ロジカルハランスメント(ロジハラ)とは?起きる原因と対処法を紹介

最近、職場でのロジカルハラスメント(ロジハラ)が問題になりつつあるようです。セクハラ、パワハラと同様、職場で起こりがちなハラスメントの一つですが、そもそもロジハラとはどんな行為を指すのでしょう?そして、もしロジハラを受けたら、どう対処するのが正解なのでしょうか。人事・採用コンサルタントで職場のハラスメント問題にも詳しい曽和利光さんに伺いました。

ロジカルハラスメントのイメージカット
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ロジカルハラスメント(ロジハラ)とは?

ロジカルハラスメント(以下、ロジハラ)とは、相手を打倒する勢いで正論を突き付け、不快な気持ちにさせる行為のことです。

正論を伝えること自体は、悪いことではありません。ただ、相手を不快にさせる人は、「正しいことを言って何が悪い?」「正しいことを言っているだけなのに、受け止めない相手が悪い」と思い込んでおり、ハラスメントに至っているとは自覚していないケースが大半です。

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近年、ロジハラが増えている理由

日本においては、大手企業を中心にダイバーシティが積極的に進められています。ダイバーシティとは直訳すると「多様性」で、年齢や性別、働き方、国籍、障がいの有無など、さまざまな立場の人たちがともに働くことを指します。ここ数年を振り返っても、緩やかながら着実に、多くの企業で多様性が進んでいます。

そして、この「多様性」が、ロジハラ増加の一因になっていると考えられています。
日本には古くから、「皆まで言わない」「空気や文脈を読む」など、言葉ではなく「察する」ことを良しとする文化がありました。しかし、多様性が進み、いろいろなバックグラウンドを持つ人々がともに働くようになると、「察する」ことが難しくなり、全てのことを言葉にして伝える必要が出てきました。

例えば、「それは間違っている」と伝える時、これまでは雰囲気でそれとなく伝えて相手に気付いてもらうこともできましたが、今の状況下では正面からバシっと言わなければ伝わりにくくなっています。

そしてコロナ禍が、この傾向に拍車をかけています。
リモートワークの機会が増えたことで、表情や身振り手振り、声のトーンなどといった「非言語コミュニケーション」が減少しましたが、これらはいずれも相手の思いを「察する」材料。非言語コミュニケーションが減ってしまったことで、全てを言葉にして伝える必要性がさらに増しているのです。中には、言い方の加減ができずストレートすぎる物言いになってしまうケースもあり、「ロジハラ」と受け取られる機会も増えています。

ロジカルハラスメントに悩む人のイメージカット
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なお、リモートワーク下でビジネスチャットなどの「テキストコミュニケーション」が急増しましたが、これもロジハラを後押ししていると言われています。

テキストコミュニケーションは、直接的な会話よりも圧倒的に情報量が少ないのが特徴。例えば間違いを指摘するとき、会話の場合はたとえ離れていても口調や声のトーンなどテキスト以外の情報で表現が和らいだりしますが、テキストではその温度感は伝わりません。その結果、ダイレクトに間違いを指摘することになり、受け手によっては「威圧的で怖い」「上から目線で偉そう」などと感じ、ハラスメント化しやすくなっているのです。

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「ロジハラをしがちな人」の特徴とは?

ビジネスパーソンは一般的に、問題解決志向が強いタイプと、感情配慮志向が強いタイプとに大きく二分されます。前者は、周囲のメンバーの気持ちよりも問題解決を最優先するタイプ。後者は周囲のメンバーの気持ちを第一に考え、それを害しない範囲で問題解決に動くタイプです。

ロジハラをしがちな人は、「問題解決志向タイプ」に多い傾向があります。このタイプは、組織の課題に際して「周りを気にしていたら課題解決なんてできない」と、人の気持ちを多少ないがしろにしてでも、正しいことに向かってガンガン突き進みます。だからこそ、そのペースについていけない人や、反対意見を述べる人に対して厳しい物言いで接しがちになってしまうのです。

このタイプは、わき目もふらずに問題解決に全力を注げるため、成果を上げやすく、評価されやすい傾向にあります。役職者に抜擢されるケースも多いので、誰しも「ロジハラ上司」のもとで働くことになる可能性はあります。今はロジハラとは無縁という人も、いざというときのために対処法を知っておくと安心です。

ロジハラを受けたときの対処法

会話するビジネスパーソンのイメージカット
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ロジハラには、主に次のような対処法が考えられます。ロジハラを受けていると感じ、何とか現状を変えたいと思った場合は、いずれかを試してみてください。

