【20代の不格好経験】ミュージシャンとして大学時代にフジロック出演。メジャーデビューを目指したが芽が出ず挫折~VASILY(ヴァシリー)代表取締役 金山裕樹さん

f:id:r_kihara:20150611112400j:plain

今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいた経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、そんな「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第13回:株式会社VASILY代表取締役 金山裕樹さん

株式会社Viibar代表取締役 上坂優太さんよりご紹介)

f:id:itorikoitoriko:20150430133826j:plain

(プロフィール)
1978年生まれ。大学時代に結成したバンドで2000年にフジロックフェスティバルの舞台に上る。卒業後もバンド活動を続けたが、なかなか芽が出ず活動停止。音楽コンテンツ配信会社に2年間勤務した後にYahoo!JAPANに転職し、「Yahoo!FASHION」や「X BRAND」などのメディア立ち上げとマネジメントを経験する。2008年にVASILYを設立。

f:id:itorikoitoriko:20150430133825j:plain

▲VASILYが2010年に始めた、女性向けファッションコーディネートアプリ「iQON」。提携するECサイトのファッションアイテムを、ユーザーが自由に組み合わせてコーディネートを作成できる。現在投稿されているコーディネートは200万件以上あり、お気に入り登録して楽しんだり実際に商品を購入することもできる。現在の会員登録数は約200万人

■納得のいく音楽を追求し続ければ、絶対に成功すると信じていた

 基本的に、過去は振り返らないタイプです。なぜなら、未来を創り出すのが我々の存在価値を証明することだと思っているからです。

 それに、過去の経験を知見にするのはいいのですが、一方で「こんな経験をしてきたのだから、こういう道に進むべきでは?」などと「過去が未来の行動を制約しかねない」とも思っています。だから、「本当に必要なものは、振り返らなくても体に染みついていて、いざというときに力を発揮するだろう」と信じて、前だけを向くようにしています。

 だから、今回の取材を機に久々に過去を振り返ってみたのですが…自分ながら、なかなか波乱万丈な面白い人生を歩んできているなぁと(笑)。その過程で、いろいろな失敗をしでかしているのですが、「これは一番の失敗だった」と言えるのは、大学時代にミュージシャンというキャリアを選択したこと、ですね。

 大学入学してすぐに音楽サークルの同期と先輩との3人でバンドを組み、21歳のとき、ちょっとしたプチ成功体験をしました。日本有数のロック・フェスである「フジロックフェスティバル」の舞台に上ってしまったんです。しかも、3番目に大きいステージに。

 当時、CSのミュージックチャンネルが新人のインディーズバンドを推薦する枠があり、ラッキーなことに我々に目を留めてくれたんです。経験も浅いのに、たくさんのオーディエンスの前で、彼らの熱気を感じながらプレイする快感を味わってしまいました。それを機に、テレビや雑誌にもたびたび出るようになり、「これは音楽で食っていけそうだぞ!」と思いましたね。

 しかし、現実はそこまで甘くありませんでした。「自分たちの音楽」を追求するあまり、リスナーの気持ちを全く考えなかったんですね。1曲7分以上ある曲をいくつも作ったり、ライブでもジャムセッションばかりやっていたり。今考えても、マーケットに受ける曲とはお世辞にも言えなかった。

 でも当時は、「自分たちが納得のいく音楽を追求し続けていれば、絶対にいつか日の目を見る」と信じていました。…これって「顧客ニーズも測らずに、やりたいことをやって失敗する」というベンチャーあるあるに通じるものがありますね(笑)。結果、バンドは結成6年で活動休止となりました。悔しい気持ちはありましたが、やり切った結果だから仕方ないと踏ん切りがつきました。

■ユーザーがユーザーを呼ぶ、ネットならではの循環を生み出したい

f:id:itorikoitoriko:20150430133828j:plain

 すでに大学は卒業していたので、すぐに就職先を探しました。自分に何ができるだろうと考えたとき、頭に浮かんだのはWeb系の仕事。バンドをPRするために、自分でデザインを考えてプログラミングをして、ホームページを一から作った経験があったのです。フジロックでお世話になった会社が音楽情報のコンテンツ配信事業をしていることを知り、応募してみたところ、面接官として出てきたのがなんと当時のスタッフ。とんとん拍子に話が進み、正社員として入社しました。

 その会社では2年間、主に携帯の公式サイトの立ち上げと運営に関わりました。数十万単位の有料会員を抱える人気サイトで、デスティニーズ・チャイルドやコールドプレイなどに取材したりもしましたね。そんな超大物アーティストに会えて羨ましい!という人もいましたが、私自身は全く楽しくありませんでした。だって、この前まで自分がアーティストだったんですから。「なんで俺、今インタビューする側にいるんだろう」って。

