アサーティブ・コミュニケーションとは?ビジネスで良好な関係性を築くための手法を紹介

相手を尊重しつつ、自分の主張を正確に伝える表現方法である「アサーティブ・コミュニケーション」。近年、ビジネスにおいて耳にする機会が増えたと感じる人もいるのではないでしょうか?
そこで、著書『アサーティブ・コミュニケーション』が話題を集めているアドット・コミュニケーションの戸田久実さんに、アサーティブ・コミュニケーションとは何か、なぜビジネスにおいて必要とされているのか、鍛え方などを解説いただきました。

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アサーティブ・コミュニケーションの意味とメリット

こんなことを言ったら嫌がられるかもしれない、こんなことを言っても聞き入れてもらえないだろうなどと言いたいことをぐっとこらえてしまう…という人は少なくありません。逆に、相手のことを考えず一方的に自己主張したりする人もいます。しかし、意見や考えを自由に言えずストレスを溜め込んでしまったり、意見がぶつかるばかりで生産的な議論ができなかったりと、ビジネスにおいては悪影響を及ぼします。

「アサーティブ・コミュニケーション」は、一言で言えば「相手のことも、自分のことも大切にした、自己主張・自己表現」。相手の意見に耳を傾けつつ自身の考えや感情、思いを率直に表現するコミュニケーション手法です。

アサーティブ・コミュニケーションでは、次の3つのマインドを持つことを大切にしています。

  • お互いの考えや意見や価値観が違っていても、相互尊重・相互信頼をもとに建設的な議論ができる
  • お互いが正直に、率直に忖度せずに伝え合う
  • 違いがあったとしても、対等な姿勢で対話ができる

ビジネスの場でアサーティブ・コミュニケーションを意識することで、上司・部下間や同僚同士、クライアントとのコミュニケーションの活性化や良好な関係性の構築などにつながります。意見や考え、価値観が異なる者同士でも、相手を尊重しながら建設的に議論を進められるようにもなります。

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アサーティブ・コミュニケーションは今なぜ注目されている?

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アサーティブ・コミュニケーションは1950年代に開発されたコミュニケーション法ですが、最近になってアサーティブ・コミュニケーションに関する研修や講演の依頼が増えたと感じています。その理由は、大きく3つ挙げられます。

終身雇用が崩れ、多様な価値観を持つ人が集まるようになった

一昔前の日本は、終身雇用、年功序列の働き方が主流でした。その時代には、「阿吽の呼吸」「以心伝心」など、場の空気を読むことを良しとする文化がありました。

しかし、終身雇用が崩れ、ステップアップのために複数の組織でキャリアを重ねる人が増えました。ビジネスのグローバル化やダイバーシティも進み、さまざまなバックグラウンド、さまざまな価値観を持った人が同じ職場で働くのが当たり前になっています。このような組織では、「阿吽の呼吸」「以心伝心」などは通用しません。自分が考えていることを、相手が理解できるよう言葉にして率直に伝える必要がありますが、その際にアサーティブ・コミュニケーションが有効であるとされています。

リモートワークの機会が増えコミュニケーションに課題を持つ人が増えた

コロナ禍で一気にリモートワークが進みましたが、これにより仕事でのコミュニケーションスタイルは大きく変化しました。

オフィスで働いていれば、聞きたいことや相談したいことがあった場合タイミングを見計らって「ちょっといいですか?」と気軽に声を掛けることができましたが、リモート下ではチャットで声を掛けたり、オンラインミーティングを設定したりしなければなりません。相手の状況が見えないため、「今声をかけてもいいものだろうか」「わざわざオンラインミーティングを設定して迷惑がられないだろうか」などと悩み、結局我慢してしまう人が少なくないようです。このように、コミュニケーションに課題感を覚える人が、課題解決手法としてアサーティブ・コミュニケーションに注目する傾向にあります。

パワハラ防止法施行により、メンバー指導に悩むマネジメント層が増えた

2020年6月1日にパワハラ防止法が施行されたのを機に、「こんなことを言ったらパワハラと言われるのではないか」など部下の管理や指導方法に悩むマネジメント層が増えています。

部下など立場が違う相手に対して、相手を尊重しつつも伝えるべきことを率直に伝える方法として、アサーティブ・コミュニケーションを強化しようとする動きが高まっています。

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アサーティブ・コミュニケーションのポイント

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アサーティブ・コミュニケーションを行う上でのポイントをご紹介します。一度身についたコミュニケーションの癖は簡単には変わらないものですが、下記の6つのポイントを意識して繰り返すことで鍛えられ、徐々にアサーティブ・コミュニケーションが取れるようになります。

何を伝えたいのか、ゴールを明確にする

相手に思いや考えを伝える時に一番重要なのは、「いま自分は何を伝えたいのか」ゴールを明確にすることです。

相手にどう思われるかが気になる人は、意見を言うときに「嫌われないこと」をゴールにしてしまいがちです。逆に自分が正しい、相手よりも優位に立ちたいと思う人は「相手を論破すること」をゴールにしてしまったりします。しかし、本来はお互いに対話をしながら、どうするのが一番いいのかをすり合わせたり、自分の考えを相手に理解してもらったりすることがゴールのはずです。

