バルミューダが倒産の危機を乗り越えられた理由とは?寺尾社長インタビュー

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自然の風を再現した扇風機。3万円という高額にも関わらず、1万2千台の大ヒットとなり、業界に旋風を巻き起こした。開発したのは、街の小さな家電メーカーのバルミューダ。社長の寺尾氏は、ミュージシャンから転身して起業家になったという異色の経歴を持つ

可能性を狭めたくないから、高校を中退し、放浪の旅に

私が一番大切にしていること。それは人の可能性です。財産をすべてなくしても、健康を損ねてしまうことがあっても、さまざまな可能性はある。それを狭めてしまうことはしてはいけない。それは昔からずっと思ってきたことです。

高校2年生の時、文系か理系かの進路の選択を迫られました。その選択をすることは、その後の人生をかなりの部分で決めてしまうでしょう? 自分は何にでもなれる可能性があるのに、ここでその選択をしてはいけないと。それは可能性に対する冒涜だと思ったんです。結局、進路欄に文系か理系か記入することをせず、退学届を提出しました。

可能性を狭める社会にいてはいけない。そう考えた私は、旅に出ました。親は後押ししてくれましたよ。もともと「人と違ったことをしろ。常識を疑え」。というのが親の教育方針でしたから。

行き先はどこでもよかったんですが、当時は勇気の足りない自分が嫌でね。叩き直したかった。それで、好きだったヘミングウェイの著書に登場するスペインに行って、そこから地中海沿いを1年かけて回りました。ほとんど駅や公園で野宿して。そんな生活を1年ほどしていたら自分に自信がついたので、帰国することにしました。旅で身に付いた知恵と価値基準を日本で試してみたくなったんです。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

自分は何があると動くのか。価値観にそって行動するといい

自信満々で帰国した後、何をしようかと考えて。何にでもなれると思ってましたからね。文章を書くのが好きだったけれど、詩人は地味でしょ。じゃあ、ロックスターになろうと。ギターを買って、コードを4つ覚えて、曲を作ってね。レコード会社に送ったんです。そしたら、あっという間に大手レーベルからデビューが決まって。天才なんじゃないかと思いましたよ(笑)。

でもね、そんな簡単に活躍はできないんですよ。悩みましてね。売れたい一心で、実績のあるプロデューサーの言うままに曲を書いたんです。初めて人の言うことを聞いて動いた。そしたら、大失敗したんです。

でき上がった曲をながめてつくづく思いました。「自分を曲げてはいけないな」と。その信念は今でも変わらず自分の中にあります。どんなに厳しい状況でも、自分を曲げない。貫き通す。人によっては他人の言うことを素直に聞いたほうがいい人もいるかもしれない。でも、私の場合は自分を曲げないほうがうまくいくんです。

もうひとつ、自分の行動の基盤になっていることがあります。それは、「人に褒められたい」ということ。今振り返って見ると、全部そうなんです。人に褒められたくてミュージシャンになったし、人に褒められたいからものづくりを始めた。ミュージシャンからメーカーを起業するなんてすごい転身ですね、とよく言われますが、自分にとっては自然の流れです。バンドでやり尽くしたから、次を探した。そしたらたまたまものづくりと出会った。それだけです。人から褒められるために、ギターからドライバーへ武器を持ちかえただけのことなんです。

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ミュージシャンとして、これ以上することがないと感じた寺尾氏が次に取り組んだのは、ものづくり。たまたま出会ったオランダのデザイン誌に触発された彼は、町工場に飛び込み、基本を学ぶ

8,568通り、あなたはどのタイプ?

世の中に必要とされるものじゃないと、爆発的なヒットにはならない

電話帳で近所の町工場を調べて、片っ端から飛び込みました。そのなかに機械の使い方を教えてくれる工場があって。足りない部分は本をたくさん読んで学びました。

製品第一号は、ノートパソコンの冷却台。その後、1000ルクスという実用的な明るさを持つLED卓上ライトも作りました。自分の作りたいものだけを作っていたんです。たいして売れなかったけど、会社の規模も小さかったから、それでなんとかなった。でも、リーマンショックがきて、商品が全く売れなくなって会社が潰れそうになったんです。倒産寸前まで行きました。そこで考えたんです。なんで自分たちの商品は売れないんだろうと。

人間、困らないと考えないんですね。普段も考えていたつもりだったけど、そんなんじゃ足りなかった。追い詰められて必死で考えた末にわかったことは、「人に必要とされるものじゃないと売れない」ということです。

パソコン台もLED卓上ライトもデザイン的にも機能的にも優れていますが、余裕があるから買われていたんですね。それは不況の波が来たら一気に買われなくなる。自分たちの作ったものを買ってほしいなら、世の中に必要とされるものに仕立て上げなくてはならないんです。

