佐々木俊尚氏を顧問に、オウンドメディアも開設!家事シェアサービス「Any+Times」は、個人のスキル交換プラットフォームとなるか?

人々の新しいライフスタイルとしてシェアリング・エコノミー(共有型経済)が注目される中、2013年に誕生した「Any+Times」。

地域の生活に密着して、ご近所同士のサービス交換を目指す。高度なITテクノロジーとジャーナリストの知見をバックに、シェアサービスの市場を深掘りしていくという。

誰かのニーズと誰かのスキルを、Webとリアルで交換

仕事で毎日遅くなるので、掃除や洗濯をする時間が取れない。そんな悩みを持つビジネスパーソンも少なくないのではないだろうか。ハウスクリーニングサービスはいくつもあるが、安心して頼めて、かつ低コストのサービスはそうそうあるものではない。

「私自身が、便利屋さんを利用することが多かったのですが、プロの業者さんなので、どうしても高くつく。できることも業者によって違うので、自分で選ばないといけない。ちょっとした困り事なら、ご近所の素人さんでも手伝ってくれる人がきっといるはず。“困った”ことと“できる”ことを気軽につなげる地域密着型のサービスがあればいいなと」

株式会社エニタイムズ 代表取締役 CEO 角田千佳氏▲株式会社エニタイムズ 代表取締役 CEO 角田千佳氏

株式会社エニタイムズの代表取締CEO・角田千佳氏が、そうした自分の関心から始めたのが「Any+Times(エニタイムズ)」だ。サイトには「1K程度の部屋掃除 3,000円から」「料理代行5食分 5,000円から」などの基本メニューが並ぶ。会員登録した利用者がフォームから詳細な内容と予算を提示して依頼すると、そのサービスを請け負うサポーターズと呼ばれる会員からレスポンスがある。

「Any+Times(エニタイムズ)」のサポートメニュー例▲「Any+Times(エニタイムズ)」のサポートメニュー例

詳細はWeb上で詰めるが、契約はサービスの利用者と請負者の間の業務委託契約で、エニタイムズはあくまでもそれを仲介するプラットフォームという位置付け。案件が完了すると、成約料金の15%を手数料として、エニタイムズがサポーターズから受け取るビジネスモデルだ。

日常の家事代行、旅行中のペットの世話、家具の組み立て、短時間の語学レッスンなど、「誰かに手伝ってほしいこと」と「自分が得意なこと」が、ネットでモノを売買するのと同じ感覚でやりとりできる。エニタイムズはモノとお金ではなく、サービスとその対価をやりとりするマーケットプレイスなのだ。

役務提供と報酬という関係は相互に変化する。あるとき部屋の掃除を頼んだ人が、次には英会話レッスンを引き受けるという関係もありうる。「依頼側と請負側は対等の立場」というのが基本ポリシーで、互いを評価しあう仕組みは特徴の一つである。

野村證券、サイバーエージェントを経て、2013年に起業した角田氏。慶応大の学生時代には、途上国の自立支援に関心を持ち、インド、フィリピン、アゼルバイジャンまで足を運んだこともある。証券会社では金融の仕組み、インターネット事業会社では事業立案やPR、そしてITを学んだ。

角田千佳氏

途上国支援から目を転じて足下をみれば、日本の地域社会にも“無縁社会”化や高齢化など問題は山積み。社会的課題解決は「いま・ここ」でこそ必要と自覚し、それをビジネス化しようと必死でもがく。

幸い、2013年10月にスタートしたエニタイムズのサービスはマスメディアでも盛んに採り上げられ、順調なスタートを切った。ユーザー数は10,000人を越えた。2014年には独自の「認定サポーターズ制度」や万一の事故の場合の補償制度を導入して、サービスの安全・安心度を高めてきた。

今年3月には依頼のやりとりがリアルタイムで通知されるスマートフォンアプリをリリース。5月には、グリー、DeNAやアトミックスメテディア代表取締役CEOおよびフォーブス ジャパン編集長・高野真氏ら個人投資家を引受先とする、総額2億3000万円の第三者割当増資に成功するなど本格的な成長期を迎えようとしている。

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佐々木俊尚氏が斬り込むシェアエコノミーの世界

エニタイムズは、不特定多数の人々(crowd)と業務委託(sourcing)のマッチングという意味では、クラウドソーシングサービスの一種でもある。先行するランサーズやクラウド(CROWD)などのクラウドソーシング大手は、依頼件数や作業実績数を盛んに競い合う。

Webデザイン、記事ライティング、バグ出しのためのテスティング、翻訳など特定サービスに特化した会社も誕生している。そうした競合にもまれながら、エニタイムズはメディアを通してサービスのブランディングを構築する段階だ。

これまでは角田氏が各種メディアの取材に積極的に応えることで、サービスのPRに努めていたが、最近は「オウンドメディア(自社メディア)」の必要性を痛感するようになったという。

