「夜型から朝型に変えたい」「早起きして時間を有効活用したい」と思うものの、なかなか実践できないという人も多いのではないでしょうか。朝早く活動するとどんなメリットがあるのか、どうしたら続けられるのか、どんな朝活がおすすめなのか、朝活のエキスパートである池田千恵さんに聞きました。
そもそも「朝活」とは?
「朝活」とは、朝の早い時間を有効活用して行動することを指します。私は、特に始業前の30分~1時間を自分のために使うことを「朝活」と定義しています。
「朝活」という言葉が登場したのは、TwitterやFacebookなどのSNSが発達してきた2008年頃。SNSで気軽に声を掛け合って集まることができるようになり、一人で黙々と作業する「早起き」から、人と会ったり運動をしたりなど、朝から活動的に行動する「朝活」という言葉が広がっていったのです。
朝活で期待できる効果・メリット
1日24時間は誰もが平等に持っているもの。趣味に夢中になったり、資格の勉強をしたりする時間をいつにするかは人それぞれです。しかし、あえて朝の時間に活動することには、他の時間とは違ったメリットがあります。
心と時間の余裕が生まれる
例えば、資格の勉強をしようと思っても、夜は仕事が予定通りに終わらなかったり、友人に会ったり、忙しい1日だったから今日はいいかとあきらめてしまうこともあるでしょう。他の予定や周囲の都合で、時間を人にコントロールされてしまい、やりたいと思っていたことが予定から押し出されてしまいがちです。
しかし、朝早い時間であれば、自分の時間を確保しやすくなります。仕事の電話やメールを気にすることなく、カフェに入ってもにぎやかにおしゃべりしている人はあまりいません。自分の計画通りに物事を進められる達成感が自信にもつながり、心の余裕が生まれます。イライラしなくなったり、周囲に優しくなれたりという副次効果もあります。
朝早い時間から1日の活動スタートを切ることで、交通機関の乱れなど不測の事態があっても対応しやすく、遅刻することもほぼありません。業務スタートまでの時間にもゆとりが生まれるでしょう。
逆算して考え、段取りする力が身につく
朝は「小さな締め切りがたくさんある」ことも特徴です。始業時間という強制的な締め切りがあるため、家を出る時間、朝食を終える時間、起床時間など、逆算して「何時までにこれを終わらせよう」と効率的に時間を使う意識が高まります。
自然と優先順位を明確にして段取る力がつき、仕事でも勉強でも趣味の活動でも集中しやすいので、パフォーマンスが上がります。
一方、夜は自分に締め切りを設けづらく、つい時間があるような気持ちになりがちです。帰宅して1時間勉強しようと思っていても、「夕飯を食べ終えてから」「お風呂に入った後で」「ちょっとドラマを見てから」と、ダラダラしてしまい、いつの間にか時間が過ぎてしまうのです。
前向きな気持ちになれる
脳は眠っている間に記憶の定着やストレスの緩和、感情の整理などを行います。このため、脳にとって朝が一番クリアな状態です。さらに朝の光を浴びることは別のメリットもあります。
網膜に朝の太陽の光が当たると、通称「幸せホルモン」とも言われる神経伝達物質「セロトニン」が分泌されます。セロトニンには精神を安定させる働きがあり、ストレスに強くなる、穏やかな達成感を得やすくなるとされています。
ですから、迷ったり悩んだりするのは、「夜のクヨクヨより、朝のクヨクヨ」をおすすめしています。私自身、会社員時代あまりに仕事ができなかったために、上司から注意されることがとても多く、夜考えるとクヨクヨして自分のすべてを否定的に捉えたり、見当違いな腹立ちや会社への不満になったりしがちでした。
とにかく寝て、前日言われたことを翌朝書きだすようにしてみたところ、次第になぜ怒られたのか、どうすればよかったのか、前向きな振り返りができるようになり、新たな気づきが生まれるようになりました。
仕事で抱えている問題やキャリアパスの悩みなども、考えるなら夜よりも朝。朝日を浴びながら空を見上げたら、クヨクヨした気持ちもきっと霧消していきます。心身がタフですっきり覚醒している朝には、前向きな思考や生産的な考え方、未来志向の発想を生み出すことができるでしょう。
朝活は、朝何時からが活動するのがいいの?
