職場にどうしても好きになれない人、苦手な人がいるという方は、きっと多いことと思います。友人関係とは異なり、職場の人は仕事でコミュニケーションを取らざるを得ないので、日々ストレスを感じている人もいるようです。
ストレスを軽減し自分の心を守る無理のない対処法や避けたほうがいいNG行動などについて、人事・採用コンサルタントの曽和利光さんに詳しく伺いました。

目次
なぜ職場の人を嫌い、苦手と思ってしまうのか?
そもそもなぜ、一緒に働く職場の人を嫌い、苦手と思ってしまうのか。その理由としては大きく2つの理由が考えられます。
配属の際に能力フィットが重視され、性格フィットが後回しになりがちだから
誰しも「この人とは合わない」と感じる人が1人や2人はいるものです。職場でも、例えばやたら干渉してくる先輩、上から目線で命令する上司、ズケズケ意見してくる同僚などにウンザリしたり、嫌な気持ちを抱いたりするケースも多いと思います。プライベートとは異なり、仕事での人間関係は自分では取捨選択できないため、ストレスを抱える人も多いことでしょう。
企業が従業員の配属を決める際には、本人が持つ能力と志向・価値観のマッチングが優先され、本人の性格やパーソナリティのマッチングは後回しにされる傾向にあります。配属先の現場が求めているのは主に「能力フィット」であり、業績向上や適切な人材配置のために「人材を求めている現場の意向」が尊重されがちだからです。
その結果、能力はフィットするものの、性格が合わない人が多い部署に配属されてしまい、「職場の人が苦手、嫌い」と感じてしまうケースがあるようです。
仕事のストレスを「人へのストレス」に置き換えているケースもある
職場の人間関係だけでなく「仕事そのもの」も、自分では取捨選択しにくいものです。特にまだ経験の浅い若手時代は、自分の裁量で仕事内容や仕事の進め方を決めるのは難しいでしょう。たとえ仕事内容にストレスを感じても、多くの人は我慢して向き合い、乗り越えようとしています。
ただ、中には「仕事に対するストレス」を、知らず知らずのうちに「人のせい」にしてしまっているケースがあります。これは悪意によるものではなく、心理学者フロイトが提唱した、自分を守る心理的メカニズム「防衛機制」によるものです。
人は多くの場合、「仕事が嫌だと思っている自分」は嫌だ、と感じる傾向にあります。「この仕事が嫌だと感じるのは、自分に能力が足りないからだ」と認めたくないからです。その結果、自己防衛の一環として「この人が一緒だから仕事が嫌なんだ」と思い込むことで、精神状態を安定させようとする人が一定数います。
したがって、もしかしたら本当は「仕事が嫌い、苦手」であるにもかかわらず、防衛機制によってそれが「合わないと感じている上司や先輩、同僚」に置き換えられてしまい、「あの人が嫌い、苦手」と思い込んでいる可能性もあります。
職場に嫌いな人、苦手な人がいる場合に自分を守る対処法
Photo by Adobe Stock
どんな理由であっても、毎日のように顔を合わせる職場の人が「嫌い、苦手」と感じるのはつらいものです。たとえ原因が「防衛機制」によるものであっても、それを自分で認識し機制を解くのは難しく、つらい感情は続いてしまうでしょう。
そんなときは、次の4つのような対処法が有効です。気軽に実行できそうなものからぜひ試してみてください。
相手を「クライアント」だと思ってビジネスライクに接する
営業担当者であれば理解できると思いますが、自分に利益をもたらしてくれるクライアントであれば、多少嫌な相手であっても我慢してやり取りできるもの。それを苦手な上司や先輩、同僚にも当てはめてみましょう。
かの松下幸之助の言葉に、「自分は社員稼業の店主であると考えれば、上役も同僚も後輩もみんなお得意様でありお客さんである。そうなればお客さんに対しサービスも必要であろう」というものがあります。苦手な上司や同僚であっても、自分に仕事を振ってくれるお得意様だと思えば、苦手という意識が抑えられ、ビジネスライクに接することができる可能性があります。自身の感情の許容範囲も、少し広がるかもしれません。
会話のストロークを長くして、やり取りの数を減らす
会話のキャッチボールを行う際には、簡潔でわかりやすい発言が基本ですが、苦手な相手の場合に限っては、1回の発言に情報量を盛り込みリッチ化して、会話のストロークを長くしたほうが、コミュニケーション量そのものを減らせます。
例えば、苦手な上司に指示を仰がねばならない場合、「これはどのようにすればいいのでしょう?」と聞いてしまうと、「そんなこともわからないのか!」と怒られたり、「君はどうしたらいいと思う?」と長々と質問攻撃を受けたり、「じゃあこれから一緒に話し合おう」とミーティングを入れられてしまったりして、必要以上にコミュニケーション量を増やしてしまう可能性があります。
そこで「今こういう状態にあり、こんな原因が考えられるので、私自身はこのような解決策がいいと思っています。それ以外にこんな選択肢も考えられますが、どうすればいいと思われますか?」などと情報をパンパンに詰め込んだうえで質問すれば、「…それでいいよ」とあっさり会話を終わらせられる可能性があります。この「発言のリッチ化」は、苦手な相手との会話のテクニックとして覚えておくと便利です。
苦手な人だからこそ逆張りで「深く知る」努力をする
世の中には、「良かれと思って言っているのに、言い方が悪くて本意が伝わらない」という不器用な人がいます。
例えば、「これぐらいなら、すぐできて当たり前でしょ?」という言葉。もしかしたら「あなたのスキルをもってすれば簡単な仕事だと思う」という意図による発言かもしれませんが、多くの人は「これぐらいのこともできないのか!」と批判的に捉えると思います。
