レジリエンスってなに?レジリエンスを高める方法とは?

レジリエンスとは何か、ビジネスでどう役に立つのか、レジリエンスをどのように高めていけばいいのかなどについて、東邦大学医療センター産業精神保健・職場復帰支援センター長で精神科医の小山文彦氏に伺いました。

PCの前でリラックスする社会人
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小山文彦先生小山 文彦(こやま・ふみひこ)
東邦大学医療センター産業精神保健・職場復帰支援センター長・教授。医学博士。1991年、徳島大学医学部卒業後、岡山大学病院、香川労災病院、東京労災病院などを経て、2016年より現職。専門はメンタルヘルス問題の予防と治療。著書に『精神科医の話の聴き方 10のセオリー』(創元社)ほか。音楽家の側面も持ち、2021年にはアルバム『リンゴの赤』を発表。

レジリエンスとは?

レジリエンス(resilience)とは、弾力、復元力、回復力という意味です。心理学的には、「困難な状況にもかかわらず、うまく適応する過程や能力」「精神的回復力」と解釈されています。

ゴム製のボールを想像してみてください。弾力のあるボールは、凹んでも元の形に戻ります。この“跳ね返る力”がレジリエンスです。

仕事のトラブル、家族問題、ペットロス…現代社会では、多くの人が何らかのストレスを抱えています。ところが、同じような苦難にさらされても、それが原因で不調になる人もいれば、すぐに回復して平気な人もいます。

人によって回復の様子が異なるのは、心の弾力性の違い、つまりレジリエンスの違いなのです。

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企業がレジリエンスに注目している理由

近年、企業もレジリエンスに注目しています。

企業には元来、社員の健康と安全を守る義務(安全配慮義務)があります。さらに、働き方改革によって職場の安全・健康配慮や健康経営という観点を持つことが重要とより考えられるようになり、下記のようなレジリエンスを高めたい、という企業が増えているのです。

  • 快適な職場・作業環境を整えて疲労に対するレジリエンスを高める
  • 不調者や休業者を増やさないよう職場ストレスに対するレジリエンスを高める

また、企業の生産性を高めるには、社員が疲れにくいこと、快適に効率よく働けることが不可欠です。

仕事の量や質により、誰でも疲れたり落ち込んだりしますが、社員が疲れや落ち込みから回復する術(すべ)(レジリエンス)を持っていれば、より効率的に働けるようになり、生産性の向上につながると考えられているのです。

オンラインやテキスト伝達(チャットなど)が増えている近年は、“ここだけの話”ができる親密性や“あるあるの共感”を実感しにくくなり、自分と他者とのつながりが希薄になりがちです。

このような状況下にあっても、レジリエンスを理解し、体得しておくと、ストレスを跳ね返しやすくなるでしょう。

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レジリエンスが高い人ってどんな人?

心理学的理論では、下記の3つがレジリエンスの高い人の特徴とされています。こうした特徴が備わっている人は、柔軟な考え方や臨機応変な対応ができるので、周囲からは「楽観的で人間的深みがある人」「ゆとりがある人」と見られる傾向にあります。

【1】肯定的な未来志向

特徴のひとつとして、自分の未来について「まんざらでもない」と、ある程度肯定的でいられることが挙げられます。

人間は近い未来をイメージする生き物ですが、「このままいけば何とかなる」と楽観的に未来を考えられる人は、レジリエンスが高いと言われています。

【2】感情調整力がある

人間には喜怒哀楽がありますが、内面では感じていても、職場や友人といるときは周りを思いやって感情をコントロールできることも特徴です。

喜びや楽しみの感情なら表に出してもいいように思いますが、「浮かれている」「自慢している」と受け取られかねないので、どんな感情の出し方にも調整力が求められるのです。

【3】興味・関心の多様性がある

仕事以外で何か打ち込めるもの、興味を持てるものがあることも、注目すべき特徴です。

家族と食べるために美味しいものでも買って帰宅する、久しぶりに遠方に住んでいる親戚を訪ねてみるなど、仕事以外の興味は些細なことでも構いません。同じ趣味を持つコミュニティに参加したり、ヨガや語学のオンラインレッスンを受けたりするのもいいでしょう。

同じ興味や関心を持つ人たちとのコミュニケーションで楽しみが増えますし、(前述の)親密性と共感が生まれます。それにより、人とのつながりに支えられて、心のゆとりができます。

レジリエンスは生まれつき持っているもの?

