第二新卒の時期に、勤務先や仕事内容と自分の理想との間にギャップを感じ、転職に踏み切る人は少なくありません。転職市場では「第二新卒歓迎」を謳う求人も多く、「今の会社に無理して居続けなくても、外にチャンスが広がっている」と考える人も多いと思います。
ただ、第二新卒の期間は重要なキャリア形成の時期であり、安易な転職はキャリアにとってマイナスとなる場合もあります。
そこで、第二新卒とはどんな時期なのか、この時期に何に注力すべきなのか、人事・採用コンサルタントの曽和利光さんに詳しく伺いました。
目次
「第二新卒」とは?いつまでが対象?
第二新卒という言葉に明確な定義はありませんが、一般的には学校を卒業後、新卒入社した会社を1~3年のうちに退職し、転職を志す若手求職者のことを指します。年齢的には25歳ぐらいまでが該当します。
最近では、転職意向に関係なく「入社1~3年ぐらいの若手」と捉えるケースも増えています。
第二新卒は大事な能力開発期間。安易な転職はお勧めできない
第二新卒の時期は、思い描いていた社会人像と現実との間にギャップを覚え、「この会社、この仕事は自分には合わない気がする」と感じる人が少なくありません。転職市場には「第二新卒歓迎」を謳う求人情報があふれていて、「自分にも別の可能性があるのでは?」と転職に踏み切る人も多いようです。
厚生労働省が発表した「新規学卒就職者の離職状況(2019年3月卒業者の状況)」によると、大卒者の就職後3年以内の離職率は31.5%。この「3年以内で約3割が離職」の傾向は、ここ20年以上続いています。
しかし、第二新卒は、今後のキャリアに必要なビジネスパーソンとしての基礎を形成する重要な時期でもあります。やりたいことがほかに明確にあるならばさておき、「何となく合わない」「何となく不満」というレベルであれば、安易に転職に踏み切るのはお勧めできません。理由は大きく2つ挙げられます。
理由1:やりたくない仕事に向き合ってこそ「意味づけ力」が鍛えられる
第二新卒期にある若手ビジネスパーソンの中には、「やりたいことがあるのに、今の環境ではそれができない」と不満を抱いている人もいるかと思います。中には“配属ガチャ”でハズレを引いたと感じている人もいるかもしれません。
しかし、仕事では「やりたいことだけをやれる」ことはまずありません。やりたくないことは今だけでなく、この先も必ずついて回ります。経験を積み、ベテランになっても同じであり、たとえ社長になったとしても「やりたくないけれど、こなさなければならない仕事」は絶対にあります。
第二新卒は、そんな「やりたくない仕事」にもモチベーション高く臨むための「意味づけ力」を鍛える大事な時期でもあります。
意味づけ力とは、目の前のやりたくない仕事にも自分なりに意味を見つけ、楽しめるよう工夫する力のこと。言い換えれば「どんな仕事でも楽しめる力」のことです。仕事ができる人は皆、この意味づけ力が高いとされています。
有名なイソップ童話「3人のレンガ職人」では、同じレンガ積みの仕事を「ただ、レンガを積んでいる」「壁を作っている」「大聖堂を建てている」と3人別々に捉えていますが、意味づけ力があって仕事ができるのは最後の「大聖堂を建てている」と捉えている人。目の前の仕事を単なる作業としてつまらなそうにこなす人と、自分なりに意味づけして楽しみながら仕事をする人では、モチベーションだけでなく、その仕事の成果に大きな差が出るのは当たり前のことです。
例えば、面倒くさくてやりたくない雑務であっても、「昨日より早く終わらせるぞ!」とゲーム感覚で取り組み、早く終わらせるために工夫できれば、雑務を楽しめるようになり、モチベーションも維持できるでしょう。早く終わらせようと試行錯誤する過程で、自分ならではの業務効率化の方法を習得できる可能性もあります。
このように意味づけられる人は、どんな仕事においてもモチベーション高く走り続けられるので、成果もついてくるようになります。例えば、難易度の高い仕事に臨まねばならないとき、急なトラブルに対応しなければならないときなども、「これをどうやって乗り越えようか」と楽しみながら策を講じることができるでしょう。
したがって、もし今の仕事がやりたくない仕事であれば、意味づけ力を鍛える絶好のチャンスといえます。ビジネスパーソンとして早く成長するためのトレーニングなのだと前向きに捉えれば、今よりは仕事が楽しくなるでしょうし、意味づけた結果、成果を上げることができれば、「本来やりたいこと」にも早くたどり着けるようになると思います。
理由2:能力を身につけるには、一定の「閾値」を超える必要がある
仕事で能力をつけるには、ある程度努力を積み重ね、一定の「閾値」(能力が変化・変動する値の境目)に達することが必要です。一つの分野に継続的に取り組み、一定の閾値を超えると、廃れることのない確固たる能力が身につきます。しかし、閾値を超える前に努力を怠ってしまうと、それまで培ってきた能力もどんどん衰えてしまうとされています。
第二新卒ということは、今の仕事に就いてまだ1~2年程度であるはず。まさに今、現場経験を積みスキルを身につけている最中であり、まだ完全には能力が装着されていない状態にあると思われます。
そんな時期に、やりたい仕事ではないから、自分に向いていないから…と辞めてしまうと、閾値を超える前に投げ出すことになってしまい、せっかくその仕事に費やした時間まで無駄にしてしまう可能性があります。
もちろん、これまでの経験をリセットしてでもやりたいことが別にあるならば反対はしませんが、能力開発の側面から言えば、せっかくの経験をゼロリセットして一から新人としてやり直すのはあまりにもったいない。せめてあと2~3年、今の仕事に一所懸命取り組んでみて閾値を超えられれば、無意識でも自動的に物事ができる状態になり、たとえやりたくない仕事でも楽にこなせるようになります。その後であれば、たとえ別の分野に転職したとしても、今の仕事で培った能力が何らかの糧になるはずです。
求人で「第二新卒歓迎」と謳う企業の心理とは?