哲学者の西田幾太郎による「愛は知ることから」という言葉の通り、たとえ苦手な人であっても、相手の性格タイプを深く知ることで、誤解が解消される可能性は大いにあります。「あの人は言い方がきついけれど、悪意はない」とわかれば、腹が立たなくなり、嫌だという気持ちも軽減されると思います。
そもそも、嫌いだ、苦手だと感じる相手のことは、これまで詳しく知ろうとしてこなかったはず。知らないから本意がわからず、ますます苦手に…という負のループに陥っていた可能性があります。仕事上、避けようがない相手であればあるほど、ここは一旦ぐっとこらえて、相手を理解する努力をしてみるのも一つの方法です。
手っ取り早くて簡単なのは、苦手な相手のことをよく知っている人にヒアリングすること。苦手な人が上司であれば、その人と関係性構築ができている先輩や、仲のいい別の部署の人、先輩や同僚であれば、その人の上司にヒアリングするのが確実です。「〇〇さんの下で働くうえで、より正確やタイプを理解しておきたいから」とか「△△さんと仕事でコミュニケーションを取る機会が増えたので、同僚として相手を知っておきたいから」などとお願いすれば、角を立てることなく自然に聞き出せると思います。
可能であれば、仕事だけでなくプライベート面、例えば趣味や特技、興味を持っていること、家族構成、休日の過ごし方など多方面からファクト情報を集めれば、より深く「人となり」がつかめるようになり、日々の言動の本意もより理解できるようになるでしょう。
いよいよつらい場合は、接点を極力減らす
嫌な人と会わねばならない苦しみは「怨憎会苦(おんぞうえく)」と言って、仏教の八苦(8種の苦しみ)の1つとされているほどしんどいことでもあります。
さまざまな方法を試したけれど、どうしてもつらい…という場合は、メンタル的な緊急措置として、できるだけ接点を減らし、距離を取りましょう。
例えば、対面でのコミュニケーションを避けるために、仕事のやり取りは極力メールやビジネスチャットで行う。席が近いならば衝立を置いて顔が見えないようにしたり、上司にこっそり席替えをお願いしたりする、など。面と向かってコミュニケーションを取る機会を減らせれば、イライラしたり嫌な気持ちになったりする機会も減らせるので、気持ちが少し楽になりモチベーションも上向くと思います。
いくら相手が嫌い、苦手であっても職場でやらないほうがいいこと
先ほど「いよいよつらい場合は接点を極力減らす」ことをお勧めしましたが、社会人として「そこまではやってはいけない」という最低限のルールはあります。
例えば、あからさまにその人にだけ挨拶をしない、完全に無視をするというのは、あきらかにルール違反です。また、報連相するべきことなのにしない、共有しなければならない情報なのに共有しない、というのは会社の不利益にもつながります。
「子どもじみた行為」と感じるかもしれませんが、実際に起こっていることなのです。たとえ「怨憎会苦」の感情を抱えていても、仕事には持ち込まないこと。前述のような方法で、必要最低限のコミュニケーションを淡々と行うことで切り抜けましょう。
なお、中には「社会人にもなって、職場の人が嫌い、苦手だと感じるなんて…」と自分を責める人も見受けられますが、それもやめたほうがいいでしょう。そもそも、一つの職場には、さまざまなタイプの人を配置し補完し合える状態を作るのが組織づくりの基本です。性格的に合わない人がいて、「苦手、嫌い」と感じるのは当然のことだと捉えることも大切です。
職場で感じる「苦手」「嫌い」は誤解が原因の場合もある

実は、人間関係の問題の多くは「誤解」から生じています。例えば、やたら干渉してくる人であっても、多くの場合は悪意があるわけではなく、良かれと思って言っているケースがほとんどです。ただ、他人の頭の中は覗くことができないので、相手の思いや考え方の「本当のところ」までを理解できず、結果的にこちらの主観で判断して「この人は苦手、嫌い」などと結論付けてしまっているケースが少なくないのです。
したがって、「相手を深く知る努力」をすれば、その人の言動の背景にある思いや考え方が理解でき、苦手意識も軽減される可能性があります。苦手な気持ちをぐっと抑えて、前述のような方法で相手のファクト情報を集めてみれば、状況が一気に好転するかもしれません。
しかし、ファクト情報を集めた結果、残念ながらもっと苦手になる可能性もゼロではありません。悪意がないとわかったとしても、その人の言い方の癖がどうしても好きになれないケースもあるでしょう。そして残念ながら、意地悪心でわざとイヤな言い方をしたりイヤな態度を取ったりする人も稀に存在します。
この場合は、転職したり、異動願いを出したりするのもありだと思いますが、嫌いな人のために、こちらが今の環境を手放すのはもったいないこと。嫌な人の前から逃げる選択肢を取る前に、前述の「ビジネスライクに接する」「会話のストロークを長くしてやり取りの数を減らす」「接点そのものを減らす」をぜひ試してみてください。
コミュニケーションを工夫することで、嫌な相手でも仕事がやりやすくなる可能性がありますし、そうやってやり過ごしているうちに、苦手な上司や先輩たちのほうが先に異動、転職するかもしれません。
曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラル上司等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。
『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)など著書多数。新刊『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』(WAVE出版)、『シン報連相~一流企業で学んだ、地味だけど世界一簡単な「人を動かす力」』(クロスメディア・パブリッシング)も話題に。