物事を伝える前に、まずは自分の中でゴールを設定しましょう。何を伝えたいのか明確に決めていくことは、良好なコミュニケーションを取るうえでとても大事なプロセスです。

伝えたいことを、書き出しながら整理する

伝えたいことを明確にするためには、言いたいことを思い浮かべて書き出し、可視化するのが有効です。

そもそも自分が相手に一番伝えたいことは何か、何を言いたいのか、どこまでのことをわかってほしいのか、なぜ、何のために〇〇してほしいのか…などを紙に書き出してみましょう。その過程で、自分が本当に伝えたいことが何なのか再確認することができます。できれば伝えたいことを整理した後に、実際に口に出してロールプレイングすると「言い慣れる」ことができるのでお勧めです。

事実と主観を分けて伝える

どのような言葉を選ぶかによって、相手の受け止め方や反応は大きく変わります。特にネガティブなことを伝える場合は注意が必要です。

言いたいことを伝える時に、主観や思い込みが入ってしまうと、思わぬ受け止め方をされて関係性がこじれる可能性があります。事実と主観を分けずに伝えると、相手は「決めつけられている、誤解されている」と感じ、「この人は自分の思い込みで判断する人だ」と距離を置かれてしまったり、はなから意見を聞いてもらえなくなったりする恐れがあります。

例えば、ミスの多い後輩に注意する場合、「最近ミスが続いているよね。やる気がないんでしょ?集中力が欠けているよね」と事実と主観を混ぜて伝えてしまうと、相手は決めつけられたと感じて落ち込んだり、イラっとして反発されたりしてしまいます。
事実「この1カ月間で5回もミスをしている」、主観「そういったことから、最近集中力が欠けているように思える」と分けて話すと、相手に伝えたいことが伝わり、冷静に受け止めてもらえるようにもなります。

相手と共通認識を得られる言葉を選ぶ

抽象的な言葉は、すれ違いを生みます。例えば「“ちゃんと”確認してください」「“しっかり”注意してください」など、人によってどの程度のことを意味するのかがあいまいな言葉を選ぶと、自分が期待する程度と相手が認識する程度が食い違ってしまい、ミスコミュニケーションにつながります。

認識を合わせ、適切なコミュニケーションを行うためにも、抽象的な表現ではなく、「どうすればいいのか」具体的な行動ができるような言葉を選びましょう。例えば時間や期限に関することであれば「何時までに確認してください」と数字で伝えるなど、何をどうすればいいのか明確にわかる表現を意識してください。

伝える内容と態度を一致させる

「嫌われたくない」「場の雰囲気を壊したくない」という思いの強い人は、言葉と態度(表情)が乖離しているケースが多いようです。
例えば、「全然大変じゃないです」と言いながらも表情や態度が大変そうだったり、「怒っていない」と言いながらもモノを乱雑に扱ったりキーボードを強く叩いたりする人は少なくありません。

「本心を察してほしい」という態度は、相手を困惑させたり、必要以上に気を使わせたりしてしまいます。今自分が本当に伝えたいことと、相手から見た言動を一致させれば、自分も周りもコミュニケーションが楽になるはずです。

「言わない」という選択肢もあり

アサーティブ・コミュニケーションでは、自分の意見を率直に伝えることが大切ですが、何でも言っていいというわけではありません。「気になるけれど、無理に言うことではない」と思えば、言わないという選択肢を取るのももちろんアリです。

言ったほうがいいか、言わないほうがいいのかの判断は、後悔しそうかどうかで決めるといいでしょう。例えば、他部署の人が職場のルールを破っている現場を目撃した場合、「他部署だし、敢えて私から注意をしなくてもいいかな」と思うのであれば言わない選択をするのもありですし、「会社全体に影響が出てしまう可能性があるからとても見過ごせない」と思うならば言う選択をしたほうがいいでしょう。

大切なのは、言う・言わないの選択を他責にしないということ。「こんな環境だから言えなかった」「上司が威圧的だから言えなかった」などと誰かのせいにするのは何の解決にもつながりません。言うのか、言わないか、自分の判断に責任を持ちましょう。

思い込みにとらわれず、アサーティブ・コミュニケーションで一歩を踏み出そう

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特に20代の若手ビジネスパーソンは、不平不満があっても上司や先輩に言い出しづらいと感じ、我慢してしまう傾向があります。「こんなことを言ったら怒られるのではないか」とか「言ったところで上司はわかってくれない」などと口をつぐんでしまう人も多いようです。

でも、それはもしかしたら単なる思い込みかもしれません。勇気を持って意見や考えを伝えてみればあっさり通るかもしれないし、不満に感じていることを伝えたら改善される可能性だってあります。しかし、思っているだけでは伝わるはずはありません。今の役割や立場に不満があっても、言わなければ何も解決しないどころか、ストレスばかりが溜まってしまいます。

「どうせ怒られる」「どうせ無理」という思い込みにとらわれず、まずは一歩踏み出してみましょう。そのときに、アサーティブ・コミュニケーションを取り入れれば、自身の思いや考えが正しく伝わり、相手の心を動かせる可能性が高まります。伝えることで環境が整ったりチャンスが広がったりすることも期待されるため、今よりもっとイキイキ働けるようになるはずです。

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アドット・コミュニケーション 戸田久実さん戸田久実さん

立教大学文学部を卒業後、株式会社服部セイコー(現セイコーグループ株式会社)にて営業を経験後、音楽会社の社長秘書に転職。2008年、アドット・コミュニケーション株式会社を設立。アンガーマネジメント、アサーティブ・コミュニケーション、アンコンシャスバイアス、アドラー心理学をベースに、企業や官公庁の研修講師や講演を行う。『アサーティブ・コミュニケーション()』(日経文庫)のほか、『怒りの扱い方大全』(日本経済新聞出版)、『アンガーマネジメント』(日経文庫)など著書多数。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事。

EDIT&WRITING:伊藤理子

 

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