相手の意見をいったん受け止め、認めてあげる

相手は「正しいことを伝えている」と思っているので、下手に対抗しようとしても火に油を注ぐだけ。余計にヒートアップして、正論で畳みかけてきます。

したがって、「こちらが大人になって受け流す」のが、現状を変えるための最も手っ取り早い方法。相手が正論で攻めてきたら、「ですよね!」「確かに!」「なるほど!」などと受け止めるといいでしょう。相手の目的は、こちらを納得させることなのですから、好意的な返しで納得しているふりをすれば、「わかればいいんだ」とすぐに引き下がってくれます。

「意見を受け止めてあげるなんて癪に障る」と思うかもしれませんが、ロジハラをする人は基本的には正論を言っているので、「言い方はキツイけれど、実は自分にとって有益なアドバイスである」可能性もあります。いったん受け止めた後に、「いい」と思ったら受け入れればいいし、「違う」と思ったら受け入れなければいいだけ。ロジハラの程度が軽い(イラっとはするけれど耐えられるレベルの)場合は、この方法がお勧めです。

ロジハラの傾向をつかみ、先手を打つ

ロジハラにも人によっていろいろなパターンがあります。例えば、とにかくファクトを求める人もいれば、論理の飛躍を嫌がる人、全ての可能性を追求したかどうかを重視する人、曖昧な表現に厳しい人…などなど。
まずは相手の言動を観察して、ロジハラの傾向を探りましょう。そして、つかんだ傾向に沿って対応すれば、厳しい物言いを減らせる可能性があります。

例えば「ファクトを求めるタイプ」であれば、何かを伝えたり提案したりする際にはデータを揃えたり成功事例を集めたりしてファクトで固める、など。相手に合わせて先手を打てば、正論で責め立てられる確率をぐんと減らせるでしょう。

なお、本人に「今のはロジハラです!」と伝えて抗議するのは好手とは言えません。セクハラやパワハラなど、他のハラスメントの場合は効くかもしれませんが、ロジハラは基本的には言い方はきついけれど「正論」なので、「正しいことを言っているのに何が悪い」と開き直られる可能性が高く、事が長引く恐れがあります。
もちろん、言い方があまりに厳しすぎて心身ともにきついと感じるのであれば、他のハラスメントと同様、人事部門などに申し出るべきです。

気付かないうちに加害者になっている可能性もあるので注意を

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前述のように、世の中の流れは確実に多様性の方向に進んでいます。日本特有の「察する文化」は今後さらに薄れ、言葉で明確に伝える傾向はさらに強まり、結果的にストレートでキツい言い方をする人も増えると見られます。
ストレートな表現を苦手としてきた日本人ですが、今後はそういう物言いに対する耐性を付けないと生きにくい時代になるかもしれません。

ロジハラする人を正当化するつもりは毛頭なく、いよいよ辛いときは社内のしかるべき部署に訴え出るべきですが、そこまでは至っていないのであれば、ロジハラする上司や先輩を「ロジカルシンキングを磨く相手」と捉え、うまく活用してしまうのも一つの手です。相手がロジックで攻めてきたら、「どうすればこの人をロジカルに制することができるだろう…」と考え、冷静に攻略法を練り、実践してみる。これを繰り返すことで、着実にロジカルシンキングが高められるでしょう。

気を付けたいのは、その過程でうっかり自分がロジハラをしてしまうこと。「ロジカルシンキングを磨いていたら、知らず知らずのうちにロジハラする側になっていた」ということも十分あり得ます。
ロジックで物事を伝えたときに、相手が辛そうな顔をしていたら黄色信号。本来であれば、正しいことを伝えたら相手は気付きを得られてハッとしたり、課題解決の道筋が見えて晴れやかな表情になったりするものだからです。

こういうときは、自身の発言を振り返り、ストレートな表現を婉曲表現に変えるといいでしょう。例えば、失敗を指摘するときも「なんでそうなったんだ!?」ではなく、「何が原因だと思う?」「そのときどんなふうに思ったの?」など言い方を柔らかく、遠回しなものに変えてみるのです。

トヨタ生産方式の一環として、問題を発見したらなぜを5回繰り返す「なぜなぜ分析」というフレームワークがあり、多くの企業が取り入れていますが、ストレートに「なぜ?」を繰り返されると誰しも「キツい」と感じるもの。そのため、相手に合わせて「なぜ?」の言い方を細かく変えるなど、コミュニケーションを工夫する人が多いようです。
同じことを聞くにしても、より柔らかく間接的な言い方で核心に迫る方法もあることを、ぜひ覚えておいてほしいですね。

人材研究所・曽和利光さん曽和利光さん

株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラル上司等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)、『人材の適切な見極めと獲得を成功させる採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)など著書多数。最新刊『定着と離職のマネジメント』(ソシム)も話題に。

EDIT&WRITING:伊藤理子

 

 

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