くべきことを絞り込んで「カブテリア」を訪問、広報の大口さんと内田さんにお話を聞きました。
目次
日清食品の社員になったつもりでカブテリアを体験
↑社員証を会計端末にタッチする広報の内田さん
—あれあれ? その社員証のお名前の独特な書体はひょっとして・・・・・
内田:お察しの通りで、カップヌードルのロゴデザインと同じになっています。ロゴデザインをしたのは、1966年大阪万博のシンボルを考案された大高猛さんです。この社員証を入り口の機械にピッとタッチすれば、お会計は終わり。トレーを取って進みましょう。
↑奥には株価を表示するサイネージがある
—ビュッフェ形式なんですね! なんだかうれしくなります!
内田:メニューは主菜3品と副菜3品。ご飯は白米と健康米の2種類から選べます。スープは和・洋の2種で、他に日替わりのラーメンとカレーもありますよ。はやる気持ちはわかりますが、テーブルの下をご覧いただけますか。たくさん器があるでしょう。
↑大きさ、色、質感が異なる凝った器が重ねられている
—お皿がいろいろありますね。ここから好きなものを選ぶのですか?
内田:はい。スプーンなどの小物を合わせると合計で50種以上を準備していて、気分に応じて毎日使う器を自由に変えることができます。当社は食品メーカーですから、トータルで食にこだわっており、そのなかには器も含まれているんです。ちょっとお高いので最初は割れたらどうしようと冷や冷やしました(笑)。
↑盛り付け例の後ろには栄養の成分表を掲示
↑手前にあるのは「鮭の塩こうじ付け焼き」
↑「もやしと水菜のさっぱりおかか和え」、野菜もたっぷり
↑「焼きドーナツ」、デザートまである
—全品を少しずつ盛ったらゴージャスなお膳になりました※。白米だけじゃなく麦飯も選べて、野菜もたっぷりですから、健康に良さそうです。私のような独身者にとってはとてもありがたい。でもこれだけのランチとなると、失礼ですがお高いのでしょう?
内田:ビュッフェで一律600円強になります。一部会社負担もありますから自己負担額は更に下回ります。メニューもこれだけあって、このお値段ですから、社外でお昼を食べる機会が減りました。
※「カボチャのそぼろあんかけ」「もやしと水菜のさっぱりおかか和え」「とろっと玉子のせハンバーグ」「鮭の塩こうじ付け焼き」「ササミチーズカツ」「ざく切りキャベツツナサラダ」「麦飯」「ジャガイモとわかめの味噌汁」、それに「魚介豚骨ラーメン」を一同でシェア
—さすがにチキンラーメンは置いていないのでしょうか?
内田:ありますよ。チキンラーメンミニと、お湯が入ったポットを常備しています。カブテリアの営業時間は11時〜14時のお昼のみですが、それ以外の時間も開放されているので、チキンラーメンを食べながら打ち合わせといった使い方もできます。
↑棚に並ぶチキンラーメンは無料かつ食べ放題
随所に垣間見える“食”と“空間”へのこだわり
↑カブテリアの内観
—それにしても見回してみると広くてお洒落な空間ですね
大口:副社長・COO安藤徳隆のこだわりが随所に活かされています。カブテリアの座席は167席ですが、毎日400名以上が利用しています。12時すぎにはいつも満席になるんですよ。
—照明も少し落としてあるようで、まるで街中にあるダイニング・バーのようです
大口:リラックスしながら食事を楽しんで欲しいので、わざと暗めにして、落ち着いた雰囲気を演出しています。午前と午後で気分の切り替えになると、利用者から言葉をもらっています。また夜にはお酒も販売していますから、歓送迎会や打ち上げに使われることもあります。
↑シックなレンガ壁とロゴにスポットライトがあたる
↑片隅にある優雅なソファー・セットは、なんと安藤百福邸より提供されたもの
↑「非日常的な空間が好きで、おかげで午前と午後の仕事のメリハリがつくんです」と話す財務の新井さん
↑「食生活が変わって野菜をいっぱい摂れるようになりました」と話してくれた日清食品冷凍マーケティング部の高橋さん(写真手前)
株価連動型のイベントは「ご褒美デー」や、 役員が配膳する「お目玉デー」
↑見上げれば日々の株価をチェックできる
—株価と連動する社食と聞いて、てっきり株価がご飯の値段に反映されるのかと思っていましたが、どうやら違うようですね。カブテリアでは株価がどのように反映されるのですか?
大口:当月末日の終値を、前月の平均株価と比較して、上回っていたら「ご褒美デー」、下回っていたら「お目玉デー」というイベントを翌月に行う仕組みをとっています。イベントは概ね月に1回か2回です。
—これまでに、どのような「ご褒美デー」「お目玉デー」があったのか教えてください
大口:従来の社食を大幅改装して、カブテリアがオープンしたのは2016年3月30日です。5月が初イベントで、この時は残念ながら「お目玉デー」でした。照明を通常の半分に弱めて、BGMも暗めのものを用意。メニューが質素なものになり、役員自らが割烹着を着て配膳をしたんです。
↑5月の「お目玉デー」での一幕。役員が質素なメニューを配膳
↑6月の「ご褒美デー」ではマグロがふるまわれた
大口:6月は株価が上昇して念願の「ご褒美デー」となりました。北島三郎さんの名曲“まつり”をBGMに、103kgの本マグロを一匹その場で解体し、おいしくいただきました。「ご褒美デー」はもちろんですが、「お目玉デー」もたいへんな賑わいで、決して重苦しい雰囲気ではなく、役員・社員一同が楽しみながら自社の株価を改めて意識する機会となりました。
カブテリアを通して社員に株価を意識してもらう
↑カブテリアのコンセプトについて話す大口さん
—株価連動型の社員食堂は前例がなく、とてもユニークな試みです。なぜ株価と社食を連動させることになったのかを、カブテリアのコンセプトをふまえながらお聞かせください
大口:「カブテリア」のコンセプトは2つ。1つは「クリエイティブ・ガレージ」、もう1つは「日本初の株価連動型・社員食堂」です。
先に「クリエイティブ・ガレージ」からご説明すると、当社は創業者・安藤百福が、自宅の裏庭にあった粗末な小屋で研究開発に勤しみ、1958年に世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を完成させ創業しました。この小屋=ガレージを意識した空間で食事をすることで創業の原点を見つめなおし、クリエイティブな発想を生み出す機会を創出したいというのが1つ目のコンセプトです。
2つ目の「株価連動型」ですが、当社は中期経営計画で、東京オリンピックが開催される2020年に、時価総額1兆円という目標を掲げています。現在の時価総額は約7000億円ですから、社員が一丸となって取り組まないと達成できない目標でしょう。そこで自社の株価を、社員全員に常に意識してもらう方法として、社食と連動する形がよいだろうとなったのです。何せ私たちは「食」の可能性を追求する企業ですから。
—直接利益に結びつかない部分にコストをかけるのは勇気あることだと思います
大口:改装は大規模になり、小さくないコストがかかったのは事実です。しかし社員にがんばってもらいたいと、会社が本気で思っていることを示すには、必要なコストだと思っています。
—最後にまとめの一言をお願いします
大口:時価総額1兆円を実現するためには社員一人ひとりが、行動に移していく他ないんです。社員一人ひとりが「クリエイティブな発想で新たなアイデアを生み出す」とともに「企業価値向上のために何ができるか」を考えるための拠点として、「カブテリア」が活かされることを願っています。