「これまでもサイト内に家事仕事や生活の中で役に立つコツや裏技を紹介するページを用意していましたが、これを一新して、新しいメディアを始めることにしました」(角田氏)と、5月にはジャーナリスト・佐々木俊尚氏を「メディア顧問」に迎え、この夏にも新しいメディアを始める予定だ。

佐々木俊尚氏▲株式会社エニタイムズ メディア顧問 ジャーナリスト・佐々木俊尚氏

佐々木氏といえば、ネットを通して広がる新しい経済や社会の仕組み、メディアと人々のライフスタイルの変化に関心が強いことで知られるジャーナリスト。エニタイムズを、単なる家事代行サービスではなく、シェアリング・エコノミー(共有型経済)というより広いトレンドの中で捉えようとしている。

そもそも佐々木俊尚氏が角田氏と知り合ったのも昨年開かれた「SHAREカンファレンス」の懇親会。シェアサービスやシェアエコノミーへの関心は互いの共通項だったのだ。

「Airbnb、Uber、Lyftなど世界的にいまシェアサービスが広がろうとしていますが、エニタイムズは、個人と個人のスキル交換のプラットフォームを提供しようというところが新しい。世界的にもあまり例がない。ビジネスとして先行者メリットを得られる未知の市場」と佐々木俊尚氏はエニタイムズの事業を評価する。

だが、佐々木俊尚氏が可能性を感じるのはさらにその先。エニタイムズのようなシェアサービスが内包する社会的意義だ。

「部屋の掃除一つとっても実は簡単な仕事ではない。フローリングの掃除の仕方にもコツやノウハウがある。依頼者とサポーターが同等の立場でスキルを交換するとき、そこには互いのスキルへのリスペクトが生まれ、知見をやりとりするなかから新しい物語が誕生する。それをメディアで紹介することで、シェアサービスの意義をより深く知らせることができるのではないか」と、メディア顧問を引き受けた理由を語る。

佐々木俊尚氏にはシェアサービスの普及が日本の共同体概念を変えるきっかけになる、という予感もあるようだ。

佐々木俊尚氏

「例えば、子育て中の若いお母さんが、空いた時間に独居老人の買い物を手伝うというように、見知らぬ人同士の出会いがこのプラットフォームから生まれる。遠い家族に手伝ってもらうより、近くの他人に手伝ってもらったほうが気軽な場合もある。近年、家族崩壊が言われるが、こうした1対1の関係が、n対nに拡張すれば、サービス共助を通して再構築される新しい家族像、共同体像が見えてくるかもしれない」

宿泊先提供にしてもタクシーシェアにしても、一般に、シェアサービスは都市型のサービスとみられがちだが、佐々木氏は「実は、地域社会のつながりが希薄になりつつある郊外でこそ、普及するのではないか」とも言う。佐々木俊尚氏の関与を通して、エニタイムズはより奥行きの深いサービスに成長し、世界を変えていくかもしれない。

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複雑なソーシャルグラフ分析が、新しいコミュニティの基盤に

こうしたサービスの発展を裏方で担うのがエンジニアだ。
「Webサービスは仮説ー実装ー実証のサイクルを繰り返して成長します。これまでの実務を通してその経験を積んだエンジニアが欲しい」と言うのは、CTOの田中悠樹氏。

田中悠樹氏▲株式会社エニタイムズ CTO 田中悠樹氏

「現状のマッチング機能はシンプルですが、成約案件が増えるにつれて、AIやビックデータを活用した、より精度の高いマッチングが求められていきます。さらに佐々木さんが指摘したような1対1のスキル交換が『n対n』のコミュニティへと広がっていくためには、膨大なソーシャルグラフをシステム的にトラックすることが不可欠。

しかも、私たちのサービスはWebだけで完結するものではなく、リアルな人間関係も含んできますから、システムはより複雑になります。そこに挑戦して、日本におけるシェアサービスの発展を自分の目で見たいという人とは、ぜひ一緒に仕事をしたいですね」と、求めるエンジニア像を語る。

田中氏は前職がゴールドマンサックス証券のエンジニア。角田千佳CEO、鍬野槙彦CFO、彌野正和COOなど統括メンバーの面々は全員、大手金融企業を一度体験している。企業ファイナンスや金融テクノロジーの知識をバックグラウンドにできることは、今後の会社の成長の上でも有益だ。

さらにいえばエニタイムズは、金融からソーシャルサービス、あるいはシェアサービスへと移りゆく、20~30代のエリートビジネスパーソンたちの、関心の流れの中で誕生した会社とも言えるのではないだろうか。

記事出典:CodeIQ MAGAZINE EDIT:馬場美由紀 WRITING:広重隆樹 PHOTO:平山諭

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