困った時が学び時。倒産の危機が大切なことを教えてくれた

今、私たちにとって必要なものは何か。社会問題に焦点を当てると答えが出てきました。それは地球温暖化と化石燃料の枯渇です。社会に蔓延するこの2つの不安を解消するには、どんな製品が役に立つのか。それが扇風機だったんです。

温暖化で気温はどんどん上昇しています。もうエアコンの時代ではない。そんなときに消費電力が少なく、自然の風に近い風を送る扇風機があれば売れるに違いない。倒産寸前まで追い込まれてから1年。試行錯誤して製品を開発しました。

もう一つ、加味した点があります。それはポピュラリティです。人類の7割がいいと思うだろうという感覚。それをデザインに加えました。多くの人に使ってほしいと思ったら、この感覚を大事にしなくてはいけない。以前のデザインは「自分がかっこいい」と思うことが基準でしたから、これも大きく変わった点です。

倒産の危機は、私に大切なことをいくつも教えてくれました。やはり困った時が学び時。ピンチはチャンスなんですよ。

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LED卓上ライト「Airline」 扇風機「GreenFan Japan」

自分が一番大切にしたい「価値観」を見すえ、それ以外はすべて捨てる

失敗で学べるのは、ビジネスの面だけではありません。人間の内面もそうです。自分を曲げないで、人に褒められることは何か。私の場合は、この2つがそろうとものすごい力が発揮できる。でも、これはあくまで自分の場合です。人それぞれ価値観がありますから、自分の価値観にそって仕事を選ぶことが何より大事なんだと思います。

それが顕著に出るのが失敗したときなんですね。失敗したとき、人は個性が出ます。だから、「なぜ、そんな失敗をしてしまったのか」を考えてみると、自分の価値観の核となっていることが浮き彫りになってくるんです。

やっぱり、失敗はチャンスなんですよ。仕事でも人生でもいいヒントをたくさんもらえるんです。でも、活かせない人が多いですよね。失敗すると落ち込みますからね。冷静に自分を見つめるなんてなかなかできない。そんなときは、自分の人生を上から見てみるといい。失敗すると、「今」しか見えなくなるでしょう? 目の前のことだけみて、なんとかしようともがいてしまう。でも、それではいつまでたっても抜け出せない。自分の人生を長いスパンでとらえて、「今はこういう局面なんだ」と考えると、冷静になれる。客観的に今の状況を見ることができます。そうすると、失敗から「自分の価値観は何か」など、いろいろなことを学ぶことができるんです。

いい仕事が見つからない、という人は、「一番大切にすべき価値観」がわかっていないんです。望みが多すぎるんですよ。迷う場合は大抵、複数のことを望んでいる。取捨選択ができていないんです。「かわいくて上質で安い靴が欲しい」とか、「かっこよくて安くて燃費が良くて大きな車が欲しい」とかね。そんなもの探したって見つからない。自分の希望を分解して、本当に欲しいもの一つに絞って、後は捨てたほうがいい。

「楽」という字があるでしょう?「楽」っていう字は「らく」と「たのしい」2つの読み方があります。みんな「らく」して「たのしみたい」と思っている。そんなもの、この世の中にはないんですよ。「楽しい」を選んだら安定なんて考えてはダメ。大変なことも多いですよ。辛い思いもたくさんします。自分もそうですから。でも、そのほうが絶対「楽しい」。まずは、自分がどっちの生き方をしたいかを考えるといいと思います。

てらお・げん●17歳の時、高校を中退。約1年間、スペイン、イタリア、モロッコなど、地中海沿いの国を旅した後、音楽活動を開始。約9年間にわたってライブを中心にバンド活動をする。大手レーベルとの契約、またその破棄などの経験を経て、2001年、バンド解散後、もの作りの道を志す。独学を重ねる一方、工場を訪ね歩き、設計、製造を習得。2003年、有限会社バルミューダデザインを設立する(2011年4月、バルミューダ株式会社へ社名変更)。現在、同社代表取締役社長。

■information
『バルミューダ製加湿器「Rain(レイン)」』

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水を上から注ぎいれるだけで給水ができ、Wi-Fiネットワーク機能(搭載モデルは、オンラインショップ限定)を使うと、外出先からも操作可能という画期的な加湿器。同社で発売されている空気清浄機「AirEngine(エア エンジン)」でも使用されている溶菌酵素をコーティングしたプレフィルターが内蔵されており、ホコリや雑菌を取り除き、空気をきれいにする機能も付いている。※価格はHPを参照のこと。https://www.balmuda.com/store/

EDIT/WRITING:高嶋ちほ子 PHOTO:栗原克己

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