レジリエンスは大なり小なり人に生来備わっている力ですが、以下のような環境や努力で後天的に養われていく部分もあります。

  • 幼少期から家族に限らず、擁護的な存在に恵まれてきた
  • 人との結びつきを大事にしてきた
  • 「できた」という経験から自己効力感を培ってきた
  • 自己認識を高める努力をしてきた

幼少期から、家族に限らず擁護的な存在が身近にいた人は、レジリエンスにも恵まれているという研究報告(カウアイ研究)があります。

この研究から、幼少期につらい環境や逆境にあったり、トラウマ(精神的外傷)を受けても、親以外の、例えばおばやベビーシッター、教師や牧師など、親身になって世話をしてくれる人に恵まれてきたことは、後天的にレジリエンスを高める結果につながったと考えられています。

ほかにも、サークル活動やコミュニティなどで人との結びつきを大切にしてきた人は、レジリエンスに富んでいると言われています。

また、スポーツや音楽、芸術などに打ち込んで、「できた」「勝った」「達成した」という経験から自己効力感を有することで、レジリエンスは高まる傾向があります。

自己認識(※1)する努力も、後天的なレジリエンスを高めるのに役立つようです。なぜなら、自分を客観的に見ていたり、自分に注意を払っていると、感情を調整できるようになり、“周囲に適応する力”が身につくからです。

自分の立ち位置や自分に期待されていることがわかるので、良好なムードで効率的に働くことができるでしょう。

(※1)感情や身体的な感覚といった自分の内面の状態や、想いや考え、リソースなどを認識する力のこと

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レジリエンスが高いと、仕事のどんな場面で役に立つ?

肯定的な未来志向があると、仕事が膠着状態に陥った場合でも、否定的にならずに解決策を見い出せると考えられています。

つまり、レジリエンスが高いと言える人が自分の経験に基づいた対応策を提示することで、チームメンバー全員へのネガティブ連鎖を回避できること、一緒に働いているメンバーの自己効力感が高まっていくことが期待できるのです。

感情調整力がある人は、“I’m OK, you’re OK(私はこんな感じ、あなたもそれでいいよ)”(※2)という精神でメンバー全体を見渡し、気配を察して立ち回ることができるので、チームをうまくまとめることに長けていると考えられます。ですから、ミーティングのファシリテーターなどに優れた力を発揮するでしょう。

(※2)フランクリン・アーンストが提唱した対人関係における理想的な姿勢で、エリック・バーンにより、自己肯定と他者肯定を両立する考え方として示されている。

興味・関心の多様性に富んでいる人は、日頃から社外のいろいろな人やモノに接しています。ですから、プロジェクトで独創的なアイデアを提案するなど、仕事で新奇性を発揮することが期待できます。

働きながらレジリエンスを高める方法

冒頭でレジリエンスをボールの弾力性で説明しましたが、ボールの弾力をつくり出しているのは、中に詰め込まれた空気です。この空気は人間の何に該当するのかというと、生物学的には“脳の予備能”です。脳の予備能とは脳の機能面でのゆとり、言わばパソコンの空き容量のようなものです。

レジリエンスを高めるには、この脳の予備能をいかに増やすかがポイントです。

そのカギを握るのは、とにかく “よい睡眠をとる”こと。睡眠は生理的なシステムなので、意識づけだけでは変わりません。重要なのは、生活習慣にすることです。

<よい睡眠をとるための生活習慣>

  • 毎朝決まった時間に起きる
  • 朝(起床時)に光を浴びて、食事をとる
  • 夕方以降はカフェインをとらない
  • 就床前のアルコールは避ける(睡眠の質を低下させる)
  • 就床する90分前に入浴(よく温まる)を済ませる
  • 昼寝をする場合は、昼食後~15時の30分以内にとどめる

さらに、「日々の暮らしで、いかに隙間(ゆとり)をつくり出すか」を意識することも大切です。仕事やプライベートにおいて、時間的・物理的・精神的なゆとりを持つことで、レジリエンスを高める効果が期待できます。

<隙間時間をつくるヒント>

◆仕事は時間割を立ててから始める
「今日はこれを済ませて、明日はこれを済ませる」など、予定をしっかり立てること。ただし、あれもこれもと詰め込み過ぎると不安が増すだけなので、時間にも隙間をつくって精神的ゆとりを持てるよう工夫しましょう。

◆整理整頓する
必要なものがどこにあるのかすぐわかるので、時間的・物質的なゆとりが生まれます。

◆1週間をどう過ごすかは自分軸で決める
気の進まない付き合いや約束はしなくていいのです。組織の一員として、仕事は自分軸で決めるわけにはいきませんが、仕事以外の“自分にとっての不要不急”を排除していくと、時間的・精神的なゆとりが生まれます。

最後に…

まずはレジリエンスの特徴である“心理的な未来志向”“感情調整”“興味・関心の多様性”の3つを意識すること。

それから、仕事や日々暮らしの中で、上に挙げたような時間的・物理的・精神的なゆとり(空き容量)を見い出す方法を実践してみてください。

そうすればレジリエンスが高まり、疲れやストレスを跳ね返す、しなやかな強さが身につくことでしょう。

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取材・文:笠井貞子
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