【“NO MUSIC, NO LIFE.”生みの親 3】タワレコ宣伝担当者が語る「ずぶ濡れの1stフジロックとエコ活動」

いまや夏の風物詩となっているフジロックフェスティバル。“NO MUSIC, NO LIFE.”の生みの親であるタワーレコード宣伝/マーケティング部部長の坂本幸隆氏は、台風が直撃した1回目から同フェスに参加しているそう。ゴミだらけの会場を改善すべく、NGOの人たちと共にエコ活動をキャンペーン化。“音楽とエコ”というイノベーションを起こしました。同氏が音楽を通して伝えたいメッセージとは?

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■フジロックのエコ活動も続けていらっしゃいますよね。

あれも偶然で。1回目の時、それまで野外フェスが日本で開催されたことはなく、その噂を聞きつけた当時の社長が、開催2週間前に「LPバッグを持って、フジロック会場へ行け」と言いだした。当然ホテルも予約できず、仕方がないので車にLPバックをいっぱい積んで、モーテルに泊まりました。

にも関わらず、1回目のフジロックは、台風が直撃。結局、2日目が中止になって、1日目しか行われなかったんですけど、そこで雨除けにタワーのLPバッグを丸めて、帽子にして被るというのが会場で大はやりした。2年目に、ホフ・ディランが同じようにタワーのLPバッグを被って、「これがフジロックスタイルだ!」とシャウトしたくらい、皆が皆やっていました。

■でも、その会場は使えなくなってしまったんですよね?

ゴミやらマナーやら、とにかくひどくて。勝手に近隣の農家の敷地内で寝たり、違法駐車したりする人がいました。しかも、野外フェス自体が初めてだったから、軽装で山へ来て、台風の中、体調が悪くなるお客さんが続出しました。もちろん運営する側や参加している企業にもあまりノウハウがなかったと思います。

笑いごとではなく、本当に戦場みたいだったんですよ。今となってはあまり言えないようなこともいろいろあって、会場は使えなくなってしまったんです。

■それで2年目はお台場の埋め立て地でやることに…。

1年目のことがあったので、開催自体をやめようという声もありました。それで関係者が集まり、「日本にフェスを残すためにみんなで分担して、フェス自体を成功させるための何かやれることをやろう」と知恵を絞り出すことに。

そこで、うちは何ができるだろうと考えた時に、ちょうどNGOのひと方から「一緒にやりませんか」と声をかけられ、「じゃあ、やりましょうか」と、2年目からごみ袋を作って配ることに。2年目にタワーレコードから参加したのは自分だけ。入り口でタワーのテントを張って、「テイクフリー」と言いつつ、LPバックとごみ袋をどんどん出す。そんなことを一日中やりました。

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■坂本さんが配っていたんですか? しかもおひとりで?

自分は1年目から皆勤賞(笑い)。

■年々きれいになっていくフェスを見て、どう感じますか?

フェスでやっていることは、うちの発案というより、NGOの人たちの提案です。結局、我々が環境に関する問題や活動のトレンド、地元自治体のごみ処理やリサイクルの状況等を一から得ようとするより、専門にやっているNGOプロの人たちとパートナーを組んだほうが速いですし、結局は一番いい結果を残せると考えました。

パートナーのNGOの方々も、当初は自分たちでゴミを拾っていたんですけど、その脇からゴミを捨てていかれるものだから、「ゴミを拾っているだけではダメだ。参加者のナビゲーターとなって、お客さん参加型のキャンペーンにして、お客さんの意識が変わるきっかけにならないと」と気づいたんです。そこで、ペットボトルを10本持ってきてくれたら、タオルを無料配布するブースを作り、それが定着してきたところで、今度は、集まったペットボトルを、むしって、つぶしたら、タオルをあげるというのをキャンペーン化しました。そうやって、少しずつ参加者の皆さんが自発的に考えて動いてもらえるような仕組みになっていきました。

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■外からの提案は、積極的に受け入れるんですね。

よく、「何をやるか・What」より「なぜやるか・Why」と言われますが、やろうとしていることが間違っていなければ、実現の方法にはやってみないと分からないことは山ほどありますから。だから、まずはやってみて、そこから修正を重ねていく。ダメだったら、来年は違う方法を探ればいい。反応を見ながら日々修正していく。小売店の感覚に近いと思います。

■ネットと、お店やライブの違いはなんでしょう?

古い曲も新しい曲も、邦楽も洋楽も、そういった情報や商品は今では自由にネットで手に入るようになりました。それでも、お店にしろ、ライブにしろ、現場に行かないと分からないことがたくさんあります。そういう普遍的なものと逆のもの、“今”や”現場”でないと見られない共時性のあるものを求める気持ちから、お客様もそういう体験を求めていると思うので、共時的なものと普遍的なものの両方を提案し続ける会社として、タワーレコードがそこに存在するということが重要だと思っています。

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■音楽業界に今、求められる人材とは?

音楽業界は今、過渡期です。タワレコもCD販売だけではなくなっています。ライブ事業やレーベル事業、定期的な配信を行う新規のメディア運営、最近ではCAFEやDINING等の飲食事業の様な新規事業も増えています。とはいえ、音楽自体がなくなることはありません。そういう過渡期であるからこそ、新しいことを考えられて、かつ音楽が好きな人がいいと思います。音楽がすごく好きでも、10年後、20年後もCD屋だけをやっていこうという人だと行き詰まってしまうかと。10年先のことなんて、誰も分からない。モチベーションは「音楽が好き」。「音楽に関わることなら、とりあえずやってみようか」という人がいいのではないかと思います。

■最後に坂本さんが仕事で大切にしていることは何ですか。

よく音楽を聴いている人も、常に音楽だけを聴いているわけではありません。ほとんどは普通に仕事して、普通に生活している人たちです。そういう人たちが何を考えて、どう行動しているか。そのことによって社会がどう動いているか。そういう当たり前のことを普通に考えることは大切だと思います。そして、音楽を通して社会にどう貢献できるかを考えることです。自分の仕事上の「Why」は、「音楽で人生や生活が豊かで幸せになるような貢献ができる事」、NO MUSIC,NO LIFE? 的な事でしょうか。

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「がむしゃらに走ることはないけど、Whyに確信が持てたら、とりあえず歩きだしてみる」という坂本幸隆氏。西海岸で生まれたタワーレコードの日本オフィスでは、社長室からはアイドルソング、坂本氏のデスクからはジャズやソウルやルーツミュージックなど、さまざまな音楽が聞こえてきます。その自由な空気が、柔軟な発想を生み、新たな音楽シーンの創造へとつながっているのかもしれませんね。

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取材・文:山葵夕子 写真提供:タワーレコード

※リクルートキャリア運営「リクナビNEXTプラスワンカフェ」 2014年3月18日記事より転載

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