朝活は、何時に起きればいいといった決まりはありません。朝時間をつくるために睡眠時間を削るのではなく、生活時間を朝にシフトすることがポイントです。朝が苦手という人は、自分なりの朝時間を設定するようにしましょう。
朝活を継続させる4つのポイント
朝活を継続させるためのポイントは4つあります。それぞれ説明していきましょう。
1.嬉しい・楽しい・気持ちいいと感じることをする
朝活を続けられない人の多くは、まじめに厳格に考えすぎてしまう頑張り屋さんです。仕事が忙しく、寝る時間も遅いのに、資格の勉強を1時間するために早起きしようと思っても、難しいものがあります。
これから朝活をやってみようという方は、まず、「嬉しい」「楽しい」「気持ちいい」と感じることをすることから始めてみましょう。
例えば、早起きして公園まで散歩して朝日を浴びるのもいいですし、好きな動画サイトのドラマを1話だけ見るのもいいと思います。朝一番に好きなことができたら元気が出ますし、「できた!」という達成感から気分も上がります。
朝の朝時間を使うと気持ちいいスタートが切れることを実感できたら、公園まで散歩をしながらオーディオブックで耳勉強の時間にあてたり、動画サイトのドラマを英語の字幕にしたりなど、自分がやってみたいと思っていたことを深め、なりたい自分に近づくアレンジをしていくこともできます。
6時起きると決めたのに、できなかったから自分に罰金を科す人がいますが、これはおすすめしません。むしろ起きられたらご褒美貯金するなど、プラス評価をすることが大切です。3日坊主で続けられない日があったとしても、できない自分を責めることはやめましょう。3日坊主も、何回か続ければいつか習慣になっていきます。
2.何のためにするのか目的を明確化する
早起きは目的ではなく、あくまで手段です。早起きした時間を使って、自分のやりたいことを実行する、朝活の目的を明確にしておきましょう。
「転職して給料を20%アップさせたい」「3㎏痩せて憧れブランドを着こなしたい」「TOEICスコア800点をクリアして昇進試験で見返してやる」など、本音の思いを明らかにして、数字で具体的に計測可能な目標を設定している方が長続きします。
3.適切な睡眠時間を知る
朝活をしようと、起きる時間にとらわれすぎて睡眠時間を削ってしまっては本末転倒です。睡眠中に脳が記憶や感情を整理してくれていることは前述した通り。理想的な睡眠時間は人によって違います。朝、気持ちよく目が覚め、日中、眠気がひどくならない睡眠時間はどのくらいか、ログを取ってみましょう。
6時間睡眠、7時間、8時間で、それぞれの場合の、翌日の目覚めや、階段を上り下りするときに体が重くないかなど体調の違い、日中眠くなる時間帯などを把握することで、自分にとっての適切な睡眠時間がわかります。
4.ルーティンを決める
自分の適性睡眠時間がわかったら、起床時間から逆算して就寝します。とはいえ、仕事の状況や友人との付き合いなどで、就寝・起床時間がずれてしまうことはあるでしょう。そこで挫折しないために、朝活のルーティンをいくつか決めておくことをおすすめします。
前日の夜が遅くて朝時間はほとんど取れないときの「梅」、30分ぐらい確保できるときの「竹」、理想の早起きができて1時間確保できる「松」といった「松竹梅」を想定しておくと、わずかな「梅」時間でも「できた」実績が積み上がります。自分で時間をコントロールして、これからの自分に種まきをしているという自己肯定感も高まります。
おすすめの朝活は?
心身ともに覚醒した状態、前向きなマインドの朝にどんな種まきをするかは、難しく考える必要はありません。例えば、こんな朝活もあります。
朝活カフェでインプットする
会社近くの雰囲気のいいカフェでゆっくりコーヒーを飲みながら、本を読む。勉強をする。新聞のデジタル版などで経済動向や取引先の情報などをチェックする。
妄想とワクワクを高める
もっと広い部屋に引っ越したい、いつかスペインに旅行したいなどの妄想に対して、部屋を探すつもりでお気に入りエリアの不動産情報や間取りをチェックする。旅行の日程が決まったつもりで、地元観光局の情報を見てコースを組み立てるなど、いつかしたいことを、具体的に調べてワクワク感を高める。
朝活イベントに参加する
一人で早起きは難しくても、予定を入れてしまえば起きられるもの。朝からセミナーやイベントで学びの刺激を受けてモチベーションにする。
オンラインで朝活会をする
朝活仲間とオンライン会議ツールでつながり、それぞれが自分のやりたいことをやる。資格の勉強をしたり、エントリーシートを書いたり、集中する時間をシェアし合うことで、刺激が得られる。
朝活バスタイムでスイッチ入れる
朝、お風呂の床にアロマオイルを数滴たらしてシャワーを浴びる。泡風呂に入るなどの時間にあてて、朝スイッチを入れるための時間にする。
週末朝活を自分のメンテナンスに
土日の朝にホテルのモーニングをゆっくりとって、自分だけの時間をのんびりと楽しむ。美容室やエステなどの予約は朝イチにしておき、自分ケアをする。
朝活は「自分が主役の人生」にするためのスイッチ
このように、やる内容にも時間にも決まりはなく、自分主体で自分の時間を使うことこそが朝活です。
長・中期の目標を見直しながら今取り組むべきことを検討し、1日のスケジュールをチェックするなど仕事に関わる時間にしてもいいですし、ジムでトレーニングでも、部屋の掃除やデスクのリセットの時間にしてもいいのです。
朝の時間を活用することで、時間ができたら後でする「後回し」ではなく、自分がやりたいことを朝一番にやる。自分が主役の人生を生きることができます。自分でコントロールできている満足感は、前向きなマインドを生み、次のステップへの大きな推進力にもなります。朝活で「プラスのスパイラル」を作っていきましょう。
株式会社 朝6時 代表取締役社長 池田 千恵さん
早起きトレーナー/国家資格キャリアコンサルタント
慶應義塾大学 総合政策学部卒業後、外食ベンチャー、外資系コンサルティング会社を経て、2009年 に『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』(マガジンハウス)を上梓しベストセラーに。現在は講演や企業の研修活動、企業や自治体の朝イチ仕事改革のコンサルティングや生産性向上の仕組みを構築。著書『心と体に余白が生まれる「週末朝活」』(王様文庫)ほか多数。2010年より13年連続で発売する人気手帳『朝活手帳』をプロデュース。朝からキャリアを再構築するコミュニティ「朝キャリ(R)」を主宰。
取材・文:中城邦子 編集:馬場美由紀