リクナビNEXTジャーナル

キャリア・ビジネスの情報満載【リクナビNEXTジャーナル】

東大→マッキンゼーからパンツ屋へ!“ベスポジ”ボクサーパンツTOOT社長の「勝算」

「TOOT」は、知る人ぞ知る日本のメンズアンダーウェアブランド。カラー、デザインバリュエーションが豊富でファッション性が高いうえに、独自のフロント部分の立体裁断により、「誰がはいてもベスポジになる」と評判だ。今までは、都心の一部百貨店での販売を除きほとんど広報PRを行っていなかったため、ネット通販を中心に口コミでファンを獲得してきた。

そんなTOOTに今年4月、新社長が就任。一気に国内における知名度向上、および本格的な海外展開に乗り出している。

新社長は、東大からマッキンゼーを経て、レアジョブ、ライフネット生命の立ち上げ期を経験した枡野恵也さん。輝かしい経歴を誇る彼はなぜ、一般的にはまだ無名と言えるパンツメーカーの社長というキャリアを選んだのか。そして、今後のTOOTの勝算は――?

f:id:itorikoitoriko:20150728181217j:plain

枡野恵也さん/株式会社TOOT 代表取締役社長

1982 年生まれ。東京大学法学部卒業後、2006 年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2009 年レアジョブの立ち上げ期に参画し、法人事業を立ち上げ 1 年で黒字化達成。2010 年にはライフネット生命保険に転職、東証マザーズ上場や経営戦略全般に携わるかたわら、韓国合弁会社設立など海外事業展開を主導する。2015 年 4 月より現職。


■高いデザイン性とフィット感…国内外でのポテンシャルの高さを実感し「絶対売れる!」と確信

 TOOTは2000年に創業。創業者は油絵画家だった。「日本にはおしゃれで機能的な男性向けのアンダーウェアがない!」と自らデザインし、国内の提携工場による少量生産からスタート。ネットで販売開始したところ、口コミで徐々に広がった。

 このたび創業社長が、「そろそろ本職の油絵に本腰を入れたい」とファンドへの企業譲渡を決意。そのファンドから、マッキンゼー時代の同期経由で枡野さんに「新社長」の声が掛かったという。

「新社長の条件は、爆発力があって面白い発想ができる人。でも事業のことも十分に理解している。そして手掛ける商材はパンツ。…ファンドの担当者からこの条件を聞いた同期の頭には、すぐに僕の顔が浮かんだそうです(笑)」

 ご覧のように、枡野さんはアシンメトリーな髪形にサルバドール・ダリのようなヒゲ、そして原色や柄オン柄、ユニセックスものも着こなす個性派(この日の服装は「パンツの色味を引き立たせるため」かなり地味め)だが、東大からマッキンゼーに進み、4年間経営コンサルタントとして活躍した後、オンライン英会話を手掛ける創業間もないレアジョブで法人向け事業の立ち上げを担い、その後ライフネット生命に転じて海外事業展開をけん引してきた人物。今年4月に発表されたKDDIとの資本・業務提携にも携わった辣腕家だ。

f:id:itorikoitoriko:20150728181219j:plain

 その多彩な実績から考えれば、他にもキャリアの選択肢があったと思われるが、なぜ、当時まだ有限会社だったパンツメーカーを選んだのか?

「今まで仕事を通じてたくさんのベンチャー経営者にお会いし、いつかは自分で会社を運営してみたいと思っていました。僕の世代ならば、『ITベンチャーを興す』が常套なのでしょうが、ちょっとあまのじゃくなところがあるので、そういうキャリアはベタすぎるかなと(笑)。そんなときに今回の話をいただき、“自分のところでモノを作り、売る”という今まで経験したことのない商売に魅力を感じたんです。そして実際にはいてみて、『このパンツには大きな可能性がある!』と確信させられました。カラフルでデザイン性に富み、かつフィット感がすばらしい。周りにヒアリングしてみると『前からファンで、はいている』という友人がちらほら。本格的に広告宣伝を掛けて広く認知を高めれば、もっと多くの人にはいてもらえるはずだと思いましたね」

 ファッション好きの枡野さんだが、パンツは最近、手軽に買えるファストファッションブランドのものばかり。TOOTの個性的なデザインを前にワクワクと心躍る感覚を味わうとともに、「見えないところに手を抜いていたな…」と反省させられた。同時に、普段はスーツ姿で、おしゃれに制限のあるビジネスパーソンも、スーツの下のパンツでならば、おしゃれを楽しめるし自己表現もできると思ったという。

「また、すでにネットを通じて海外のユーザーも増えつつありました。日本発のブランドであり、かつメイドインジャパンであるということに、国内だけでなく海外マーケットでのポテンシャルの高さも感じました。起業したいという夢、マッキンゼー同期からの声掛けというご縁、そしてファッション好きな自分に向いているというフィット感も重なり、迷わず転身を決めました」