転職サイトなどを見ると、「第二新卒歓迎」と謳う求人が非常に目立ちます。これを見た第二新卒が「自分も求められている」と感じ、転職したくなってしまう気持ちはわかります。
しかし、第二新卒を最優先して採用したいと考える企業は、実は少数派であると感じています。
多くの企業は、人材採用の際に「新卒か・既卒か」の2択で考えています。ポテンシャル人材は新卒で賄えるので、中途ではすぐに力を発揮してくれる即戦力がほしいと考えるのが一般的だと思われます。
そんな中、第二新卒歓迎を謳う企業の心理は、多くの場合「第二新卒“がいい”」ではなく「第二新卒“でもいい”」というもの。人材がどうしても足りないから、たとえ経験が足りない第二新卒であっても来てほしい…というのが本音です。したがって、第二新卒歓迎を打ち出していても、経験豊富な即戦力からの応募があればそちらを優先してしまう可能性が高いでしょう。そもそも、入社1、2年で今いる環境を飛び出そうとしている(もしくは飛び出してしまった)人は、せっかく採用してもまた飛び出してしまう可能性があり、「積極的に採用するのはリスク」と捉える企業も少なからずあります。
もちろん、「第二新卒は基本的なビジネススキルやマナーを備えていて、かつポテンシャルも高い」と評価し、育成しようとする気概のある企業も存在しますが、主流ではありません。少なくとも「第二新卒は売り手市場だ」と勘違いして、安易に飛び出さないほうがいいと思います。
それでも「合わない」と感じたら…キャリア観を3つの視点で再考してみよう
それでもやっぱり今の仕事にやりがいを感じない、自分のキャリア観にどうしても合わない…という思いがぬぐえない場合は、そのキャリア観が果たして本物かどうか、見つめ直してみることをお勧めします。
キャリア観に合わない仕事を無理に続けるのは、心身ともに辛いことであり、辞めたいと考えるのも無理はありません。合う会社に転職するほうが、イキイキ働けるようになると思います。
ただ、中には「自分のキャリア観に合わないと思い込んでいるだけ」というケースもあります。
私はこれを「ねつ造されたWill」と呼んでいますが、自分ではこの仕事がやりたい、こんなキャリアを歩みたいと思っていても、実は自分の本当の希望ではなく、キャリア教育や就活時の自己分析など社会的要因や環境などからそう思わされているだけ…という可能性があるのです。
自身のキャリア観が本物かねつ造されたものかを判断するには、「きっかけ・意見・行動化」の3つの視点で考えてみるといいでしょう。
「きっかけ」=なぜその仕事に就きたい、そのキャリアを歩みたいと思ったのか振り返ってみる。明確なきっかけがあれば、自分のキャリア観に根っこがあると判断できるが、思い出せない場合は要注意。
「意見」=キャリア観が本物であれば、例えば「マーケティング職に就いて○○を成し遂げたい、△△を変えたい」など何らかの自分なりの意見や思いがあるはず。意見が思い浮かばない場合はふわっとした憧れか、もしくはねつ造されたWillである可能性が高い。
「行動化」=本気でやりたいことであれば、もし今は別の環境にいるとしても、すでに何らかの行動を起こしているはず。例えば、本を読んで独学している、セミナーなどに参加して情報収集している、など。
これら3つの視点で考え、いずれもクリアできているのであれば、キャリア観は本物であると判断できます。転職活動をしても、この3点が明確に語れれば本気度が伝わり、ポテンシャルが評価される可能性があります。
しかし、この3つを質問しても、答えに詰まる人が非常に多いのです。例えば、「営業なんて嫌だ、自分はマーケティングがやりたい」と言う若手に、ではマーケティング職に就いてどんなことを実現したいのかと聞いても、全然出てこない。「就いてから考える」なんて人もいます。
この場合は根っこのない「ねつ造されたWill」であると考えられるので、今一度自身のキャリア観を考え直してみるか、もしくは目の前の仕事にがむしゃらに取り組んで「できること」を増やすことをお勧めします。できることが増えれば自分に自信がつき、視野が広がります。自身のキャリアの可能性も広げられるでしょう。
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曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラル上司等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)、『人材の適切な見極めと獲得を成功させる採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)など著書多数。最新刊『定着と離職のマネジメント』(ソシム)も話題に。