【20代の不格好経験】好きで目指した映像の世界で才能の限界に気付く。そこから180度方向転換し起業家の道へ~Viibar(ビーバー)代表取締役 上坂優太さん

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今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいた経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、そんな「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第12回:株式会社Viibar代表取締役 上坂優太さん

ピクスタ株式会社代表取締役 古俣大介さんよりご紹介)

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(プロフィール)
1984年生まれ。映画監督を志し、大学時代には映画製作に没頭。卒業後は映像制作会社に就職し、AD、ディレクターとして3年間TV番組やCM等の制作に携わる。その後、楽天に転職し、営業、マーケティングを経験。2013年4月に動画制作クラウド「Viibar」を手掛ける株式会社Viibarを設立。

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▲動画を作りたい企業と、ディレクターやカメラマンなどのクリエイターをつなぐ動画制作のプラットフォーム。中間業者を減らすことでコスト削減が図れるうえ、プロのクリエイターに直接発注できるので互いの顔が見える安心感もある。現在、2000人以上のクリエイターが「Viibar」に参加している

■周りは全員無類の映像好き。彼らほど情熱を燃やせない自分に気づく

 元々は映画監督志望。大学時代は仲間たちと映画製作に没頭し、脚本を書いたり監督をしたりと積極的に活動していました。自分たちで撮った映画の上映会をして、観客の反応を見るのが楽しかったですね。
 卒業後は、映画以外の映像業界も見てみたいと、TV番組やCM制作を手掛ける映像制作会社に就職。映像に係るさまざまな分野を経験し、知識をつけてから、映画監督を目指そうと考えたのです。

 映像制作の現場は凄まじかったです。ある番組のADとして昼夜なく働き、寝る暇もない。でも、初めは本当に楽しかったです。ADには、「まずはディレクターになる」という目標がある。私もその目標に向かって、目を輝かせながらがむしゃらに頑張りました。ディレクターになれば、その先にある夢が見えてくるのではないかと。

 でも、ようやくディレクターになったとたん、予想に反して急に先が見えなくなってしまいました。
 AD時代は、番組づくりの補佐という立場でした。でも、ディレクターになればある程度、自分の裁量で番組の演出や企画に関われるようになります。その立場になった時に、自分の才能の限界に気づかされたんです。

「好き」というのは才能を形成する最大の要素だと思っているのですが、当時、私の周りは「映像が好き、TVが好き」という人ばかりでした。好きな仕事だからこそとことんまで頑張れるし、こだわれる。そして、好きなこと以外…例えば勤務時間が異様に長かろうが、寝られなかろうが、労働環境が悪かろうが、そんなことは全く問題にならない。彼らほどには映像制作に魂を込められない、情熱を燃やし続けられないと悟ったのです。大好きで、極めたいと思っていた映像分野で、もう戦えない…私にとっては大きな挫折でした。

■弱みと強みは表裏一体。全体を俯瞰できることが強みだとわかる

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 かといって、どんな分野に行けばいいのかもわからない。映像制作会社を辞めるまでの1年間は毎日が憂鬱でした。周りの同僚や先輩のように、とことんまで映像制作に打ち込めない自分を責めることもありましたね。

 ただ、そんな中で、ふと「弱みと強みは表裏一体ではないか?」と考えるようになったんです。周りが制作にひたすら集中する中で、私は一歩引いて全体を俯瞰していたので、業界にはびこる“非効率”に早くから気づいていました。無意味なヒエラルキーで現場の生産性が著しく低下していたり、劣悪な労働環境が放置されていたり、業界の多重な下請け構造があったり…誰もが「映像業界とはこういうものだ」と思っているから何も変わらずにいましたが、私の頭の中には「こうすれば効率化できるのでは?」というアイディアがどんどん浮かんでいました。こういう「一歩引いて全体を俯瞰し、課題を見つける力」は自分の強みなのではないか?と思うようになったのです。

 また、挫折を経験したことで、「作られたレールの上を歩くのは性に合っていないのではないか?自分で新しい“しくみ”を作るならば、起業するのがベストではないか?」という思いが生まれました。そこで、「映像業界を飛び出し、全く別の世界で自分を鍛え30歳までに起業しよう」と決意したんです。

■これまでの映像制作の仕組みでは、クライアントニーズに応え切れない

 次のステップとして選んだのが楽天です。別に企業に務めなくても、海外に行ってしばらく放浪するという選択肢でもよかったのですが(笑)、たまたま縁があって入社しました。ネットについても、ビジネスについても全くの素人を、よく採用してくれたと今でも思います。
 楽天では、カルチャーショックの連続でした。映像の現場に比べて、ITの世界はなんてフラットで効率的なのだろう!と驚きましたね。