■目指すは「パンツ界のエルメス」。ハイクオリティ・ブランドとして世界で知名度を上げたい

f:id:itorikoitoriko:20150728181218j:plain

▲色鮮やかで個性的なパンツが並ぶTOOTのサイト

 

 この4月に社長に就任後、今までほとんど手掛けていなかった国内市場におけるブランディング、および広告宣伝に注力している。新宿伊勢丹で初のパターンオーダー会を仕掛けるなど、実店舗での販促にも注力しているほか、今まで作ったことがないプレスリリースも作り、マスメディアにもアピール中だ。

「今までも密かに、ハローキティやウルトラマン、横尾忠則、黒夢などとのコラボパンツを世に出してきました。パンツはどんなものともコラボしやすい商材。話題性のあるキャラクターやアーティストなどとのコラボを働き掛けるなどして、国内での認知を拡大する一方、日本的な要素をデザインに加味しクールジャパンとして海外発信もしていきたい。まずは2020年の東京オリンピックに向け、国内外での知名度向上に注力します」

 今後ますます増えるだろう海外ユーザーに向けて、サイトの多言語化を進めている最中。アジアや欧米企業や百貨店からの引き合いも増えており、社長自ら商談に飛び回っているほか、最近では社員全員のレアジョブ受講もスタート。全社員を前に「TOOTは世界に出ていく」と宣言している。
「目指すはパンツ界のエルメス。TOOTが世界的に、おしゃれでハイクオリティなハイブランドパンツの代名詞になれば、嬉しいですね」

■キャリアは人生のおまけ。思い切り楽しまないと意味がない

f:id:itorikoitoriko:20150728181220j:plain

「今はパンツ一筋」枡野さんの今までのキャリアには、一見一貫性がないようだが、「子供の頃からの夢を追い続けてきた結果だ」と振り返る。

「子供の頃から海外に憧れていて、高校時代には国連事務総長になりたいと本気で思っていました。世界的に活躍できる人になって、規模的にも地理的にもより大きなことをしたいという思いが強かったのです。もともと、『キャリアは人生におけるグリコのおまけのようなものであって、人生の本質ではない』と思っていて、おまけであればこそ逆に、徹底的にやりたいことをやり、楽しみ尽くしたいと考えていました。だから大学でも国際政治を勉強したのですが、国連という“Government of Governments”では、自分にとっては自由さに欠けると気付いた。そんなときに『グローバルな視点で企業の問題解決に携わっている会社がある』と聞き、マッキンゼーに就職を決めました」

 マッキンゼーに入社するまではビジネスにはあまり興味がなかったというが、4年間経営コンサルタントとしてさまざまな企業に関わるうちに「世の中を動かすのはビジネスに他ならない」と実感。そんなときに、ヘッドハンターからの声掛けでレアジョブを知り、「安く手軽に英語を学びたいという日本人の欲求と、経済成長国での雇用問題を同時に叶えるビジネスに感動し、自分もその課題解決に尽力したい」と転職を決めた。

 ライフネット生命への転職は、レアジョブ時代にプロボノ活動していた、アフリカの貧困撲滅支援を手掛けるNPOミレニアム・プロミス・ジャパンで、ライフネット生命現社長の岩瀬大輔氏と知り合ったのがきっかけ。同社が海外展開に着手しようというタイミングだった。

「発展途上国では、稼ぎ頭の父親が病気や事故で働けなくなったことを機に一気に貧困に陥る家庭が多い。生命保険は、途上国にこそ必要なしくみであり、特に途上国での普及に自分が関わることで社会問題の解決に力を発揮したいと思ったのです。…先ほど、『キャリアは人生におけるグリコのおまけのようなもの』と言いましたが、そのおまけの面白さをひたすら追いかけ続け、心の赴くままに行動した結果が、僕のキャリア。気付いたらTOOTに流れ着いていた…という感じですね」

f:id:itorikoitoriko:20150728181221j:plain

 枡野さんは現在32歳。TOOTに全力投球してブランドを確立した後は、「エンジェル投資家」になりたいという夢を持つ。創業間もない企業に資金を提供する個人投資家のことだ。

「今までと同様、これからのキャリアも、思い切り楽しみたい。興味・関心の幅がとても広いので、おカネとヒトとアイディアを見極めていろいろな人に投資するのって、きっと自分に向いている役割だと思うんです。これは以前から抱いてきた夢で、40~50代には実現したいと思っていたのですが、パンツ屋がどれぐらい面白くなっちゃうかわからないので、いつ実現できるかわかりませんけどね(笑)。これからも興味の赴くまま、流れに逆らわずに、キャリアを楽しみ続けていきたいと思っています」

 

 EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