「お化け屋敷プロデューサー」五味弘文氏の仕事のこだわりとは?

恐怖のかくれんぼ屋敷、地下室の子守唄、見津子の血泪、顔はぎの家――夏と言えば、「お化け屋敷」のオンシーズン。タイトルだけで身の毛がよだつこれらのお化け屋敷、すべて一人の男性が手掛けている。「お化け屋敷プロデューサー」として20年以上活躍する、五味弘文さんだ。
もともとは劇団の主宰を務め、作・演出を手掛けていたという経歴の持ち主。お化け屋敷プロデューサーとは、どんな仕事なのか?そして、なぜこの道を選んだのか?1年で最も忙しいお盆の最中、五味さんにインタビューした。

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▲お化け屋敷プロデューサー五味弘文さん。

劇団解散後、後楽園ゆうえんちのイベント企画に誘われる

大学在学中に演劇を始め、卒業後に劇団を結成しました。演者ではなく、「台本を書いて演出する」のが私の役割でした。その後劇団は解散。1992年に始めたのが、イベントの企画・演出の仕事です。

同年、後楽園ゆうえんち(現・東京ドームシティ アトラクションズ)において、夏期限定の大人向けイベント「ルナパーク」が開催されました。その企画制作を請け負ったチームに誘われ、スタッフとして企画段階から参加することになったんです。
さまざまなイベントの企画を、それこそ山のように考えました。ボツになるほうが多かったですが、毎日がとても楽しかったですね。劇団では、資金の問題で実現できないことがほとんどでしたが、この仕事には予算がある。「実現できる可能性が高い企画」を考えられることに、心からやりがいを感じていました。

そして、山のように出した企画の中から採用されたのが「お化け屋敷」の企画でした。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

子どもだましの「機械仕掛けお化け屋敷」を生身の人間に大転換…初企画が大当たり!

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企画を立てるに当たり、後楽園ゆうえんちのアトラクションを片っ端から体感してみました。お化け屋敷にも入りましたが、20年以上前の当時、お化け屋敷はアミューズメントパークでは地味な存在。機械仕掛けばかりで、展開が予想できて大人には物足りない感じがしました。
「お化け屋敷なんて、所詮子どもだまし。こんなものかな…」と思っていた矢先、突然井戸から人が「わー!」っと出てきたんです。腰を抜かすほど、驚きました。人が出てくるのはこの時だけだったのですが、「生身の人間が驚かすと、こんなに怖いんだ」と気づきました。その後、何度も繰り返して入ってみましたが、井戸のシーンでは出ると分かっているのに毎回怖い(笑)。「大の大人がこんなに怖いと感じるならば、徹底的にアナログにこだわった『大人のためのお化け屋敷』をやってみてはどうだろう?」と思いついたんです。

そして、「大駱駝艦」主宰の麿赤児兒氏が演出する「麿赤児のパノラマ怪奇館」が生まれました。同舞踏集団の俳優が多数参加したこのお化け屋敷は「今までにないリアルな怖さ」と話題を呼び、連日長蛇の列に。翌年も「ぜひお化け屋敷をやってほしい」とお声掛けをいただき、1996年からは企画だけでなく演出も手掛けるようになりました。そして、そのまた翌年も…と続き、夏の名物イベントに。今年の「恐怖のかくれんぼ屋敷」で、22回目を数えるまでになりました。

つまり、自分から「お化け屋敷プロデューサーになろう!」と決意し、目指したわけではないんです。たまたま、初めに手掛けたものの評判がよく、毎年東京ドームさんにお声掛けをいただいていたら、他のイベント会場などからも声がかかるようになり、お化け屋敷の実績が積まれていった…という形です。

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「単なる怖いもの好き」では、エンターテインメントは生み出せない

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「五味さんは怖いものが大好きなんでしょ?」とよく言われますが、決してそんなことはありません。ホラー映画を観ることもありますが、マニアックに観たりはしませんね。
よく、「ホラー映画、怖いものが大好きです。仲間に加えてください!」と言われることがあります。いかに自分が怖いもの好きか、延々とアピールされるのですが…ちょっと引いちゃいますね(笑)。仲間に加わっていただくことも、まずありません。
なぜなら、お化け屋敷はあくまでエンターテインメントだから。「単なる怖いもの好き」だけで、「お客さんを楽しませる」視点が欠けていては、この仕事は務まりません。お化け屋敷の中に、本当にお化けがいると思って来る人はいませんよね?お化け屋敷でワーワーキャーキャー言って楽しみたいと思っているから、皆さん足を運んでくださる。「楽しさに変わる怖さ」を提供するのが、この仕事の役割だと思っています。

「楽しさに変わる怖さ」を提供するために、お化け屋敷内で“体感”してもらうことにこだわっています。実際に体感する臨場感こそが、恐怖とワクワクに変わるんです。あるときは、赤ちゃんの人形を抱きながら歩いてもらったり、またあるときは、幽霊の髪を梳かしてこなくてはならないミッションを課したり、靴を脱いで体験してもらったり…。今回の東京ドームシティ アトラクションズのお化け屋敷「恐怖のかくれんぼ屋敷」では、かくれんぼがテーマだけに、あらゆる襖や扉を自分の手で開けて確かめなければなりません。

お化け屋敷を出てきた人は、皆さん笑顔です。そして、「怖かったねー!」「あのシーンはビックリしたねー!」などと笑いながら、高いテンションで語り合っている。
こんな皆さんの反応を見るたびに、心からのやりがいを感じますね。ああ、楽しんでもらえたんだなって。考えてみれば、作り手とお客様がこんなに近い距離にいられる仕事って、ほかにあまりないですよね?強いて言えば、お笑いに近いのかも。「怖いか、怖くないか」「面白いか、面白くないか」という判断基準が明確で、そのジャッジが寸時に下されてしまう大変さがあります。でも、だからこそ「怖かった~!」というダイレクトな反応が得られたときは、この上ない喜びを感じますね。

日常の中にある「怖さ」を、リアルに演出したい

「どうやったらそんなに怖いアイディアを思いつけるんですか?」とよく言われますが、ホラー映画などからよりも、毎日の日常生活の中からふと思いつくことが多いですね。
例えば、こんな薄暗い道は怖いなとか、部屋の隅にできた影に怖さを感じるなとか、親戚の家の日本家屋のトイレが怖かったなとか。非日常の怖さよりも、日常の中にある怖さのほうが、よりリアルに感じてゾクっとさせられるからです。

お化け屋敷の世界観が好きなのは、演劇の経験が大きく影響しています。特に大学時代にハマって何度も足を運んだのが、唐十郎さんが率いる劇団・状況劇場。新宿の花園神社などにテントを立て、その中で劇が行われるのですが、薄い被膜の中で虚構が演じられ、テントを1枚めくったらそこは新宿の華やかな雑踏…という現実世界がある。日常と非日常のせめぎ合いに、ワクワクさせられました。
日常と非日常のせめぎ合いを演出する面白さ。この世界をお化け屋敷でも実現したいという思いが、私を駆り立てているのです。
夏休みシーズンだけでなく、今では1年中このことばかり考えていますね。寝ても覚めても、頭の中はお化けでいっぱいです(笑)。

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▲「地下室の子守唄」のポスター。見ただけで身の毛がよだつ…

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:阿部栄一郎

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