 初めの1年弱は、楽天市場の店舗開拓営業を担当。営業をしたのは初めてですが、「ここで圧倒的な成果を出せなければ起業しても成功できるわけがない」という背水の陣で臨んでいたので、がむしゃらに働いてトップの成績を獲得。その実績を買われて、マーケティングやPRの部署に異動させていただき、楽天市場や、グループ全体のマーケティングに携わらせていただきました。

 チャンスは急に訪れるものです。その頃、テストマーケティングを除くと、楽天では初めてのマス広告となるキャンペーンを「楽天スーパーセール」でやることになったのですが、当時は社内にTVCMの知見がある人がいなかったんです。そこで、マーケティング部長のもと、私が担当として数億円規模のバジェット(予算)を預かることになりました。
 当時はまだ28歳、ものすごいプレッシャーでしたが立ち止まっている暇はありません。TVCM、Webキャンペーンなど、さまざまな取り組みを実行しました。広告代理店など関係各所のたくさんの人とやりとりをしましたが、その中で、ある課題が見えてきたのです。「動画を活用したキャンペーンがTVCM以外、ほとんど成立していない」という課題です。

 発注主の側からすると、TVCM以外にもオンラインでもリッチな動画キャンペーンを展開して、広告効果の最大化を図りたいのですが、そもそも制作コストが見合わない。TVCMのような予算感で作ると最低でも1000万円はかかってしまいます。私は、少し前まで「向こう側(=制作側)」にいた人間だから、この点に引っかかりを持ちました。

 これからはTVだけでなく、オンラインでの動画広告がますますポピュラーになる。でも、これまでの供給の仕組みでは、クライアントのニーズに応え切れない。撮影や編集機材にも技術革新が起きていて、以前よりはるかに低コストで高品質の動画が制作可能なことは気づいていました。ここに、需給のマッチングの仕組みをつくれば、今まで使えなかった領域でも動画が使えるようになる世界が実現できるのではと思いました。

■「好きな方」を選べば、壁にぶつかってもきっとやり切れる

 当時は業務と並行して、ビジネススクールに通って「起業の芽」を見つける努力を始めていました。ビジネスアイディアをそれこそ100以上考え、その中でも筋がいいと思えるものをブラッシュアップし、先生やビジネススクールの仲間、起業家の先輩などを相手にプレゼンして意見をもらっていました。そうして、「このビジネスで行こう」と思えるものをようやく定めたところだったんです。

 ただ、そのアイディアは周囲からの評判もよく筋もよさそうだったのですが、結果的にはそれを捨てて、自分の原点である「映像制作の新しいしくみ作り」をビジネスにしようと決めました。なぜなら、前者を選んだら、もし将来うまくいかなくなった時に踏ん張り切れず、きっと諦めてしまう。でも、後者ならば、たとえ壁にぶつかっても、やりたいことだからやり切れると思えたんです。

■道に迷ったら、思い切り逆サイドに振る。振り子の振幅は大きい方がいい

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 そうして立ち上げたのが、動画を作りたい発注主と、ディレクターやカメラマンなどのクリエイターをつなぐ動画制作のプラットフォーム「Viibar」です。企業は、国内外の優秀なビデオクリエイターに直接仕事を発注できるので、これまでの業界では不可能だった高品質・低価格の動画を制作することが可能になりました。 また、登録クリエイターは、直接仕事を受注でき、「Viibar」が提供するオンライン制作支援システムによって、効率的な制作が可能になります。

 映像制作会社時代に感じていた課題が、全く違う畑だと思っていた楽天でビジネス化できることに気づき、そして今がある。当時は一つの「点」にすぎないと思っていた経験が、知らず知らずのうちにつながって一本の線になりました。どんな挫折経験であっても、人の経験というものに決して無駄はないのだと実感させられましたね。

 あくまで自分の経験をもとにした個人的な意見ですが、挫折したり、道に迷ったりしたら、「思い切り逆サイドに振り切る」のは一つの方法かなと思っています。

 多少無茶な選択であってもいいと思います。北野武が「振り子の話」をしていたのですが、彼は自身が監督する映画の中で、暴力の表現を鮮明にするために笑いの要素、つまり全く逆に振り子を振っておくという。これは、彼がコメディアンと映画監督という両端に振っていることと無関係ではないと思います。結局、人が世界に与えられるインパクトはその振幅が大きいほど強くなるのではないか、と僕は考えています。「これだ!」と信じて本気で打ち込めば、たとえそれが方向違いだったり、失敗に終わったとしても、本気で取り組んだ経験は自分の中に価値として残ります。複数の打った点が、それぞれ全く別方向に見えても、その経験は振り子のように真ん中に戻ってきて、将来振り返ってみた時に、太くしっかりとした線(キャリア)になっているのだと思いますよ。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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