 そんな中、私が面白さを感じていたのが、「Webサイトの仕組み」づくり。面白いと思われる企画を考え、実行したり、Webの導線を改善するなど、工夫を凝らした分ユーザーがぐんと増えるのが楽しかったんです。サイト作りのために行ったユーザーインタビューでは、直に「面白い」「いい情報をありがとう」などの声をいただいたりもして、何とも言えない喜びを感じました。

 それまではアーティストとして、自分が奏でる音楽で人をポジティブにしたいと思っていましたが、ここでの経験を通じて、会社組織であっても人をポジティブにできるんだ!と気付かされました。そんな日々を通して、徐々に「自分が得意とするネットを活用して、自分のやり方で人の心を動かしてみたい。そんな会社組織を、自分の手で作ってみたい」と思うようになったんです。

 そこで、起業に必要なことを学ぼうと、“ネットの世界で勝ち組”であるヤフーの門を叩き、「Yahoo!ミュージック」の担当に。その後、総合ファッションサイト「Yahoo!FASHION」(現在はサービス終了)、雑誌の最新号の記事が読める「X BRAND」などいくつかのサービス立ち上げ経験をさせてもらった後に、2008年にVASILYを設立しました。

 VASILYのメイン事業は、女性向けファッションコーディネートアプリ「iQON」の運営。このビジネスに着眼したのは、インターネットの本質である「ユーザーが情報を生み出し、それを別のユーザーが見に来て、今度は自分が情報を生み出したくなる」という循環を生み出したいと思ったことと、「このままでは日本の女性のファッションに対する意欲が薄れてしまうのではないか」と危機感を抱いたからです。

 ファッション雑誌を読む女性がどんどん減っているのに、ネット上にはこれといったファッション媒体がない。このままでは女性がどんどんファッションに触れる機会がなくなり、おしゃれを楽しまなくなるのではないか。ならば、自分の手で女性のファッションシーンを盛り上げよう!と考えました。ちょうどそのころ、アメリカでコーディネートサイトが現れ始めていたので、「日本でもやるべきだ」と思い、すぐに「iQON」の企画を練り、起業を決意しました。

 しかし、当時はヤフーでの仕事が猛烈に忙しく、かつ楽しくもあったので、起業準備になかなか時間が割けずにいました。本来ならば、ビジネスモデルをしっかり固め、サービスの大枠も作り上げてから起業すべきなのでしょうが、このままではいつまで経っても起業できない!とまずは会社登記をしてしまい、後には引けぬ状況を自ら設定して起業。そのため、立ち上げ当初は思いもよらぬ壁に幾度となくぶつかりましたね。キャッシュフローの計算を間違えて、給与未払い危機に陥ったりもしましたが、お気に入りのユーザーのコーディネートから商品を購入できるという目新しさでファンが増え、ファッション×ネットの融合により「ユーザーがユーザーを呼ぶ循環」にも手応えを感じつつあります。今ではユーザー数は200万人、投稿されたコーディネート数は200万件に上っています。

■失敗とミスは別物。成功するために全力を尽くしてこそ失敗があり、学びがある

f:id:itorikoitoriko:20150430133827j:plain

 冒頭で、自身の過去を振り返り、「今に至るまでにいろいろな失敗をしでかした」と言いましたが、最近、失敗の定義をはき違えている人が多いという印象を受けています。

 何かを絶対に成し遂げようと考え、行動した結果、うまくいかなかったのは「失敗」。でも、多くの人が捉えている「失敗」は、準備不足や注意力散漫による単なる「ミス」であるケースが多いように感じます。失敗はベンチャー企業にはつきものであり、そこからの学びも多いですが、ミスはたった1回であっても命取り。決して許されるものではありません。ちなみに、先ほど挙げた「キャッシュフローの計算間違い」は、私の不注意による大きなミス。創業期に、危ない橋を渡る羽目になりました。

 一方で、「若いうちは失敗をたくさんしたほうがいい」と言う人がいますが、「失敗をする前提」で物事に臨んでも、何の学びもならないと私は思います。絶対に成功する!という気持ちでベストを尽くすからこそ、たとえ失敗したとしても次につながる学びが得られるんです。

 私の場合、ミュージシャンというキャリアを選んだのは確かに失敗でしたが、6年間「絶対に成功する」と信じて全身全霊で打ち込んだからこそ踏ん切りもついて、迷いなく新しい一歩を踏み出せたし、「ミュージシャン時代のように、人の心をポジティブにする仕事がしたい」という自身の想いにも気付くことができました。

 VASILYのミッションは、「人類の進化に貢献する」です。インターネットの力で人類の進化のスピードを高め、理想の未来を創り出したいと考えています。何とたいそうなことを…と言われるかもしれませんが、不可能だなんて思ったことはありませんよ。自分たちの力を信じ、絶対にこのミッションを成し遂げる!と、日々全力で挑んでいます。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

>>【あわせて読みたい】「20代の不格好経験」シリーズ

f:id:r_kihara:20150611112400j:plain

PC_goodpoint_banner2

Pagetop